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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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●名探偵登場!

 ハッカパイプをくゆらせる。本物の煙草ではないものの、気分をすっとさせるには最適だ。
 煙は出ないが、まるで紫の条が見えるかのように、ふうと呼気を空に吹き上げた。
 涼司が広く依頼した内容は辻斬り犯人の発見であったが、シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)も辻斬りよりは、失踪事件に興味が引かれた者の一人である。辻斬りが襲ったとされるケースについては無差別的で、被害者がすべて少女ということを除けば点と線をつなげづらい。怨恨のラインがないとすれば、単なる通り魔の可能性もあるのだ。
 それだけにシャーロットは失踪事件が気になった。なぜ山葉涼司が辻斬りの調査だけを依頼し、失踪については情報を集めようとしないのか。失踪事件こそがメインの調査であるからこそ、なんらかの意図でそちらから世間の目を逸らせようとしている……校長としての彼を疑うわけではないが、そんな邪推も可能だ。
 蒼空学園の敷地。今日は休日なので生徒の数が少ない。
「……さて、どこから手をつけましょう」
 彼女のパートナーセシリア・モラン(せしりあ・もらん)が問うた。既に彼女は、山葉涼司から学園内の捜査に関する許可証を得ている。ただしこれは『辻斬り事件の捜査』のため得たものにすぎない。真の調査対象については、涼司にもまだ伏せているのだ。
「まずは事件の方向性を切り分ける……そのための証拠集めでしょうね」
「切り分ける?」
 シャーロットが心の声で告げたので、セシリアも同様にする。
「大きく分けてこの事件は、以下二つのいずれかに切り分けられると思います」
 パイプをくわえたままシャーロットは告げた。
「少女たちは自分の意志で姿を消したのか、それとも、第三者によって拉致・誘拐されたのか」
 確かに、とセシリアは意を悟った。
 失踪事件については、世間の潮流は『拉致・誘拐』の予想で固定化してしまっている。だがなぜそう言い切れるのか。少女たちがみずから姿をくらませたとは考えられないのか。事件の方向性を誤ったまま捜査を始めたら、それこそ取り返しのつかないことになるかもしれない。
「失踪者全員のことを一度に調べるのは拡散する畏れがあるでしょう。案外、夜間外出したまま戻らなかった二人は家出で、放課後校舎内で消えた少女のみが誘拐されたという場合もあります。あるいは、その逆も」
 セシリアとて、シャーロットの右腕となるべく育てられた少女である。頭の回転は速い。すぐに彼女の意を察知して、
「いずれにせよ、調査範囲を絞りやすい学園内から調べるというのですね?」
 水晶のような眼で軽く頷いて、シャーロットはパイプの吸い口を拭うとこれを懐にしまった。
「範囲が絞りやすいとはいえ、陽が高いうちに調べたいことはそれこそ、山のようにありそうです」
 セシリアは告げ、すぐにシャーロットと手分けして捜査を開始したのである。
 着実に事実が集まってきた。
 失踪した女生徒の名は『加古川みどり』、十六歳。
 陸上部の生徒で、失踪当日は練習が解散したあともグランドに残り、自主トレーニングをしていたらしい。それゆえに、同じ部活のメンバーとは終了時間が違っていた。宵闇が訪れ始めた十八時過ぎには上がったものと思われるが、彼女の目撃情報はグランドの時点で途絶えている。
 ――目撃者は複数。部活メンバーで、少なく見積もっても十人は下らない、ですか。
 シャーロットは思った。
 この時点で、目撃証言が虚偽である可能性は限りなく低いといっていいだろう。『陸上部が総がかりで彼女をはめた』と予想するのはいささか無理がある。休日に自主練習している生徒にあたっても、陸上部にそういった陰湿な雰囲気は感じられなかった。みどりの人物像はいたって平穏で、真面目な性格の長距離ランナーというくらいしか目立つ特徴はないようだ。寮住まいで異性の交際相手は無し、交友関係も淡泊で、とりたてて怪しいところはない。
 失踪当日の彼女の様子についても、特に特殊だったようではないと確認できている。
「校内の防犯設備……監視カメラの映像にも映っているものはなし、ということですね」
 一度すべてをチェックしてみますか? とセシリアは問うたが、シャーロットは首を振った。
「それはいよいよ行き詰まってからにしましょう。仮にも失踪事件です、映像は既に学校側がチェックしているはずです。それが間違いないとして、ただ一つ、はっきりしていることがありますね」
「ええ」
 セシリアは言った。
「この生徒が、正副いずれの門からも外に出ていないということです」
 加古川みどりはまだ学園にいる……あるいは、なんらかの特殊な手段で外に出たと考えるべきだろう。
「さて」
 グランドを走る陸上部生を眺めつつ、シャーロットは言った。
 次にあきらかにすべきは、加古川みどりが――その生死を問わず――まだここに『いる』か否かということになろうか。
「もうひとつ、仮説は立てられるでしょうね」
 ここから再び、テレパシーを用いシャーロットは宣言した。
「その生徒は失踪に見せかけてしばらく学園内にとどめ置かれ、ほとぼりが冷めたころに運び出されたのではないか、という仮説が」