天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

リアクション公開中!

【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

リアクション


●それぞれの捜査(2)

 同じくエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)も蒼空学園に滞在し捜査中だ。
 先に断っておくがエースはもちろん、真剣に調査している。これ以上ないほどに。
 だが、だがそれでも彼とてこれだけは言いたい……!
「辻斬りってエド時代か……」
 と。
 まあ実際に声に出したわけではない。上記のカギカッコ内は心の声である。
 これで本当にサムラーイな扮装の犯人が出てきたら仰天だが、どうも目撃証言を集めるに、辻斬り犯は女性らしい。
 ところで辻斬り事件と失踪事件、その両者の話題を調べると、明らかに前者のほうが様々な噂が流布される騒ぎになっている。無論、失踪とて事件ではあるのだが、誘拐犯からの脅迫が入るわけでもなく、新しい動きがないせいか停滞気味で、つい昨日も発生した辻斬りのほうが多様な憶測を呼ぶ事態になっているのだ。
「辻斬りにせよ失踪にせよ、事件の被害者はすべてうら若き少女というじゃない」
 リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)はきりりと眉を吊り上げていた。
「か弱い女性を狙うなんて、許すまじ! 女の敵よ、捕まえなきゃ!」
 なんとしても事件を解決すると宣言し、リリア主導で彼らは捜査をしているのである。まずは失踪事件の手がかりを求めてこの場所に来たというわけだ。
 ところがそうそうにヒントが見つかるはずない。虚しく小一時間を過ごした後、
「辻斬りの現地調査に行った方がいいかな……」
 と言いかけたエースに向かって、クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は強く主張した。
「……やっぱりどうしても、オイラは失踪事件のほうが気になるにゅ」
「なんとなく悪い予感がするのだけどね。一応、理由を聞いておこうか」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がこめかみに手を当てつつ問うた。するとクマラは、キャンディーの詰まった箱を開けるときのような表情で言ったのである。
「オイラは思ったのにゃ。失踪事件の被害者は更衣室に向かっている所で被害に遭っていると! これって性犯罪がらみじゃね!?」
「それが精神年齢十歳の発想かね」
 メシエは、やっぱり、と言いたげな顔をしている。ところがクマラは一行に構わず、
「そう、十歳! ちゃっきちゃきの十歳児! だから」
 ここまで言ってもう駆けだしていた。弾丸のように。もちろん目指すは更衣室だ。
「オイラは更衣室へ紛れ込んでも『迷っちゃった』てへ☆ で綺麗なおねーさん達は快く許してくれるはずなので、いざ更衣室へ潜入捜査を敢行するのにゃん!」
 こういうときクマラの足は速いのなんの、まさしく韋駄天である。
「クマラ……お前実は四千歳超のくせに何を…」
 エースたちは慌てて追ったが、追いつくより先にクマラの手は女子更衣室に届いていた。
「現場に到着! 扉開けちゃえ!」
 がばっ、と声に出してクマラは運動部棟の更衣室に飛び込んだ。
「ぶう、服着てるー」
 クマラが最初に言ったのはそれだった。
 先客はチェック地のネクタイスーツ、シャーロット・モリアーティである。もちろん、メイド服のセシリア・モランも一緒だ。
「これは失礼しましたお嬢さんたち、お詫びにこれを……」
 と花束を彼女に渡しかけたエースだったが、すぐに気づいて紳士的に述べた。
「あなたたちもここで調査を?」
「はい」
 ちょうどいいところでした、とシャーロットは彼らを招き入れた。二人を除けば更衣室は無人だ。
「怪しいところを発見したばかりです。確認してもらっていいですか?」
 シャーロットはロッカーの一つを開け、屈み込んでその底部を指さした。
「あら? へこんでる……?」
 同じく屈んでリリアが言う。
「堅くて重いものでも入れていたのだろうか。石の塊とか?」
 メシエも同様にして、鉄のロッカーを触って確かめた。
「ええ、石のようです。ほら、粉が」
 セシリアが言う。彼女は指で、剥落したとおぼしき石の粉を示した。 
「これは予想なのですが、石像が入っていたとは考えられませんか?」
「石像? まっさか、こんなところにー!?」
 クマラが眼をぱちくりするが、エースは既に、シャーロットたちの言いたいことを理解していた。
「ありえない話じゃなさそうだね、聡明なお嬢さんたち」
 更衣室に向かったまま失踪した少女は、何らかの手段で石像に変えられたのではないか。
 そして石像のままロッカーに収められ鍵をかけられ、数日そのままにされたのではないか。
 ほとぼりの冷めた頃に石像を運び出すほうが、生きている人間を連れ出すよりずっと簡単だ……。
「やはり、これは誘拐事件として考えたほうがよさそうですね」
 シャーロット・モリアーティはそう断じた。
 彼女は胸元からハッカパイプをとりだし、清涼な空気を深々と吸い込んだ。