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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第1話/全3話)

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●仁科耀助、ツァンダをゆく

 タシガン空峡に面したツァンダは、古王国時代から連綿と続く歴史と文化の都市である。古王国の頃より貿易によって栄えており、現代でも、さまざまな人種や物資が行き交う国際色豊かな場所だ。シャンバラ最大の都市の座こそ空京に譲ったとはいえ、今なお、その影響力は大陸じゅうに及んでいるといえる。
 さてその繁華街にて、仁科 耀助(にしな・ようすけ)は視界に美少女(と、書いて『ターゲット』と読む)を見出し、歩み寄ろうとしていたのだが、さっとその眼前を、これまた彼の好みのタイプである鮮やかな髪色の美少女が横切った。どちらも魅力的だ。少し迷ったが近いほうを優先することに変更、耀助は、水色に近いグリーンの髪の少女に歩み寄った。
「ねえそこのお嬢さん、君、オレとどっかで会ったことなかった? 名前教えてもらっていいかな? 思い出すんで」
「私?」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)は立ち止まる。
「そうそう、もちろんきみのこと〜。さあさ綺麗なお嬢さん、オレは仁科耀助。君は誰?」
 耀助は屈託のない様子で笑った。
「え、えーと……」
 もう、姉様ったら――どこかで見ているであろう藍玉 美海(あいだま・みうみ)の視線を意識しながら、沙幸はおずおずと名乗った。
 失踪事件を耳にして、その真相解明に俄然やる気を出したのは沙幸ではなく美海のほうだった。いわく、
「蒼空学園生の美少女たちの失踪事件、これはまことに由々しき事態ですわね。わたくし達としても、事件解決のために一肌脱がねばなりませんわ」
 とのことである。このとき『美少女』という言葉に強いアクセントが置かれていたことは指摘しておきたい。加えて美海は、
「そういえば、この件で調査に乗り出しているナンパ師がいるという噂を聞きましたわ。彼ならきっと何らかの情報を持っているでしょう。
 ……沙幸さん、さっさとナンパされてきていらっしゃい」
 という無茶振りを沙幸にしたのである。
 無論、蒼空学園生として沙幸も事件は気になっていたが、なぜ私が、と思わないでもない。けれども耀助の持っている情報が気になるのも事実。かくして沙幸は首尾良く、彼と接近遭遇したというわけだ。
 しばらく会話を交わしたが、すぐに沙幸は本題に入った。
「もしかして耀助って、最近失踪した子の情報を集めてない?」
「え……? なに、いきなり?」
「聞いたんだもん。知ってて耀助のこと探してたんだよ。驚かせたならごめんね」
 こんなこと言われたら不審がってもおかしくないところだが、どっこい耀助は屈託がない。にこっと笑って、
「ふーん。でも、探されてたってのは嬉しいね」
 と言って続けた。
「ということは沙幸ちゃんも失踪事件を追ってるってわけだ……だったらオレたち、同志だね」
「同志?」
「そう。だから同志沙幸ちゃん、ケータイ番号とメールアドレスを交換させたまえ」
 この仰々しい言い方に沙幸は笑ってしまった。もともと沙幸としても望むところだったが、彼はすらすらっと連絡先を交換することに成功している。なるほど、たしかにナンパのテクニックはあるようだ。
 そして情報を聞き出したわけだが、これに沙幸は顔を曇らせた。
「美少女でマホロバ人で……そ、その……き、生娘?」
 最後の条件をどうやって調べたのかは訊かないでおこう。
「マホロバ人って言うのはよくわからないけど、人身御供とかでよくありそうな組み合わせだよね……まさか、生贄にされようとしている……なんてことはないといいんだけど」
 マホロバの言い伝えとかでそんなのがあるのだろうか、調べてみたい。
「それはさておき、それだけの共通点があるなら、次に狙われそうな人の目星が付けられるんじゃないかな? ナンパメモとかあるんでしょう、耀助?」
「おっと、メモについてはトップシークレットだよ。でも知りたい?」
「勿体ぶらないでよ。知りたいに決まってるじゃない」
「なら、オレともうすこーし、お近づきになってほしいなぁ。この後時間ある?」
 いつの間にやら狼の眼、じわじわと近づいてくる耀助であったが、
「はーい、そこまでですわ!」
 両手を振りながら二人の間に美海が乱入した。
「おっとこちらにも美しいお姉さまが!」
「ホッホッホ、いきなり事実をおっしゃるとはいい心がけですわね。でも、こちらの沙幸については、それ以上はノータッチですのよ。沙幸さんと『お手つき』もとい『お近づき』になっていいのはわたくしだけですから」
「えーっ!? もしかして二人は……」
「その『もしか』ですことよ。はいご機嫌よう」
 と断じて美海は沙幸の手を取り、さっさとそこから去っていく。
「せめてお姉さま、お名前を〜!」
 追いすがる耀助を後に残して。

「うう……沙幸ちゃん、そして謎のお姉さま……逃してしまった。もう世界の終わりだぁ」
 と、ごく短い時間落胆した耀助であるが、たちまち立ち直った。
「おっと、あそこにまた、未確認のカワイコちゃん、発見!」
 黒髪に、どこかゴス風の黒い衣装、紅い眼がキュートでどこか猫っぽい少女である。
「?」
 目が合った。なぜって少女つまりルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)も、「な〜にぃ? あの網々着て前はだけてる男はぁ……」と耀助をじっと見ていたからである。
「んねぇねぇ、何してるの〜? メモなんて取っちゃってさぁ。ありー? もしかして刑事さん? 探偵さん?」
 声をかけてきたのもルイーゼが先、耀助は張り切って、
「ふふ、何を隠そう……」
 と言いかけたもののそこで台詞は終わった。
「……あぁ、何だ、ただのニンジャか」
 格好で判断したのだろう。ルイーゼはあっさり言い放った。
「え? ああ、まあそうだけど」
 すると突然、ルイーゼの表情は一変した。それはたとえるなら、アイスキャンディーを食べていて棒に『あ』と書かれているのを見て色めいたものの、最後まで食べてみたら『あら残念』と書かれていたと知ったときのような顔だった。
「なんだニンジャならどうでもいいなぁ」
「待って待って、ただのニンジャじゃないよ!」
 マスターニンジャだっ、と胸を張るように耀助は言ったが、それでもルイーゼはあまり関心を持たない様子だった。
「ふ〜ん、マスターニンジャねぇ……とてもそうは見えないけど」
 ぼそっと酷なことを言う。さらにルイーゼは会話の主導権をとり続けた。
「んで、君いくつ? 名前は?」
 といった次第で色々と耀助は白状させられてしまって、おまけにこんな言葉まで頂いた。
「……って、おい、あみあみエロすけ、ニンジャならもう少し忍べよ」
「ねえその『あみあみエロすけ』ってもしかしてオレのこと?」
「他に誰がいるの〜?」
「……あの、一応、ワタシも」
 そう、ルイーゼと耀助のやりとりに、いつの間にやらミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)も混じっていたのである。素早くミレイユは耀助に自己紹介してルイーゼをたしなめた。
「変なあだ名つけたらダメだよ、ルイーゼったら」
「だってさぁミレイユ、エロすけって、ニンジャ的には許せないものがあるんだもん」
「あ、そっか ルイーゼ、ニンジャだものね。同じクラスのお兄さんにどこか納得いかない部分があったのかなぁ?」
 でも、とミレイユはすかさず告げた。
「そういうルイーゼも……ニンジャらしくない格好だと思うけど?」
「あたしはいいの〜! ニンジャってわからないんだから平気〜」
「じゃあオレだって良いってことにならない?」
「だめ、微妙にニンジャっぽいから〜」
 わかったようなわからないようなコメントだが、耀助にはこたえたようだ。くーっ、と彼は仰け反った。
「今回は一本取られたよ。でもルイーゼちゃんにミレイユちゃん、次会ったときはびっくりさせてみせるから、ヨロシク!」
「ふーん。ま、あんまり期待しないでおくよ、あみあみエロすけ」
「くくくっ、覚えてろよ〜、って、これじゃオレ悪者だな……」
 こんなやりとりがあったが、結果的にミレイユとルイーゼも、耀助と親しくなり情報を得ることができたわけだ。まあ結果オーライ、である。