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リアクション
鏡の国の戦争 7
公園にずらりと並ぶ軍服の一団は、命令を今か今かと待っている。
ここはオリジン側、井の頭公園。集結した軍服の一団は、オリジンの人間ではなく、アナザーで集められた者達だ。
「そろそろ時間だとは思うけど……」
物資と人員を運搬する装甲車によりかかりながら、大岡 永谷(おおおか・とと)は時計を何度も確認する。
作戦開始の時間は、陽動の報告を待つために、ある程度流動的に設定されているが、やはり当初の予定時間になれば意識してしまうのは止むを得ないだろう。
こちら側では、アナザーで起こっている事を確かめる術はない。通信やテレパシーなどは道で遮断されてしまうので、伝令がやってきて直接報告するまではひたすら待つしかないのだ。
そんな不便を甘受しつつも、オリジン側に兵力を一旦集結させているのは、この作戦をダエーヴァに悟らせないためだ。あれだけ敵本拠地と近ければ、嫌でも同行は盗み見れる。戦力と物資を集結しているところを見られれば、こちらの意図を読み取られるかもしれない。
これでこちらの動きを完璧に隠蔽できたかどうかはわからないが、物資を略奪される心配を減らす意味でもこの方法は悪い手段ではないはずだ。
「……そろそろか」
待機した部隊とは別に、あちこちに動き回る人影を見つける。待ち望んだ伝令だ。あとは、彼らが持ってきたのが悪い知らせではないとよい。
間もなく、物資輸送隊にも伝令がやってきた。
「空港奪還作戦において、敵司令級ダルウィとおよそ六百の援軍を確認。これを好機とし、黒い大樹攻略作戦の開始が許可されました」
香 ローザ(じえん・ろーざ)はキビキビとした態度で、通達すべき内容を伝達する。
「空港の作戦はまだ継続中なのか?」
「はい。そう報告されています」
永谷はそうかと頷く。空港の占拠は完了、おびき出した援軍を殲滅、なんて都合のいい話はさすがに無いようだ。
「既に、アナザーでは契約者を擁する先行部隊が作戦を開始しています。私も任務がありますので」
「報告ありがとう」
急ぎ足でアナザーへ帰っていくローザを送り出し、永谷は部下達に向き直った。
「出撃準備は終わってるな? 行くぞ」
アナザーでは今日までに、大規模な作戦こそ行われていなかったが、各地で小競り合いのような戦闘は繰り返されていた。
今日のそれも、そういった日々の出来事の延長戦だとゴブリン達は考えていた。その為これといった疑問を持たずに、自分達からちょっかい出してきたくせに、すぐに逃げようとするリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)を含む小隊の背中を追っていた。
「ホワイトアウト」
何度目の曲がり角を曲がったところで、季節はずれの桜と雪の吹雪がゴブリン達の視界を覆った。
待ち伏せか―――ゴブリン達は一箇所に集まり、警戒しながら周囲をうかがう。追っていた敵のUターンを危惧し、遮蔽物に身を隠して足を止め、慎重に後退していく。
「中々こないでふね」
ホワイトアウトの効果範囲の外側で、待ち構えるリイム達からもゴブリン達の動きは見えない。
「もうすぐ効果が切れますわ。よろしくて?」
リイム達から少し離れた場所に身を隠しているヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)の言葉に、
「任せるでふ」
とリイムは自信満々に答えた。
宣言通りにホワイトアウトの効果が消える。魔杖キルシュの桜吹雪はまだ残っていたが、それもあと僅かといったところだろう。
視界は開けると、すぐに銃撃戦となった。
だが、ゴブリン達の動きは非常にぎこちない。魔力のこもった二つの吹雪は、相当な打撃を与えていたようだ。
飛び交う銃弾の数も少なく、リイムは容易く敵に隣接することができた。スタンクラッシュで前衛を蹴散らしている間に、部下の兵士達が後方のゴブリンを討ち取っていた。
「安堵するにはまだ早いですわ。敵の援軍が……なんですの、この数」
先ほどのゴブリン達は、受けた攻撃が魔法である事に気づき、援軍を惜しまず投入したのだ。
「これだけおびき出せれば、文句はないな」
兵士達の間を悠々と歩いて通り過ぎ、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が一番前に出る。
「リイム、お前に話さなくてはならないな。実は俺は地球人じゃあないんだ。本当はウィズエックス星から来た、エクストラマンなんだ!」
誰よりも前に出た宵一は、巨大化カプセルを使用した。
「デュワ!」
アイテムの効果で宵一は巨大化した。
敵も味方も、巨大化した宵一を見上げる。その視線のうち、二つは非常に冷めていた。
「ふ〜ん」
「リーダー、つまんないでふ……」
外からどしんどしんと地面を揺らす足音が聞こえる。
「三分間の我慢ね」
ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)は宵一達のところに向かう援軍が飛び出した建物、に突入した。流石に全くの無人とまではいかなかったが、お留守番をしているゴブリンの数は少ない。
一番近くに居たゴブリンが銃を構えるが、突然横に吹っ飛び倒れた。一足先に侵入していたフラワシ【大熊のミーシャ】が打撃を打ち込んだのだ。
それより奥に居るゴブリンは、ニキータを確認しながらも、もう一体居るはずの敵を探して銃口が定まらない。その間に、ポイントシフトで間合いまで滑り込んだニキータがサンダークラップでゴブリンを痺れさせる。
ミーシャも次々と敵を殴り倒し、あっという間に一階を制圧した。
二階にあがると、敵の姿も気配もしない。
「すごい生活臭ね」
ニキータは部屋の隅っこに菓子パンやらおにぎりやらカップ麺やらのゴミが、人ぐらいの大きさまで積まれているのを発見した。ごみ収集者なんて走ってないのだから、こうなるのは仕方ない。
「一歩、下がって」
タマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)の言葉を素直に聞き入れ、ニキータは一歩下がる。その瞬間、ゴミの山を吹き飛ばして一頭のワーウルフが出現、勢いのまま鋭い爪のある腕を大きく降った。
ニキータの首筋に、嫌な風が通る。だが、通り過ぎたのは風だけで爪は届いていない。そのまま頭をもぎ取ろうとした一撃に、善後策などなくニキータに無防備な背中を晒した。
「こんのっ」
サンダークラップ。
しかし、ゴブリンより一回り大きい身体のワーウルフはそれだけでは倒れない、仕切りなおしのための為に間合いを取り直そうとし、ミーシャの横に飛んでいった。ミーシャの姿を見る事のできないワーウルフに罪は無かった、ただ運が悪かっただけである。追撃の一撃を受け、ワーウルフは今度こそ倒れた。
「まだ、息はあるわ」
「ええ、ちょっと話をしてみるわ」
ニキータはテレパシーでワーウルフに意思の疎通を試みた。
(――――)
思考原理の違いだろうか、はっきりとした言葉でワーウルフの意思は読み取れないが、なんとなく名前を聞かれているのではないかと感じたので、ニキータは名前を返す。
(―――、―――)
次の言葉に、ニキータは返事を返そうとして、途中で止めた。もうワーウルフに話しかけても、返事は返ってこないからだ。
「何か、言ってた?」
「よく俺の一撃を避けれたな、だが次会う時はこうはいかないぞ、覚えておけ、だって」
多少ニュアンスの違いはあるだろうが、概ねそんな感じで間違いは無いだろう。
その後、建物を上まで調べたが敵はもう残っておらず、また外から帰ってくる敵も居なかった。巨人にこれでもかと蹂躙されたのだろう。
テレパシーで後詰の隊に連絡を取り、次の指示を待つ。少数で小回りが利き、戦力としても期待されている契約者の仕事は少なくない。
「化け物に賛美されてもねぇ……」
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