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フロンティア ヴュー 3/3

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フロンティア ヴュー 3/3

リアクション

 
 
「大層なことになっとるのう」
 光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が、物陰から様子を伺う。
 遅れてリューリク帝の捜索に加わった翔一朗とハルカは、まずは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)達と合流しようと後を追ったのだが、此処で足止めとなってしまった。
「携帯……は、勿論無理か」
 エリュシオンでは、パートナーでもない相手と携帯は繋がらない。
 あとは向こうからのテレパシーが頼りだが、それも無かった。
 ルーナサズで別行動をしたニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)トオル達の姿は見えない。
 ヴリドラが此処に来る前に、先に進めたのだろうか。
 別れる前に彼等に施した『禁猟区』の反応は無い。
 勿論、ハルカの持つお守りにもそれは施してある。此処に隠れている限りは安全だろう。
 ハルカはじっとヴリドラを見つめている。
「大丈夫か、怖いか?」
 ふるり、とハルカは首を横に振った。
「怖くないのです。でも、ちょっと辛いのです」
 辛い? 翔一朗は首を傾げる。
「具合が悪いんか」
「解らないのです。でも、空っぽで、泣きたいのです」
 弱く首を振りながら、自分でも意味が解らないことを呟き、ハルカは再びヴリドラを見る。
 何をしたがるでもなく、ただ見つめて、そしてふと、視線を移した。


「るるちゃん、それ僕のだよう」
 大事なパラミタがくしゅうちょうと画材を勝手に使われて、ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)が抗議した。
「全く、リューリク帝ってば結局何も教えてくれなかった。
 もしかして、何か知ってる風な顔して、実は何も知らなかったんじゃない?
 ちょっと美人だからって調子に乗って……」
 ぶつくさと文句を言いつつ、ラピスの抗議には耳を貸さずに、物陰に潜み、顕微眼で観察しつつ、描画のフラワシを使ってヴリドラをスケッチする立川 るる(たちかわ・るる)に、ラピスは自分の描いた絵の上から何かを描かれないよう注意を払う。
「この絵、どうですかね、画伯」
 るるに作成中の絵を見せられて、ラピスはうむ、と唸った。
「あんたのフラワシはピカソかい」
「力作なのです」
 背後からの、評価の声に飛び上がる。
 覗き込んでいたのは、翔一朗とハルカだ。
「い、いつの間に! るるが背後を取られるなんて!」
「ふ、まだまだ甘いのう」
「くっ、参りました師匠!」
 などと適当にやり取りした後で、るるはハルカがしげしげと見つめているパラミタがくしゅうちょうを取り上げる。
「こちらはまだ作成途中ですぅ。閲覧はお控えください〜」
「はいなのです。完成まで待つのです」
 ハルカは笑顔で頷く。
「はいっ、完成品が、こちらのカメラの中に!」
「写真じゃろ」
 デジカメを取り出したるるに、どこの料理番組かと翔一朗が突っ込む。
「で? あのドラゴンは何じゃい」
「えーと、るるの観察によると、超ナノマシンてカンジかなあ」
「超ナノマシン?」
「その真相は、後の研究結果が待たれるところよね。
 そう、この研究を進めれば、オリジナルドラゴンの創造も可能になるかも……!?」
「すごいね! いつか自分のナノマシン製ドラゴン、作ってみたいね」
 るるの勝手な分析に、ラピスも瞳を輝かす。
「ナノマシン……ポータラカのドラゴン、か」
「ドラゴンも、悩みが多くて大変だなあ」
 描きかけのスケッチを進めながら、るるがぽつりと言った。
 エレメンタルドラゴンとの出会いから、ウラノスドラゴンを捜そうとして、今目の前に居るのは、八龍ヴリドラ。
 ウラノスドラゴンは友達を失って泣いているそうだし、このヴリドラも、居場所を失ってリューリク帝の言いなりになってるっぽい。
「世界樹がコーラルネットワークで繋がってるみたいに、ドラゴン達もたまに集まって飲み会でもして、悩みを吐き出す場所を作ったらいいんじゃないかな」
「そうしたら、皆仲良しで素敵なのです」
 ハルカも、そんなるるの言葉に頷いた。


 皆仲良く。
 素敵な言葉だ。
 花妖精のリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)は、ヴリドラと友達になりたかった。
 その背中に乗せて貰えたら、きっと最高だろう。
 ――なのに、話はいつの間にか、力ずくな方向になっていて、リィムの後悔は計り知れなかった。
 どこでどう間違えてしまったのか……と、途方に暮れた眼差しで、ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)を見つめる。

 楽しく買い物していたところを突然十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)に呼ばれて合流したヨルディアは、とても機嫌が悪かった。
「あのドラゴンを説得すればよろしいのですわね?」
 目が据わっている。
「お、おう……頼む」
 不機嫌なヨルディアを誰よりも怖れる宵一は、若干腰が引け気味に頷いた。
「わかりました。やってみましょう。
 ……物理で」
 ドラゴンに効果がある双星の剣を手に、ヨルディアは聖邪龍ケイオスブレードドラゴンに跨る。
 リィムはひいっと竦み上がった。
「お、おう。
 瀕死になったらもしかして、仲間になりたそうな目でこっちを見てくるかもしれないな」
 そうしたら仲魔にしようそうしよう。
 頭を抱えているリィムに同情しつつ見なかったフリをし、そんな希望的観測の下、宵一は自らに潜在解放を施し、自らの能力を最大限に発揮できるようにする。
 空中から仕掛けてくるようなら「天のいかづち」でそれを阻もうと思ったが、自分達を坑道に行かせないことが第一であるヴリドラは、足場を動かなかった。


 八龍といえども、やはり攻めるポイントといえば、内部だろうか。
 そう予想しつつ、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、先に行ったイルダーナの身を案じていた。
「ああもう、護衛の仕事があるんだから邪魔すんなよ、このギドラもどき!」
 とはいえ、下手な応戦は返り討ちの危険性がある。まずはヴリドラに全力を傾けるしかない。
「究極だか何だか知らんが、言われたことないか、何かくれるからって知らない人にほいほいついて行っちゃいけません、ってなぁ!」
 周囲を飛び回るヨルディアやエヴァルト達一人一人を、ヴリドラは逐一注意してはいないようだった。
 右の首が大きく口を開ける。
 ブレス攻撃を仕掛けてくる気だろうか、エヴァルトはその時を待って、口の中にリボルバーボムを放り込んだ。
 爆弾はヴリドラの口の中で爆発したが、特に堪えた様子は無い。
「ちっ、火傷程度か!」
 それでも、ブレスを放つのを防ぐことができた、と思った矢先、ヴリドラの左の首が激しく嘶いた。
 咆哮による振動が、エヴァルト達の全身を叩きのめす。
「ぐっ……くう!」
 同時に、脳を揺さぶられるような振動が貫いた。
 エヴァルトは、がくんと膝をつきながら、ヤバいと思う。
 頭をかき回され、潰されるようなこの感覚。
(まずい、精神攻撃だっ……)
 混乱に耐えるエヴァルトの意識が、黒く染まる。


「きゃーっ!
 まよちゃんが土方せんせーを攻撃してる! 仲間割れっ!?」
 物陰から頭を出して、るるが叫んだ。
 土方歳三に攻撃した真宵は返り討ちに遭い、その土方の背後からテスタメントが不意打ちを仕掛ける、といった酷い状況で、三人とも息も絶え絶えとなっている。
「正気に戻さないと!」
 ラピスも言い、物陰から飛び出そうとした二人を、翔一朗が引き戻した。
「飛び出せば二の舞じゃ!」
「でもでもっ!」
「何で俺等が無事だと思うんじゃ!」
「え、何で?」
「知らん」
 解らないが、翔一朗はちらりとハルカを見た。
 放射状に広がった衝撃波は此処にも届いて、ハルカは蹲って耳を押さえている。
 押さえているが、ダメージ自体はなかった。
 自分はともかく、ひ弱といっていいハルカにダメージが無いということは、此処は安全なのだ。
 翔一朗は、ハルカ自身も自覚の無い能力を思い出す。
 此処は、ハルカの絶対領域のようになっているのではないだろうか。
「あんたの仲間は、俺が引っ張って来るけえ、此処で待っとけや」
 あれとあれとあれ、とるるが指差した三人を見て頷くと、翔一朗は物陰を飛び出した。


 契約者達に剣を振り回し始めたリィムを見て、降りてきたヨルディアが物理で正気に戻す。
 一発ひっぱたいた程度では元に戻らなかったので、リィムは三回も殴られてしまった。
「お……お姉さま、ひどいでふ……」
 リィムは涙目だったが、それでもヨルディアが手加減してくれたことは解ったので、それ以上文句は言わなかった。
 これが宵一だったら、恐らく一撃で半殺しになっていたに違いない。
 そもそも殴って元に戻ったのがびっくりだぜ、と、宵一は宵一でひっそり慄いていた。