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リアクション
ウラノスドラゴンは、いつもは見えないけれど、此処にいるのだとぱらみいは言った。
また、聖剣も、此処にあるのだと。
「それを、見えないとは言っていない……」
樹月 刀真(きづき・とうま)は、聖剣を捜しながら考える。
ぱらみいを見かけたので、呼び止めて訊ねた。
「つまり、聖剣は見える場所にあって、それが聖剣だと俺達が気付いていないか、聖剣が寝てるとかで見えないから呼んで起こせば出てくるとか?」
にこ、とぱらみいは笑った。
「お兄さん、鋭いね」
「本当? じゃあ、呼べばいいの?」
パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が訊ねる。
「ううん。その辺は鋭くない」
あら、と勇みかけた二人は挫く。
「だが、ということは前半か」
聖剣は、見えているのに気付いていない。
ぱらみいは、それ以上を教えるつもりは無いらしい。
もう一度巨人族の歌を歌ってみようか、と考えていると、ぱらみいを捜していた清泉 北都(いずみ・ほくと)やクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が歩み寄った。
「あのね、ウラノスドラゴンに、一番声が届く場所を教えて欲しいんだ。
やっぱり、世界樹の根元とかかな」
クリストファーが訊ねる。
ウラノスドラゴンに歌を届けたい。そう言うと、ぱらみいは嬉しそうに笑った。
「ここでいいよ」
「え?」
此処は、道の真ん中なのだが。
ちょこん、と、ぱらみいはもう、その場に座り込んでいる。
「確かに、場所は関係ないのかもしれません」
クナイ・アヤシ(くない・あやし)が言うのに頷く。
それまで誰もいなかったこの遺跡で、建物の中だろうが道端だろうが世界樹の根元だろうが、ぱらみいにとって違いはないのだろう。
人前で歌うことを得意としない北都には、抵抗がないと言えば嘘になる場所だったが、そう言っている場合でもなかった。
歌うと決めたのだから、歌う。
巨人族の遺跡で得たその歌を、もう一度此処で。
歌姫のクリストファー達に比べたら、技術的には劣るかもしれない。
けれど、気持ちだけは沢山込めて。
北都が人前で歌うことを苦手と知っているクナイは、二人と共に歌い始めた北都に少し驚いたが、すぐにその後に続いた。
人によって感じ方が違うこの歌だが、共に歌えばこんなにもひとつになる。不思議な歌だとクナイは思う。
エレメンタルドラゴンとの約束、それだけが目的ではない。
大切な人の死は悲しいもの。
それは、昔の自分にはよく解らなかった感情だが、今なら、解るような気がする。
だから、ウラノスを癒したいと北都は心から思う。
その死はとても悲しいけれど、けれど思い出して。
大切な人と共に過ごしたあの日々を。
忘れないで。
誰にも彼の代わりはできないけれど、きっと代わりに護ることは、できるはず。
アトラスはもう居ないけれど、彼が護ろうとしたパラミタはここにある。
彼の想いは、まだ残ってる。
北都は願って、祈って、歌った。
どうか伝わりますように。
この歌が。
想いが。
希望が。
歌声が聞こえて、聖剣を捜していた鬼院 尋人(きいん・ひろと)は足を止めた。
カサンドロスに必要ならばと、トゥレンのためにと遺跡中を走り回っていたが、歌い手の姿が見えるところまで近づいて、北都やぱらみい達の姿を見つけると、心の中で、同じ歌を奏でた。
アトラスの死は、やはり大きなことだった。悼む気持ちは同様だ。
「もっと。もっと歌って」
ぱらみいは、歌い終わった北都達にねだった。
「もっと? 他には知らないんだけど」
「お兄さんの好きな歌がいい」
視線を受けて、請われるままに別の歌を、北都は、今度はクナイと共に歌う。
すとん、と尋人がぱらみいの隣に座った。
「……ドージェのこと、伝えたいって思って」
北都の歌を聴きながら、尋人はぱらみいに囁いた。ぱらみいは尋人を見上げる。
「どんな人?」
「ドージェは、すごく良い人だよ。見た目は怖いけど」
尋人も、本人と話したとか、一緒に遊んだりしたわけではない。
だから上手く伝えられるか自信はないけれど、でも、伝えたいと思った。
「いろんな大変なことがあって、それを乗り越えてきた人なんだ」
うん、と、ぱらみいは頷く。
北都の歌が終わった。
「もっと歌って」
ぱらみいはねだる。北都は苦笑した。
「歌が好きなの?」
「うん。ウラノスちゃんは、歌が好きなの」
「え?」
「だから巨人さん達は、此処に遊びに来ると、いつも歌ってた」
歩きながら歌い、笑いながら歌っていた。
酔っ払って歌って壁を蹴飛ばし、ドワーフ達と、互いの音痴を罵りあいながら共に歌った。
「……そっか」
じゃあ、もっと聴いて貰わないとね。
北都が、次の歌を歌い始めた、その時。
何かが集まってくる感覚がした。
見えない、何か、透明な光のようなもの。
集まって、固まって、それが龍の形をしているのにようやく気づいた。
そこに、いる。
何処にでもいたけれど、意識が一ヶ所に集中した、そんな感じ。
段々と色を帯び始め、霊体のような巨大なその姿は、障害物を素通りし、北都達の前に佇んで、じっと見つめている。
北都は歌うのを止めなかった。
最後まで歌い終わってから、龍を見上げる。
「……気に入って貰えた?」
人語を持たないのか、龍は答えない。
けれど温かい気持ちが流れてきて、北都やクリストファー達は嬉しく思う。
「彼が、ウラノスか?」
刀真の問いに、ぱらみいは頷く。
「聖剣のこと、訊いてみてもいい?」
月夜の言葉に、ぱらみいは、くすくす笑った。
「もう、訊くことないでしょ、お姉さん。
お願いしたらいいよ」
その言葉に、刀真がウラノスドラゴンを見上げた。
「頼む。聖剣を貸して貰えないだろうか?」
龍が、空に向かって嘶いた。
ふわりとした光を感じて、刀真達は顔を上げる。
世界樹が、光に包まれている。
何かがほどけて行くような、折り畳まれて行くような、凝縮されて行くような、そんな不思議な感覚と共に、遥か上空で、足場を失った誰かの悲鳴のようなものが、聞こえたような、聞こえなかったような。
そして、空の遺跡から、聳え立つ世界樹が無くなり、凝縮された光は剣に変わって、すとんと北都の手に収まった。
クリストファーは、ウラノスドラゴンを見上げる。
「ありがとう。
君にね、もうひとつ、聴いて欲しい歌があるんだ」
ドージェのことを、ウラノスに知って欲しい。
此処へ来て、ぱらみいに話を聞いたクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が、即興ながら、どうしても聴いて欲しくて作った歌。
ドージェの武勲(いさおし)を歌い、彼等にドージェを理解して、受け入れて欲しいと思った。
そんなクリスティーの思いに、クリストファーも共感した。
「きっと、親しい人が死んだだけではなくて、そこに知らない人がいることが、問題なんだよね」
今この場で全てを語るのは無理だけれど、一端でもいい、知って貰えたら。
そして、これから知っていって貰えたら。
世界樹の消滅と龍の霊体の出現に、皆が集まってきた。
その中で、クリスティーの歌声が響き渡る。
歌い終わって、気付けば、龍の姿はなくなっていた。
「ありがとう、だって」
ぱらみいがそう言って、微笑む。
クリスティーは頷いた。
――伝わっただろうか。
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