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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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●イルミンスール

 『天秤世界』で異常が発生し、その異常の根源にミーナが居ることを知った非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、ある一つの考えを検証するべくアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)に話を切り出す。
「アルティアさん、光条兵器を貸して下さい」
「構いませんけれど、何をするのでございましょう?」
「光条兵器なら、目標だけを傷つけれる筈ですので。ミーナさんを傷つけずに、操っている端末だけを何とか出来るかも知りません」
 光条兵器は意思の力で、斬る対象を選ぶことが出来る。近遠の考え通り、確かに光条兵器を用いることでミーナを傷つけず、ミーナに干渉するものだけを斬ることは、実現可能かどうかを抜きにして、可能である。
「それなら、アルティアが行くのでございます。近遠さんよりも、アルティアの方が、身も守れますし、上手く扱えるのでございます」
 アルティアの言葉通り、剣の花嫁であるアルティアの方が近遠よりも通常は、光条兵器の扱いに長ける。地球人が光条兵器を手にすることで秘めていた性能を発揮する事例はいくつかあり、その力で剣の花嫁が扱う以上に扱うことが出来る場合もあるのだが、今の場合は近遠が一行のブレーンとして方針を決め、パートナーたちがその方針に基づいて行動する方が良い、という意味でもある。
「そうですね。それでは、お願いします。ボクは、人の神経に相当する様な、意思を伝達するものが世界樹にあるのか、調べる事にします。それが判ったら、電話しますね」
「あたしも調べますわよ。さっきまで話していた人が今はあんな状態でお話もできないなんて、悲しいですわ」
 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が悲痛な面持ちを浮かべ、なんとしてもミーナを取り戻したい思いで協力を約束する。
「お願いするのでございます。アルティアは、先に現地に行って連絡を待つのでございます」
 一礼してアルティアが行こうとするのを、近遠が呼び止める。
「イグナさんに連絡を入れて、手伝いを頼みます。
 ……何らかの方法でミーナさんを解放出来れば最善ですが、何か収穫があれば充分ですので、怪我等無理をしない様、お願いしますね」
「わかりました。アルティアも怪我などはしたくないのでございます」
 微笑むアルティアに頷いて、近遠は『ポッシヴィ』に待機中のイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)へ連絡を取るべく、携帯を手に取る。

●天秤世界:ポッシヴィ

 契約者の拠点の変貌、そして騒ぎ立つ『龍の耳』『龍の眼』『昇龍の頂』の様子を目にし、イグナはいつポッシヴィがこの戦乱に巻き込まれるのかと思うと気が気でなかった。だからといって自分一人でこれら全てを対処できるはずもなく、一種の無力感に近いものを得る。
「……と、電話か? ええとこれは……」
 そこに近遠から連絡が入り、イグナは操作に戸惑いながらも通話に出る。
「イグナである。どうしたのだよ?」
『イグナさん、そちらにアルティアさんが向かいますので、一緒に拠点の方に向かってもらえないでしょうか』
 そう切り出した近遠の説明を頭に入れ、イグナが提案を了承する。
「そういう事なら、我もアルティアが心配ではあるのだよ。了解である」
 そして、少し迷った後で、イグナは心の隅に引っかかっていた思いをぽつり、と吐露する。
「しかし……どうして、我が手の届く所はこうも短く、守れる所は狭いのであろうな……」
『ボクたちは神でもなく、人の身ですからね……。
 こればかりは覆しようがありませんが、ボクはまだ、長く広い方だと思いますよ』
 近遠の決して慰めばかりではない、けれどフォローを含んだ言葉を耳にして、イグナは少しだけ気が楽になったような表情を見せる。
「そうであろうか? そうであれば良いのであるが。
 此処も戦乱が近い気配はある。心配ではあるのだよ」
 一通り話を済ませて通話を切り、イグナは後ろ髪を引かれる思いを抱えつつ、ポッシヴィを離れ契約者の拠点へと向かう。

●イルミンスール

「近遠ちゃんは、コロンちゃんに当たってみて欲しいですわ。
 あたしは大ババ様に尋ねてみますわ。大ババ様なら、校長にザナドゥに、妹さん……本人がもし知らなくても、ツテは多い筈ですわ」
「お願いします。あぁ、それと今後の為……一応、イコンの出撃許可申請と準備の方も、お願い出来ますか?」
「わかりましたわ。大ババ様に尋ねに行くついでに、申請を出しておきますわ」
 ユーリカと別れ、コロンの元へ向かいながら近遠は、勢い良く転がり出した事態に乗り遅れないように頭の中で整理を始める。
(さて、まだまだ解っていない事も多いのに、事態が大きく動き出してしまいましたね……。
 後手後手に回っていて、拙い気がします)
 そうそう先手は打てないものだな、と近遠は思う。考えてみれば一つの世界を相手にしているのだから、それに対して『先手を打つ』のはひどく難しいことだと分かりはするものの、どうにもこのままというのはいただけない。
(とはいえ、今はミーナさん……が先、でしょうね。
 転んでも只では起きない感じで、ミーナさんが色々と新情報を掴んで来てくれると良いですけれど……)

 そんな、ちょっとした期待を抱いてコロンの下へ来てみれば、コロンは残念そうに首を横に振る。
「おにぃちゃんに呼びかけても、答えてくれないの。今おにぃちゃんはおにぃちゃんじゃないみたい」
 その答えを耳にして、近遠はコロンもミーナのようになってしまえば、打つ手無しの詰み状態になるなと思う。今現在『深緑の回廊』を維持しているのがコロンなのだから、それをコントロールされてしまえば自由な行き来が出来なくなり、契約者は多大な被害を出すことになりかねない。
 そんなことを近遠が思っていると、あっ、と思い出したようにコロンが声を上げて、近遠に口を開く。
「この前おにぃちゃんに質問した時、おにぃちゃんが勘違いしてたことがあった、って言ってたの思い出した。えっとなんだっけ、パラレルワールドがあったとして、それと元になった世界と2つの間で、世界樹による情報共有がされているのかって話。つまりマパタリとパラミタで情報共有がされてるのかってことだと思うんだけど、おにぃちゃん、『証拠はないけどしてる、って言ってもおかしくないよね』って言ってたよ」
「そうですか……わざわざありがとうございます」
 コロンに礼を言うと、コロンはえへへ、とちょっと嬉しそうに笑う。
(聖少女にマパタリ……ですか)
 マパタリという単語が出てきて、思い出されたルピナスが契約者に語った内容を、近遠は思い返す。ルピナスは自分が居た世界のことを『マパタリ』と言い、自分のことを『聖少女』と言った。それが本当ならば、マパタリはパラミタと近しい特徴を持っているし、パラミタの聖少女とマパタリの聖少女もやはり近しい特徴を持っている。マパタリにも世界樹は単数もしくは複数存在し、ルピナスも知識として得ていたのだろう。だからこそミーナを支配することが出来たのだと考えるのが筋だ。
(この2つの世界が出てきたのには、意味がある? それともたまたま並行世界として存在していただけ?)
 どちらかは分からないが、ただ何となく、どちらの世界にもイルミンスールやセフィロト、クリフォト等々、パラミタの世界樹があったのではないかという推測が浮かぶ。
(世界樹は、どうしたいんでしょうね)
 何となく、世界樹の意思のようなものを想像してみる近遠だった。

●共存都市イナテミス:イナテミス精魔塔

(あぁ、お姉様達が危険……でも、こちらの世界と天秤世界の通信が契約している者同士でしか出来ないのであれば、わたくしはここを動くことが出来ませんわ。
 天秤世界からお姉様達が帰ってくる時の為に、此処にいないと……!)
 『イナテミス精魔塔』にて、落ち込んだ天秤世界とイルミンスールとの通信や情報のやりとりを行いながら、ティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)はどうしても天秤世界の真言やグラン、ケイオースの事を気にしてしまう。
「……ねぇ、ティティナ。あなたは天秤世界に行かない?」
 そんな時、ティティナの話を受けてここに来ていたアール・ウェルシュ(あーる・うぇるしゅ)の言葉に、ティティナが意外そうな顔をして振り返る。
「だって、気にしているんでしょう?
 ここは私に任せて、行ってきて。大切な人を護るために」
「わたくし……天秤世界へと行ってもよろしいんでしょうか」
「あなたは誰にも止められていないわ。許可が必要だと言うなら、私が許可してあげる」
 もちろん、アーデルハイト様の許可が必要なんだけどね、とアールは微笑んで言う。ティティナは少し考えて、失礼します、と一礼してアールの傍を通り過ぎ、準備を始める。
「……そう、これから起こることも、私は“また”経験する」
 誰に言うでもなく呟き、アールはそれでも、と願うように口を開く。
「頑張ってね、……ティー。そしてもう一人の私も……」