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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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●契約者の拠点

「フリッカ、聞こえる? まずは落ち着いて聞いて頂戴」
 ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が携帯で、フレデリカ・ベレッタ(ふれでりか・べれった)に連絡を取る。携帯の向こうでフレデリカが冷静さを欠いているのを感じ取ったルイーザは、フレデリカを少しでも落ち着かせるべく現状判明している事を述べていく。
「伸びている樹木だけど、枝葉の方は成長が止まり、根の方はまだ地面を掘り進んでいるとケイオースさんが報告してくれました。
 拠点内部は、壁とか天井とかは枝葉で覆い尽くされているけれど、建物そのものが崩壊したりはしていないみたい。移動することも出来ます。
 通信は、ダメージが大きいですね。天秤世界内もイルミンスールへの連絡も、パートナー同士の連絡以外取れなくなっています。セイランさんの話では、「伸びている樹木が大きく影響しているので、活動を弱めることが出来れば回復していくのでは」とのことです」
 話をしていく内に、携帯の向こうから聞こえるフレデリカの声にも落ち着きが戻ってきた。声だけとはいえ、無事であることが確認出来たことで多少の余裕が生まれたのだろう。
「二人は今、結界を利用して活動を抑える手段を用意しています。今のところこちらに危害を加えては来ないけれど、警戒しておきます。
 ……大丈夫、フリッカが来るまでは、私一人でもここを護ってみせます」
 安心させるように言って、ルイーザが通信を終える。
「さて……言った手前、務めは果たしましょうか」
 ルイーザの背後では、ケイオースとセイランが結界を構築するためのマーカーを用意していた。あれから検討を重ね、既に設置したマーカーを移動させることなく、別に設置したマーカーから結界を出力させられるように手筈を整え、今準備段階に入っている。
(フリッカ、早まってはいけませんよ……。
 フィリップ君も居るから大丈夫とは思うけれど)

 ルイーザとの通信を終えたフレデリカは、グリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)スクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)にルイーザとの合流を方針として提示する。
「オッケー! じゃあこの、目の前に出来てる道を登っていけば着けるよね!」
「道、ってレスリー、どう見ても塞がっているようにしか見えないんだが?」
 スクリプトが指差す先、空間はあるものの根が複雑に絡み合って移動を阻害している部分を見上げ、グリューエントがどうするつもりかと尋ねる。
「ここでボクの、とっておきだよ!」
 言うとスクリプトの表情が、無機質なものへと変わる。それは魔道書である彼女の中に蓄えられている情報を処理する時の証。
「我は導く、真界への道。スクリプト・オプティマイザー」
 かざした両手から、情報が鎖のような形を持って上空の壁へと突き刺さり、やがて壁を形成していた根が一本ずつ解かれていく。予め持っている位置情報を大量の情報で書き換えることでこれらを可能としていた。
「! デュプリケーターか!」
 直後、周りから人型のモノが生み出され、それらはスクリプトを標的に行動を開始する。空いたもう片方の手から同じように情報を繰り出して迎撃を試みるものの、それでは壁を崩すのに時間を弄してしまう。
「レスリー、壁の崩壊に注力するんだ。君は私が護る」
 目前に進み出たグリューエントへ頷き、スクリプトは両の手を上空へ掲げる。その間にデュプリケーターが迫るが、振り下ろされた武器はグリューエントの掲げた盾に弾かれ、間髪入れず振るわれた槍に貫かれる。目の前の敵を倒し、さらに奥に2体の存在を確認するが、直後背後から飛んできた氷塊がそれらを撃ち貫いて接近する前に倒す。
「ふむ、ナイスコントロールだな」
 グリューエントが振り返り、氷塊を生み出した術者、フィリップへ称賛の言葉を送る。


 ミーナの変異時に傍に居たリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、樹木へ――まさに“世界樹”へ――変貌していくミーナに手を伸ばすも届かず、襲われそうになった所をシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)に連れ出され、今は被害の及んでいない区域に退避していた。
(……何であれ結果として、ミーナ君をこんな目に遭わせてしまった。その事で責任を追求されるなら、甘んじて受けよう。
 だけど、このまま座して事を待つつもりは無い。ましてや逃げるつもりもない。ここで逃げたら誰にも顔向け出来ない)
 決意を固め、リカインが立ち上がる。両腕に、触れたもののエネルギーを吸収するという特殊なグラブを装着し、実際に可能かどうか伸びている枝に触れる――。
「!?」
 触れた瞬間、腕から体内へ流れこむような衝動を受け、リカインが数歩よろめく。一瞬にして許容量のエネルギーを充填されたグラブを見て、リカインは目の前の樹木――ミーナ――がとてつもないエネルギーを有していることを知る。
「あらら、凄いエネルギーね。これは元々ミーナが持っていたものなのか、それとも別の何かから供給されたものなのかしらね?」
「……出処は分からないけれど。……流石にこれだと、こっちの身が持たないかな……
 シルフィスティの言葉に返しつつ、リカインは自らの身の危険を一瞬だけ考え、その考えを振り払う。
(これはチャンスでもあるの。契約者が説得を試みても心を開いてくれなかったルピナス君の、心に触れることが出来るチャンス。
 逃す訳にはいかない……無茶だろうと、やってみせるわ)
 そうして、リカインがグラブに吸収したエネルギーを解放しようとした時、研ぎ澄まされた感覚が少女の小さな悲鳴を捉える。
「フィス姉さん、今の聞こえた?」
「リカインほどじゃないけど、一応はね。行きましょ」
 二人頷き合い、声の出処へ向かう。向かった先で二人は、枝から派生したように飛び出すモノに襲われる少女――ティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)を発見する。何かを奪われないように護っており、背中には受けた傷が痛々しかった。
「……ゴメン、ミーナ君!」
 この場から攻撃をすれば、世界樹にも衝撃を与える――その考えは流石に、人一人の命とは秤にかけられない。リカインがグラブに溜めたエネルギーを解放し、それは光線状の波動となって人型を模したモノを撃つ。半身が吹き飛んだそれがバラバラと崩れ落ちる前に、シルフィスティが瞬間移動でティティナの下へ辿り着き、抱えて高速移動で離脱する。
「あ、ありがとうございます」
 救出されたティティナが二人に礼を言い、シルフィスティが彼女の手にしているものが何なのか尋ねる。
「これは、魔力を蓄えた瓶ですわ。ケイオース様が結界をお作りになられると聞いていたので、その維持に役に立てばと思いまして」
 ケイオースとの連絡が途絶える前、ティティナは『イナテミス精魔塔』に居た。そこには緊急時に備え、『ブライトコクーン』用に魔力を蓄えた瓶が貯蓄されており、見た目は水で言えば1リットルも入らないように見えるが、蓋の部分で凝縮が行われるようになっており、見た目以上の魔力を蓄えることが出来るとケイオースは以前に説明していた。
「……ねぇ、リカイン。これを使えば、吸いとったエネルギーをわざわざ放出する必要が無いのではなくて?」
 シルフィスティが思い付いたようにリカインに言う。当初リカインは、グラブで吸い取ったエネルギーを光線として放出するつもりで居た。しかしそれだと、いわゆる『空打ち』になりいささか勿体無い。もしシルフィスティの言う案が可能ならば、取り込んだエネルギーを放出することによる疲労が存在するが、エネルギーの無限供給が可能になる。
「……そうね、その方がいいわね。
 じゃあ、ケイオースの所に合流する、で行きましょ。ティティナ君、場所の検討はつく?」
「ええ、おおよその位置は分かります……いたっ!」
 立ち上がろうとした所で、背中の痛みにティティナが顔を歪める。移動するには少々困難だが、あいにくと二人とも他者への治療の手段を持ち合わせていない。
「じゃあ、彼女は私が背負っていくわ。案内は彼女が、リカインは道を切り開いて頂戴」
「すみません……お願いします」
 シルフィスティがティティナを背負い、荷物を持ってリカインの背後につく。
(ミーナ君、待ってて。なんとかしてあげるからね)
 心に決意を新たにして、リカインが指示された方角に立ちはだかる障害へ、波動をぶつけて破壊する。


「ったく、拠点で事務をしてたら囚われの身とはな。
 さて、捕らえた契約者がどれ程の猛毒か、わかっているか?」
 そう吐き捨て、閃崎 静麻(せんざき・しずま)が幹と枝を伝い、電子機器が設置されていた場所まで辿り着く。部屋を貫通した枝にそれらが壊されていればお手上げだったが、幸いにも機器は無事であり、稼働も蓄電池による稼働ならば可能という状態だった。
「ここは故人の三法則、『充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない』に従って、不可能とされるまでやってみるか。誰も不可能なんて口にしてないからな」
 電子機器を稼働させ、手持ちのHCと繋いで即席のコンピュータクラスタを組み上げる。
「見たところ、こいつは随分と的確に動いている。だったら世界樹、ないしはそれに近い特性を持った何かだ。
 ならばこいつを繋いで、内部に侵入出来る。リンクはカナンで既に実証済みなんでな」
 ファンが唸りのような音を上げて回転を始め、静麻の操作する端末には前方の壁のようなもの――世界樹を模したモノへ侵入を試みるアニメーションが映し出される。
「……ああくそっ、流石に表層防壁が硬い。出力が足りん」
 静麻の手が高速に動き、可能な限り大量の情報を送り込むものの、モニターのアニメーションは壁の表面で弾かれる様子を映し出すばかり。ここに魔道書が居ればより大量の情報を送れただろうが、あいにくと持ち合わせがない。
「壁に傷でも付けられればいいんだがな――」
 手を止め宙を仰いだ静麻は、下から響く音に端末を閉じ、最低限の迎撃姿勢を取る。そして飛び上がるようにしてやって来たのは、少女を抱えた羽持つヴァルキリーだった。
「我は敵ではない、どうかその武器を収めてくれ」
「……どうやらそのようだな」
 現れた二人――イグナとアルティア――に頷いて、静麻は端末を開き作業を再開する。
「何をなさっていますの?」
「この世界樹モドキにハッキングを試みているんだが、どうにも硬くてな……。
 ん、君は剣の花嫁か。……そうか、光条兵器なら壁を切れる……
 何やらブツブツと呟いた静麻がよし、と頷き、首を傾げるアルティアへ向き直る。
「すまない、力を貸してくれないか。切ってほしいものがあるんだ」
 静麻がアルティアに説明をしている間、イグナは飛び交う訳のわからない単語に頭を痛め、とりあえずここにデュプリケーターが来ないように見張っていることにした。
「いけそうか?」
「おそらく、いけると思いますわ。……では、参ります」
 アルティアが光条兵器を抜き、目の前の幹に向けてゆっくりと突き出す。
「何だ? 刃は何を切っている?」
 明らかに刃が幹の中にあるはずなのに刀身が見えている、そんな不思議な状況にイグナが目を丸くする。意図したものだけを切ることが出来る光条兵器、それは静麻のハッキングを拒んでいた『壁』をも切り裂き、そこに静麻が再び情報を送り込む。当然世界樹は回復を試みるが、物理的な回復力は優れていてもこういった侵入による回復は、これがまだ『生まれたて』な分劣っていた。
「……よし、侵入に成功した。後はこの内部に俺特製の電子の種を植えて、『根』を張り巡らせる」
 モニターのアニメーションでは、内部に侵入した物体から発射された球体が着床し、根のようなものを張り巡らせる様を映していた。この種をなるべく多く撒いておくことで、今後侵入への対策を講じられた時に対応することが容易になる。
(今はまだ、この世界樹モドキが持っているエネルギーが膨大で、下手な動きは取れない。
 だが、種は撒いた。これが芽吹いた時……見ていろ、ルピナス。貴様の思うようにはさせない)