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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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●天秤世界:契約者の拠点近く

「あたいたちは前回、『深峰の迷宮』のうち【A】を探索したわ。ここからは【C】と【D】に行ける事が分かってる。そうよね?」
 カヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)に尋ねられ、土方 伊織(ひじかた・いおり)がHCを見つつ答える。
「はいなのです。……でも今は【C】はすっごい崩落が起きて、通れなくなってるです」
「【C】はルピナスの拠点だってのは分かってる。【B】はここから南に行った所にあるから、残ってるのは【D】。
 あたいはここのどこかに、あそこに行く道があると思うのよ」
 言ってカヤノが、遠くに見える今は枝葉で覆われた契約者の拠点を指差す。そこには一部の契約者の他、結界を張る作業をしていたセイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)ケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)が閉じ込められる形になっている。彼らと合流を図り、事態の打開を図る。「五精霊が揃えばどうにかなるわよ!」とはカヤノの言葉であった。
「セリシアさんはどう思うですか?」
 伊織に尋ねられたセリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)が、思う所を口にする。
「あれが見た目通り樹木であるのならば、必ず根が存在するでしょう。私の予想ですが、根が伸びた部分はイルミンスールの地下のように、通り抜けることが出来ると思います」
「ほう……つまり、奴らが根を伸ばして作った道を利用させてもらうというわけじゃな。そして根の位置はおそらく、地図で言うところの【D】にあると」
 サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)が頷いて言い、隣のサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が後に続けて言う。
「……ですが、あの樹は私達の侵入に気付けば必ず排除を試みるでしょう。目に見える経路を作っておいて、防衛を配置していないはずもありません。
 私達には情報も不足しています……進まれる場合はどうか、お気をつけを」
 ベディヴィエールの言う通り、契約者の拠点があのようになってしまってから、天秤世界での通信は寸断状態にあった。あのような状況を作り出したのがルピナスであること、そこには未来の世界樹の一人、ミーナも関係している所までは判明しているが、根がどうなっているか、どれほど障害が存在しているかといった情報は未だ入ってきていない。
「……ミオ、あんたの意見を聞かせてちょうだい」
 カヤノにお願いされた赤羽 美央(あかばね・みお)が契約者の拠点を見つめながら、おもむろに口を開く。
「ルピナスさんは契約者の身体を手に入れ、それでもなお別の道を行く……ですか。
 私は元より私自身の道を歩んでいます。いえ……すべての生物が、そう言えるでしょう。違うことが同じこと。相まみえることもあるし、それも縁です」
「ミ、ミオ?」
 何かスイッチが入ったようで、戸惑うカヤノをよそに美央は言葉を続ける。
「でも、私は不殺主義を誓ってから今まで……例え敵として戦っても、どのような驚異的な力を持つ相手でも、最後には分かり合ってきました。
 それはパートナー、カヤノさん、この世界で家族となってくれた人たちに友だち、先生達、精霊のみんな、雪だるま、世界樹……それだけじゃなくて、敵として戦った人たちのお陰で、成し得てきたんです」
 美央の言葉は、頑なに自らの意思を貫こうとするルピナスを見てのものか。今も戦いを続ける龍族と鉄族に向けてか。
 それとも……勝者と敗者を決定付けるこの世界に対してか。
「何度でも言いましょう、消え去っていい意志は存在しません。たとえ戦いが長引く事になろうとも……私の目の前では、私がねじ伏せられるまではこれを信じたい。
 私の選ぶ道は1つ……不殺の道」
 言い終え、一息吐いた所で美央は、自分に向けられる生暖かい視線に気付いて慌てふためく。
「こ、これはその! ……ということです。
 私は変わらないし、変われませんから。カチンコチンの氷のように、頑固ですからね!」
 下手に言い訳をするより状況を押し通す事に決めたらしい美央の発言に、カヤノがぷっ、と吹き出して笑う。
「カヤノさん、何がおかしいんですかっ。私はマジメですよ」
「あはははは……ごめんミオ、なんだかおかしくって。
 ……でも、いいんじゃない? ミオはそれで。あたいはそんなミオが、好きよ」
「――――!!」
 カヤノの言葉に、美央の顔が瞬時に紅くなる。先程美央は自分のことを氷と言ったが、目の前の少女は氷結の精霊長。
 たとえどれほど硬い氷でも打ち砕かれる――尤もカヤノはそんな事微塵も思っていないだろうが。
「お〜、女王サマ、顔が真っ赤っ赤だー。今日はカヤノちゃんの勝ちだねっ♪」
「やれやれ、すっかり私の出番が奪われてしまったようだな」
 横から秋月 葵(あきづき・あおい)サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)が茶化すように口を挟めば、美央はわざとらしくコホン! と咳をして、冷静な表情を無理やり作ってカヤノに告げる。
「私の意見ですけど、私はカヤノさんの方針に従います。最終的に【D】にたどり着けばいいんですよね?」
「そうね。【D】に行くにはうさみん星と、あと、『龍の眼』近くにあるって情報があった入口からの2つね。
 うさみん星は安全な方だけど、ここからだとちょっと遠い。『龍の眼』はここからだと近いけど、鉄族のすぐ傍だし、龍族と戦争するっぽいし、危なそう。
 あたいは……危ないかも知れないけど、少しでも早くセイランとケイオースの所に行ってあげたい。ミオは、付いて来てくれる?」
 そして、改めてカヤノのお願いに、美央は今度はしっかりとカヤノの目を見て答える。
「私はたとえ、カヤノさんがどんな道を選ぼうとも、一緒に行きます。それが私の意志です。
 ……と、あ、もちろん迷宮へ向かう時の話ですからね!」
 なんだか告白っぽくなってしまったのを誤魔化すように口を開くも、次の瞬間には手を握られ、そのまま宙に浮かされていた。
「ミオ、今の言葉、忘れちゃダメよ! どこまでだって一緒に行くんだからね!!」
「わぁ、カヤノちゃん絶好調だね! お〜いカヤノちゃん、あたしもついでに連れてってよー」
 葵が手を振れば、その手をカヤノが握って宙に引き上げる。
「それじゃ、『龍の眼』まで行くわよ! セリシア、サラ、伊織、急がないと置いてくわよ!」
 カヤノが背中の羽をめいっぱい広げ、『龍の眼』がある方角へと美央と葵と飛んで行く。
「やれやれ、緊張感のあった空気が台無しだの。非常に奴ららしい、と評す他ないの」
 サティナが呆れたように呟き、ベディヴィエールと並んで後を追う。二人に続きながら伊織はなんとなく、カヤノと美央の事が羨ましい、と思っていた。
「……はわ! せ、セリシアさん?」
 すると、隣に立ったセリシアがきゅっ、と伊織の手を握る。驚く伊織へセリシアが笑みをたたえて言う。
「ふふ。なんとなく、こうしたいと思ったの」
「……、セリシアさん、行きましょうです。セイランさんとケイオースさんと合流して、僕たちで拠点を取り戻しましょー、です」
 互いの手を通して伝わる温もりに勇気づけられ、伊織がぐっ、と拳を作りながら言えば、セリシアもはい、と大きく頷く。
「伊織ー、イチャイチャするにはまだ早いのではないかのー?」
「さ、サティナさんっ。そんなんじゃないですー」
 サティナに茶化され、伊織が慌てて後を追う。微笑みながらセリシアも続き、決して二人の手が離れることはなかった。

 仲間が見つけた入口から無事、【D】に入った一行を出迎えたのは、上下に貫く根だった。
「予想通り、根の部分は空間になっていますね。これなら十分通ることが出来そうです」
「さて、この先はどこに繋がっておるか。同胞の下であることを願いたいものだの」
 根を登っていこうとした矢先、一行は向こう側から人型をしたモノに追われるヘルの姿を認める。
「っと、良い所に来た! ちょっと手貸してくれねぇか。多勢に無勢ってやつでな」
「心得ました。では僭越ながら私が、皆様の殿を務めさせていただきます。どうぞ皆様、先へ」
「ベディさん、無理はめー、ですよ!」
 伊織に言葉をもらったベディヴィエールは、その後やって来た複数の人型をしたモノ、デュプリケーターを前にしても全く怖気づくこと無く、槍と盾を構え相対する。その様子はまるで、かつて橋を背にして大軍を食い止めた偉大な武将を彷彿とさせる。
「お嬢様をお護りするのが私の役目。……ですがお嬢様に無理はいけないと言われましたので、そのように致しましょう。
 無理をせず、お嬢様を護らせていただきます。どうぞお付き合いくださいませ」
 告げたベディヴィエールを突破するべく、デュプリケーターが武器を手に迫る。ベディヴィエールは槍を高らかに掲げ、そこに聖なる力を集めると裂帛の気合と共に解放する――。