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【借金返済への道】突然変異!?

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【借金返済への道】突然変異!?

リアクション


第1章


 空京の宿屋の自室では、ホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)が携帯電話を切ったところだ。
「当日楽しみだな〜」
 ニコニコしながら見上げた窓からの空は高く、ゆったりと雲が流れて行った。
 『邪気払いの桃』の収穫を皆に手伝ってもらって、そのあと収穫パーティーを計画しているのだ、顔が緩んでも不思議はない。
 こうして、秋のまったりした日にちはあっという間に経ち、収穫日がやってきた。


 収穫日当日、この日も綺麗な秋晴れとなった。
「きゃーーー!!」
 イルミンスール魔法学校の片隅、ホイップが作った桃畑で、ホイップ本人が叫び声を上げた。
 目の前には桃の木を取り囲んで沢山の魔物がうじゃうじゃいた。
 その桃の木自体も意思を持ち、自らの根を使い動き回っている。
 牙に毒を持つパラミタオオカミ、ひらりと素早く飛ぶが決して強くはないコウモリ、そして3メートルはある巨体で大きな斧を振り回しているミノタウロス。
 あまりの光景に身動きが出来ずにいたところを後ろに居た桃の木の根に捕まってしまったのだ。
「はっ! ホイップちゃんの悲鳴!? うきうきスキップしてる場合じゃないよ!」
「いや、うきうきスキップしてたのエルさんだけだから!」
 ホイップから連絡をもらって早めにやってきていたエル・ウィンド(える・うぃんど)とばったり出会った七枷 陣(ななかせ・じん)がホイップの元へと駆けつける。
 2人が目にしたのはうねうねの根っこに絡まれるホイップ。
「……ごくり」
 喉を鳴らしている場合ではないと、直ぐに正気に戻り木に突っ込んでいった。
 周りに居たパラミタオオカミやコウモリはエルがホイップまで辿り着けるようにと、陣が援護射撃で撃退していく。
 進路が出来ると即座に反応し、ホイップまでの距離を縮める。
「ホイップちゃん! もうすぐ助けるからね!」
 エルはそう言うと、覚えたばかりの火術の準備をした。
 ホイップを掴んでいる根を燃やそうというのだ。
 その隙をオオカミが狙う。
 あまりの数に陣の援護が追い付いていないのだ。
「チッ……楽しいばかりじゃないみたいだな」
 舌打ちを1つすると五条 武(ごじょう・たける)がドラゴンアーツを使って威力が増したキックでオオカミを吹っ飛ばす。
「ホイップちゃーん!」
 周りが見えていないのか、助けられたことにも気付かず、完成した火術を手にホイップへと突っ込んでいく。
 火術を根へと近付けると熱いのはやはり嫌なのかホイップを放し逃げ出した。
 それを逃さず、火術を打ちこみ、燃え上がらせた。
 その様子を遠くに居た魔物も気が付き、敵意をむき出しにしてきた。
 解放されたホイップが今度は取り囲まれそうになっているエルの助太刀に行こうとするが、それを見た武がお姫様抱っこをし戦線を離脱する。
「お、お姫様抱っこは恥ずかしいから降ろしてー!」
「お前が動くと借金が増えそうだからな……ちっとは大人しくしてろよっ」
 問答無用でホイップを安全そうな場所まで連れて行った。
「ぼ、ボクの役目ー! ……もしかして、ライバル!?」
 半泣きになりながら近寄ってくる魔物の相手をするエル。
「……頑張れ、エルさん」
 そんなエルを不憫だと思いながら援護をする陣だった。

 安全だと思われる場所まで来たホイップ達。
「もう、大丈夫ですから!」
 真っ赤になって、お姫様抱っこを抗議する。
 ここまでくれば大丈夫と武も判断し、ホイップをそっと降ろす。
「エルさんと陣さんを助けなきゃ!」
 武は戻ろうとするホイップの肩を掴んで押しとどめる。
「むぅ〜……じゃあ、これ!」
 ポケットから取り出したのは横笛だった。
 この笛は前回のヒーローショーが終わって、皆でデートに行った時にいざとなったら吹いてくれと渡されたものだ。
 良く解らない音を吹くと直ぐに効果が現れた。
「御用ですかな? ご主人!!」
 仮面を付け、ロングのメイド服をはためかせどこからともなく現れたのは、いつもと口調の違う武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)だ。
 そう、笛を渡したのは牙竜だった。
「……え?」
 ホイップと武の声がはもる。
「御用ですかな? ご主人!!」
 呆然とする2人を見て、もう一度同じ言葉を繰り返した。
「……この笛って、牙竜さんからもらった笛だよね……? だからこの人は……牙竜さん?」
 確認するようにホイップが質問する。
「いかにも! で、御用は?」
「……えっと、エルさんと陣さんを助けて来て下さい……」
「お安い御用!!」
 そう言うと魔物達へと突っ込んでいった。
「……ぶっ」
 あまりの事に思考がストップしていた武は、思考が正常に戻ると牙竜の後ろ姿を見つめ、吹き出した。
「まさか……こんな事になる笛だったなんて……」
 未だに少し呆然としながら、ホイップはどんどん蹴散らされていく魔物達を見つめた。
 1人増えた事により、数だけが有利だった魔物達はどんどん押されていく。
 ある程度すっきりしたところで、エルも陣も、男気溢れちゃってる牙竜も無事にホイップの元へと生還したのだった。

 ホイップのところまでは魔物は来ない。
 それもそのはずで、魔物は桃を目当てにやってきているのだ、他の者などどうでもいいのだろう。
 自分達の邪魔さえしなければ。
 この人数ではどうしようもない、と頭を悩ませていたところへ、続々とホイップから連絡をもらった人達が到着した。
 約束の時間は丁度今頃で、エル達が到着したのはだいぶ早かったのだ。
「ホイップちゃん、桃の収穫お手伝いに来たよ!」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が手を振りながらホイップへと近付いた。
「ホイップ、手伝いに来たぜ」
「ホイップさん、連絡有難うございます。今日は頑張りましょう……ね……。こ、この状態はなんですかーー!?」
 更に、緋桜 ケイ(ひおう・けい)、後ろの魔物に気がついたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が声を掛けた。
 他の人達も異常に気が付き、固まる。
「なんなんだ、この集まりは! 学校の敷地内で何を……は!?」
 騒ぎを聞き付けたイルミンスールの教師アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)はホイップ達に近寄ると後ろの光景に絶句した。
「折角……折角、良い昼寝場所を見つけたと思ったのに!」
「あんたのことはどうでも良いですが、この魔物達は見過ごせませんね」
 邪気払いの桃だった頃に昼寝場所と定めていた久途 侘助(くず・わびすけ)と、それを連れ戻しに来ていた香住 火藍(かすみ・からん)も一体何事かとホイップ達の元へと近寄る。
「とりあえず……またこういうおかしな事態だ。皆で集まったんだし事態の収拾をしようよ!」
 エルが声を大にして皆に告げると今までホイップに関わって来た人達は、またかと苦笑いをし、初めての人は何が何やら解らないが行動を起こそうとしてくれている。

「借金が増えそうでござるな。ここは拙者も一肌脱ぐでござる!」
 そう言うと椿 薫(つばき・かおる)は持っていたノートに鉛筆で【今回の事件に関わった全生徒平等で奉仕活動(修繕工事)を行います】とデカデカと見出しを書くと、その下に自分の名前を書いた。
「この署名で少しは借金が軽減されると良いでござる」
 署名ノートを持って、ホイップには内緒で皆に働きかける姿がそこにはあった。