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リアクション
「ふう、静かになりましたね」
鬱姫とホロケゥがパルフェリアを引っ張って行った後。湖のほとりでベリーを摘んでいた咲夜 由宇(さくや・ゆう)は、釣りをしていたパートナーのアクア・アクア(あくあ・あくあ)に声をかけた。
「ふふふ、戦闘再開ですわ。大物来いーっ!」
かけ声と共に、アクアは竿を振って水面に針を落とした。水の中の魚を誘うように竿を動かすと、しばらくして、ぐぐっと竿が重たくなった。
「来ましたわ!」
「がんばってー!」
由宇は一生懸命アクアを応援した。獲物はかなりの大物のようで、アクアはかなり手こずっていたが、どうにか獲物を水面の上に吊り上げた。
「すごーい! 立派なお魚ですぅ」
由宇はぱちぱちと手を叩いた。するとアクアは、
「さあ、味が落ちないうちにたべてくださいまし!」
と、針から外した魚を、そのまま由宇の口元に突きつけた。
「え? あ、あの、まだびちびち動いてるのをそのまま丸かじりはできないですよぅ……」
アクアの悪のりが始まった、と由宇は後ずさり、くるりと後ろを向いて駆け出した。
「あらぁ、せっかく由宇のために釣ったんですもの、食べて下さいましってばぁ!」
アクアはもちろん、それを追いかける。
「……また騒がしくなっちゃいました……」
もう一人、湖面に糸を垂らしていた源 鉄心(みなもと・てっしん)のパートナーのヴァルキリーティー・ティー(てぃー・てぃー)は、深くため息をついた。
「いや、この竿、糸に針ついてないから」
鉄心は苦笑した。ティーは目を丸くする。
「針つけて本当に釣ると、釣らなきゃって焦りが出て来て、本当の意味でのんびりできなさそうな気がしたんだ。ティーも、普段は話せないような人と話して来たり、のんびりしたらどうだ?」
「……普段は話せないような人、ですか……?」
ティーは周囲を見回したが、一緒に釣りをしていた生徒たちが行ってしまったため、少し離れた場所に『ミスド』の店員が荷物番に残っているくらいで、他に人が居ない。困っていると、森の中から秀明たちが出てくるのが見えた。
(にこにこしてて、話しやすそうな人、でしたよね……)
ティーはおずおずと秀明に近付いた。
「あの、こんにちは?」
「? ……はい、こんにちは」
秀明は軽く首を傾げながらも挨拶を返す。
「えーっと……あなた、地上から来た方ですよね。観光に来たんですか?」
ティーの質問はいささか唐突だったが、秀明は気を悪くした様子もなく、にっこりと笑って答えた。
「観光ではないんです。ちょっと、用があって」
「用事があるのに、こんなところで遊んでいたら良くないのでは……あ、それとももう用事は終わって、帰る前にちょっと息抜きをしに来たとか?」
「うーん……今はまだ、詳しいことは言えないんですが、これも実は『用事』のうちなんです」
生真面目な表情で尋ねるティーに、秀明は相変わらずにこやかな表情で言った。
「じゃあ、あまり根掘り葉掘り聞いたら悪いですね……」
話が続かなくなってしまい、ティーは困り顔で押し黙った。と、今度は秀明が口を開いた。
「そろそろお昼にしようかっていうことで戻って来たんですが、良かったら一緒に食べませんか?」
「ええと……」
ティーは鉄心の方へ振り返った。
「ええ、もちろん、パートナーの方もご一緒に。いかがですか?」
声をかけられて、鉄心はうなずいた。竿を片付け、ティーの元へ向かう。
「みなさーん、お茶とコーヒーが入ってますよー」
イルミンスール魔法学校の沢渡 真言(さわたり・まこと)は、荷物番の店員の手伝いをしながら、戻って来る生徒たちに声をかけていた。
「こちらにロールサンドもございます。よろしかったらどうぞ」
パートナーのアリスティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)は、大きなバスケットに詰めた一口ロールサンドを皆に勧めている。
「ただいまー」
そこへ、真言のもう一人のパートナー、魔女のユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)が戻って来た。乗っている空飛ぶ箒には、ベリーがたくさん入った籠がくくりつけられている。
「マコトー、たくさん取れたよー! 帰ったらパウンドケーキ作ってねー!」
「はいはい。たっぷり入れたのを作りましょうね」
籠をのぞき込んで、真言は答えた。
「たくさんありますから、パウンドケーキに使うだけじゃなくて、シロップ煮にして取っておきましょう。そうすれば、長い間楽しめますから」
「うわぁい!」
ユーリエンテは両手を挙げる。そこへ、
「ねえねえっ、良かったらお弁当交換しない? サンドイッチをたくさん作って来たんだよー」
百合園女学院のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が声をかけて来た。持って来たバスケットには、サラダサンドがたくさん入っている。
「うん! ねえ、みんなで一緒に食べようよ。その方が絶対楽しいし!」
サンドイッチを作ったティティナではなく、ユーリエンテが元気に返事をする。
「ユーリったら……」
ミルディアとお弁当の中身の比べっこを始めたユーリエンテを見て、真言は苦笑した。
「誰でもああやって誘ってしまうんですもの、ねえ。失礼になっていないと良いのですが……」
ティティナは少し心配そうだ。
「マコト、ティティナ、ミルディアが持って来たハーブティが美味しいの! マコトやティティナもどうぞって!」
ちゃっかりとカップを持ったユーリエンテが言う。
「運動した後用に、さっぱりしたのにしてみたんだけど、嫌いだったら紅茶もあるよっ」
ミルディアがポットを掲げてみせる。
「……私たちも、ご馳走になりましょうか」
「……他の方がどういうお弁当を作って来たか、気になりますものね」
真言とティティナは微笑みあって、カップを手にした。と、いきなり、『カシャッ』という音がした。少女たちが振り向くと、そこにはカメラを構えたイルミンスール魔法学校のルイ・フリード(るい・ふりーど)の姿があった。
「皆さんの楽しげな様子を残しておきたく、写真を撮って回っているのですよ。自然な様子を撮りたいので、ポーズを取ったりせずに、食事を続けて頂いて結構ですから」
「あんまり大きな口あけてるところは撮らないでよねっ? 食いしん坊に見えちゃうから」
ミルディアがぴっ、と人差し指をルイに突きつける。
「皆さんであればそういうところも可愛らしいとは思いますが、被写体になる方を不快にさせるのは本意ではありません。承知しました」
ルイはうなずく。
「写真撮り終わったら、ルイちゃんも一緒に食べよう? 美味しいよ、このサンドイッチ」
ミルディアからもらったサラダサンドを口いっぱいに頬張って、ユーリエンテが言った。
「たくさんあるんですの。よろしかったらどうぞ」
ティティナも勧める。
「ありがとうございます。それでは、一回りして来たら、ご一緒させてください」
ルイは大きな体を屈めるように、ひょこりと頭を下げた。
「いっただっきまーす!」
蒼空学園の七尾 正光(ななお・まさみつ)とパートナーのアリスアリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)、魔女ステア・ロウ(すてあ・ろう)は、アリアが作って来たお弁当を囲んで行儀良く手をあわせた。
「ほら、おにーちゃん、あーんして?」
「次は私だぞ!」
アリアとステアに順番に食べさせてもらったりして、しばらくは美味しいお弁当を楽しんでいた三人だったが、突然。ステアがぽろぽろと泣き出した。
「ど、どうしたの、ステアちゃん!?」
アリアはおろおろとステアの顔をのぞき込む。
「何だかね、幸福すぎて……私なんかがここに居ていいのかなって思えてきてしまったんだ……」
しゃくり上げながら、ステアは言う。アリスは正光を見た。
「昔の、つらかった時のことを思い出したのかな」
正光はステアの頭を優しく撫でてやった。
「私もおにーちゃんも、ステアちゃんに居て欲しいって、ステアちゃんが居てくれて嬉しいって、いつも思ってるよ?」
アリスはポケットからハンカチを出して、ステアの涙を拭いてやる。
「そうだよ。僕たちは家族なんだから。ステアを要らない子だなんて、絶対に思わない」
正光はきっぱりと言ったが、ステアは泣き止まない。正光は一つため息をついた。
「……そうだ。一つ約束をしよう」
「……やくそく」
ステアはやっと顔を上げて、正光を見返した。
「うん。また、こんな風に三人でピクニックに来よう。一回だけじゃなくて、何回も。ここだけじゃなくて、色々な場所に遊びに行こう。ステアが好きなだけ」
正光は、小指をステアに向かって差し出した。
「破ったら、ハリセンボン飲ますぞ?」
ステアは泣き笑いの表情で、自分の小指を正光の小指に絡めた。
「大丈夫。絶対に守るから」
「私も、約束するよ」
アリスが、二人の小指にさらに小指を絡ませる。そして三人は顔を見合わせて、ふふっと笑った。
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