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リアクション
「弁当って言うよりおせち料理じゃん、これ……。全部一人で作ったのか?」
波羅蜜多実業高等学校の酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、パートナーのアリス酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が持って来た風呂敷包みの中身を見て唖然とした。三段重ねの重箱の中に、美味しそうな料理と、俵型に握られたおにぎりがみっしりと詰まっている。
「ええ。いつも迷惑かけてるお兄ちゃんに食べて欲しくて、頑張っちゃった」
美由子はにっこりと笑った。
「よーし、じゃ、さっそく食べさせてもらおうかな」
「うん、たくさん食べてね」
陽一は箸を取り、重箱詰めの料理を口に運んだ。美由子はにこにこしてそれを見ている。
「こんなにたくさんあるんだし、おまえも食べれば?」
「ううん、お兄ちゃんのために作ったんだもの、お兄ちゃんが食べて」
陽一が進めても、美由子は箸をつけない。
「俺だって、こんなに沢山食べきれないって。そうだ、フリーレが……」
釣りに行ったまま、まだ戻って来ないもう一人のパートナーの魔女フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)を呼んで来ようと立ち上がりかけて、陽一はよろめいた。
「な、なんだ、これ……?」
足が痺れている。いや、足だけではなく全身が痺れて、コントロールできない。もがいていると、美由子がにこにこしたままにじり寄って来た。
「ま、まさか……お前、一服盛りやがったな!」
「うふふふふふ。お兄ちゃん、誰が何と言おうと、私たちはお互いを求め合ってるのよ……。さあ、私と結合して、ともに完全体を作り上げましょう……!!」
美由子は陽一の上に馬乗りになった。
「求めてねーよっ……! ……いや、本当にそうなのか? それに、そういう意味で求めてなかったとしても、俺はお前にちょっと冷たくしすぎたかも知れん……」
陽一は珍しく抵抗せずに呟いた。
「あら? とうとう私の愛を受け入れてくれる気になったのね。愛してるわ、お兄ちゃん……!」
美由子はがばっと陽一に覆いかぶさった。が、次の瞬間。
「……なんて事、これだけのことやられて考えると思うかあああああっ!」
陽一は美由子の唇に思い切り噛み付いた。
「ぎゃあああああああっ!!」
美由子は口元を押さえてのたうち回る。その間に、陽一は半分もがくようにして美由子から遠ざかった。
「……何を騒いでいるんだ。他の人たちがびっくりしているではないか」
そこへ、フリーレが戻って来た。
「その様子だと、美由子のたくらみは失敗したのだな。陽一もなかなかやるではないか」
「……フリーレ、お前、知ってたのかよ……」
陽一はフリーレを睨んだ。
「うむ、まさか陽一が無警戒に食べるとは思わなかったのでな」
フリーレは淡々と言うと、
「さて、釣れた魚を焼いて来るか……」
と、回れ右をした。
「ちょ、おま、人を痺れ薬盛られたまま放置して行くなーッ!」
陽一は叫んだ。だが、フリーレはそのまますたすたと去って行ってしまった。
「いひゃい……れも、もしかしてこれって、おにーひゃんからの初めてのキス……」
口元を押さえた美由子がもごもごと言う。陽一は全身に鳥肌が立つのを感じた。
「違うわッ! おーい、フリーレ、助けろーッ!!」
フリーレの背中に向かって、陽一は叫んだ。
そんな騒ぎの中。
パートナーのローランド・セーレーン(ろーらんど・せーれーん)、ディー・ミナト(でぃー・みなと)と三人でお弁当を食べていた水渡 雫(みなと・しずく)の手から、箸がころりと落ちた。
「すー……」
「お嬢……って、寝てるし」
ディーが眉を寄せた。雫はこっくりこっくりと船をこいでいる。雫が頼み込んでディーに綺麗に詰めてもらった弁当は、まだほとんど手付かずのままだ。
「馬車の中でも寝ていたしねぇ。よっぽど眠いんだろう。まだまだ子供だね、水渡雫は」
弁当の中身も子供みたいだし、と呟いて、サイコロおにぎりに、ハート型の卵焼きの上にはちくわとハムで花の形の飾りつけがされ、タコさんウィンナー、デザートはうさぎりんごという、幼稚園児のような可愛らしい弁当と、それを作ったディーを見比べた。
「何だよ、何か文句あるのか?」
ディーはローランドを睨み返す。
「いや? だいたい、何も言っていないだろう?」
「口に出してなくたって、目がそう言ってんだよ!」
にっこりと笑うローランドに向かって、ディーは叫んだ。
「むにゃ……ディーさん、怒っちゃだめです……」
雫が呟いた。ディーはぎょっとして雫を見たが、雫は眠ったままだ。気持ち良さそうに眠る彼女を起こすのは本意ではないので、ディーはむっつりと押し黙った。座ったまま寝ているといつ転ぶか気が気ではないので、膝の上から弁当箱を下ろしていったんしまい、上着を丸めて枕にして寝かせてやる。
「……冷えるといけないからねぇ」
ローランドも、自分の上着を雫にかけ、ディーを見た。
「さて。我輩は自分の分の弁当は自分で用意して来たんだが、少し多く出来てしまった。味見するかね?」
「そんなに言うなら、貰ってやる」
ディーは、出掛けにローランドから渡されたバスケットから、一人分と比べて明らかに『少し』とは言えない量多いサンドイッチが取り出されるのを見て、苦虫を噛み潰したような顔になった。
「あらあら、眠ってしまったのね」
そこへ、ミス・スウェンソンがやって来た。
「ミス・スウェンソンも、良かったらお一ついかがですか?」
ローランドはミス・スウェンソンにサンドイッチの包みを差し出した。
「ありがとう。でもその前に、馬車から毛布を取って来るわね。御者席のひざ掛けにしてるのがあるから」
「あ、俺が行きます」
ディーは素早く立ち上がった。
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