First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
Next Last
リアクション
「いい女がたくさん居て、こりゃあ儲けたと思ったら……何でみんな居なくなるんだよぉう。残ったナナ先輩にはルースが居るから手が出せないし……」
「まったく、お前と言う奴は……。材料が届かなければ料理が始められないんだから、仕方ないではないか」
さめざめと泣くパートナーの強化人間クルツ・マイヤー(くるつ・まいやー)を見て、シャンバラ教導団のレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)は盛大にため息をついた。『鋼鉄の獅子』の仲間で、新しいメンバーの歓迎会をするためにツアーに参加していたのだが、一緒にナッツを集めていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)、月島 悠(つきしま・ゆう)、麻上 翼(まがみ・つばさ)、ネル・ライト(ねる・らいと)が、調理を担当するメンバーに収穫したものを届けに行ったとたんにこれなのである。
「こうなったらダメ元で! ナナ先輩ー、後で二人きりで散歩でも……」
「ごめんなさい、ルースさんと先約があるんです」
皆まで言うより先に、ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)はクルツの誘いをにっこり笑って一蹴した。
「あう……やっぱりダメか……」
クルツはがっくりと肩を落とす。
「ほらほら、朝霧や月島たちが戻って来るまでに、少しでも収穫を増やしておこうじゃないか。収穫が少なかったら、きっと彼女たち、がっかりするであろうな……」
後半はなかば独り言のように、レーゼマンは言った。とたんに、クルツはがばっと顔を上げた。
「よーし、いいとこ見せるぞー!」
俄然張り切って、ナッツを集め始める。レーゼマンとナナは顔を見合わせて苦笑した。そこへ、
「お、ナナだ」
イルミンスール魔法学校のレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)がやって来た。
「あら、レイディス様もベリー摘みですか?」
ナナはレイディスに近寄って、持っている籠の中を覗き込んだ。
「私たちがまだ見つけていないベリーもあるみたいですね」
「『ミスド』にあげようと思って取ったんだが、良かったら、少し分けてやろうか?」
レイディスは申し出た。
「いいんですか? ありがとうございます!」
ナナはレイディスに抱きついた。
「……いいなー、あれ……」
クルツが指をくわえて呟く。
「わあああ、それはそのままじゃ食べられないんだって!」
波羅蜜多実業高等学校の日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、拾った木の実を洗いもせず、固い殻のまま口に放り込んだパートナーの魔鎧、翌桧 卯月(あすなろ・うづき)を見て悲鳴を上げた。
「あら、ほーなの?」
もぐもぐと口の中で木の実を転がしながら、卯月は首を傾げる。
「さっきほは、そのまま食べられたりゃない」
「さっきのはベリーで、もっとうんと柔らかかったし、地面に落ちてもいなかっただろう! そういう、殻つきの木の実の、しかも地面に落ちてる奴をいきなり食べたら、普通の人はびっくりするんだよ!」
「ふーん……ごめん」
卯月が口から木の実を出したので、皐月はほっと安堵の息をついた。
(やっと、せっかく来たんだから楽しもうって気持ちになって来たのに、面倒はご免だぜ……)
その時、
「おーい、こっちへ来て一緒にお茶を飲まないか?」
木立ちの向こうから声がした。見ると、シャンバラ教導団の大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が手を振っている。
「おまえ教導団だろ? オレはパラ実だぜ? なれ合っていいのか?」
皐月は眉を寄せたが、
「こういう場所では、一時休戦だろ。『ミスド』に迷惑かけるわけには行かないし」
「さよう、ここでいがみ合うのは無粋というものじゃよ」
剛太郎に加えて、パートナーの英霊大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)にも言われて、卯月と一緒にお茶をご馳走になることにした。
「どうぞ、召し上がれ」
剣の花嫁コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)が、お茶と自作のお菓子を差し出す。
「卯月、下についてる紙ははがすんだぞ!」
蒸し菓子の底に紙が敷いてあるのに気付いた皐月は、先手を打って卯月に注意した。
「そのまま食べられたりダメだったり、難しいのねぇ……」
卯月は難しい顔で、ぺりぺりと紙をはがす。
その後、しばらく、五人は当たり障りのないことを話しながらお茶を飲んでいたが、
「さて、わしはちと、小用にな……。年寄りは茶を飲むと近くなっていかんわい」
藤右衛門が席を立ったのと同時に、皐月と卯月もベリー摘みを再開することにした。後には、剛太郎とコーディリアが残る。
「……何か、静かになっちゃったな」
「……そうですね」
何とはなしに、秋の森の、色付き始めた景色を見ながら、二人はそれきり押し黙る。けれども、それは、居心地の悪い沈黙ではなかった。
(よしよし、良い雰囲気じゃ。……願わくば、剛太郎の押しがもう少し強ければのう。せっかく二人にしてやったんじゃから、せめて手ぐらい握れば良いものを……)
それを木の影からそっと見守って、藤右衛門は心の中で呟いていた。そんな爺心も知らず、剛太郎とコーディリアは、時おり風の音や鳥の声が聞こえる心地よい沈黙の中で、二人、秋の森を眺めていた。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
Next Last