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起木保の究極の選択~更生or協力大作戦~

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起木保の究極の選択~更生or協力大作戦~

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第一章〜始動 

 風が吹き荒れる。
 蒼空学園溜池キャンパスの入口で、養護教諭、起木 保(きき・たもつ)は頭を抱えていた。
 そこへ、佐々良 縁(ささら・よすが)が焦げ茶の髪を揺らして駆け寄って来た。
「せんせーごぶさ……あれ、白雪ちゃんは?」
 久しぶりに溜池キャンパスに来た彼女は、首を傾げた。
 共にやって来た蚕養 縹(こがい・はなだ)が茶色い目を瞬かせる。
「いねぇようだ」
「なにかあったの?」
 佐々良縁の背後からひょこっと顔を出し、佐々良 皐月(ささら・さつき)が問いかけた。
「実は……」
 起木保は、今にも泣き出しそうな表情で、脅迫文をとりだした。
「てぇへんだ!」
 蚕養縹が叫ぶ。
「……そっか。じゃあ白雪ちゃん探してみる!」
 そう言うが早いか、佐々良縁がなりふり構わず駆け出した。それをすぐに追いかける佐々良皐月。
 追いついて服を掴み、引っ張って止める。
「よすが! 落ちついてってば」
「でも皐月――」
「今どうなってるか調べないと、白雪さんのことも探しようがないよ?」
 可愛らしい顔をしかめ、真剣な赤い瞳が佐々良縁を見つめる。
 その強い眼差しに、彼女を覆っていた焦りと苛立ちがふっと軽くなる。
「……ごめん。ちょっとれーせーさが家出してたやぁ」
 後ろ頭を掻いて、にっと笑う。佐々良皐月も釣られて微笑む。
「そうとなったら、調べるぜ」
 蚕養縹も追いついて笑う。
「そだねぇ。まずは……脅迫文にあった紙飛行機を調べてみようかぁ」
 二人の了承を得て、佐々良縁が歩き出した。

 起木保のもとに、新たな二つの影が近寄る。
「保先生、話は聞いたぜ」
「お手伝いさせてください!」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)の【イルミンからのお手伝い】の二人だ。
「先生は反省すべきところは反省しますし、信頼できる良い先生です」
 ぐっと両手を固く握って、ソア・ウェンボリスが主張する。緋桜ケイも頷く。
「だから、雪さんを誘拐して脅迫するなんてやりかた、間違ってますよ!」
「俺達は他校生だけど、先生の味方だ。一緒に白雪を助けようぜ」
「ありがとう」
 素直に礼を言う起木保に、二人はにっこりと応える。
「俺は、まかれたっていう、先生を迫害するチラシを探してみるぜ」
 そう言って、緋桜ケイが走り出した。
「チラシ? そんなのあったんだねぇ」
 その言葉を聞いた佐々良縁が、緋桜ケイに語りかけた。
「私も探してみようかぁ。白雪ちゃん探してる者同士だし、何かあったら連絡してねぇ」
「ああ、わかった」
 頷きあって、チラシ探しに出掛けて行く。
「先生、お聞きしても良いですか?」
「どうかしたか?」
「先生のお知り合いに、紙飛行機とか、紙ペットにかかわりのある人って、いますか?」
 ソア・ウェンボリスは緑の瞳をまっすぐ向けて、起木保に問いかけた。
「紙飛行機と、紙ペットか……」
 腕を組んで目をつぶり、記憶をたどった起木保だったが、すぐに首を振った。
「思い当らないな。特に紙飛行機なんて、子供のころ家族で作ったことくらいしか浮かばない」
「そうですか……」
 話す二人のほど近く、校庭の茂みのあたりで赤い瞳を光らせるのは、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)
「人質をとって、というのが穏やかではありませんね。白雪さんを探しましょう」
 美しい顔をきりっと固くして、周囲を見渡す。
「陽太様からの依頼です。調査に励みます」
 彼女は、彼女のパートナー御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に頼まれ、この地にやって来たのだった。
 
鉄道事業に奔走する合間に、御神楽陽太が御神楽舞花へと携帯電話で連絡をしていた。
『一つ、頼みごとがあります』
『なんですか?』
『溜池キャンパスの起木保先生が、事件に巻き込まれたようです。パートナーを人質にとられたとか。調べてもらえますか?』
『はい、わかりました』
『俺は鉄道事業で手が離せないから、頼みましたよ』
『はいっ!』
 力強い答えに満足して微笑み、御神楽陽太が作業に戻った。

 連絡が来た時のことを思い返し、御神楽舞花は微笑んだ。
「さて、行きましょうか」
 彼女は【根回し】を発動し、起木保のもとへ。
「先生、白雪さんの写真を持っていますか?」
「あ、ああ」
 起木保は、白衣のポケットから一枚の写真をとりだした。
「少し、お借りしますね」
 そう言って、彼女は身を翻す。
 向かう先は蒼空学園溜池キャンパスの中。
「すみません、あなたはこの白雪さんを見かけませんでしたか?」
 写真を見せつつ、一般生徒に問いかけ始めた。

 春めきつつもまだ寒い空気の中、美しい足を太ももまで露わにして溜池キャンパスに立つ姿が二つ。
 メタリックブルーのビキニにロングコートを着ただけのセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 シルバーのレオタードにこれまたロングコートを着ただけのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
「トラブルメーカーでも、パートナーを誘拐する理由にはならないわよね」
「そうね。セレンフィリティと先生、なんだか似ているし、手伝ってあげないと」
 頷いて歩み始める。
「噂のチラシで動き出しそうな、反起木保派を割り出すわよ」
「とりあえずは、聞き込みね」
 一般生徒の姿を探し、視線を走らせる。
 セレンフィリティ・シャーレットは、生徒を見つけて走り出すセレアナ・ミアキスを眩しそうに見つめた。
 ――彼女がもし、自分の起こしたトラブルで誘拐されてしまったら?
 思って、彼女は顔をしかめた。
 ――ショックだし、憤りを感じるし、なんとしてでも取り戻したいと思うわ、絶対。
 それはきっと、起木保も同じだろう。
 決意新たに頷いて、パートナーに続いた。

 白く大きな体。全体的に角ばった姿。
 ロボットのコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が、溜池キャンパスの土を踏んでいた。
「ユキが寝泊まりしているのは、保健室だそうだ。昨晩最後にいたところはそこになるだろう」
 そう言って、保健室へ向かって歩いている。
 そんな彼を尻目に、小さな妖精のラブ・リトル(らぶ・りとる)が一般生徒に問いかけていた。
「ねぇ、そこのあなた。起木センセのこと、どう思う?」
 綺麗な声音で語りかけられた男生徒は、面喰って目を瞬かせた。
「どうって……ちょっと変わった保健室の先生だと思うけど」
「じゃあ、起木センセをキライな人とか、不満のある人とか、知らない?」
「そうだなぁ……」
「どんなことでもいいから教えて?」
「んー、そういえば、学校が水没しかけた時に、何か大事なものが壊れたって言ってたやつがいた気がするな」
 緑の瞳をキラキラと輝かせながら問いかけ、得た情報をメモしていく。
「わかったわ。ありがとう!」
 手を振って生徒と別れ、メモ帳を閉じる。
「情報を集めて、アリバイのない奴をリストアップする、と。うーん、あたしってば冴えてるー!」
 自画自賛して微笑み、ふわりと飛んで目に入った新たな生徒に声をかける。
「ねぇねぇ、あなた――」
 そんな彼女の近く、職員室の中で、コピー機を見つめて眼鏡を光らせる者が一人。
 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が【電子工学】と【情報通信】の特技を生かし、パソコンとコピー機を接続。
 コピー機のデータを収集していく。
「…これは、学級通信……行事予定……ないわね」
 集中をそのままに、黒い髪を撫でつけ、作業を続ける。
「件のチラシのデータ……見つかるといいけど」
 つり目をさらにきつくして、高天原鈿女が腕を組んだ。
 データをさかのぼり、目的のものがないか注意深く見つめていく。