First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last
リアクション
第五章 太陽の下で
翌日。
前日の天気が嘘のように、空は青く波は穏やかだった。
「駄目だ、暑い…」
その絶好の海日和の中、風羽 斐(かざはね・あやる)は白い砂浜に崩れ落ちた。
「夏は、昔から苦手だ…」
そんな斐が海に来た理由は視線の先……翠門 静玖(みかな・しずひさ)と朱桜 雨泉(すおう・めい)であった。
早速海に入っている二人は斐とは対照的に、実に楽しそうで。
頑張った俺!、と自身を励ましながら、何とか木陰に身を寄せた。
「帰りの為の体力を温存しておこう」
「……晴れてる」
目を閉じようとした斐を邪魔したのは、茫然とした声だった。
「何で晴れてるんだ」
「一晩で収まるなんてあり得ん」
「夢じゃないか」
等など口々に言っているのは、この辺りの人達らしかった。
彼らは一様に信じられないといった表情だったが、やがてそれは歓喜に変わって行った。
「すまん、寝かせてくれ…」
疲れた懇願は、「「「ばんざーいばんざーい」」」と感涙する人達の歓声にかき消された。
「海の中は涼しくて良いなー」
「はい!、海に来たら、やる事といえば海水浴ですよね! この為に水着を用意したんです。お兄様、似合いますか?」
来て早々、海に飛び込んだ若人、静玖と雨泉。
「ん? 似合ってるんじゃねぇの? こういう事は彼氏に聞くのが…」
「…えへへ、そう言って頂けると嬉しいです」
雨泉に答えた静玖は、あまりに嬉しそうな笑顔に途中で言葉を切った。
「まあいいか、喜んでるし」
その時、浜辺の方から万歳三唱がした。
ん?、とそちらを向こうとした静玖だったが、直ぐ隣で上がった声に、意識はそちらに向いた。
「あっお兄様、イルカです! パラミタイルカ!」
乗りたいです!、キラキラした笑顔を浮かべられては、応えないわけにはいかなかった。
慣れているのか他の理由か、逃げる素振りのないイルカの背に雨泉を乗せると、眩しい笑顔のまま催促された。
「あ? 俺もイルカに乗るのかよ?…仕方ねぇなぁ…」
口ではブツブツ言いつつも満更でもなさそうなのは結局、妹に弱いからだろう。
「お兄様と遊ぶのも楽しいですけれど、少し残念です。お父様も海に入れば良いのに…」
雨泉がふと、もらしたのは、キャッチボールを始めた時だった。
「ああ、オッサンか。暑さで完全にやられてるからな。海の中に放り込んでやったら、少しは涼しくなるんじゃねぇの?」
海の中は本当に涼しいし、澄んでいるのだ。
それが昨晩の嵐のせい……お陰だとは気付かなかったけれど、気持ちが良いのは本当だ。
「え? そ、それは、駄目ですよ!」
「駄目? じゃあ、このビーチボールをぶつける」
「両方とも駄目です!」
「……分かったよ。じゃあ、後で飲み物でもくれてやるか」
「それだったら良いですね」
ほっと頬を緩めた雨泉に静玖もまた少し笑ってから、ビーチボールを投げた。
イルカはボールを器用にキャッチし、キラキラキラと水しぶきが楽しげに上がった。
「うーみーっ! お姉ちゃん、やっぱり海って良いね!」
イルカ可愛い!、とちょこちょこ波際に近づいた川村 玲亜(かわむら・れあ)は、満面の笑顔で振り返り……ことり、と小首を傾げた。
そこに居る筈の川村 詩亜(かわむら・しあ)がいなかったからである。
「…あれっ、お姉ちゃん…? え〜っと…もしかして、私って迷子…?」
茫然とした呟きは、人並みに紛れて消えた。
丁度同じ頃。
「やってきたわ、海! これから目一杯遊ぶわよ、玲亜!…玲亜? まさか…あの子、もう迷子…!?」
気付いた詩亜は真っ青になっていた。
人は逞しい。
嵐が去ったと分かると、途端出てくる出てくる人・人・人。
海の家が開けられたり、海水浴客が押し寄せたり、突然の人出は8歳と9歳の幼い少女達の姿を容易く隠してしまったのだ。
故に、迷子発生。
「玲亜、迷子になっちゃったみたい…何とか探さなきゃ…」
こうして詩亜の大捜索が始まったのであ〜る。
「ふふ……海と言えばやっぱりこれよね!!」
ミントグリーンのチェック柄タンキニで可愛らしくキメた綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、とてもとてもイイ笑顔で水鉄砲を2丁取り出した。
白いビキニにシースルーの花柄のパレオ、そして花で飾った麦わら帽で清楚かつ大人っぽく纏めているアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、キョトンとしていたが。
片方を放り寄こされ、
「ボーっとしてると撃たれちゃうよ!」
と、いきなり発砲され、瞬時に察した。
さゆみは水鉄砲が大好きなので、もしかすると、と思っていたら案の定である。
辛うじて第一射をかわしたアデリーヌはイタズラっぽく微笑むと、帽子とパレオをカッコ良く投げ捨て。
「そう簡単にやられるとは思わないで下さいね」
続く攻撃を交わしつつ、反撃を繰り出す。
ほとんど殺陣のような、華麗な立ち回りである。
対するさゆみとて、勿論負けていない。
照りつける太陽と水温の冷たさ、相反する心地よさと身体を動かすことの心地よさ。
どんどん気分がノッた二人は、波打ち際で華麗な立ち回りを見せつけた。
いつの間にか周囲をギャラリーに囲まれている事にも気付かぬまま。
互いだけを瞳に映しての、バトル。
「本当に……負けず嫌いなのですから」
ムキになりつつも諦めずに向かってくる恋人を見て、アデリーヌは改めて思う。
自分はさゆみの事が本当に好きなのだと。
「この幸せがいつまでも続いてくれたら良いのに……」
叶わないと知っていても、そう願わずにはいられなかった。
終わりはだから、唐突で……多分、恋人たちに相応しいものだった。
水が互いを捉えたのは、同時……合い討ちだ。
「お〜、いいモン見せてもらったなぁ」
「どっちもカッコ良かったぜ」
沸き起こった拍手と歓声に、さゆみとアデリーヌはその時初めて、随分とギャラリーが集まっていた事に気付き、照れ笑いを交わした。
「またこうして遊べたらいいな」
その中でひっそり聞こえたさゆみの気持ちはアデリーヌのものでもあり。
「また遊びましょう」
二人は幸せそうに頷き合った。
「すっごい、カッコ良かった。クルってなって、シュパって避けて」
興奮気味の玲亜は気付かなかった。
「ん〜、この辺にいる筈なんだけど……こう人が多いと探すに探せないよ」
人混みを隔て、僅か数メートルの位置に詩亜がいた事など。
海にはたくさんの人がいた。
「私も少し泳げるようになったんですよ。見てください!」
「リオン!?」
意気揚々と海に分け入り非常にイイ笑顔のままがぼがぼがぼと沈むリオンに慌てて泳ぎ寄る北都。
「だから、恋だってばぁ」
「認めん認めへんて……ちゅうか、俺にHIKIKOMORIさせろ!」
ぎゅっとくっ付くフィリーネを、顔を真っ赤にして引き剥がしにかかる優夏。
「良し、良し! 遂にこの時が来たぁぁぁぁぁっ!?」
「マスター?、どうかしましたか?」
「いやいやいや問題なしだ。それにしても良い天気だな、俺達が守った空と海だ」
「はい!」
フレンディスの笑顔を堪能するベルク。
みんなみんな楽しそうで、玲亜の胸は何だか少し重くなっていった。
「海だーーーーーー!! 遊ぶわよーーーーーーー!!」
ブルーのスポーティーなビキニを着た神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)は、両手を上げると海に向かって大きく声を上げた。
「さー海よ遊ぶわよー! さてエマ、今年こそは少しでも泳げるよーになろうね!」
「い や で す わ 」
フリルとリボンがたくさんついた水着を着て、髪にハイビスカスを飾ったエマ・ルビィ(えま・るびぃ)は、その可愛らしさにそぐわぬ表情で、ジュジュの誘いを一刀両断した。
毎年海に来ても、エマは浮き輪にしがみついて、浅瀬でぱしゃぱしゃしたり砂遊びする程度なのだ。
ていうかぶっちゃけ泳げない。
「分かったわ、じゃ行きましょう」
「だから、イ・ヤ、なんです!」
嫌がるエマを、しかしジュジュは浮き輪ごと引っ張って海に連れ出す。
手を引いて少しずつ泳がせてみるも。
「泳げないんですわ! ていうかそれ以前の問題ですわ! 浮かばないんですわー!」
「うーん…何で浮かないんだろーね?」
一生懸命なエマの姿を見て、微笑むジュジュ。
エマがきゃーきゃー騒ぐのなんて、珍しいから。
「いーーーーーやーーーーーーー。泳ぐの〜、遊ぶの〜!?」
と、砂浜でエマと負けず劣らずの悲鳴がした、ちなみに知っている声だ。
「あれ?、奈夏とエンジュ?」
「何かあったのでしょうか」
事情を知らないエマはそれでもコレ幸いと、海から逃げもとい上がり。
そこでジュジュ達が見たのは、ぐったりとしてエンジュに抱えられた奈夏で。
「ダメです……今日は大人しく……帰ります……」
「どうしたの?」
「えっと……色々あって、全身筋肉痛デス」
「お姉ちゃん、ケガしたの?」
「ううん、ケガじゃない、ケガじゃないよ。だから、遊べるよ……はぐっ!」
気付いた玲亜に心配そうに見あげられ、奈夏は勢いよく首を振り……ピーン、と全身を硬直した後ぐったりした。
「……お姉ちゃん、死んじゃった?」
「いやいやいや、大丈夫よこの子強いから」
「……身体中痛いのだから……一人で立てないし……だから帰る……」
「だってまだ、エンジュ遊んでないもん……折角海に来たのに楽しい事、何も」
「……いえ……意外と……それはそれで……楽しかったです……というか……こうして奈夏と一緒に海を見られたので……十分です」
エンジュがデレた、とか内心で驚いているっぽい奈夏を見、ジュジュは苦笑を浮かべた。
「せめてご飯くらい食べていったら?、お昼時だし」
「ヤキソバ! カキ氷!」
「カキ氷はご飯では……」
「いいの!」
仲の良さそうな奈夏とエンジュ、ジュジュとエマを見て、玲亜は不意に寂しくなった。
今日はたくさん面白いものを見た、けれど。
「やっぱり一人じゃ寂しいよ」
「っ玲亜!」
「!? お姉ちゃぁぁぁぁぁぁん!」
ようやく見つけた、とくしゃりと顔を歪ませた詩亜に、玲亜は飛び付いた。
「あらあらあら、迷子さんだったのね」
気付かなくてごめんなさい、髪を撫でてくれるエマの手は優しくて、少し気恥ずかしかった。
「折角だしみんなでご飯、食べようか。お姉さんが奢って上げマス」
そんなこんなで皆で海の家でヤキソバとかラーメンとかカキ氷とか食べました……「うん、ちょっとは遠慮しよう!」。
「結局、泳げるようにはなりませんでしたわ」
そうして、奈夏達と別れたジュジュとエマは、パラソルの下でお昼寝する事にした。
疲れたのだろう、アッという間に眠りに落ちたエマ。
「来年こそは、泳げるよーになれたらいいね、エマ」
お疲れさま、と髪ぽんぽんしてからジュジュもまた、そっと目を閉じたのだった。
「刀真刀真、私達新しい水着買ったの。見たくない?」
「月夜さんったら……あのでも、もし刀真さんがよろしければ……」
「今年も暑いし海で泳いだら気持ちが良いだろうな」
という事で、樹月 刀真(きづき・とうま)は漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)と共にやって参りました、海!
黒いビキニを見に着けた月夜と、白いホルターネックのワンピース型の水着を着た白花は、どちらも良く似合っていて、真夏の日差しに負けないくらい輝いている。
そして刀真は今、忍耐力を試されていた。
「刀真、日焼け止め塗って♪」
と頼まれたのは良い。
問題は、隅々まで塗る為、という事で月夜の水着、ブラの紐が解かれている事だ。
信頼されているのだろうが、あまりに無防備にされると正直照れてしまう。
手の平から伝わる体温、滑らかな肌の感触……知らず、顔が赤くなるのは勘弁して欲しかった。
「月夜さん、だっ大胆です!?」
内心驚愕していた白花は、「今度は白花の番よ」と促されて、僅かに躊躇した。
のも束の間。
「きゃっ?!」
水着、首で留めている部分を解かれてしまった。
「大丈夫、胸の部分を押さえておけば見えないから、この無防備さが良いって本に書いてあった…刀真も喜ぶよ」
「刀真さんが喜ぶ?…お願いします」
慌てる白花だったが、月夜にそっと囁かれてしまえば、頬を真っ赤にしながらながらも頭を下げた。
「あっ、ああ」
「じゃあ私は飲み物を買ってくるからごゆっくり〜」
平常心平常心、と唱えながら白い背中に触れた刀真に、月夜はニコニコと手を振っていった。
「……あっ」
「わっ悪い、強かったか?」
「いっいえ、少しくすぐったくて……」
「そっそうか、なら良い」
かぁっ、と首筋から背中まで色付く様に「平常心へいじょうしんへいじょーしん」と繰り返しつつ、刀真は何とかミッションをクリアしたのだった、頑張った俺!
「色々危なかったが、何とか終わった」
「お返しに、私が刀真さんに塗ってあげます」
ふぅ、と手の甲で額を拭う仕草をした刀真は、その申し出にふっと冷静になった。
「…俺の身体傷だらけだが大丈夫か?」
背中に感じる白花の視線、答えの代りに大きく温かな感触がそっと押しつけられた……抱きつかれたのだ。
「白花、胸が当たってる…俺も男だから」
「確かに刀真さんの身体、傷だらけです。でも、この中に私を救ってくれた時の傷もあるのかな?、と思ったら愛おしくなって」
その可愛らしいセリフに、刀真の脳が沸騰した。
刀真とて健全な男である、我慢にも限界というものがあるわけで。
「……好きにして良いです、白花は貴方の物なのですから」
更に誘ってるのか分かってないのか、そんな風に吐息でくすぐられては、どうにもならず。
「正気に返れ!」
直後、悶々とする顔面に、缶ジュースがクリティカルヒット!
「刀真さん!? 月夜さん?」
色々許容範囲を越え、砂地に崩れ落ちた刀真を抱えた白花に、
「刀真がオオカミだったの」
月夜が厳かに、言った。
「ヤバかった。でも、まぁ来て良かったな」
その後、手を繋いで海に泳ぎに行く月夜と白花の楽しそうな様子を見、顔を冷やしながら刀真は思ったのだった。
「何して遊びましょうかねえ…。そうだ、あの大き目のゴムボートを借りてのんびりゆらゆらしよう」
「はいこちらにオレが渾身の力を込めて膨らませた巨大ゴムボートがあります。適当に乗りこんで遊びやがれ」
という志位 大地(しい・だいち)の提案で、シーラ・カンス(しーら・かんす)と薄青 諒(うすあお・まこと)、瀬島 壮太(せじま・そうた)とミミ・マリー(みみ・まりー)は壮太が頑張りました巨大ゴムボートで遊ぶ事にした。
「今年初めての海だよ、楽しみだな」
ミミは特に楽しみにしていた。
「シーラさんが僕に似合う服を見たててくれるみたいだし」
楽しみにしていた、だが。
「……え、ええ、この水着を僕が着るの? だってこれ、こんなに肌が出ちゃうし、おへそ見えちゃうし。ぼ、ぼくがいつもしてる格好と全然違うよお……」
「あの、シーラさん。流石にこれは……」
「ん〜、二人とも可愛いっ♪」
ミミと諒をコーディネイト、自分の趣味色に染め上げたシーラは満足そうに相好を崩した。
ビキニ+パレオ、胸の部分にパッドを入れた二人は、どう見ても美少女×2で、知ってる人でないと女の子にしか見えない格好になっている。
実は諒、自分の水着を用意してきた……勿論、男の子仕様だ……のだが、シーラに歯向かえる筈はなかったのである。
そして恥ずかしさの余り、藁にもすがるような思いで同じような格好をしてる諒にピッタリくっつき、下を向いて顔を真っ赤にしているミミにも、シーラに逆らうという選択肢は浮かばないようだった。
ちなみに、当のシーラはピンクを基調にした肩紐なしのビキニを身に着けており、控え目に着いているフリルもあって非常に可愛らしい。
自分に向けられた壮太の健全な青少年的視線にはまったく気付いていない辺りがシーラさんではあるが。
「……壮太のエッチ」
「いやいやいやいや、何言ってんだミミ、違うって別に……」
「エッチ♪」
「うん、志位、一度じっくり話そうか」
「大地さん、壮太くん、乗らないんですか?」
目を据わらせた壮太だったが、諸悪の根源に小首を傾げられ……ドナドナ若干肩を落としつつボートに乗り込むのであった。
「ほら、気持ちいいよ」
「冷たっ……お返しだよ」
最初のうちは恥ずかしくて仕方なかった諒とミミだが、そうこうしている内に段々慣れていたのか、途中からは全く普通に水遊びを楽しみだした。
そばにもう1人、同じような境遇の人がいたというのも大きかっただろう。
ボートの脇、水を掛け合う諒とミミに、笑み崩れるシーラ。
反対にムスッとしているのは壮太だった。
「おや、ご機嫌斜めのようですね。まださっきの気にしてるんですか?」
「違うけどよ……だってよぉ、これさあ端から見たら男二人女三人で、なんかけっこういい感じのグループに見えると思うんだけど、実際の男女比は4:1だからな。世の中間違ってるぜ」
ゲンナリする壮太は、大地が飲んでたスポドリを奪うと、
「おまえこの状況虚しくねえ?」
同意を求めつつ、口にした。
「何ていう、萌え!」
瞬時にBLに脳内変換したシーラが興奮して思わず立ち上がった。
巨大とはいえ、波に揺れるゴムボートの上で、である。
「危なっ……ッ!?」
当然バランスを崩したシーラを壮太は咄嗟に抱き止めた。
押しつけられた柔らかな二つの膨らみと、キュッと引き締まった腰、髪から香った良い匂いに壮太の心臓が大きく音を立てた。
夏です海ですトキメキイベントです!
「あらあら、ごめんなさい〜」
しかし直後、シーラは何の感慨もなくアッサリと身を放し、ニコニコと笑った。
異性に対する意識は……悲しくなる程になかった。
「残った一人、折角の女子もこれだしな」
「あの瀬島さん、何かすみません」
「いやうん薄青のことを責めてるわけじゃねえから」
虚しい状況と聞こえてしまったらしくシュン、とする諒の頭を壮太は苦笑しつつ撫でた。
そう、諒は悪くない。
ないのだが、視線は自然とシーラのほうに向かってしまうのは、悲しい男のサガである。
「瀬島さんかっこいいなあ…」
何とはなしに肩を落とした壮太を、だが、諒は憧れの眼差しで見上げた。
「あんなイケメンに自分もなりたい…あこがれちゃうなあ」
「優しく頼りがいのある年上の男性に憧れる男の娘、『諒、俺が色々教えてやるぜ』『せっ先輩』『震えてるのか、カワイイ奴だ』とか、きゃ〜♪♪♪」
諒の熱視線に気付いたシーラの脳内は俄然、活性化したようだ。
「まぁいつもの事なんで……」
と大地はまったく気にした様子がない。
というか大地にしたら、自分に被害が及ぶわけでもないので、ノープロブレムなのだ。
「いやいやいや、そこは気にしようぜ! というか、このままじゃ夏☆青春の煌めき的思い出が作れねぇ」
「この面子できた時点で無理です、諦めて下さい」
詰め寄る壮太を軽くいなす大地。
そんな様子がまたシーラのエサになってしまう事を、憐れな子羊は気付いていない。
「壮太、やらしい」
「〜〜〜!」
パシャッという音と共に顔面に掛けられた海水。
やったな、とミミに反撃する壮太。
「弱い立場に肩入れするのが、男というものですよね」
「ぼ、僕はどちらの味方をすれば……」
「ミミちゃんに決まってるでしょ、諒ちゃんほら、主砲ようい〜!」
水鉄砲による集中砲火を受けた壮太が撃沈するまで、後……。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last