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ハロウィン・ホリデー

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ハロウィン・ホリデー

リアクション

「はあ、はろうぃんは焼鳥大会ではなかったのですね……」
 ……と、言うフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に「正しいハロウィン」とやらを指導するべく、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は彼女をハロウィンパーティーに連れ出していた。
 ハロウィンの起源、仮装の必要性などを説き、衣装を準備させて、会場までやってきた。
「すみません、更衣室はお二人一部屋でお願いしています」
 そういうののに一つだけ鍵を渡された時、ベルクは正直なところ、ラッキー、と思った。フレンディスの鈍感故になかなか進展しない二人の恋仲、ここで一気に進展させるチャンス、と。
 しかし。
「あの、更衣室はわかるのですが、何故就寝所かつマスターとご一緒なのでしょう?」
 ドアを開けてフレンディスを室内へ通した瞬間、フレンディスはぽかん、と天然丸出しの発言をしてくれた。内心やっぱり、と思いながらも、しかしベルクはがくりと肩を落とす。
「……混んでいるから、恋人同士は同じ部屋を使ってくれ……とのことらしい」
「こっ……!?」
 こいびと、と言う単語にフレンディスの頬がぽんと染まる。確かに、ベルクの思いは受け入れたつもりだけれど、改めて口に出されるとどうしても照れてしまう。
「構わないだろ? 恋人同士、なんだから」
 きゅっと肩を縮こめているフレンディスに、ベルクはそっと顔を寄せると正面から彼女の顔を覗き込む。わざとフレンディスが反応した言葉を繰り返して、少しでもムードを出そうとする。
 フレンディスはベルクの視線を正面から受け止めようとしている。けれどどうしても、目が泳いで仕舞うらしい。
 ベルクはそっと、その真っ赤な頬に両手を添えた。そして、きゅっと目を瞑ったフレンディスの唇に、自分の唇で触れる。柔らかくてふっくらしたそこを軽く啄んでから、ゆっくり顔を離して再び視線を合わせる。
 今なら、このままもう一歩踏み込めるかもしれない――ベルクは思わず、そのままフレンディスの体をベッドの方へと押し倒した。意外なほどにあっさりと、フレンディスの細い体はベッドに沈んだ。ごくりとベルクの喉が鳴る。
 けれど。
「や、や、やっぱりもうだめですマスター!」
 彼女の中で何かがぷちんと切れたらしい。フレンディスはどーん、とベルクの胸を突き飛ばした。突き飛ばしてしまってから、フレンディスはハッとした顔でベルクの顔を見上げると、ぶんぶんと両の手を顔の前で振り回す。
「あ、あの、だめって、だめじゃないんですけど、でもやっぱりあの、その、こ、こんなところじゃその、恥ずかしいっていうか、あの!」
「……解った、解ったら落ち着けフレイ」
 ベルクは肩を落として笑うと、フレンディスの体をそっと抱き起こしてやる。それすらも恥ずかしいらしくて、フレンディスは始終俯いていた。
「……駄目じゃないんだな。ここじゃ嫌、ってだけで」
「はっ! ……あの、その……」
 起き上がったフレンディスからそっと離れながら呟いたベルクの言葉に、フレンディスはまた言葉を詰まらせた。が、暫くしてからこくりと小さく頷いて見せた。
 それが今の彼女には精一杯で、けれど、今のベルクにはそれだけで充分だった。

●○●○●

 久世 沙幸(くぜ・さゆき)は、パートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)が用意してきてくれた衣装をぴろん、と広げたままの格好で固まっていた。
「ねーさま……これはちょっと、大胆過ぎるんだもん……」
「あら、そんなことありませんわ。きっとお似合いになりますわよ」
 沙幸が広げて居るのは、胸元が大きく開いた、マイクロミニと呼んでも差し支えない丈のワンピース。確かにとても可愛らしい装飾なのだけれど、それはあくまで衣装単品として見た時の感想であって、自分が着るということを考えると、いくら何でも大胆すぎる。
 沙幸がうう、と着替えることを躊躇っていると、美海がぱっと沙幸の手から衣装を取り上げた。
「ねーさま?」
「着替えられないのでしたら、わたくしが手伝って差し上げますわ? ほら、脱ぎ脱ぎしましょうねー」
 美海はうふふといやらしい笑みを浮かべながら、沙幸の洋服に手を掛けると、するすると脱がしてしまう。
「ね、ねーさま、そんなこと自分でできるし、ねーさまだって早く仮装したほうが良いと思うんだもん……」
 待って待って、と言いたげに沙幸は美海の手に手を重ねて止めようとする。けれどいつも通り抵抗は形ばかりで、美海の手はあっという間に沙幸の衣服をはぎ取ってしまう。
「ねーさま、こんなことやってたらパーティーにだって遅れちゃうよ?」
 それでもなんとか抵抗の意思を示す沙幸の口を、美海は深いキスで塞いだ。ゼロ距離になったふたりの唇の隙間から、熱い吐息がこぼれる。
 もう、と文句を言いながらも見る間に蕩けていく沙幸の瞳を覗き込みながら、美海は楽しそうに口角を上げる。
「大丈夫ですわよ……」
「どうしてそう言い切れるんだもん……」
 そして、すっかり力の抜けてしまった沙幸の体をベッドに押しつけながら、どうしてかしら? といたずらに囁く。
 ベッドが軋んで、二人分の体重を受け止めた。

 ……結局その日、二人は最後までパーティー会場には姿を現さなかった。

●○●○●

「個室なんだ」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は、受付で受け取った鍵を手のひらの上で弄びながら、ふふ、と楽しそうな笑みを浮かべる。一歩後ろを付いてくる緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)には気取られないように。
 鍵の番号と、部屋の扉に貼られた紙の番号を照らし合わせて、ドアを開ける。
 女同士、同じ部屋で着替えることに何ら不自然なことはない。透乃はごくごく自然な振る舞いの一環として、部屋の鍵を閉めた。着替え中に扉を開けられてはたまらない。だからこそ鍵を貸してくれた訳だし、と陽子も不自然には思わなかったようだ。むしろ透乃が鍵を閉めたことを確認してから、自分の荷物を解き始めた。
 お互い、今日何を着るかは秘密にしてきている。透乃は陽子の方を見ないようにしながら、自分の荷物から衣装を取り出した。
 透乃が用意してきたのは包帯数本。一応大事なところがぽろっと飛び出さないようにアンダーウェアは着用しているとはいえ、その布面積はギリギリだ。ビキニの様なそのアンダーウェアの上から、包帯をくるくると巻き付けて完成。題して、ミイラ女。非常に露出過多だが、ドレスコードは「仮装」の二文字だけ。露出度に関する規定はなかったのだから良いだろう。
「着替え終わったよ、陽子ちゃん!」
 るんるんと浮かれて振り向くと、陽子も、透乃ほどではないが露出の多い魔女風の衣装を纏っている。大きな胸が強調されて居て、思わず透乃は喉を鳴らす。
「えっと……やっぱりちょっと恥ずかしい、ですね」
 透乃の視線に気付いた陽子は、ちらりと透乃の方に目をやって小さい声で呟いた。呟いてから、改めて目を見開くようにして透乃を二度見した。
「……透乃ちゃん、それだけ、ですか?」
「そうだよ!」
 少々呆れたようなニュアンスを含む陽子の言葉に、しかし透乃は自身満々胸を張って答えた。その様子に陽子も、透乃が楽しいなら良いか、とそれ以上口を挟むことはしない。
「ふふ、陽子ちゃん、すごく似合ってるね。とっても色っぽいし……」
 透乃は嬉しそうに陽子の傍まで歩み寄ると、その白い肌にそっと指を添えた。つう、と頬をなぞり、それから首筋、肩、腰へと滑るように手を下ろしていき、最後に腰を抱き寄せた。
「何をするんですか、透乃ちゃん」
 開いている方の手で再び陽子の顎に手を掛ける透乃に対して、陽子は抵抗の意思を示すかのように身をよじってみせる。が、透乃はお構いなしでそのまま陽子の唇をちゅ、と吸う。そして、そのまま壁際に追い詰めた。
「パーティーが始まってしまいます……離してください」
「そんな顔して言われて、離すと思う?」
 上気した頬、水気を湛えた瞳、掠れた声、どれをとっても陽子の態度は、これからされるであろう行為を期待している。それなのに、唇が紡ぐ言葉は正反対。
「嫌、です……」
「離さないよ、陽子ちゃん」
 くすり、と喉の奥で笑って、透乃はもう一度唇を重ねる。
 折角普段とは違う格好なのだから、洋服には手を掛けない。けれど、このままパーティーに行く来など毛頭ない。
「このまま此所で、二人きりのパーティー、だね」

 ……やっぱり彼女達も最後まで、パーティー会場には現れなかった。