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ハロウィン・ホリデー

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ハロウィン・ホリデー

リアクション

 セルマ・アリス(せるま・ありす)オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)の二人だ。セルマはスーツに狼の耳と尻尾がついていて、オルフェリアは正統派の頭巾と白いワンピース。こちらは申し合わせて衣装を揃えてきている。
「見て下さい、オルフェ、張り切って作ったですよ」
 着替えを終えてホールに向かう道すがら、オルフェは荷物の中から小ぶりのジャック=オ=ランタンを取り出した。ちょっと顔は歪んでいるけれど、それもなんだか一生懸命作ったことの表れのようで可愛らしい。
 そうしてはしゃいでいるオルフェリアが可愛らしくて、セルマはついつい、悪戯心を起こしてしまう。
「オルフェ、お手をどうぞ」
 穏やかに笑いながら、セルマはオルフェリアに向かって優雅な仕草で手を差し出す。
「手、ですか?」
 オルフェリアはちょっと不思議そうにしながらも、言われるがままに手を伸ばした。すると、セルマはそのままオルフェリアの手を引き寄せて、バランスを崩した彼女の体を抱き留め、流れるような仕草で唇を合わせた。
「……え、えええっ?」
 唇を解放されてから漸く何をされたのか理解して、オルフェリアは顔を真っ赤にする。
「お菓子より、悪戯したかったから」
 やっちゃった、と笑うセルマに、オルフェリアはただただ狼狽えて、俯いてしまう。
「……なんだか、今日はいつものセルマじゃないみたい……」
 仮装の影響なのだろうか? オルフェリアは小さな声で呟くと、視線を床に向けたままセルマの洋服の裾をぎゅっと掴んだ。
 セルマはクスリと楽しそうに笑うと、行こう、と優しく声を掛け、洋服を掴まれたままパーティー会場へとオルフェリアをエスコートするのだった。

●○●○●

 永井 託(ながい・たく)は、恋人である南條 琴乃(なんじょう・ことの)に誘われてパーティーへ参加していた。
「うん、可愛いよ」
 着替えを終えて出てきた琴乃の姿を見るなり、託はにっこりと微笑む。琴乃が着ているのは、可愛らしい魔女の装束。それでも頭には大きなリボンが付いているところが琴乃らしい。
「えへへ……似合うかな? 託も似合ってるね」
 琴乃は頭のリボンに触れながら、にっこりと微笑む。
 託が着ているのは吸血鬼風の衣装だ。優しく、とろんとした眼差しの託のイメージとはだいぶ違うのだけれど、それが逆に、いつもと違う雰囲気を醸し出している。
「そう? じゃあ、吸血鬼になったからには、琴乃を食べてしまおうかな……」
 ふふ、と笑いながら冗談めかして琴乃の顔を覗き込む。ちょっと危ないニュアンスが含まれるのは承知の上で揶揄ってみたのだけれど。
「託になら、良いよ?」
 琴乃は託の本意が分かっているのか居ないのか、にこにこと笑って答える。
 託は琴乃の真意を測りかねて、うん、と口籠もってしまう。が、もしかしてからかい返された? と気付いた託は、ドキドキする胸を押さえながら、「じゃあ、お言葉に甘えて」とあくまでも冗談ですよというスタンスのまま、琴乃の唇に自らのそれを合わせる。
 すると琴乃は、少し恥ずかしそうに頬を染め、へへ、と笑った。その表情は嬉しそうだったけれど、でも、今はこれで充分過ぎると線を引かれたような気がして、託はそれ以上何も出来ない。
 まだ早いかなぁ、と心の中に苦笑を浮かべ、琴乃の肩においていた手を引っ込めた。

●○●○●

「……仮装して居るつもりはないのだがな」
 美樹 辰丸(みき・たつまる)は、玄関ホールでパートナーの着替えが終わるのを待っていた。
 ドレスコードは仮装、ということになって居るので何かしら借りようかとも考えていたのだけれど、どうやら辰丸が私服として着てきた和服が充分仮装っぽく見えるらしい。
 結局、パートナーだけが着替えに向かい、辰丸は一人待たされている。
 ――ちょっぴり、納得が行かないのだが。
「お待たせしました」
 と、そこへパートナーであり、今日辰丸を此所へ誘った張本人である水無瀬 愛華(みなせ・あいか)が更衣室から出てきた。
 愛華が着ているのはスパンコールで彩られた、膝上丈のワンピース。お揃いの素材のとんがり帽子が付いて、正統派の魔女の装束だった。黒っぽい服装を好む愛華にしては珍しく、オレンジをベースカラーにした、いかにもハロウィン風の衣装だ。
 いつもと違う服装で辰丸を驚かそうとしたのだが――
「終わったか。なら会場へ行くぞ。そろそろパーティーが始まる時間だろう」
 辰丸の反応は、至って冷静なものだった。
「……あ、あの、それだけですか」
 さぞやびっくりしてくれるだろうと思っていた愛華は、その淡泊な反応に逆に驚いてしまう。
「……他に何か必要だったか?」
 愛華の言葉に少し考える素振りを見せる辰丸だったが、しかし思い当たることは無かったらしい。やっぱり、淡泊な返事が返ってきた。
 うう、と肩を落とす愛華だったけれど、なんとなく、辰丸ならそれも仕方の無いことかもしれない、と思い直す。
「いえ……良いんです。行きましょう、パーティーが始まるんですよね」
 ちょっとまだ元気がない様子で、それでも笑顔を作って見せた愛華は、辰丸の背を押してパーティー会場へと向かうのだった。