空京

校長室

戦乱の絆 第3回

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戦乱の絆 第3回
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リアクション




地上戦・3

「何、あのイコン。可愛いつもりのデザインなの?」
 静香専用イコン、キラーラビットを上空から確認して、イーグリットの操縦席で、茅野 茉莉(ちの・まつり)が呆れた声を上げた。
「他と違う形だから、とりあえず落としておこっか!」
 茉莉が言えば、パートナーの悪魔、ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)も同意する。
 見たところ、デザイン的にダメダメなそのウサギイコンの周囲に居るのは、接近攻撃型イコンばかりのようなので、遠距離からビームライフルで攻撃を仕掛けた。
「――イコンなんか持ち出して! あんた達に、人を殺す覚悟はあるの!?」
 あたしにはある。
 侮蔑を込めた言葉と共に、引き金を引く。
 ウサギイコンの両隣のイコンが、盾を構えてウサギイコンを護った。
 ダミアンが目を細める。
「あのイコンは、随分引っ込み思案。
 誰が乗ってるかは知らないけど、タマなし?」
「あっはは! 百合園だしねっ」
 無論二人とも、他とは違う形のイコンなら百合園のトップが搭乗しているだろうことも、校長の性別も知っている。
 と、そのウサギイコンが巨大なニンジンを上空に向けた。
「!」
 退避するより早く、キュドッ、とキャノン砲が放たれ、茉莉のイコンが被弾する。
「しまったっ……!」
 あんなふざけた形の砲身に撃ち落とされるなんて! と歯噛みしつつ、茉莉のイーグリットは墜落した。

「校長、大丈夫ですか!」
「平気だよ、ありがとう」
 上空からの攻撃を受け、護られたものの、一応システムを確認する。
 レッドランプは無く、静香は安堵した。
 メイン操縦を担うラズィーヤが、反撃にニンジンキャノンを撃ち返す。
 その狙いは正確で、イーグリットを撃墜した。
「ああっ……。
 ラズィーヤさん、本当に撃ち落とすこと」
「何を言っていますの、静香さん」
 ラズィーヤは溜め息を吐いて言う。
「今迄ずっと、皆さんの戦っている、何を見てきたんですの」
 敵を殺す為の一撃に、本気も手抜きも関係ない。
 敵を生かす為の一撃に、本気も手抜きも関係なかった。
 本気だろうが手抜きだろうが、相手が死ぬことになるなら、それは死の一撃でしかなく、相手を生かすことになるなら、それは死なない一撃でしかないのだ。
「わたくしは、殺すことも辞さない覚悟で相手をしていますわ。当然でしょう?」
「……そうかなあ」
 別に疑うわけじゃないんだけど。でも。
 ラズィーヤには聞こえないように、静香は疑わしげに呟く。
 そしてラズーヤの言葉を心の中で反芻した。
「……見てるよ」
 ぽつりと呟く。
「僕はちゃんと見てる……」

 茉莉のイコンは墜落はしたが、爆発はしなかったので、自力で脱出することができた。
 野戦病院のメンバーが走り寄り、命に別状はないことが確認された。


 湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)の乗るイコンで、通信と索敵を担当するパートナーの剣の花嫁、高嶋 梓(たかしま・あずさ)が、亮一を呼んだ。
「敵か?」
「そう、なのでしょう、けれど……」
 答える梓の声が戸惑う。視認してみて、間違いがないことを知った。
 向かってくるのは、イコンではなく、生身の人間だ。

「今更かもしれないが」
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、ダッシュローラーや宮殿用飛行翼など、イコンに対応する移動手段を可能な限り備えた上で、戦いを仕掛けた。
「イコン相手に、生身でどれだけ戦えるものなのか、試してみようと思うのだよ」
 バーストダッシュでイコンに突撃する。
 関節部分を狙って攻撃をしたが、それは勢いあまって目標を外した。
「ったく! 馬鹿な真似しやがって!」
と言いたいところだが、生身のくせにやりやがる、と亮一は心の中で舌打ちする。
 大佐のパートナー、プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)も、飛行翼を使って上空を旋回しながら、イコンの関節部分やセンサー部分などを、大佐の攻撃にタイミングを合わせて攻撃してみたが、ダメージらしいダメージを与えることはできなかった。
「うーん、私の力では、威力が足りないみたいですね」
 攻撃は諦め、大佐の補佐に徹することにする。
「陸戦型のイコンだと、歩兵に貼り付かれたら、振り切るのは難しかろう」
 死角からイコンの足首を狙ってソニックブレードを放つ。
 切断することはできなかったが、多少の衝撃は与えられたようで、イコンが傾いだ。
「今だっ」
 転倒させることくらいはできるかもしれない。
 パートナーと同時攻撃を仕掛けるべく、合図しようとした大佐だが、頭上に影が射して、慌てて飛び退いた。
 久多 隆光(くた・たかみつ)のイコンが、手をのばしてきたのだ。
「人一人相手にイコン二機とは」
 辛うじて躱しながら、大佐は笑う。
「助かった。ちょこまかとよく見えなくて」
「なんの」
 亮一は隆光に礼を言った。
 何しろ相手は生身の人間だ。
 下手に手足を振り回して激突させれば、その衝撃で潰してしまうかもしれない。
「位置を捕らえましたわ。右後方から来ます」
 梓の言葉に、
「これ以上付き合ってられないぜ!」
と亮一は目標ポイントにライフルを向けた。正しくは、振った。
 ピンポイントで目標を捕らえる訓練くらいしている。
 一発で当てられるかどうかは半ば賭けだったが、上手くいった。
 亮一は、ライフルの砲身で、大佐の体を捕まえると、そのまま振り抜いた。
「っ!!」
 大佐は払い飛ばされてしまう。
 最も、すぐに飛行翼を使って体勢を整えたが、
「大佐――!」
 飛んで来たプリムローズに
「まあいい。このまま離脱する」
 そう言って、当初の、適当にやったら逃げる、の予定通り、その場を離れることにした。
「いいセン行ってましたけどねっ」
「ああ、パラ実イコンくらいなら、楽勝で相手できそうだ」
 プリムローズの声に、そう応えながら。


「やれやれ」
 一息つきかけた亮一に、はっとして梓が叫んだ。
「真後ろですわ!」
 慌てて反応しようとしたが、遅かった。
 衝撃を、まともにくらって倒れる。
「く、うっ!」
 衝撃に、脳が揺れた。

「やりましたあ!」
 体当たりしたイコンの操縦席で、レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)が喜びの声を上げる。
 副操縦席では、パートナーの機晶姫、ネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)もブイサインを差し上げる。
 その膝の上には、開かれた、イコン操作マニュアル。
 レロシャンは、初めてイコンを操作するのだった。
「このまま一気に行きますよ! さあ、ここは私に任せてくださいっ!」
 武器の扱い方は解らないので、使わずに格闘戦で、むしろ適当に。
 勢いづいたレロシャンは、ネノノを振り仰ぐ。
「それで、これからどうすればいいんです?」
 ネノノはマニュアルをガン見しながら
「えーとえーと、まずこのレバーを後ろに?
 それからえーとこっちを右に? それで手前のボタンを……あ、まずこっちを…………」
 ブツブツとやった末、
「あーもう、とにかく気合い!
 気合いで頑張って動かして! 押し倒せ! そして殴れ!」
「気合いですね!」
 解りました! とばかりにレロシャンはあちこち適当に……気合いを込めて操作する。
 ズドン、と、衝撃が走り、それが3回ほど続いて、イコンが倒れた。
「きゃー!!」
「やっぱり駄目だったか! 逃げるよ!」
 ネノノはレロシャンを抱えた。

「やれやれ、ゲーセンのボタンガチャ押しみたいな動きをしやがって」
 アサルトライフルを構えるイコンの操縦席で、久多隆光が溜め息を吐いた。
「そういうのをビギナーズラックって言うんだぜ」
「それについては、こちらも似たようなものですが」
 基本操作を担当する、パートナーの英霊、童元 洪忠(どうげん・こうちゅう)が苦笑する。
「……まあ、そうだな」
 イコンの操作については、自分もまだ、手探りと言ってもいい。
 そんな中でも、西の兵たるべく、冷静さを保つように心がけている。
 足を狙って倒したイコンから、パイロットらしき少女2人が無事脱出したのを確認して、安堵したのも否定はできないが。
「……移動します」
「頼む」
 洪忠が気を改める。
 敵イコンを狙撃するのに最適なポイントへと場所を移した。



 西も東も、一枚岩なわけではないし、全く一つの同じ意思のもとに行動しているわけでもなかった。
「……悪いけど。
 最小限の被害で終わらせることが出来る戦いに鉛と殺戮人形を持ち出してきておいて、はい東が負けて戴冠式が終わりました、これからは東西仲良くしましょう、なんてできないわぁ」
 口で仲良くしようと言いながら、行為でそれを踏みにじる。
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は、戦場の様子をビデオカメラに記録しながら、声がビデオに収まらない程度に小さく呟いた。
 伝令係を引き受けて、非武装で前線を駆け回っている、という表向きで、最も激しい戦闘区域を見つけては、撮影に勤しんでいるのだった。
 主に、東陣営の被害の様子を、である。
「まあ西側も、最初から攻撃を仕掛けたわけじゃなくって、勧告・退避を勧めた上でやむなく、とか、言ってくると思うけど」
 パートナーの吸血鬼、ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)がヒョイと肩を竦める。
 逃げなかった時点で、東には討たれる覚悟があったのだ、と。
「まあいくらでもでっちあげればいいしね!」
「……思ったより、凄惨さが足りないわねぇ」
 リナリエッタは不満げに言った。
 予想外に、東側は善戦している。士気が高いのか、よく西側を食い止めていた。
「西側が、上空から地上に砲撃なんてしてくれたら最高なんだけど」
「リナ、ちょっと」
 トン、と肩を叩いて、ベファーナはリナリエッタからカメラを受け取った。
 にっこり笑うと、いきなりリナリエッタに攻撃を仕掛ける。
「はうっ!」
 その容赦ない攻撃に、リナリエッタは地に伏した。
 ひくひくと瀕死状態のリナリエッタに、ベファーナは冷静にカメラを向けた。
「演出・『武器を持たない東シャンバラ生徒に必要以上の暴力を振るう西シャンバラ』、いっちょあがりだね!」