空京

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戦乱の絆 第3回

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戦乱の絆 第3回
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地上戦・4

「こりゃあ、随分とまた、大勢いるもんだねえ」
 ゴーストイコンの数もさることながら、それに随伴するアンデッドの数も相当なものだった。
 思わず守護天使の芥 未実(あくた・みみ)は、肩を竦めて苦笑した。
「こりゃ、多勢に無勢ってやつじゃないかい?」
 怖気づいているのではなく、まるでからかうような口調だ。
 パートナーの久途 侘助(くず・わびすけ)は、人を踏み付けない程度の距離を置いて、イコンに乗ってゴーストイコンと戦う、自分と同じ薔薇の学舎生徒のイコンを見やり、ふっと笑った。
「……俺もここで意地を見せておかないとな!」
 戴冠式も気になるところではあるが、まずは宮殿に群がろうとするモンスター達だ。
 そう判断して、ここに来た。
 氷術でアンデッド達の気を引き、侘助は2本の刀を抜くと、両手に構えてその群れに飛び込んでいく。
「おら、これでもくらえ!」
 未実の魔法攻撃まで、アンデッド達を自分に引き付けるように派手に戦う。
 そして、タイミングを見計らって素早く身を引いた。
「未実、任せた!」
「任されたよ」
 ふっと笑って、未実は溜めていたバニッシュを放つ。
「――安らかにお眠り」
 アンデッド達が浄化していく様を見送りながら、未実は呟いた。

「ネフェルティティ様……」
 その身を案じて、剣の花嫁、甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)はふと宮殿の方を伺った。
 彼女は今、どうなっているのだろうか。
 ユキノには、昔の記憶は無いのだが、ネフェルティティのことを心配する感情が、じわりじわりと沸き上がって来るのだ。
「――ユキノ」
 パートナーの甲斐 英虎(かい・ひでとら)の声に、はっと我に返った。
「どこか、やられた?」
「何でもございません。……ごめんなさい」
 自分は今、ゴーストイコンの随伴兵である、アンデッドと戦っている最中なのだ。
 ユキノの思いを察して、英虎は、弓型の光条兵器を構え持ちながら苦笑した。
 ゴーストイコンに対しては、威嚇射撃すら効かなかった。
 せめてとアンデッド達を一掃させるべく、奮闘中なのだ。
「……無事だと、いいけどねー」
 宮殿内のことも気になるが、今は目の前の問題を何とかしなくては。
「……大丈夫でございます。きっと……」
 祈るように言って、ユキノはアンデッド達を倒すべく、アンデッドに火の魔法を放って駆逐する英虎のフォローに回り、バニッシュを撃ってアンデッド達を退かせた。

 死なない兵隊、というのは、本当に厄介だ。
 ゴーストイコンのオマケのような形で群がっているアンデッド達は、時にゴーストイコンの進行の邪魔となって踏み潰されたりしているが、足が退かれれば再びのろのろと立ち上がって来る。
 魔法を使えるほどではないようだが、知能が低いながらも武器を持ち、立ち塞がる者があれば、容赦なく戦う様は脅威だ。
「だが、不死身の歩兵といえど、戦えないようにさせれば!」
 金住 健勝(かなずみ・けんしょう)は、アンデッドの群れにクロスファイアで攻撃を仕掛けた。
 炎を吹き付けられ、燃え上がって尚、アンデッド達は炎を背負いながら歩みを止めない。
「……それなら!」
 健勝は、全体攻撃から個別攻撃に切り替え、アンデッド達の手足を狙った。
 巨獣狩りのライフルによって、アンデッド達の足を、撃ち抜くというよりは殆ど吹き飛ばす勢いで狙い撃って行く。
 パートナーの剣の花嫁、レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)は、アンデッドの照準に集中する健勝を護りつつ、健勝が撃ち漏らして一定以上近づいてきたアンデッドに対し、バニッシュを放って援護した。
「……今度こそ」
 東西で血を流すような戦いは、これで最後でありますようにと願いながら。


「ゴーストイコンは先の戦いで粗方駆逐されたものと思っていたんだけど。
 ……全然そんなことなかったね」
 やはり、一度存在を許してしまったゴーストイコンは、その巣を根絶やしにしようとも、最早増殖していくのを止めることはできないということなのだろうか。
 どういう思考が働いているのかは解らないが、まるで戴冠式を妨害しようとせんが如く、ゴーストイコンの群れは宮殿に迫っている。
 ゴーストイコンやアンデッド歩兵達は、勝手に意思を持って動いているようだった。
 前回のゴアドーでの戦いで、破壊されたゴーストイコンから、悪霊のようなものが出てきている。
 恐らくはイコンや古代の歩兵に、それらを憑依させているのだ。
 クェイルの操縦席からそれらのゴーストイコンを確認して、ナンダ・アーナンダ(なんだ・あーなんだ)が不敵に笑った。
「何にしろ、その存在を許すわけにはいかない。ボクらが華麗に狩ってみせよう」
 パートナーの機晶姫、マハヴィル・アーナンダ(まはう゛ぃる・あーなんだ)は、その言葉を受けて、勿論です、と頷いた。
「このイコンという代物があれば、ナンダ様が大活躍するのは必至。
 マハヴィル、ご一緒させていただけて光栄です」
「じゃあ、行こうか」
「周辺の確認はこのマハヴィルにお任せを。
 ナンダ様は敵を華麗に射撃で倒すことにご専念ください」
「うん。よろしく」
 ナンダは操縦桿を引き、ナンダのイコンはアサルトライフルを構える。
 ちらりと周囲の味方イコンの位置と数を確認した。
 それは、この群れのゴーストイコンに応戦するにはいささか心許ない編成ではあったけれど。
「ボクらが負けることなどないさ」
 ナンダの自信は揺らがなかった。
 何しろ、エリートのこのボクがいるのだからね。

 薔薇の学舎は西シャンバラに属することになり、今回の戦いにおいてはゴーストイコンの討伐を引き受けることになった。
 それは、ジェイダス校長が「薔薇学は生徒数が少ないから」と申し出たからだが、その実は、薔薇学の生徒が東シャンバラの生徒と戦わずに済むように、という校長の配慮からではないだろうか。
 自身が東の人達と戦いたくないと思うからかもしれないが、清泉 北都(いずみ・ほくと)には、そう感じられた。
「イコン戦は初めてでございますし。あまり無理はなさいませんよう」
 パートナーの守護天使、クナイ・アヤシ(くない・あやし)が、計器類の確認をしながら、北都に念を押す。
 もしも攻撃を受けた際、イコン内部で受けるだろう衝撃を少しでも和らげられるよう、北都と自身に『オートガード』を施した。
「わかってるよぉ」
 支給されたイコンが、後衛戦用のクェイルであることは幸運かもしれない。
 武装はアサルトライフルで、遠隔攻撃が可能だからだ。
「あれっ」
 少し離れたところに、センチネルの機体を確認して、北都は小さく呟いた。
 東側のイコンで、ゴーストイコン退治に赴いた者がいるのだろうか。

 ――女王とアイシャに、不幸より幸福が多いことを願う。
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)は、センチネルの操縦席で、宮殿内部で行われるであろう、諸々の出来事に思いを馳せた。
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)もまた、北都と同じように、ジェイダス校長の判断は、薔薇の学舎が東西激突から距離を置けるようにする為の方便ではないかと判断していた。
 ならばとパートナーのクリスティーに付き合い、イコン操縦の補助として、ゴーストイコンの討伐戦に参加している。
 ふと、こちらを伺っているクェイルに気付いた。
「クリス、彼に合図して」
 苦笑しながら携帯を取りだした。
「あれっ、同じ薔薇学の人だったんだぁ。てっきり……」
 センチネルに搭乗している相手を知って、北都が驚くと、
「最初に支給されたのがこれだったし、乗り替えるのもアレだしよ。言ったら許可くれたぜ」
 なるほど、と、北都は頷く。
「じゃあ、僕達は、援護しますねぇ」
 センチネルは接近戦用のイコンだ。
「ああ、助かるぜ。奴等、結構な数だしな」
 操縦者無しで動いているゴーストイコンを倒すには、とにかく叩きのめして行くしかなかった。
 立ち上がれなくなるまで、動けなくなるまで破壊するのだ。
 それは、数で圧倒的に劣っている薔薇学のイコンにとっては、不利な条件だった。

 北都やナンダ達のクェイルが、ライフルで殆ど連射の勢いで攻撃する傍ら、センチネルが槍を用いてゴーストイコンと戦う。
 パラ実のイコンが金棒を振り回してゴーストイコンの群れの中で暴れている様子も見えた。
 それでも、ゴーストイコン達はじりじりと宮殿に迫って行く。
「――皆、よく持ちこたえている」
 その様子を上空から確認して、エリオ・アルファイ(えりお・あるふぁい)が安堵したように言った。
「間に合ったようだな」
 ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)が微笑んだ。

 上空を接近してくる一機のイコンに気付いたクリストファーは、素早く確認して驚いた。
「シパーヒー?」
 それは、薔薇学のイコン、ルドルフの専用機だった。
「遅れて済まない。加勢に来た」
 シパーヒーは滞空してライフルを構えると、引き金を引く。
 シュパッ、と、通常の射撃とは異なる音がして、放たれた弾は上空で破裂した。
「――!?」
 何かが、ゴーストイコンの群れに降り注ぐ。
 それを浴びた途端、バタバタとゴーストイコンが倒れて行き、北都らは驚いた。
「何これ!?」
「ジェイダス校長が、何処からか入手した、ゴーストイコンの特効薬だ。
 皆に届けるようにと指令を受けてね。間に合ってよかった」
 まだ数は沢山あるから、と、地上に降りて来たルドルフは、それを北都やナンダ達に渡す。
 戦況は、一気に逆転した。


 あらかたのゴーストイコンを戦闘不能にし、免れたゴーストイコンらも、クリストファーらによって一気に掃討されて行く。

 怪我人の救護を目的として設置された野戦病院で、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)とパートナーの緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は、その護衛にあたっていた。
 気になることもあるし、柄ではないとも思ったが、親友の行動に協力することにしたのだ。
 野戦病院内では、次第に迫ってくるゴーストイコンの姿に戦々恐々としていたが、エッツェルは、難しい顔をして眉を寄せ、睨むようにゴーストイコンを見ている輝夜に、
「どうしました? 怖いわけではないでしょう」
と訊ねた。
「まっさか! ただ、変なものが見えるから!」
「変なもの?」
「フラワシ」
「フラワシ?」
「ゴーストイコンに、背後霊みたいに、憑いてる。
 あれがゴーストイコンを操ってるみたい」
 フラワシは霊体だが、それ自体が意思を持つものではない。少なくともこれまでは確認されていない。
 自らゴーストイコンに憑いているとも思えず、ましてや、ゴーストイコンが自らの意思でそれを従えているとも考えにくかった。
「そうか……だから、あのゴーストイコン達は、統率が取れているような動きをしてたんですね。
 つまり、あのゴーストイコン達は、フラワシを操る誰かによって操られている……ということですか」
 ちょっとややこしいですね、と、口にしながらエッツェルは苦笑する。

 そうこうしている内に、彼方から一機のイコンが現れる。
 何をしたのかはよく見えなかったが、突然、ゴーストイコンがバタバタと倒れ始めた。
「あっ」
 輝夜は目を見張る。
 ゴーストイコンに憑いているフラワシが、蒸発するように消えて行くのが見えたのだ。
「……まあ、これで、あれがこちらに攻撃してくる心配もなくなったわけですね」
 色々と疑問は残るが、とりあえず脅威は去った。エッツェルはそう判断した。



 イコンと生身の生徒、更には上空と地上でと入り乱れる戦場で、負傷者達を救助する為に野戦病院が設置された。
 イコンが破壊されるのを目撃しては、そのパイロットを引きずり出して無事を確認し、負傷していれば野戦病院に運ぶ。
 歩兵が巻き込まれていないか、生身同士の戦いで負傷した人を見逃さないように注意する。
「……正直なところ、この戦いに正義を見出すことができないが」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)の思いは、きっと他の多くの者も抱いているものだと、パートナーのクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は思った。
「だが目の前に苦しんでいる人がいるのであれば、全身全霊を以って助けよう。
 それが私の成すべき正義だと思う」
 その決意の現れとして、赤十字の腕章を身につけている。
「うん」
 クレアも頷いた。
 契約者同士でこんな戦いを始めたら、怪我人の数も相当なものだろう。
 だが、誰一人見捨てない。見捨てたくない。
「私がここにいるのは、私の力は、苦しむ人を助けるためのものだよ」
「さあ、今回も頑張りましょう」

 怪我人は次々と運ばれて来る。
 敵味方を問わず、その腕章をつけたメンバーは、所属に関係なく集まり、所属に関係なく治療する。
 神裂 刹那(かんざき・せつな)は、自らは治療の為のスキルを持たなかったが、パートナーの魔鎧、ノエル・ノワール(のえる・のわーる)を常に装備してそれを補った。
 ノエルは治療の他、知識なども刹那に提供して、刹那の治療行動をサポートする。
 無意識に、超感覚使用で生じている黒い猫耳が動いて、刹那はふと空を見上げて顔をしかめた。
 上空で戦いが行われているその下でも、戦闘が行われているなど狂気の沙汰だ。
 それでも。
「……一人でもいい。
 私が居て、救える命があるのなら」
 戦闘を止めることは、自分には出来ない。
 だが、この強い思いがあるのなら、それだけでも、自分がここに居る意味はあるのだと思った。
 刹那は赤十字の腕章を見つめ、そして負傷者の治療に戻った。

「おらおら、腹減ってる奴は遠慮無く食え食え!」
 野戦病院では、完璧な担当分担制による効率化が成されている。
 何しろ怪我人が多い。
 負傷者を見付け、それを搬送する係、治療する係、この場所を護衛する係、そして東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、運ばれて来た負傷者達に、食事を配給して回った。
 腕まくりして大量の野外料理を作る。
 捲った袖を、赤十字の腕章で留めた。
 ただの野外料理ではなく、消化を助け、解毒作用や沈痛作用のあるスパイスを用い、食欲を増進させる効果のある物を作るという、陰の心配りも万全なのだ。
 無論、激務の病院スタッフ用に、簡単につまめるようなメニューを揃えることも忘れない。
「なぎさん、こっち配って」
「はあい」
 カガチのパートナー、柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)は、作るのも配るのも手伝う。
「みんな、おいしいごはんたべるんですよー!」
 作りながらも運びながらも、なぎこは鼻歌にしては大声で歌いながらだったが、その歌が、負傷者達の心身を元気付けていた。