空京

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戦乱の絆 第3回

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戦乱の絆 第3回
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地上戦・5

 この戦いにおいて、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)の目的は、ただ一つだった。
「見付けたぜ、シャムシエル!」
 のらりくらりと戦場の様子を窺っているシャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)を発見し、光学迷彩を自らに施し、密かに近づく。
 ヴァイシャリーでの戦いでは逃げられたが、今度こそ、玉砕してでもシャムシエルを倒し、捕らえるつもりだった。

「見付けましたよ、シャムシエル!」
 フライトユニットを装備したパートナーの機晶姫、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が、上空から魔道弓を構える。
「あれ、ボク、見つかっちゃった?」
 見上げたシャムシエルに向けて、ソニアは可能な限り、魔道弓を連射する。
 短い光の矢が、雨のようにシャムシエルに降り注いだ。
「うわっとっ」
 星剣を向けながら身構えるシャムシエルに、グレンが後方から、ジェットハンマーを振り下ろす。
 全ての意識がソニアに向けられていたその隙を、グレンは逃さなかった。
 ハンマーはまともにシャムシエルに叩き込まれる。
「んあっ……!」
 がくんと崩れ折れながら、シャムシエルは後方のグレンを確認する。
「しまった、油断したっ……」
 苦痛に表情を歪めるシャムシエルに、グレンは言い放った。
「シャムシエル。お前は一瞬たりとも野放しにはできない!」
 このままとどめを刺すべきか、捕縛することはできるか? 心の中で判断に迷いつつも、戦闘不能にまでさせるべく、次の攻撃を向けようとしたグレンの体が、突然何かに弾かれた。
「!?」
 いきなり現れた見えない壁に吹き飛ばされた、そんな感じだった。
「グレン!」
 上空で、ソニアが叫ぶ。

「申し訳ない。真剣勝負に横槍を入れるのは無粋だと、理解してはいるのだが」

 いつの間に現れたのか、そこには、一人の男が立っている。
 紳士然としているが、顔の半分が機械となっている、どこか無気味な男だった。
 首も半分が機械なのを見ると、体全体の半分が機械なのかもしれない。
「パパ!」
 シャムシエルが歓喜の叫びを上げた。
「無事かい、シャムシエル」
「うん!」
「パパ……?」
 グレンは眉を顰めた。
「誰だ、貴様」
「これは失礼した。
 私の名は、テレングト・カンテミール。
 可愛い娘を見殺しにはできないのでね。悪いが、連れて行かせて頂く」

 それは、龍騎士にして選帝神である者の名だった。
 さっとシャムシエルを抱き上げ、失礼する、と言った男にはっとして、
「待て!」
 とグレンは叫ぶ。
 だが、後退するグレンの前に、龍騎士が現れて立ち塞がった。
「龍騎士!? 地上に降りてくるとは!」
 龍騎士と戦い始めたグレンの代わりに、ソニアが上空から後を追ったが、戦いの喧騒の中で、何故かすぐにその姿を見失ってしまったのだった。



「……ま、仕方ないわね」
 ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)は、シャンバラの民であり、女王の戴冠式を妨害するのは問題だと、基本的には思う。
 けれど、ヴァイシャリーまでが西についたら、エリュシオンに居るアムリアナ女王の身はどうなるだろう。
 だから今、自分が西シャンバラと戦う為にパートナーの橘 舞(たちばな・まい)と共にイコンに搭乗しているこの立場も、仕方ないものと受け入れている。
 そして、戦いが終わった後、恐らくその責を負うつもりだろうラズィーヤを、ここで死なせないようにしなくては、と思っていた。
「だって最後に誰が、女王に弓引いた責任を取るのよ。
 そんなのあのドリルしかいないじゃない」
 そして、それを最も上手く切り抜けられるのも、彼女しかいない、と。
「戦いは不慣れだけど、ブリジットと一緒なら何とかなるわ」
 今迄も、やってきたものね、と舞も言う。
「東シャンバラはともかく、百合園女学院までがなくなるような事態になってしまうのは嫌」
 イコン操縦は不慣れでも、盾にならなれる、と、静香専用イコンの正面で壁になっていたのだが、三機のイコンが、乱戦を抜けた。

 ヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)アルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)を従えた、ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)の部隊は、戦線を突破して静香専用イコンに迫った。
「契約者同士の戦いか。
 エリュシオンの奴らがこれを高みの見物してやがるのかと思うと、胸糞悪くなるぜ!」
 内心ではそう思うものの、くだらない戦いだからこそ、勝たなくては意味がない。
 ジェイコブは、まずは静香のイコンを護衛のイコン達から引き離す作戦に出た。
 機体名『フロリアン・ガイエル』を操って、囮を担当するアルフレートが静香達を挑発する。

「おや、そこで縮こまっているのは、ヴァイシャリーの女狐とオカマ校長ですかな?
 女王陛下の御意志に逆らい、帝国に尻尾を振って権力にしがみつく大逆賊が、こんなところで最後の悪あがきとは、醜いですな。
 貴様等の命令のせいで、百合園の生徒は一生涯、国賊として後ろ指を指されることになるのですぞ!」

 挑発するパートナーの代わりにイコンの主操縦をする剣の花嫁、アフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)は、その言葉に密かに眉を寄せる。
 パートナーのすることに口には出さないが、
「いくら挑発とはいえ、流石に言い過ぎなのではないでしょうか……」
と思った。
 けれど、それは杞憂に過ぎなかった。
 ラズィーヤの鉄の心臓は、それしきの挑発ではミリほども動かなかったからだ。
「大局を見ることもできないお粗末な脳みそに、説く言葉など何もありませんわ」
 すっぱりと言い捨てたラズィーヤに、静香は口には出さないが
「言い過ぎだよ、ラズィーヤさん……」
と思う。
 だが、ありませんわ、の言葉が終わると同時に、ラズィーヤの親指が、ガトリングガンの安全装置を弾き上げたのを目ざとく見て、
「ラズィーヤさん!」
 と叫んだ。勿論ラズィーヤの耳には入らない。
 アフィーナは、被弾しつつも必死にガトリングガンの連射を回避する。
「駄目だよ、ラズィーヤさん! そんな武器、皆にも当たっちゃう!」
「……静香さん」
 ラズィーヤはにっこりと微笑んだ。

「仲間を信じてあげなきゃ」

 あああ……と静香は力尽きる。
 以降もラズィーヤは、
「初心者ですので上手くは扱えなくて」
とろくに照準も合わせずニンジンキャノンをガンガン撃ちまくって味方イコンの援護に徹し、静香は頭を抱えた。


 強力な武器を幾つも装備する静香の(というかラズィーヤの)キラーラビットには近づけなかった。
 ガトリングガンの攻撃から距離を置いたアルフレートに、ロザリンド・セリナの操るイコンが素早く迫って、攻撃する。
「校長を攻撃することは許しません!」
 爆破などを伴わないように破壊して、戦闘不能になったことを確認すると、それ以上の追い討ちはせずに離れる。
「よっしゃ、無理はしないように頑張ろ!」
 パートナーのテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)の、気を楽にさせようと気遣う言葉に、ロザリンドはふと微笑んだ。

 戴冠式が成功すれば自分の立場が悪くなるだけなのに、ラズィーヤはあえてこの選択をした。
 ラズィーヤの意志と、自分達の戦う理由を、静香の周囲を固める者達は皆、解っている。
 シャンバラは女王アムリアナを斬り捨てたのだと、そんな考えが出ないため。
 万一、戴冠式が失敗しても、手が残せるように。
 ヴァイシャリーを、戦火やゴーストイコンから護る為の力を、エリュシオンから得るため。
(その為の、戦いですよね……)
 ロザリンドは素早くイコンを戻す。敵機はまだ、ニ機残っている。

 パートナーのヴァルキリー、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)と共にイコンに乗り込んだ神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は、神楽崎優子に指示を仰ぎ、
「イコンに乗るのなら、校長とラズィーヤさんの護衛につくように」
と言われて、静香専用イコンの護りについた。
 だが、例え攻撃を受けてもギリギリまで耐え、自ら攻撃をするつもりはない。
 ただ、被害が最小限に食い止められ、早く戦いが終わって東西が統一されて欲しいと、それだけを祈った。
 ジェイコブの機体『フルンズベルク』が、静香イコンの盾となる有栖のイコンに執拗な攻撃を仕掛ける。
(お願い、どうか、こんな意味の無い戦い、もう終わって……!)
「神楽坂さん、戦わないのでしたら、お逃げなさいな」
 携帯が鳴って、ラズィーヤの声が聞こえた。
「で、でも」
 護らなくては。そう優子から指示を受けたのだ。
「有栖お嬢様っ……」
 ミルフィが気遣う。
「邪魔です。お逃げなさい」
 言い放つラズィーヤに、ラズィーヤさん! と静香の声が被った。
「神楽坂さん、僕も、皆も、あなたがこのまま攻撃を受けて倒れたら、悲しいよ」
「だからこれは、正当防衛ね!」
「――右ですわ」
 ジェイコブに、パートナーのフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)が指示を出す。
 ミューレリア・ラングウェイのイコンで、攻撃を担当するパートナーのリリウム・ホワイト(りりうむ・ほわいと)が、槍の一突きを繰り出した。
 ジェイコブは、躱しつつ反撃――しようとしたが、躱しきれずにその攻撃を受け、反撃の方はミューレリア機の盾に受け止められる。
「ちっ」
 ジェイコブは顔をしかめて舌打ちを漏らす。
「……撤退を進言しますわ」
 自機の被害状況、ヨーゼフの機体『ヴィーキング』の様子も窺った上で、フィリシアが冷静に言う。
「……仕方ないな」
 ぐっと口元を引き締めた後で、ジェイコブはそう決断した。

 ヨーゼフのイコンは、ロザリンドのイコンの猛攻に合って身動きが取れないでいた。
 静香専用イコンを相手取るとなった時、パートナーのエリス・メリベート(えりす・めりべーと)
「初めてのイコン戦で、あんな強敵と当たるなんて不運!」
と自らの運命を呪い嘆いたが、今、それ以前に護衛のイコンに苦戦を強いられている。
「ちっ、攻撃できないっ」
 元々ヨーゼフの乗るイコンの武装は、遠距離攻撃向けだ。
 接近戦には向かない上、ドカンドカンと静香イコンから、援護のミサイルが追い討ちをかけてくるのである。
 むしろロザリンド機も含めて当たらないのが不思議だ。
「ヨーゼフ! 撤退だ!」
 防戦一方のヨーゼフに、ジェイコブから指示が飛んだ。
「くそっ」
 大きく距離を開けると、ロザリンドが追って来る様子はない。ヨーゼフはそのまま後退した。

「……何とか、ここは護りきりましたね」
 ロザリンドが息をつく。
「まだ、終わりとはちゃうけどな」
 テレサが肩を竦めた。