空京

校長室

戦乱の絆 第3回

リアクション公開中!

戦乱の絆 第3回
戦乱の絆 第3回 戦乱の絆 第3回 戦乱の絆 第3回 戦乱の絆 第3回

リアクション


良雄
御人 良雄(おひと・よしお)?』
 イーグリットで先行する綺雲 菜織(あやくも・なおり)が聞き返す。
「そう、あの妙な幸運に恵まれてるって噂の御人良雄。黒いイコンは、その御人良雄のために帝国が用意したものだって話だよ」
 天司 御空(あまつかさ・みそら)は、銀翼の鷹のエンブレムのついたコームラントで菜織らを追いながら続けた。
「そして、イコンの周りに滲んでいる黒いモヤは可燃性のものらしい。巧く狙撃して引火させれば、爆発を起こして周囲の敵の隙を誘えるかもしれない」
『……中の御人良雄自身は、さすがに死んでしまうのではないでしょうか?』
 菜織機の有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)からの声。
 御空のパートナー白滝 奏音(しらたき・かのん)が返す。
「……彼の幸運は“存在する”として良いほど神懸かったものだと。そのため、爆発の中心部に居たとしても死に至ることはないと考えられます。……また、この狙撃案はコリマ校長に相談し、許可を取ってあるものです」
『存在する幸運か』
 菜織が零した声に、御空は少し間を置いてから。
「ますます、説得してみる気に?」
『ああ。彼が呼びかけに応じてくれれば、状況を変えることが出来るかもしれない。やはり、少しだけ時間をくれないか?』
「……制空権を取られてしまっている今、あまり余裕があるとはいえないけど――」
 御空は状況を頭の中に並べ、それらを組み合わせ、最適効率の解を導き出そうとして、途中で止めた。
「少しだけなら」
「……御空」
 何か言いたげな奏音の方に振り返り、軽く笑んでから。
「菜織さん、もちろんタイムリミットを設けさせてもらうよ。それに、危険だと判断したらすぐにこちらの作戦を実行するからね」
『了解した、それで十分だ。感謝する』
 そして、美幸が薄く嘆息した気配――が、すぐに彼女は静かに息を詰めた。
「――……ターゲット確認」

 黒い闘気を放つモヒカンイコンが上空を旋回しながら西軍を攻撃している姿を目視で確認する。
「C3、件の良雄機につく。援護を頼む」
『了解。誘爆にはくれぐれも気をつけて』
 御空たちの援護を受けながら、菜織はイーグリットを繰り、黒いイコンへと斬りかかっていった。
「美幸。まずは、こちらの力を示すついでに相手の力量を試すぞ」
「はい」
 黒いイコンが菜織の切っ先を逃れ、反撃を行ってくる。
 そうして、幾度かの接近を繰り返した後、ビル群の裏へと機体を走らせながら、菜織はわずかに目を細めた。
「想像以上の反応だな……」
 と――
『ぅおい、ごらぁ!! ちまちま隠れてねぇで出て来いやあ!! そして俺様に撃ち落されやがれぇ!!』
「――御人良雄か?」
 菜織は小さくごちてから、遮蔽から抜け出し、黒いイコンの前へと飛んだ。
「聞け。君に話がある」
『俺様にゃねえなあ!』
 黒いイコンからの射撃をかわしながら、
「現状を覆すために協力して欲しいのだ! 君はこのままでいいのか!?」
『このまま突っ走らんでどうするってんだ!! このすげぇモヒカンイコンで八面六臂の大活躍を撒き散らして、西のやつらをぶっとばしてやんだよ!! そして、掴む名声と黄色い悲鳴!! 金も女もぜぇえええんぶ、俺様のもんだぜ!! がははははっ!!』
 その清々しいまでの俗物っぷりに、菜織は短く舌を打ち、
「この東西の戦いは望まれて行われているものではない。誰もが戦いたいなどと思っていない。だが、互いの立場がそれを許さないのだ――しかし、君ほどのカリスマを持つ人間ならば、この戦場の流れを変える事も出来るのだぞ!」
『知るかボケェ。俺様に指図してんじゃねえ! このゲブー様のデラックスモヒカンが桃色の内は、何人たりとも俺様の邪魔はさせねえぞ、ごらぁ!』
「…………は?」
 菜織は一瞬、気を取られてしまった。
「菜織様」
「――ッ!」
 美幸の静かだが鋭い声で我を取り戻し、菜織は寸でで黒いイコンからの射撃より機体を逃した。
「待て! 君は御人良雄ではないのか!?」
『ああ゛ん? 御人良雄だぁ? 俺様があんな萎れたソフトモヒカン野郎なわけねえだろうが。俺様の名はゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)!! トロピカルグレートなモヒカン神になる男だ! とくと覚えておきやがれ!!』
 ゲブーの言葉に、美幸が少し怪訝げに問いかける。
「そのイコンは御人良雄の機体のはず。何故、あなたが……?」


 ――出撃前――

「なんだか凄そうなイコンをもらってしまったッスよ」
 御人 良雄(おひと・よしお)は、セリヌンティウスから与えられた黒いモヒカンイコンを見上げていた。
「これは、やっぱり、このイコンを使ってるるさんにアピールしろという、ストレートに神からの……」
「ほぉう、中々いいイコンじゃねぇか。なあ、良雄」
「はへ!?」
 話しかけられた方を見やると、ゲブーとホー・アー(ほー・あー)がイコンの傍に立っていた。
 ゲブーがイコンから良雄の方へ顔を向け、
「このモヒカン差し出せや、ごらぁッッ!!」
「いいいいいきなりッスか!? 」
「四の五の抜かしてっとかますぞ、ごらぁ! 明らかにてめぇのようなソフモヒ野郎にゃもったいねぇだろうが、ごらぁ! 俺様が有意義に使ってやるっつってんだ、ごらぁ!」
「う、い、いや、ちょっ、でも――ぶべらぁッッ!?」
 汗をだくだく垂らしつつ戸惑う良雄をホーの爆炎波が吹っ飛ばす。
「まだスナオになれないというなら、次はもっとエグイところにピンポイントで叩き込むのだ」
 ホーがバキボキと手を鳴らしながら言っていたが、ズタボロで地面に突っ伏していた良雄は返事することすら叶わなかった。


『――と、いうわけなのである』
「君たちは味方からイコンをカツアゲしたのか……」
 ホーの言葉に、菜織は半ば呆れながらこぼした。
『野郎は最近調子乗ってるようだったしな。モヒカン上下ってヤツを身体に教えてやったまでだぜ! がはははは!!』
 ゲブーの笑い声を聞きながら、菜織は軽く自身の額を押さえつつ、
「君はそのイコンが爆発してしまう可能性が極めて高いということを承知で、それに乗っているのか?」
『あン? 爆発だぁ?』
「早く脱出したまえ。君では生き残れないかもしれん」
『阿呆かぁあ! せっかく手に入れたコイツを捨てるわきゃねえだろーが!!』
 と、美幸が、
「菜織様、そろそろです」
「ッ、時間が無い。すぐに狙撃作戦が開始される! 急いでその機体を捨てろ! こちらでフォローする!!」
『何をごちゃごちゃと――』
『ゲブーよ。向こうの言う通り脱出するのだ』
『あンッ?』
『あんたのピンクモヒカン型のイコンを発注している。そっちのが、これよりカッコイイのである』
『ホー、てめえまで何を――ぅごふぅッ!?』
 ゲブーの声が聞こえなくなる。
 どうやら、ホーが強引にゲブーの気を失わせたらしい。
 そして、菜織はイコンから抜け出す二人を回収すべく機体を走らせた。
 間もなく――黒いイコンは御空に狙撃され、援護に向かってきていた従龍騎士たちを巻き込む大爆発を起こしたのだった。


「――やはり、御人良雄は乗っていなかったようですわ」
 旧王都市街の、あるビルの上。
 サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)は、遠くの爆発を眺めながら言った。
 そばのジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)が笑った気配。
「おまえの読み通りだな」
「ええ、結果は」
 サルガタナスは頷き、彼が担いでいるモノへと目を向けた。
「おかげで、“これ”が無駄にならなくて済みそうですわ。『手紙』の方は?」
「抜かりは無い。ヤツがアレに乗っていなかったのなら、今頃こちらへ向かっているはずだ」
 そう返したジャジラッドそばで、エトワール・ファウスベルリンク(えとわーる・ふぁうすべりんく)が緩く拳を握る。
「作戦に必要としたもののほとんどを集められなかったし、仲間を得るために大帝の約束を破ることになってしまいました――でも、今、私たちの手にあるのは、おそらく最も有力なピース」
 小さく息をつき、彼女は続けた。
「これなら、きっと上手くいく。そして、成功さえすれば何も問題は無い……そうでしょう? 和馬」
 振り返ったエトワールの視線の先、如月 和馬(きさらぎ・かずま)は、何やら難しい顔で虚空を見つめていた。
「……試されているのは、良雄の方か」
 彼の呟きが、小さく聞こえる。