校長室
戦乱の絆 第二部 第一回
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メガフロート/イコン戦・2 「僕達でも戦えるでしょうか」 「下手な鉄砲も数撃てば当たるものよ」 地球人の中に、エリュシオンに寝返って第七龍騎士団に所属している者が有る、という事実は、エルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)を憤らせていた。 「でも、もしかしたら帝国の中からシャンバラの利になることをする為っていう人もいるかもしれませんよ」 パートナーのゆる族、身長わずか70センチの愛らしいモモンガが、副操縦席にちょこんと座っている。 「そんなこと、知ったことじゃない。誇り無き売国奴め!」 裏切りは忌むべき行為だ、とエルサーラは断言した。 「帝国に加担する者はすべて敵よ!」 普段、約束は破るためにされるもの、と豪語するエルサーラにしては矛盾している、とペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)は思ったが、本来の彼女は強く信念を持った人が好きだということを知っていたので、フラフラと立場を変える者を許せないのだろう、と思う。 乗り慣れないイコンに乗り、ヴァラヌスを撃退しようと奮い立つほどに。 敵ヴァラヌスの中から、寝返った第七龍騎士団員を判別するのはそう容易いことではない――はずだった。 わざわざ、元々の自機から外部スピーカーを外し、ご丁寧に防水加工を施してまで抱えているヴァラヌスがいさえしなければ。 『お〜っほっほっほっほっほっ!』 先陣を切ってそのヴァラヌスは、メガフロートに接近すると、上陸を待ちきれないとばかりに水中から頭を出し、頭上に取り付けたスピーカーから大音量で高らかな笑い声を上げた。 「挑発が早すぎませんか」 吸血鬼のアラン・エッジワース(あらん・えっじわーす)が言うものの、既に遅い。 『ご大層なものを作って、大掛かりなことをして、生意気アルネ。 メガフロートも遺跡も、ワタシ達が有効活用するアルヨ。 あなた達はさっさと撤退するヨロシ。 田舎者は田舎者らしく、地べたに這いつくばっているものアルヨ』 その挑発内容は、明らかに、エリュシオンのやり方ではない。 思っていても、こういうセリフで表現されたりはしないだろう。 という予想通り、それは諸葛 霊琳(つーげ・れいりん)によるものだった。 エルサーラ達の乗るトニトルスは、その挑発を最後まで聞かずに発砲した。 片や支給されたヴァラヌス、片や元々イコン乗りでは無い、共に乗り慣れない者同士、軍配は、ばらまきに上がった。 ヴァラヌスのクロウは当然届かず、ビームキャノンは水中からは格段に威力が落ちる。 水中からくぐもった爆音を上げ、霊琳のヴァラヌスは、ぶくぶくと海中に沈んで行った。 ロイヤルガードとなった時、自分は女王の盾となる。剣ではなく。と何度も言っていたのを、夏野 夢見(なつの・ゆめみ)のパートナー、ヴァルキリーのフォルテ・クロービス(ふぉるて・くろーびす)は聞いていた。 『ダイアナ』を得た時、周囲の足手まといにならないようにするのだと、操縦の練習を繰り返していたのを、ずっと見ていた。 夢見が、遺跡の発掘ではなく、フロートで待つと言った時、フォルテは少し意外に思ったが、それは万一の事態になった時、こうして護る為だったのだと理解する。 2人の搭乗するクェイルは、飛行能力も水中対応もしていない。 落下したり引きずり込まれたりした時に備えて、メガフロートの外周にある係船柱に、命綱のワイヤーロープを結び付けた。 それは、命綱であると同時に、逃げないという夢見の覚悟の証でもあったのだ。 フロートの端で、水中から近寄る敵ヴァラヌスを見逃すまいと海面を凝視する。 水中を狙うのは難しいと知っている。だが夢見は自分を信じた。 「あたしの目が黒いうちは、帝国の勝手にはさせないんだから!」 こんな時に、とは思った。 「……いえ、こんな時だからこそ、なのでしょうね」 「や〜れやれ。帝国ってさ、もっと余裕のあるトコだと思ってたけど。 不意打ち紛いのことするくらいの実力なのかな?」 悪びれずに言う強化人間のミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)に、パートナーのシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)は笑った。 「そういう風に思っていた方がいいと思います」 不意打ちに近く、相手が、初めて対峙する機体でも。 「これ以上、好きにはさせません……!」 「ま、ちゃっちゃと片付けちゃおー!」 シフは敵機が水中にいる段階で確実に仕留めて行こうとするが、水中の敵は狙い難かった。 「ああもう、じれった――い!」 敵機を探して水際を走り回りながら、ミネシアが叫んだ。 「えっ?」 その動きにシフは目を見開く。 ミネシアは、敵機に向かって飛び込んで行ったのだ。 その手ががっしと敵ヴァラヌスを掴まえた時、そこは水中だった。 「シフ!」 味方機の同様した叫びが聞こえる。 シフ達のイーグリット、『コキュートス』は、水中に適応した装備は無い。 もつれ合いながら、2体のイコンは、海中へと沈んで行った。 (卑怯だよねー) 場違いのようにも思える呑気な口調が伝わってくる。 (そうですね) (エリュシオンて、ちょっと傲慢な気がするー) (ええ) パートナーの強化人間、ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)の声に、端守 秋穂(はなもり・あいお)も精神感応の声で応える。 (そんな奴等の思い通りにさせないために、ユメミも頑張るー!) (お願いします。僕は攻撃に集中しますから、索敵をよろしくお願いしますね) (了解〜。頑張るー) 2人の乗る『セレナイト』は空中用のイーグリットなので、2人は上空から敵機を狙い、メガフロートの周りを何度も旋回する。 ある程度以上近付けば撃つつもりだったが、敵も当然それを解っていて、ある程度以上の深度を保っているのだ。 だが何故か、水中に居る内は殆ど攻撃してこない。 それは恐らく、敵ヴァラヌスの武装によるものだろう。ヴァラヌスの装備は、ビームキャノンであるようだった。 つまり、攻撃する為には必ず上がってくるはずだった。 「遠距離攻撃は難しそうですね」 東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)は、第七龍騎士団としてヴァラヌスの支給を受けたが、その攻撃方法に戸惑っていた。 水中移動の為に調整されたヴァラヌスだが、メインの武器は、背に背負ったビームキャノンのままである。 水中でビームは格段に威力が落ち、使って無駄にエネルギーを浪費するくらいなら使わない方がましな程である。 水中で使えない以上、水上に出るしかないのだが、空中にはイーグリット機が多数旋回している。 キャノン砲が背にあるので頭だけを出す、というわけにはいかず、体全体を水上に上げてしまえば、いい的になってしまうというわけだ。 他のヴァラヌス機は、最初から水中での戦いは想定していないようで、まずフロート上に上がることを前提と考えている。 武器の変更が無いのはその為だろう。 「どうする」 と、パートナーの機晶姫、バルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)が訊ねる。 「あとは水中での格闘戦ですか」 だがそれは、マッシュ・ザ・ペトリファイアーが実践し、既に撃退されている。 「経験値は確実に向こうの方が上ですからね、うまくやりませんと」 味方の支援に徹し、素早く離脱できるように、と思っていたが、そうもいかないようだ。 ――それにしても 「まさか、ヴァラヌスのパイロットが……」 ふと苦笑する。 乗り込む前、シャムシエルに話しかけてみたのだ。 「今度機会があったら、カンテミール公と話をしてみたいものです」 と。 シャムシエルは、まるで興味なさそうに、ふーん、と言っただけだった。 ヴァラヌスに乗り込んで行くシャムシエルを見送って、雄軒は苦笑する。 「……まさか、殆どのヴァラヌスにシャムシエルが乗っているとは、連中も思うまいな」 代弁するようなバルトの言葉に、肩を竦めた。 「全く、いつだってあたし達の周りにあるのは戦いばかりだね」 益田 椿(ますだ・つばき)は自嘲するように思った。 「まあ、あたしみたいな強化人間には、戦い以外に居場所はないのかもだけど」 とにかく、戦いは始まった。 あれこれ考えるのはやめにして、共にイーグリットに乗り込み、パートナーである榊 孝明(さかき・たかあき)のサポートをするだけだ。 「シャムシエル機はどれなんだ?」 迎撃しながら、探す機体が見つからずに孝明が焦りの混じった呟きを漏らす。 てっきり、シャムシエルは特別な専用機に乗っていると思っていたが、襲撃してきたのはどれも同じ、龍型のイコンだった。 どれにシャムシエルが乗っているのか判別できない。 指揮官機と思しき者の機体も、よく解らなかった。 「精神感応に反応しないものか?」 と、椿が試してみる。だが、やがて渋い顔をして首を横に振った。 「……だめだ。 反応してるようなしてないような、何か混沌としててよく解らない」 「……シャムシエル。 お前の……いや、お前に指示を出している者の目的は何なんだ?」 それを問い質したかった。 「当たって砕けるしかないな」 同様に、イーグリッドを通常より高い高度から全体を伺いつつ、何とか捕獲したいとシャムシエルの乗る機体を探す柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が、このままでは埒があかない、と決断した。 (当てずっぽうですか) 精神感応で、パートナーの強化人間、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)が言うのに顔を顰める。 「嫌な言い方するな。勘と言えよ」 (はい) どちらも同じようなものだったが、素直に謝るヴェルリアに肩を竦め、そして、気持ちを切り替えた。 「――ま、いい。行くぞ。 イクスシュラウド、限界加速で降下。敵機動力に照準!」 (了解) クレイモアを前方に突き出すように構え、比較的回避困難と思われる、今正にフロートに上陸しようとしているヴァラヌスの内の一機に狙いを定める。 「くっ!!」 ドン、と体が跳ねた。 敵ヴァラヌスごと、フロートに体当たりしたような状況に、衝撃が身を貫く。 「やったか!」 (目標に的中。敵は身動きできません) クレイモアは、フロート側面最上部にヴァラヌスを縫い付けている。 そこへ、イコン戦闘のさなかを、生身で走り寄って来る人影を目にする。 操縦席をこじ開けて、パイロットを引きずり出すつもりだろう。 イコンに乗っている自分には出来ないことなので、真司達は彼等に任せることにした。