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リアクション
メガフロート/イコン格納庫
「久世、渋井、皇及びそのパートナー、エリュシオン兵の占拠区画に到着した。
これより海中エレベーターを奪還する」
管制室に連絡を入れ、久多 隆光(くた・たかみつ)は仲間達に合図した。
「ちくしょう、奴等、突然襲撃してきてエレベーター区画を占拠とか、ふざけてるぜ……」
渋井 誠治(しぶい・せいじ)が顔を顰める。
「恐いのか?」
先を歩く皇 彼方(はなぶさ・かなた)が振り返り、慌てて
「び、びびってないぜ!?」
と答えた誠治だが、うっかり声が裏返ってしまい、それに彼方が苦笑して、更に慌てた。
落ち着け、と自分に言い聞かせる。
ここで彼方の役に立てなくてどうする!
「後続を待たずに攻撃を仕掛けるの?」
彼方のパートナー、テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)が、交信をした隆光に問う。
「早い方がいいだろう」
「そうね」
返答には頷いた。
「援護頼む」
彼方が、光条兵器を構え持ちながら一旦誠治を振り返り、誠治は
「了解!」
と銃を構えた。
「建国が成されても、平和になるのはまだまだ先のことのようね……」
更にその味方達の援護の為、隠れ身を使って物陰に隠れる渋井誠治のパートナー、剣の花嫁のヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)は内心で溜め息を吐く。
それでも自分は、できるだけのことをする。前女王アムリアナの意思の通りに。
人数は、そう多くない。
彼方やテティス、隆光のパートナー、英霊の童元 洪忠(どうげん・こうちゅう)が直接攻撃を仕掛けるのを、隆光や誠治らが援護する。
隆光がなるべく敵の急所を外して攻撃するのを、タイミングを合わせて攻撃を仕掛けながら、洪忠はその甘さに内心で苦笑した。
――だが、嫌いではない。だからこそ、自分は彼に従うのだ。
だから攻撃の息を合わせてチェインスマイトの連続攻撃を仕掛けながら、自分もまた、狙いを鎧の隙間などに合わせて行く。
メガフロート、そして遺跡を制圧する為に、エリュシオン兵もここを重要ポイントと思って護りを残したのだろうが、既に奇襲を掛けて来た兵の大半は海底遺跡へ降りてしまっていたこともあり、程なくして、敵兵を掃討することに成功した。
「エレベーター前、撃退完了」
隆光が管制室に報告する。
「彼方さん、怪我は」
誠治の問いに、
「かすり傷だ」
と答え、彼方は剣を収める。
「――ここは取り戻したな」
だが険しい表情は消えない。
「次は何処だ?」
まだ終わってはいない。
誠治や彼方のHCには、刻々と状況の変化に合わせ、情報が送信されていた。
フロート内部が、外部へ解放されている一角がある。
イコン格納庫だ。
警報と共に、格納庫内は緊張が走り、俄かに慌ただしくなった。
「こんな時に敵襲!? やってくれるじゃないの!」
荒井 雅香(あらい・もとか)が、いっそ不敵に笑った。
「全く、冗談じゃないよ! 中開けちゃってる機体もあるってのに!」
一方で、呑気に整備を楽しんでいた機晶姫のクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が毒づく。
「私のトールマックは、出られますか!?」
「行けます!」
たまたま近くで警報を聞き、格納庫に飛びこんで来た須藤 雷華(すとう・らいか)に、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)が答える。
イルミンスール学生である雷華の機体はアルマインで、実を言えば天御柱学園の整備士達は、アルマインや姫神司のアルジュナなどを、これまであまり触ったことがなかった為、物珍しさに真っ先に、というよりもむしろ我先に作業を奪い合い、処理済という裏事情があったりもする。
「よろしくね、頑張って」
雅香の激励に、雷華はありがとう、と応える。
「よし、行くぞ、雷華」
操縦席からの出撃前のチェックを素早く済ませ、オールグリーン、と呟いて、パートナーの英霊、北久慈 啓(きたくじ・けい)が言った。
「機体が水中に適応しないのが無念だが」
「仕方ないわ、戦闘の経験もあまり無いし、上空から火砲支援に徹しましょ。
この際弾切れのことは考えないで撃ちまくるわよ!」
「了解」
最も、その支援砲火を生かすには、地上で戦うイコンとの連携が重要になってくるわけだが。
最悪の場合を想定し、他のイコン乗りとの接触や打ち合せも、啓は既に済ませてある。
「出撃!」
雷華が操縦桿を引いた。
「機体は壊しても……いいですが……無茶はしないで下さい」
「了解! 整備サンクス!!」
会話を好まない神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)がぽつぽつと送り出す言葉も最後まで聞いているのか、慌ただしくパイロット達は自らのイコンに搭乗し、出撃していく。
「あなたは、出撃しなくていいの?」
紫翠のパートナーの強化人間、橘 瑠架(たちばな・るか)が、整備を手伝いながら訊ねた。
彼は整備班にいるが、本来はイコン乗りなのだ。
「人手が不足しているのなら……出ますが……自分、操縦下手ですので……」
「そんなことないと思うけど」
足手まといになりますから、と言う紫翠に、瑠架は肩を竦める。
「せめて……整備の手伝いでお役に立てれば、と……」
「ま、いいけど。本当に裏方が好きね……」
微笑む紫翠にそう言って、瑠架はそれ以上言うのをやめ、長谷川真琴の指示を受けて走り出す紫翠の後を追った。
「神楽坂さん、こちらの機体をお願いします! 調整終了、あとは閉めるだけです!」
真琴は指示を飛ばして、次の機体に飛び付く。
「全くもう、ネオアクアポリスを取られたら、今遺跡に潜ってる皆もヤバいじゃん!」
そうならないよう、パイロットの皆が一刻も早い出撃をできるようにしなくては。
口を動かしつつ手も動かして、クリスチーナが真琴と共に、次々イコンの出撃準備を終わらせる。
まさかこんな事態になるとは思わず、それまで皆、和気藹々とゆったりやっていたので、つい文句も出てしまう。
「おいっ、まだか!?」
イライラと点検終了を待つ和泉 直哉(いずみ・なおや)が、待ちきれずにイコンの足元に走り寄った。
「もうちょい待ちな。乗り込んでていいよ」
真琴は集中を途切らせず、クリスチーナが振り返らないまま答える。
「よし、結奈、行くぜ」
直哉は、妹でもある強化人間のパートナー、和泉 結奈(いずみ・ゆいな)を促した。
「兄さん、張り切り過ぎて失敗しないでね」
エリュシオンのイコンと戦うのは初めてだ。油断せずにいかなくては。
結奈なりに、兄を落ち着かせ、励まそうとそう言うと、直哉は苦笑して、
「わかってる」
と答える。
結奈は調整を終わらせようとしている愛機『スプリング』にも、そっと声をかけた。
「一緒に戦おうね。私達は、三人でひとつの『スプリング』なのだから」
格納庫内に走り込んで来る複数の気配に気付き、振り返りながら雅香はフンと笑った。
「ここも、狙われるとは思ってたけど」
格納庫の制圧を狙ったエリュシオン歩兵だ。雅香は臆することなく銃を構える。
「イコン整備士をなめないで欲しいわね!」
「こちら、終了です! イワンさん、誘導お願いします!」
真琴の声に、雅香のパートナー、イワン・ドラグノーフ(いわん・どらぐのーふ)が、直哉のイコンを出撃させる為に誘導板を手に駆け寄って来る。
「敵のイコンは水中用に調整されてやがるらしい。
厄介だが、逆に言えば、恐らく飛行能力はねえはずだ」
システムチェック終了、と言う結奈の言葉を耳にしつつ、直哉はそう呟いた。
自分のイーグリットには敵には無い飛行能力がある。
ならばそれを利用した戦い方をするまで。
「敵の上空を陣取り、頭を見付けて押さえるぜ!」
「うん」
「――!」
誘導していたイワンが、びくりと背筋を走るものにはっとした。
がばりと振り返ると、エリュシオンのイコン、ヴァラヌスが一機、格納庫に飛び込もうとしている。
「ちっ! 来やがったか!」
「大物が来てくれたじゃない!」
人間相手なら、戦いようもあるというものだが、イコンに暴れられては自分では迎撃できない。
雅香が苦笑を漏らす。
スプリングが身構えるなり、アサルトライフルを発射した。
「うお!」
格納庫内の整備士達は耳を押さえる。
直哉機は、撃ち抜かれて傾ぐヴァラヌスを受け止め、格納庫から出ながらその外へ放り投げ、そのまま出撃して行く。
「――残り数機! 全部出すよ!」
雅香が叫んだ。
敵イコンの襲撃に怯まず、全機の出撃が完了しても、格納庫内の脅威が去ったわけではなかった。
ここは、メガフロートを攻略する上で有効な突破口であるからだ。
「救援要請……!」
イコンを出撃させることを優先してそれどころではなかったが、はたと気付いて雅香は、格納庫内の壁に設置されている通信機に駆け寄る。
緊急時の管制室へのホットラインが存在する。
これが一番早く連絡できる、と判断したのだ。
だが、救援は雅香が通話機を手に取るより早く来た。
「皆無事か! 遅れてすまない!」
管制室では既に、格納庫での状況をモニターで確認していた。
「負傷した者はおるのか!」
パートナーの魔女、フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)と共に駆け付けた酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、侵入してくるヴァラヌスを見、表情を険しくする。
「貴様等に、ここはやらないぜ!」
剣を抜き払いながら呟いた。
今、遺跡には仲間が、かつて蒼空学園で教師をしていた頃の教え子達もいる。
彼等を護る為にも、ここを制圧されるわけにはいかなかった。
詳細を知らなくとも、アイシャがアムリアナから受けた使命を全うさせる為にも。
「そして、親友を想う理子様の為にもだ!」
ヴァラヌスがキャノン砲を撃って来る。
陽一はそれを躱して間合いを詰めた。
壁と床が爆撃を受け、煙が充満して、キャノン砲はここで使うべき武器では無いと思ったのか、一発撃った後は、ヴァラヌスは長い尾を振り回して来る。
「っと……」
陽一は身を沈めてそれを躱した。
当たればダメージは大きいが、向こうも、標的が小さい為に捉えきることができないのだろう。
陽一は一気に間合いを詰めると、足を狙って攻撃を仕掛けた。
やがて、完全には消えないものの、イコンの足元を這うようにしていた煙が外に流れ、視界が晴れて行く。
機動力を失った後でとどめを刺され、横転するヴァラヌスの操縦席は、既に空になっていた。
「逃げられたか……」
陽一は舌打ちを漏らす。
「ありがとうございました」
真琴達が走り寄って来た。
「ああ、無事で良かった。
奴等、電撃作戦らしくて、イコンの大量投入はしてないらしい。
多分こっちにはもう来ないと思うから安心していいぜ」
陽一の言葉に、格納庫内に安堵の空気が広がった。
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