空京

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戦乱の絆 第二部 第一回

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戦乱の絆 第二部 第一回
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リアクション




メガフロート/イコン戦・1

「あれが海中エレベーターだね」
 マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)は、第七龍騎士団に所属する者として、パートナーの獣人、魄喰 迫(はくはみの・はく)と共にヴァラヌスに搭乗し、海中からメガフロートに近付いていた。
 目指すは、メガフロートと遺跡を繋ぐ、海中エレベーターだ。
「あれをやっちまえば、シャンバラの奴等は遺跡に降りられなくなるってわけだな」
 メインパイロットである迫が、にやりと笑う。
「そういうこと。行くよ〜」
 マッシュの声と共に、迫は戦闘態勢をとってエレベーターに向かい、攻撃を仕掛けた。
 だが、すぐにマッシュははっとした。
「避けて!」

「――させませんよっ!」
 マッシュのヴァラヌスに立ちはだかるように迫って来たのは、火村 加夜(ひむら・かや)のイーグリット・アサルト『アクア・スノー』だった。
 水中移動可能なイコンが、水中の攻撃に備えていたのだ。
「おっと!」
 内心冷やりとしながらも、迫は辛うじて加夜機の攻撃を躱した。
「下から回り込んで!」
 加夜は、操縦を担当するパートナーの強化人間、ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)に、マッシュのヴァラヌスの動きを捉えながら指示を出す。
(了解だよ〜)
 それに精神感応で応えを返し、ノアはヴァラヌスの背後に回った。
「ちぇ、読まれてたみたいだねっ」
 加夜機に攻撃を阻まれたマッシュは肩を竦める。
「妨害は想定の範囲内だぜ!」
 迫が迎撃しようと操縦桿を握る手に力を込めたが、その時、2人にとって全く予想外のところから非難の声が響いた。
「何やってんだよ! メガフロートの破壊なんて、誰も命令してないよ!」
「シャム?」
 マッシュは、援護に入ってくれるかと思っていたシャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)の怒鳴り声にきょとんとする。
「えっ、駄目だったの?」
「当り前だろ! 壊したらこの後ボクらが使えなくなっちゃう! もー、足手まといになるなら帰れっ!」
 ガン、と振動が響いた。
 シャムシエルの声に気を取られていて、加夜の攻撃に後手を取ったのだ。
「しまった!」
「水中だけど、この距離なら!」
 加夜のイコンが、マジックカノンの引き金を引いた。
 至近距離での銃撃は、確実にヴァラヌスの動力部分を捉え、撃墜されたヴァラヌスは、身動きできずに海底に向かって沈んで行く。
「くそっ、やっぱ水中じゃやりにくい!」
 慣れない機体の上に水中という状況に、通常より操縦が難しい。
 やられたね、とマッシュは溜め息を吐いた。
「しょうがないなあ、脱出するよ」
 マッシュの言葉に、迫は舌打ちをひとつした。

「まず、ひとつ」
 ちらりと海中エレベーターを見やって、ノアがほっと呟く。
 この重要ポイントを、攻撃の手に晒さずに済んだ。
「まだですよ」
 気を引き締めるように言う加夜にノアは
「わかってるよ」
と答えた。敵のイコンは全て、海中から来るのだ。
 水中に対応していない仲間達の殆どは、水中の敵に対する良策を持たない。
 敵を全て撃墜させることはできなくても、彼等が少しでも、ヴァラヌスに対し戦いやすくできるように、と。



 メガフロート屋上部分は、管制塔がある他は、殆ど建築物らしいものはなく、内部に下りる出入口部分の他には遮蔽物となるようなものも無い。
 それは、ネオアクアポリスの屋上が、イコンや飛行機の発着陸の為の滑走路となっている為だ。
 ちなみに管制塔は飛行機を誘導する為のもので、メガフロート全体を把握する為の管制室は、内部に存在する。
 つまりメガフロート上部のイコン戦闘において、隠れる場所は無かった。

「隠れたりなんざ最初からするかよ!
 行くぜ翔! アリサ! オレ達の力を見せ付けてやろうぜ!」
「自分も、サポートするでえ! 鬼羅ちゃん、翔ちゃん、行くにぇっ」
「噛んでんじゃねえ!」
「いや、気持ちは同じだが、オレ達は防衛な」
 奮起する天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)と気合いが空回るそのパートナーの機晶姫、リョーシカ・マト(りょーしか・まと)のやりとりに、辻永 翔(つじなが・しょう)の苦笑が返る。
「護りも重要だ」
 アリサ・ダリン(ありさ・だりん)が言った。
 むしろ最も目立ち、狙われ易い場所である。ここの防衛は重要だった。
 故に翔とアリサは、攻撃、迎撃を仲間達に任せ、メガフロート内部への入口と管制塔の防衛に回るのだ。
「じゃ、智緒達も?」
 水中から来るという急な敵襲に、水中から空中の機体が確認しづらいよう、
グリフォンに光を反射させる塗装をお願いしておけばよかった〜」
と悔しがっていた、ヴァルキリーの北月 智緒(きげつ・ちお)が、パートナーの桐生 理知(きりゅう・りち)に訊ねる。
「翔君がそうするなら」
 翔の援護に入りたい、と言っていた理知は、翔と共に防衛に徹することにした。
「おっけー」
と智緒は頷く。
「うおお! だったらオレ達もだっ!」
 鬼羅も叫んでイコンを翔機の横につける。
「無理しないでいいんだぜ?」
 機体ごしでも解る、戦う気満々の鬼羅に翔はもう一度苦笑するが、
「いいんだよ!」
と鬼羅は考えを変える気はないようだった。


 迎撃する側は、水中から上がらせまいとして水面に上がってきたヴァラヌスへ発砲する者と、こちらに有利な場所に誘う――つまり上陸させようとする者に分かれた。
 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)達の乗るイーグリット・アサルト、『天武神』は、まずは敵機を海中で撃墜できればと狙うことにするが、水中を移動する標的に当てるのは、相当に難しかった。
「信長。とうとうエリュシオンの奴等、本格的に動き出したな」
 敵機を探して天武神をメガフロートの際へ寄せながら、忍はパートナーの英霊、織田 信長(おだ・のぶなが)に話しかける。
「まあ、大体は予測できていたことじゃがな」
「――なあ信長。パラミタは今、どんな道を辿ろうとしているんだろうな」
 一歩、進むごとに、混乱と災禍が渦を巻く中を、深みに嵌って行く気がする。
 本当に、この道の果てには明るい未来があるのだろうか?
「……それは、私には解らぬ。
 じゃが、どんな道だろうと、後悔のない選択をし、信じる道を進めば良い」
「そうだな」
 諦めるわけにはいかない。終わらせるわけにはいかなかった。
 やりたいことは、まだ沢山あるのだ。
「弱音を吐いたな」
「気にするでない。さあ、行くぞ!」
 不敵に笑って、信長は前を見据えた。


「見学に来たつもりでいたのですが……こんなところで実戦ですか」
 あくまでも、月舘 冴璃(つきだて・さえり)の口調は冷静だった。
「何て言うか、いつかの時代の日本軍を彷彿とさせるようなことをするよね、帝国は」
 エリュシオンの宣戦布告と、同時にフロート内に鳴り響いた警報に、半ば呆れたように、冴璃のパートナー、強化人間の東森 颯希(ひがしもり・さつき)も言った。
「まあ、来たからには迎え撃つまでだけどさ!」
「……そうですね。行きましょう」
 敵は、何故かあまり水中からは攻撃して来ない。
 上空を暫く滑空してそう判断すると、冴璃達のコームラント、『アーラ』は、水面ギリギリの位置を飛行して、敵機を捕らえようとする。
 こちらも飛行状態の上、敵も移動している。
 この状態で更に水中にいる敵を狙い撃つのは至難の技だが、仮に撃墜されたとしても、ホバーユニットを装備しているから沈むことはないだろう、と判断した。
「まあ、そんなヘマはしないけどねっ」
 冴璃は安心して敵に集中して、と颯希は笑い、目視で捉えた水面の影を逃がさず追いかける。
 ピームキャノンを撃ってみて、この武器は水中では適さない、と感じ取った。
「冴璃、アサルトライフルで!」
「了解」
 冴璃の三度目の攻撃で、颯希はヴァラヌスの被弾、爆沈を確認した。


「エリュシオンめ……やはり攻めて来たか……!」
 遅かれ早かれ、来るとは思っていた。
 敵の強襲先であるこの場に自分が居たことを、むしろ僥倖と思うべきか。
 ジェシカ・アンヴィル(じぇしか・あんう゛ぃる)は、迎撃する為にパートナーの機晶姫、ステイア・ファーラミア(すていあ・ふぁーらみあ)と共にクェイルに乗り込みながら思う。
「イコン戦は不慣れだが……足止めくらいにはなれよう」
 むしろ戦闘自体よりも、状況を把握し、敵勢力と戦況を全体に伝達するのが、教導団に所属する自分の役目だと思う。
「……何故、このシャンバラをそっとしておいてくれないのか」
 スティアが暗い表情で言う。
「エリュシオンほどの大国が、一体この国の何を狙うのか……。
 だが、甘んじて滅ぼされるわけには行かぬのであります」
 厳しい表情で言ったジェシカに、スティアも頷いた。
「このイコンでは、水中戦は無理だ。
 連中が上がってきたところを狙撃するしかないぞ」
「了解」
 メガフロート外周の距離の何処から、敵イコンが上陸してくるかははっきりしない。
 どこから近付いてくるかも定かではないのだ。
 それでも、ジェシカは、敵イコンの数がそれほど多くはないらしいことを判断した。
 エリュシオンにとって、宣戦布告と同時の、これは奇襲作戦だ。
 大掛かりな部隊編成ではなく、少数精鋭での電撃作戦なのだろう。
 そう判断した時点で、ジェシカは借り物のHCでそれを管制室に連絡した。