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リアクション
1.海底遺跡・入口
海溝の底に沈んだ巨大な遺跡だった。
一条の光も差しこまぬ水底に、5000年間忘れられたはずの神殿風の建物が姿を現す。
時折淡く光って見えるのは、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が張った結界の為だろう。
今、遺跡の石段を登り、入口を目指す一団の姿があった。
半壊したアーチ状の大きな門を抜けると、アーデルハイトは肩で大きく息をした。
「いかがされたのですか? アーデルハイト様」
手を差し伸べるのは、ロイヤルガードのルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)。
パートナーのエリオ・アルファイ(えりお・あるふぁい)が小さな体を支えた。
イルミンスール生のホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)やリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)、モップス・ベアー(もっぷす・べあー)も慌てて駆け寄る。
ホイップは手に、星杖・シナモンスティックの明り。
アーデルハイトが転ばぬよう照らす。
周囲の者達も、外野から心配そうに彼女の様子を見守る。
それもそのはず――いま、この遺跡の結界を維持しているのは、かの小さな魔女の力だけなのだ!
「大丈夫じゃ」
アーデルハイトはいつもの笑みを見せると、大儀そうに片手を振った。
「ちぃっとばかり、疲れただけじゃ。
これだけ大きな遺跡じゃからのう……」
ふうっと、大きく息を吐き切った。
「海溝の底ともなれば、圧力を安定させるだけでも、並々ならぬ力が必要でな。
そうした次第で、私はついて行くだけで精いっぱいじゃ。後は、頼んだぞ!」
一行は、ルドルフ、リンネ、ホイップ、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)、パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)らのロイヤルガードを先頭に、アーデルハイトを中心にして進む。
彼女を囲むのは、彼女に縁の深いイルミンスールの生徒達。
それは、彼女への敬愛やら、親しみやら、信頼やらの表れでもある。
だがそれは、イルミンスール生に限ったことではない。
「アーデルハイトは……」
そうした日頃の気安さから、薔薇の学舎のスレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は気軽に尋ねたのだった。
「最後の女王器を見つけて、本当にアイシャに渡ちまうつもりなのか?」
「そうじゃが……何か、不都合でもあるのか?」
スレヴィは眉をひそめて、存念を伝える。
「俺は、アイシャは『アムリアナ様』ばかりで、自分の考えがなくて……何考えてんだかわからない!
女王様なんだからさ! もう少し自分の意見があってもいい、と思うんだけど。
だから、さ。
女王器が見つかったら、しばらく預かって貰いたいんだが……無理か?」
「ふむ、なるほどな」
アーデルハイドは頷いたが。
「じゃが、女王様を疑うというのは、不敬というもの。
申し訳ないこと……じゃが」
アーデルハイトは少し考え込み始めた。
しかし、そのまま一行は遺跡の入り口を目指したのだった。
目の前に、巨大な神殿と見紛う半壊した建物がそびえたつ。
その、ぽっかりと空いた、太古は扉がついていただろう大きな四角い入口の前で。
「さて、固まっていてもはかどらないな……分かれることにするか」
ルドルフの提案で、一行は以下の隊に分かれて、捜索を開始することとなった。
・アーデルハイトを中心にした本隊。
(ホイップとリンネは、ここ)
・ルドルフを中心とした隊。
・セイニィとパッフェルを中心にした隊。
・ロイヤルガード「皇甫 伽羅」の隊【理子’Sラフネックス】。
・単独の「女王器探索」。
そして、入口付近で追手の足止めを図らんとする「帝国軍迎撃隊」。
不意に、ロイヤルガード達の携帯電話がけたたましく鳴った。
着信表示は海上の部隊から。
「何!? こちらへ帝国軍が向かっただと?」
チッと舌打ちしたのは、セイニィ。
体内から星双剣グレートキャッツを取り出す。
「こんなに早く、動かれちゃね!」
だが戻ろうとしたセイニィの腕を、パッフェルがつかんだ。
「駄目、セイニィ。
女王器を捜す方が先決。ロイヤルガードでしょ?」
「うっ」
セイニィの動きが止まる。
それに、とパッフェルは言葉を続ける。
「彼らを信じましょうよ!」
開いた方の手で、門の前を指さす。
そこでは――水神 樹(みなかみ・いつき)らの迎撃隊のメンバーが、帝国軍の兵士達、及びクローン・シャムシエル達を打つべく準備をはじめていた。
パッフェルらの視線に気づいて、武器を軽く掲げて見せる。アーデルハイトが陽気に笑った。
「そういう訳じゃ、パッフェル、セイニィ。
心配無用! では先を急ぐとするかのう?」
捜索隊のメンバーは、本体から順に、遺跡の中へ侵入して行く――。
シャムシエルをはじめとする帝国軍の追手が遺跡に到着したのは、直後のことだった。