校長室
戦乱の絆 第二部 第一回
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5.女王器の捜索〜セイニィ&パッフェル隊〜 「セイニィとパッフェルを中心にした隊」の結果はどうだったであろう? ■ セイニィとパッフェルの隊がその道を選んだのは、シャムシエルに追われて、岩壁トラップの向こうに逃げ込んだ後の事だった。 「分かれ道かぁ……」 う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、とセイニィは首を捻る。 アーデルハイトとルドルフの消えた通路を選ぶ気はない。 「皆さん同じ道を選んだら、全滅は必至でしょうね?」 その弥十郎の助言は、この場合、至極正しいと思われたからだ。 そしてそれは、この場にいる隊員達――。 セイニィ。 パッフェル。 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)。 ファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)。 桐生 円(きりゅう・まどか)。 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)。 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。 重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)。 緋山 政敏(ひやま・まさとし)。 カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)。 以上10名。 全員の意見を代弁していた。 「なぁ、セイニィ。それに、パッフェル」 緋山 政敏は逆に、と尋ねた。 「2人は何も感じないのか? その、女王器の気配とか。こっちじゃないの? とか」 「んなもん、わかるわけがないでしょ!!」 セイニィは馬鹿な事を言わないで! と言わんばかりの権幕だ。 だがパッフェルは違う見解だったようで。 「どうして? そう思うの」 政敏に聞き返す。興味を持ったようだ。 「うん、ほら! 女王器ってさ、女王の血を引く者しか扱えないだろ?」 勢い込んで、パッフェルに向けて語る。 彼は諸々の理由から、ここには「代理の石像」がある! と信じ込んでいた。 だとすれば、女王の関係者であれば、何か感じることが出来るのではなかろうか? と。 「心を落ち着けて、意識を中へと向けてみてくれないか。 何か感じるものや方向はないか?」 だが彼の思惑に反して、セイニィ達は首を横に振るのだった。 (初めから分からないのか? あるいは、これだけ荘厳な神殿風の遺跡なのだから魔法的な「警備システム」でも働いているのかもしれない……) 政敏はそう考えて、追求をやめた。 分からないことに時間をかけても、効率的でないからだ。 「というわけで。 こんな時の『専門家』でしょ!」 セイニィはフッと笑って、ウィングを紹介する。 「この隊には腕に覚えのある者はいても、女王器を探せそうな奴がいないでしょ?」 「だから、ウィングさんに頼んだのよ」 落ち着いて言う当たり、どうやら助言はセイニィではなく、パッフェルから出たもののようだ。 「これだけの遺跡であれば、壁の一角や足下に、手掛かりがありそうなものよ。 5000年前ともなれば、考古学に詳しい物の知恵が必要。 そして道行く明りは、私達十二星華が照らして行くわ」 「えーと、ただいまご紹介にあずかりました、ウィング・ヴォルフリートです。 で、彼女は、パートナーのファティ・クラーヴィス」 「よろしくお願いしますわ、皆様」 光る箒に跨ったファティはペコリッと頭を下げる。 「女王器の場所については、捜索の特技もあるのでご安心を。 ただし、ここはさすがにトレジャーセンスですね?」 ふう、と大きく息を吐いて、ウィングは周囲を見回す。 そこには、何もなくだだっ広い空間と、複数の通路の入り口があるだけだった。 「消去法で、1番左端の通路! そこが妥当ですよ」 ■ 道の暗がりを、二条の光が照らす。 セイニィとパッフェルの星剣――グレートキャッツと星銃パワーランチャーである。 行く手には、ファティの光る箒。 彼女はトラップ等の対策のため、イナンナの加護を使っている。 だがまだ、その加護が働いたことは1度もない。 「それにしても、狭い道だねぇ、先生」 退屈を持て余したのか? セイニィの傍らで足下に気をつけつつ、武神 牙竜がぼやいた。 路面には水たまりがあり、よく見ると夥しいエビの死骸がある。 「5000年の歴史だねぇ」 エビ達にとってここは、古くからある快適な住処。 まさかいきなり海水がなくなるなんて、想像だにしていなかったことだろう。 だが不運は、エビ達ばかりではない。 壁にいっぱい張り巡らされたウミユリ達が、「忘れられた海底遺跡」の名残をとどめていた。 「太古のロマンですか。 けれどその前に、女王器の確保が先ですよ」 ウィングは隊の行進を止めると、壁のウミユリを払いのける。 出てきた彫刻の装飾群をつらつらと眺めては、マッピングデータと照らし合わせていた。 「なるほど! やはり、この像の列は女王器までの道のりを示しています。 私のトレジャーセンスと同じ方向。 ということは、あながち外れてもいなかった、と言うことですね!」 「ウィング!」 光る箒で偵察に出ていたファティが戻ってくる。 「この先に、何だか大きなホールがあるわ!」 「それは、巨人のホールですかね?」 うむ、と顎先に手を当てて、反対側の壁に記された「巨大なゴーレムの彫刻」を指さす。 「あれが襲ってくる、そう記されてます。 けれど、あれを止める方法についてはない。 さて、どうしたものか――」 「でも行かなくちゃいけないんだね?」 桐生 円はパッフェルの隣から、口を挟む。 「ありがとう。わかったところまででいいよ、ごくろうさん♪」 意気揚々と歩を進めようとしたところで。 「危ない!」 ウィングに手を取られた。 床が割れる。 円は間一髪のところで、「落とし穴トラップ」の回避に成功した。 「これは、彫刻に記されてます。 あと分かっていることは、ホール入口の『石柱』に秘密があるということと、そのまえに大きな「落とし穴」があるらしい、ということ。 それくらいですかね?」 それなら、ウィング! とファティは闇の向こうを指さした。 「突き当たりを左に行ける、回転式の扉がありましたの。 石柱はその向こうに。隙間からのぞいてみましたから、間違いありませんわ!」 ■ そして回転式の扉の向こうに、一行は問題の『石柱』を発見するのだった。 そこは奇しくもアーデルハイトの本隊が通った通路だったが、セイニィ達は知る由もない。 「ここは、ウミユリの死骸が少ないんだな?」 というのが、一行の率直な感想だった。 ん? と円が路面に注目する。 「ねぇ、パッフェル。 これ……足跡だよね?」 「あら! そういえば」 通路の路面はところどころ崩壊し、泥が溜まっている。 そこに、複数の足跡が連なっていた。 「元々海の底だよ! だったら、5000年前の足跡、っていうことはないよね?」 全員に緊張が走ったのは、これが帝国軍のものかもしれない、と警戒したからだ。 本当はアーデルハイト達の足跡なのだったが。 ファティが慌てた様子で。 「ウィング、イナンナの加護に反応がっ!」 その時、地鳴りが響いた。 ウガアアアアアアアアアアアアアアァァッ! という方向と共に、巨大な影がホールの反対側から、入口に向かってくる。 「ストーンゴーレム!」 「早く! 何とかしないと!!」 「何とかって……わ、私?」 ウィングは自分を指さした。 思い当たるのは、柱頭に宝冠を模した装飾のある石柱だけ。 どうしたものか? と悩んでいる間にも、ゴーレムはウィング達に向かってくる。 「ええーい、ままよ!」 ウィングは半ばやけくそで、石柱にこびり付いたウミユリの死骸を払った。 暗号を示す「彫刻」がある。 彼はもてる考古学に知識を総動員して、解読に当たる。 「これによると……『石の巨神は、違う道をふさぐ』……て、これじゃないですし……」 「早くしてよっ!」 セイニィ達の悲鳴が上がる。 彼女達の力をもってしても、このゴーレムを倒すことは難しそうだ。 「分かっています」 ウィングは落ち着いた声で答えると、更に解読を進めていく。 「『巨神の怒りは、兵士が守る。台座の女王を現わせ……』、これですね!」 「で、結局どうすればいいのさ? ウィング?」 「兵士をどけましょう! とにかく、急いで!」 牙竜達は「?」を頭上に浮かべたまま、言われた通りに壊れた機晶姫兵を動かす。 その下から、丸い台座が現れた。 「『台座の女王』……石の文様でしょうか?」 それは自然に出来たような文様で、石の台座の表面にあった。 だが紛うことなく、古代のシャンバラ女王を描いている。 文様は次第に輝き始め、石柱目掛けて夥しい量の光を放射し、宝冠に当たって屈折する。 そのまま、ダイレクトに巨大ストーンゴーレムの顔に直撃! ホール全体に光のシャワーが弾ける――。 やがて光が収束した頃合いを見計らって、ウィング達は目を開ける。 ゴーレムの姿はなく、代わりにホールの内壁に同じ形の巨大なレリーフがあった。 一行が大きく息を吐いて、その場にへたり込んだのは言うまでもない。 「けれど、ゴーレムが動いていた、ということは、私達よりも先に侵入した者達がいた、という証拠です。 それが帝国であれ、シャンバラの学生達であれ、こう無防備に行動されてしまっては……」 「ま、まだ何かあるっていうのかよ!」 一同は、ウィングに詰め寄る。 ウィングは眉をひそめて断言する。 「機晶姫の兵士達。 ゴーレムの覚醒と共に、彼等も目覚めるのです。 彼等はゴーレム以上に厄介です」 ■ だが、その兵士達は既に何者かが片付けていた。 それがアーデルハイトの本隊の仕業であることを彼らが知るのは、巨大なレリーフの前に辿り着き、彼女達と合流した時の事である。 当面はウィングの力を借りて、帝国軍を警戒しつつ暗がりの中を突き進む一行なのであった。 そして彼等は、本隊の次に「女王器」があると思しきレリーフ前に到着する。