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戦乱の絆 第二部 第一回

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戦乱の絆 第二部 第一回
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 8.神室へ

 女王器がある乏しきレリーフの手前で、スレヴィ・ユシライネンはルドルフに報告後、隊と別れた
「まぁ、ここまでくれば、シャンバラ側が押さえるだろう。
 あとは洋上の仲間が来るまで、女王器を守りきれるか、だな」
 スレヴィは来た道を戻りかける。
 彼の後を、慌ててアレフティナ・ストルイピン(あれふてぃな・すとるいぴん)が追いかけた。
「な、何で戻るんです?」
「戻る? うん、少しだな」
「どうしてです?」
「そろそろ帝国軍も追いつく頃だろうしな」
 だからさ、と出口を指さす。
「脇道で待ち伏せさ。
 俺達だけの力じゃかなわんでも、早めに騒げば、ルドルフ達のことだ!
 対策くらい練れそうなもんだろう?」

 ■
 
 その頃、レリーフ前にて。
 
「さて。来られるものは、全員そろったようじゃな」
 アーデルハイトは一行の前に立ち、道の突き当たりに目を向けた。
 巨大な石壁があり、太古のシャンバラ女王と思しき女性の像がある。
 その前に、シャンバラ側の女王器探索隊の面々が集結していた。
 
「この向こうに、女王器――つまり、イコンがあるのです!」
 ルドルフ隊により救出された司が、そう主張するのだ。
 そうでなくとも、いずれの隊の隊員達も、このレリーフは怪しいと考えていた。
 トレジャーセンスを持つ者達が、一様にレリーフに注目するからだ。
「うん、確かに、この向こうみたい……なんとなくだけど」
「ああ、そうだな」
 美羽の言葉に、ウィングと響が同意する。
「考古学の知識を総動員しなくても、これは怪しいと思いますよ」
 ウィングが太鼓判を押す。
 
「と言う訳で、結論は『女王器は壁の向こうにあるらしい』ということじゃが、どうじゃ?」
 アーデルハイトはちらっと横に目を向けた。
 そこには、今は星剣を収めた十二星華達の姿があった。
 彼女達は長い冒険の行程の中で、既に精神力を使い果たし、光源としての役割を終えていた。
 少し休まなければならないようだ。
 明り役は、みとが持つ光精の指輪の細い光だけが頼みである。
 視線を下方に修正する。
 ああでもないこうでもないと岩壁を調べる、ロイヤルガード・松平 岩造(まつだいら・がんぞう)の姿がある。
 トレジャーセンスを発動させてみた。壁全体に反応が出てしまう。
「いや、これはさすがに……。
 この向こうが怪しいかも? くらいの感覚しかないのか」
 仕方なく、一番怪しいと思しき女王のレリーフをくまなく調べてみた。
 近くの壁や床等も、同様に感知を試みる。
 また女王像に戻る。
 うーむと唸って、腕組みをしつつ、一歩下がる。
 女王の右手が突出しているのが気になった。
「この手だけ、どうして出ているんだ?
 握手して下さい! って言わんばかりだ!」
 まさかなぁ、と笑いながら、握手をしてみる。
 と、その途端に岩造の体は消えた。
 武蔵坊 弁慶(むさしぼう・べんけい)が薙刀を携えつつ、レリーフの前に駆け寄る。
「が、岩造! どこでござる!
 くそ、油断した! トラップだったとは!!」
 だが暫し後、壁の向こう側から、岩造の慌てた声が流れてくる。
「わーっ! 何だ?
 いきなりテレポートしちまったぞ???
 これは、どういうことだ?」
「おお! そういうことであったか!」
 納得したのは、アーデルハイト、ただ1人。
「女王様の手を取れるのは、女王様だけ。
 私ら下々のものには恐れ多いこと。
 だからこその、『右手』じゃ。
 ということは……岩の向こう側は『シャンバラ女王』に関係した物がある……女王器が!」

 一行は次々と女王像の手を取って、レリーフの向こうへと消えてゆく。
 だが、「殺気看破」を持つ者達は、後方を気にしつつ、テレポートに臨んだのであった。
 
「ありゃ? 気づかれちゃったかな?」
 闇の中で、無邪気な複数の笑い声がさざめく。
 
 学生達が「殺気」の意味に気がつくのに、時間はかからなかった。

 ■

 漆黒の空間だった。
 光精の指輪を掲げると少し歩いた先に大岩があり、くりぬかれた穴の入口に分厚い扉があり、ちょうどドックのような形になっている。
 
「これが『神室』――イコンのドックですよ」
 あった、あった、あったぁっ!
 司ははしゃいで飛び回る。
 我先にと飛びつこうとした瞬間、光の刃が彼を襲った。
 
 ■
 
「せ、星剣・還襲斬星刀!?」
「あれれ? 避けちゃったんだ!」
 陽気な声に、誰もが強張った。
 いつの間にいたのだろう?
 クローン・シャムシエル達が笑っている。
「お前ら!
 ていうか、どこから入った!?」
「途中の道からだよ!」
 苦笑しつつ、シャムシエルはふんぞり返って。
「道草食っていた奴らを先兵が見かけてねぇ。
 だからその情報を辿って、どんくさい連中の背を追いかけたってわけだよ」
 舌なめずりをする。
「いろんな仕掛けのある遺跡だよ!
 さすがのボクでも、随分時間がかかっちゃったけどね!」
「お前だけなのか?」
「え? だってみんなトロいし。
 キミ達なんて、ボク達だけで十分でしょ?」
「ナメやがって!」
 全員攻撃の体勢に入った。
 剣の花嫁を持つ者達は、パートナーを背にかばいながら、啖呵を切る。
「やれるもんなら、やってみろ!
 操られる前に、叩き潰してやる!」

 ■
 
 レオン・カシミールの声が響く。
「みんな!
 私が集めた情報によると、クローン・シャムシエルの数は5人だそうだ!」
「5人か……上等だな!」
 数としては、シャンバラ側の方が当然有利だ。
 そうした次第で、攻撃要員達は数を揃えて、蛇女どもに立ち向かったのであった。

「十二星華の方々はお下がりください」
 ラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)はセイニィ達を後方に下がらせる。
「ここは私達に任せて!」

「へーえ、十二星華の力を借りないなんて!
 後で後悔しても知らないよ?」
 シャムシエルの1人が、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)に向かっていく。
「手近なキミ! とりあえず、消えてもらっちゃうよ!」
「消えるのは貴様の方だ!」
 エミリアさん、と叫ぶ。
「はい、正悟」
 エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)は剣の花嫁だ。
 万一に備えて距離を取りつつ、ファイアストームを放つ。
 炎の嵐が壁となって、シャムシエルの前に立ちはだかる。
 その隙をついて死角に入り込んだ正悟は、全力で右手の刀でシャムシエルの首を狙う。
「何!? ずる〜〜〜〜〜〜〜いっ!」

 すぱんっ!
 
 シャムシエルの首が吹っ飛ぶ。
 左手の強化光条兵器で右腕を刈り取る前に、クローンは何と!
 ドロドロと溶けて、地に消えた。
「これで、後4人。
 シャンバラを引っ掻き回し、
 ティセラ達をあやつってきたんだ、満足だろ?
 スッと刀を向ける。
「お前らの操っている糸は、何処につながっている?」
「く、くそ!
 でも、仲間なんて、いくらでも増えちゃうんだからね!」
 べぇっと舌を出して、シャムシエル2人は壁際に向かう。
 そこには、十二星華のホイップとセイニィが仲良く並んでいた。
「これで、君達も終わりだよ!」

「そうはいくかっ!」
「私のホイムゥに、何すんのよ!」
 ホイップを守るべく、美羽とエルが立ちはだかる。
 駆けつけたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、槍を構えた。
「お前のせいで、ホイップさんも美羽も苦しんだ!
 リフルも、赫夜さんも、ティセラたちだって……みんなお前に利用されて、悲しい思いをしたんだ!!」
 2本の槍で轟雷閃を叩き込む。
 よろけた所を、美羽が虚刀還襲斬星刀で還襲斬星刀を絡め取る。
 丸腰になった相手に、2人で攻撃を放つ。
「行けぇ! 轟雷閃!」
「小遊鳥さん、俺も手伝います!」
「前原さん、私も」
 アシュレイが慌てて、拓海の後を追う。
「自分も手伝うであります!」
 ゆるやか 戦車(ゆるやか・せんしゃ)は碧血のカーマインで、シャムシエルの足元を狙う。
 たたらを踏んでよろけたシャムシエルを、アシュレイが軍配で止めを刺した。
 光る軍配はシャムシエルの体を切り裂く。
「くっ、でもまだ3体いるもんね!」
 血だまりの中で笑いながら、シャムシエルは溶けて行った。

「ふん、でもこっちは1人だけだよ! ナイトがね!」
 シャムシエルは鼻先で小馬鹿にしたように笑うと、今度は全員でセイニィに向かう。
 そこには彼女を背に、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が待ち構えていた。
「セイニィ、あれだけ数がいれば屈辱晴らしたい放題だ」
 向かってくる敵を含めた、3人のシャムシエルを指さして言った。
「俺達の眼前に立つ敵は、全てぶん殴ってやる!」
 まずはこいつからだ!
 叫んで、牙竜は先制攻撃で突っ込んで3名を撹乱させる。
「貴様の言葉遊びに付き合う気はない!
 もはや問答無用!」
 動きの鈍った一体の位置を、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)に伝える。
「ではマスター、援護しますね?」
 シャープシューターで、六連ミサイルポッド4つを一斉発射する。
「剣の花嫁を操る能力を使わせる暇話与えませんよ。毒蛇さん?」
「え! ちょ、ちょっと待った! 暴力反対だよ!」
 シャムシエルは懸命に避けようと努力するが、総てを避けるのは無理がある。
 弱ったところで。
「セイニィ、勝負に出ろ!」
 牙竜はセイニィの背中を押した。
「あ、あんたに指図されるまでもないわよ!」
 やっと回復し始めたばかりの精神力を振り絞って、星剣で止めを指すのであった。
「あたし達の苦しみ、思い知りなさい!」

 攻撃を逃れた2体のシャムシエル達は、十二星華達を狙うのには無理があると悟る。
「よ〜〜〜〜〜〜〜し、こうなったら!」
「奥の手を使っちゃうんだもんね!」
 ターゲットを、アーデルハイトへと変更した。
 素早い動作で、帽子を深くかぶった小さな魔女へと向かう。
 
「アーデルハイト様!
 一気に結界を壊して、私達に止めを刺そうというのですかっ!」
 沢渡 真言(さわたり・まこと)は応戦の姿勢を整える。
「久しぶりに地球にいるのに……こんな形では戻りたくはなかったですね」
 眉をひそめる。
 真言は少しでも戦乱の被害を最小限に食い止めたかった。
 そのためには、シャンバラが帝国よりも力を付けること――。
 女王器が必要だ、と考える。
 ふと、天井を見上げた。崩壊しかけたそれは、結界無しには今にも崩れそうにも見える。
「なるべく外に被害出さないように、早急に片をつけませんと」
 彼の傍らで、マーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)は蒼き水晶の杖を傾けていた。
 クローン・シャムシエル目掛けて、スキル封じを発動させた後、真面目な顔で提案する。
「なぁ、真言。
 一人ぐらい分身を持ち帰ってみても、良いんじゃないだろうか?」
 
 だが、2体の同時攻撃を、真言達だけで押さえることは難しい。
 相手はクローンとはいえ、あのシャムシエルなのだ!
 しかも彼女達は事あるごとに暗闇と同化し、死角から攻めてくる

「加勢するぞ!」
 隊を影ながら見守っていた、同じ【イルミンスール護衛隊】の源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)が駆けつけた。
 輝とシエルも気づいて合流する。
「助かります、鉄心、ティー。それに、輝とシエルも」
「困った時はおたがいさまですよ!」
 胸を張った輝の隣で、鉄心が告げる。
「ティーの殺気看破が役に立つ」
「来ます! 鉄心様」
 ティーの反応で、鉄心は防衛計画で素早く対策を捻りだす。
 彼女の姿は見えない。
 ベルフラマントを装備している上に、隠れ身を使用している。
「真言は右に、俺は左に行く!
 輝達は、真言さんの援護を。
 そして退かせたら……先ずは女王器の確保を頼むっ!!」
「わかりました」
 マーリンが凍てつく炎を放つ。輝が斬り込む。
 シャムシエル達が怯んだ隙に、真言は右に飛んだ。
 クローンの片割れ目掛けて、間合いを詰める。
 天の刃、ついで乱撃ソニックブレード!
 シャムシエルは断末魔の悲鳴を上げ、液状になって形を失った。
 真言達はそのまま女王器確保のため、ドックの解除に向かう。
「一人ぐらいは無傷で捕まえられれば良いんだけどなー」
 とぼやくパートナーの首根っこを掴みつつ。
 
「さあ、キミ1人だ。
 降参するんだ!」
 だが、シャムシエルは闇雲に向かってくる。
「場所があるなら……命を粗末にするな。家族は悲しむ」
「家族だって?」
 何がおかしいのか、シャムシエルは無邪気に笑う。
 攻撃に転じようとしたところで、鉄心が魔道銃を発砲。
 ティーが抜刀術で切り込みバランスを崩させた。
 すかさず則天去私を叩き込み、シャムシエルを沈黙させる。
「……陛下は十二星華にとって母だと聞きました。
 なのに、貴女は何故こんなことばかりするのです?」
 地に伏し、気絶しかかったシャムシエルに尋ねる。
 シャムシエルは、
「ママ? ママって、誰?」
 そのまま意識を失った。

「私を襲っても、アーデルハイド様は守られたのですが……」
 帽子を脱いで、シャムシエルの標的だった者――偽アーデルハイドのホワイトは、シャムシエルを見下ろして、そっと呟くのだった。
「……可哀想な人」

「帝国軍、襲来!」
 入口から、迎撃要員達の警告が発せられた。

 ■

「折角みつけた女王器なんだ!
 守りきって見せるぜ!」
 このときを想定し、しっかりと対策を練っていたスレヴィは、入口付近の物陰から帝国軍の兵士達を襲撃した。
 通り過ぎざま、氷術等の魔法を浴びせる。
 光学迷彩で隠れていたアレフティナが、スプレーショットやシャープシューターで畳み掛ける。
 だが、相手は龍騎士ではないとはいえ、精鋭だ。
 2人がかりで、数名倒せただけだった。
 
 とはいえ、敵の数も少ない。
「洋上が有利だったせいで、こちらへ回す余裕がなかったのかもな?」
 携帯電話を通じて、既に洋上はシャンバラ側が有利な報は届いている。
 そうした次第で、実際に相手になった兵士の数は、歴戦の猛者とはいえ40名といなかった。
「守りきるぞ!」
「加勢する!」
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)が適者生存で睨みを利かす。
(女王器はあるべき場所あるのが一番)
 つまりは女王様の手の中に納まるのが一番だ、と彼は考えている。
「てめぇらなんぞお呼びじゃねぇんだよ!!」
 その一言で、兵士達がひるんだすきに雷術に転じた。
 すぐ傍で、セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)がヒール・リカバリ・キュアポイゾンで忙しく立ちまわる。
 額の汗をぬぐいつつ。
「怪我の治療の状態異常の回復まで、安心してお任せください☆
 それではみなさん、今回も頑張りましょう!」
 ラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)はディフェンスシフトで、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)の防御力を上げる。
「纏めて吹き飛ばしてやるぜ!」
 佑也はカタクリズムを使った。
 弱った兵士達は、まとめて四散する。
 彼はその後ミラージュで敵を錯乱しつつ、勇敢に斬り込んでいった。
「おう、ここで足止めしてやるさ!
 近づいてきてもいいぜ?
 でもその前に氷像のフラワシで氷漬けにしてやるがな!」
 
 騒ぎを聞きつけて、ルドルフ達ロイヤルガードの面々も駆けつける。
 あっというまにシャンバラ側の方が優勢となった。

「今のうちじゃ! 神室の防衛システムを解除するのじゃ!」
 アーデルハイトは自分の周囲にいる者達に、ドック上部にある機関砲の破壊を命じる。
 程なくして無力化されたドックの前に、学生達が集結した。
 度会 鈴鹿は目を閉じて祈りをささげる。
(女王器よ……私は、私達はシャンバラを守りたい。
 シャンバラに住まう人々を守りたいと願ってここへ来ました……)
 彼女の脳裏には枯れかけたままの扶桑や。
 滅ぶ手前で堪えているマホロバの事。
 そしてそんな時代を生き抜いていかなければならない我が子の姿が、次々と浮かんでは消えてゆく。
(あの時のように、後悔したくはないのです。
 どうか……私達に力をお貸し下さい。
 シャンバラを守り、育む為の力を!)

 入口での攻防を抜けた帝国軍の1人が、襲い掛かってくる。
 織部 イルは、
「祈りっておる最中じゃ!」
 奈落の鉄鎖で、引き戻す。
 
 最後の防衛システムが、味方の手によって破壊される。
 それを合図に、まるで鈴鹿の祈りに呼応したかの如く、巨大なドックは開いてゆく……。



「っ! せっちゃん?」
 アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)は絶句した。
 ドックの開口部が開くと同時に、無謀にも中へ侵入しようとした者がいる。
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)
 そのまま邪魔だ! とばかりにブラインドナイブスで、女王器――つまりイコンのハッチを目指す。
「……っ!」
 だが、その攻撃は神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)のマシンガンで防がれた。
「狙ってくる者の存在ですか。とっくにお見通しです!」
「来るとは、思っていたが、予想通りってな。
 世の中そんなに甘く無いぜ?」
 レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は溜め息をつきつつ、援護し、軽業の動きを止める。
 シャンバラの学生達に囲まれ、「隠れ身」を使って逃げる間もなかった。
 アルミナはどうしよう、と考える。
(いま、「悲しみの歌」を使っても……。
 これほど大勢の中を、逃げ切ることは難しいよね?)

 彼女の脇を政敏がすれ違う。
 セイニィの手を引いて。
「よし、セイニィ!
 女王器に乗り込んで、敵を撃退だ!!」
「邪魔者は、私が排除するわ!」
 帝国軍の、と付け加えて、カチェア・ニムロッドは光術の姿勢に入る。
「早く! 私を信じて!」
「でも、そんなこと出来るの?」
 セイニィの心配は当たり、女王器には十二星華の力をもってしても乗り込むことは出来なかった。
「女王以外は乗れないってことかよ!!」
「ならば、もっと安全な方法を!
 帝国に渡さないために!!」
 レッサーワイバーンを「物質化」させたウィングが、女王器を飲み込ませようとする。
 女王器は大き過ぎて飲み込めない。
「うっ、一番安全な方法だったのですが……」
 悔しがるウィングの後ろで、マイト・オーバーウェルムが叫んだ。
「オレに力を貸せ! 主と認めやがれェ!」
 ふざけ半分だったが、これも当然効果はない。

 だがイコンの力はなくとも、数で勝るシャンバラの学生達は帝国軍を圧倒する。
 帝国軍の追手、制圧! の報が入るのに、さほど時間はかからなかった。
 勝利に酔いしれる、学生達。

 その時、くくく……と低い笑い声が、暗いドックの前に響き渡った。

「あーっはっはっは、私の兵も、我が娘も撃退してしまうとは!
 あー……大きな誤算だった!」
 
 クローン・シャムシエルが、ゆらりと立ちあがる。
 ティーに倒され気絶していた、あの一体だ。

「だが、大人しく倒されていた方が、お前さん達にとっては幸せだったかもなぁ」

 二ィッと歯ぐきを見せて笑う。
 次の瞬間、シャムシエルの体は頭から裂け始めた。



 ビリビリビリ……ズシャッ。

 嫌な音を立てて、褐色の美女の体は四散した。
 中から現れたのは、顔の半分が機械となっている、どこか無気味な男。
 選帝神・テレングト・カンテミール――クローン・シャムシエル達の「パパ」だ。
「ふむ、まったく役に立たん娘達だ」
 さして情のなさげな感想を述べると、学生達に向けては片手を差し出す。
「さあ、そこをどいて頂こうかな。
 女王器は私の物。
 神を相手の戦いは、経験済みだろう?」



「神、か。
 だが、横やりの借りは返させてもらう!」
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)はサイコキネシスで盾を操り、後頭部を狙う。
 カンテミールはひょいと避けて、首を捻った。
「貴公は確か、以前シャムシエルを追い詰めた……」
「グレン・アディールだ。
 覚えて頂こう!」
 チッと舌打ち。
 ダッシュローラーで一気に間合いを詰める。
「グレン!
 私も戦います! 例え神が相手でも!!」 
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は光術をカンテミールの目の前で発動した。
 夥しい光に、カンテミールは思わず手をかざす。
「その腕、落ちろ!」
 グレンはカンテミールの生身の方の腕を狙う。
 武器は「さざれ石の短刀」。
 カンテミールは小首を傾げたが、腕は石化した。
 すかさず、ソニアがジェットハンマーをジェット噴射させて、叩き落とす。
「よし!」
 グレンが会心の笑みを漏らす。
 それも当然で、カンテミールの片腕は文字通り粉々に砕け散ったのだ。

 が――。

「ふう、ごくろうさん。
 お陰で新しい腕がつくらせてもらえる」
「な、なに!?」
 グレンは目をむく。
 グレンの目の前で、カンテミールの腕はトカゲのしっぽのように生えてきたのだった。
 ふんっと、振り回す。それだけで、グレンも、ソニアまで吹き飛ばされてしまった。
「ち、力まで強くなっていやがる……」
 気を失う。カンテミールの目隠しをしようとしていたベルトは、すとんと地に落ちた。

「あれが、カンテミールの力よ。
 驚異的な再生能力。
 でも、私は……っ!」
 パッフェルはカンテミールに向かっていこうとする。
 その腕を掴んで抱きすくめ、円はやっとのことでパッフェルを止めた。
「パッフェル! 今は冷静になって。
 相手の力量をまず見ないと。
 まだ新しい腕が馬鹿みたいに強いとか、そんなことしか分からない。
 まずはボク達が試させてもらうから!」
 ミネルバ、とパートナーの名を呼ぶ。
「まーもれーばーいいのかなー?
 円とパッフェルちゃーん」
 やがて現れたミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は円の命令に戸惑いつつも、打ち合わせ通りに動く。
 円が引きつけている間に、チャージブレイク。
 ミネルバちゃんSPで乱撃ソニックブレードを放つ。
 だが、カンテミールは苦もなく避ける。
「やれ、私の力の微塵も使う必要はないな」
 テレポートを行う。
 あっと思った頃には、円達二人はカンテミールの手刀を受けて、地に伏していた。
 
「さすがは、神……か……」
 なんて計り知れない力なんだ! と思う。
 それでも彼女には守らなければならない者がある。
「カンテミール、パッフェルと、女王器は……」
「シャンバラの真の平和のためには、完全なる女王を生み出さなくてはならない」
 カンテミールは宣言した。
 自棄にはっきりとした台詞だった。
「それは、一体どういう……」
 だが円の言葉は、最後まで言い切ることは出来なかった。
 薄れゆく意識の中で、円は幻を見る。
(ラ、ラズィーヤ?)

 だが、幻ではない。
 アーデルハイドの魔力により、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は現実の中で召喚されたのだった。

「わたくしの友、ミルザムの敵っ!」

 ■

 シュンッ。

 女王のサーベルが素早く振り下ろされる。
 だが、カンテミールの至近距離に召喚されたとはいえ、彼の懐をかすめるにとどまった。
 その後カンテミールは後方へ飛び退り、彼女の手の届かない場所へと移動する。
「やれやれ、危ないお嬢さんだ!
 その無謀さは、相変わらずだね? ラズィーヤ」
「久しぶりですわね、テレングト。
 ……大層出世なさったようで」
「君も美しくなったな。
 シャンバラ建国では骨を折ったようだね」
「あなたがミルザムを殺さねば、シャンバラ独立も早く出来たはずですわ!」

 っ!!
 ミルザムを、殺した……?
 
 その場にいた学生達はざわめいた。
 だが、現実にミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)は生きている。
 彼女の言が真実なのであれば……あの「ミルザム」はいったい何者だと言うのか!

 だが、カンテミールは大して気にもかけず、ラズィーヤに憐みの目を向ける。
「それで得られる一時の平和など、たかが知れている。
 今の状況を見ればわかるだろう?

 だからこそ、私がシャンバラに真の平和をもたらす。
 では、女王器をお渡し願えるかな?」
 
「さて、それはどうかのう?」
 横やりを入れたのは、アーデルハイト。
 剣を構えたままのラズィーヤの傍に立って、意地悪く笑った。
 ルドルフの携帯電話を掲げて。
「いま情報が入ってのう。
 海上は既にシャンバラ軍が取り囲んでおる。
 ここもまもなく、軍によって制圧させるそうな?
 神と言っても、シャンバラ全軍を敵に回すのは不利なのでは?」
「海上はシャンバラのものか……」
 カンテミールは舌打ちする。
「いくら強いお前さんでも。
 私達を倒し、あれを運び出すのはもちろん、
 小細工を施す時間もなかろう」
 イコンを指し示す。
「ふん、食えん婆さんだな」
 カンテミールは余裕のない笑顔で笑う。
 
 刹那に目を向ける。
「報酬次第で敵にもなる非情さ、か。
 気に入ったよ。
 我が配下とならんかな?」
 刹那は無言で頷く。
「その拘束も、私には何もきかんなぁ……」
 ハハハッ、とカンテミールは哄笑と共に姿を消す。
 ふと気がつくと、刹那とアルミナの姿は、一行の前から消えていた。
 
 ■
 
「ら、ラズィーヤ様……これは……その……」
「ミルザムが殺された、て……?」

 集まった学生達は、凄まじい剣幕でラズィーヤを質問攻めにする。
 だが、ラズィーヤはいつもの調子で優雅に笑っただけだった。
「あら! わたくし。
 海底遺跡という所、一度のぞいてみたかったのですわ。
 アーデルハイト様のお誘いをお受けして」
 ちらっと、アーデルハイトに目配せをする。
「あ、うん、そ……そういう訳じゃ。
 そういう訳で、体力温存が必要だったんじゃな。
 助かったぞ! 皆の者」
 あはははーっと笑ったアーデルハイトの目は、人目を避けた所で鋭さを増した。
(これは、1つ貸しにしておくぞ? ラズィーヤ)

 ■
 
「やあ、大活躍だったね!」
 聞覚えのある声に衿栖が振り向くと、ウゲンが立っていた。
 
「え? え? え? ウゲンさん、どうしてここに?」
「どうして、て。
 欲しいんでしょ? フラワシ」
 
 そうしてウゲンが衿栖に渡したフラワシは、それは見事なものだった。
 その能力をのぞいては。
 
「え? そ、それは……っ!」
 ウゲンにささやかれた衿栖は、一時目の前が真っ暗になる。
(どうしましょうっ!)
 ウゲンの姿を捜す。
 だが既に少年の姿は消えていた。

 衿栖の慌てぶりを見て、ヴィナが近づいた。
「? 何かあったの?」
「フ、フラワシを……」
「フラワシ?」
 ヴィナは直感的にウゲンだと感じた。
 彼女がウゲンのフラワシを欲していたから。
 サッと周囲に目を走らせる。
 だが、どこを探しても、既にウゲンの姿はなかった。

 ■
 
 シャンバラ軍は、洋上も、海底の戦いも勝利した。
 間もなく、イコンは味方の手によって引き上げられる手筈となっている。
 
 作業を見届けることなく、一行はドックを後にすることとなった。
 帰り道は、安全ルートを辿って洋上に出る。
 全員で作る上げたマッピングデータが、物を言うことだろう。
 
 帰り道。
 アーデルハイトは学生達が自分を守りきったことを、お世辞抜きに感謝したのだった。
 マイト・オーバーウェルムは「護衛役」の功績を認められ、希望によって「イルミンスール武術」の正式認可を校長に認めてもらえるよう、アーデルハイトから口添えを行う旨が伝えられた。
 ルドルフも今回の件を高く評価し、学生達の力を褒め称えた。
 リンネは博季から褒められ、やっとロイヤルガードらしい役目を果たせたことに、少しだけ満足したようだ。
 そしてその様子を恋人や友人と共に、ホイップ、セイニィ、パッフェルの3名はいつまでも微笑ましく眺めていたのだった。