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ツァンダ夏祭り☆!

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ツァンダ夏祭り☆!

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◇第二章 異文化交流における観測と対策◇

 ――そこは畳のイグサの匂いが芳しい木造平屋建て、瀬島 壮太(せじま・そうた)の下宿先の出来事だった。冬ならば隙間風の吹きすさみ、夏は蒸し暑い。そんな素敵な部屋に置いてあるのは団扇とグリーンモスキートキラーだ。
「この下駄と言うサムライの履物は剣士として間違っていますよね。そうは思いませんか、蒼君?」
「おっしゃるとおりですね、ご主人様」
「ムッ……蒼君? お祭りでご主人様はないでしょう。そうですねぇ、今日は友達っぽく、エミィーと呼んでもらいましょうか(ニコリ)」
 その『白い人』であるエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は意地悪そうにパートナーの片倉 蒼(かたくら・そう)に語りかけた。
「えええぇ!? エミィーですか!!? それは無理です!!」
 先祖代々執事の家系に育ってきた堅物の蒼は困った顔を見せていた。これは面白い。エメは目を光らせ、サディスティックな表情を見せると続ける。
「そーですか……じゃあ、万歩譲って、エメにしましょう。瀬島君とミミさんにも、様なんか付けてはいけませんよ。うんっ、決定!」
「ええええぇっ!?」
「フフッ、いいではないですか。……『面白そう』こそ、至上の動機! でしょう?」
「ぼ、僕は面白くありません」
「ホホホッ、大丈夫。君は面白くなくても私は充分面白いです。ホホホホッ」
「ひ、酷い……」
 エメが初めて着こなす浴衣は白地に紺の立涌文様。手には白檀の骨に白地に藍の流水金魚の扇子を持ち、パタリパタリと優雅に仰ぐ。彼はパートナーである蒼と友人の壮太に着付けを手伝ってもらい、ジャパニーズ・ロードのようになり、大変満足しているらしい。
「世は満足じゃ」
 足元露出の涼し過ぎる装束に違和感を感じるが、これも新種のスカートだと思えば前衛的で革命的でユニセックスなワラワボーイであろう。
「ゴーに入れば、ゴゴゴーゴ・ゴーゴーゴー」
 ……と言う、彼の諺にもあるようにその地域の風土や習慣に合わせて、行動するのは何とも面白い限りである。見た目は男でも、実は女の子の蒼に可愛らしい浴衣を着せるのには失敗したが、それでも、蒼は男の子用の深緑系の浴衣とサンダルを履いてくれたのでよしとしよう。

 一方、紺色の甚平を着こなし、周りの世話をしている壮太は、ミミ・マリー(みみ・まりー)の着付けも手伝っていた。
「やんっ、ちょっと……そこ当たってるよぉ〜」
「おいおい、オレに手間をかけさせるとこうだ!!」
「ひゃんっ!!? そ、そんなところ……」
 十七歳の健全(?)な男が年端もいかない少女の着替えを手伝う。そんな事が許されるのだろうか?
 荒々しく彼女の服を脱がし下着に手をかけ、まだ早熟な若草の匂いの漂う土手に手を這わし、己の肥大化した……いっけん、男女異性交遊にも聞こえるこの行為は、パラミタでは懲役の可能性もあるかもしれない。しかし、安心して欲しい。ミミはロリータ少女に見えるが、実はアレなのだ。だから、これはけっして、いやらしく行為でも何でもない。
「へへへっ、もう逃げられねーぞ。覚悟するんだなミミ。俺はもう我慢の限界だぜ」
 彼の冷ややかな棒から滴る白濁の液体は酷くぬかるんでおり、不快な性臭を放っていた(ミルクの棒アイス)。
「や、やだ、助けて……僕はそんな露出系のキツい服、着たくないのに……」
 嫌がる乙女は自らの肌を必死に隠しながらも、この先に起こるであろう出来事を期待するように甘い吐息を吐いた(お祭りへ行くから)。
 ……と、まぁ色々あったが、何だかんだ言っても、面倒見の良い壮太は祭り会場へエメ達を誘導する。もちろん、目指すは型抜き会場。何と言っても、彼らの目的は【型抜き】。それが、チーム【型抜き】の目的なのだから――

 同じ頃、シャンテ銀座ではちょっとした騒動が起こっていた。
 ――なんと、創業八十年のクレープ屋の仕切るのは神崎エリーザの店の近くに、自称パラミタ一の商人である佐野 亮司(さの・りょうじ)がクレープ屋を出店してきたのだ。
「何でこんなところでクレープ屋を出すのよ!!?」
「祭りといえば屋台! 屋台と言えばクレープだろ!!」
「クッ、シャンバラの商人めっ……神崎家に喧嘩を売るつもりなの?」
「別に喧嘩を売ってるわけじゃない。他校からの出店でここしか空いてなかっただけだ。それにうちのメニューはイチゴ、バナナ、チョコ、チョコバナナ、カスタード、チョコカスタード、チョコアーモンド、小倉……」
「小倉以外、ほとんど一緒じゃない!!?」
 エリーザは絶叫した。ただでさえ、不況で売り上げが下がっているのに品目まで被っているのだ。
「いよ、さすがは闇商人!」
 すると、後ろから声が聞こえた。
「だから闇商人いうなと……って、レイか!!? 未沙と未羅を連れて、両手に花だな、レイ」
「佐野さん、今晩は!」
「佐野さん、どうもなの!」
「よう、お二人さん」
 亮司の後ろに立っていたのはレイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)朝野 未沙(あさの・みさ)、未沙のパートナーである朝野 未羅(あさの・みら)だ。レイディスの現在の状況はまさに両手に花だが、少し動きにくそうにも見える。亮司はコソコソとレイディスを誘い出すと、耳打ちをした。
「どっちが本命なんだ?」
「い゛、何を言ってるの? あ、あれは遅刻した俺をミサが迷子になるからって……」
「……って事はもちろん、レイに気があるんだよな?」
「そんな事を言われてもナ……わかんないよ。俺にとって、ミサは親友だし、大事な……」
「大事な何?」
「とにかく大事な仲間なんだ!!」
 レイディスは顔を赤らめながら、亮司に言う。すると、彼は笑いながら屋台に戻るとクレープを焼いて、未沙たちに差し出した。
「これは俺のスペシャルなおごりだ、好きなの持ってけ」
「わぁ!!!」
 未沙達が喜ぶのも無理はない。亮司が出したのは見た目とは裏腹で、ファンシーな乙女心をくすぐるようなそれでいて、エキセントリックな味のクレープだったのだ。
「ありがとう、闇商人さん」
 未羅は素直にお礼を言う。
「いやいや、別に礼など……って、だから闇商人いうなと!!!」
 亮司は笑顔でツッコミを入れる。しかし、そのクレープを見たエリーザは一人戦慄を覚えていた。
(何者なの? あの亮司と言う男。あのクレープの完成度はまるで素人なのに、彼の屋台に人が集まっていく)
 そう、明らかにクレープの完成度に差があるのに、客の出入りはほとんど互角だったのだ。

「はい、はい、はい☆! 一緒にお祭りに行く相手もいない、かわいそうな皆さん、もっともっと集まりましょう☆!! こちらが『かわいそうな人たちの会』の本部ですぅ☆!!!」
 そんな落ち込んでいる神崎エリーザの事の嘆きなど聞かぬ、聞こえぬ、省みぬかのように、彼女のパートナーで剣の花嫁でもあるマシュー・ファウザーは楽しんでいた。その流れに乗るかのように自らの企画した【一緒にお祭りに行く相手もいない、かわいそうな人たちの会】も盛り上がってきている。一見、辛口にも聞こえるこの文句。しかし、明るく能天気っぽいマシューが演説するとまるで見世物のようにも聞こえるから不思議だ。
「こら、そこ! ちゃんと並ぶ!! あんまり不正を行うと爆炎波で皆殺しにしちゃうぞ! あっ、本気にしないでね」
「今日、お集まりの皆様。並んでる合間に町内会での和太鼓演奏でもお聞きなってくつろいでくださいませ〜」
 そして、マシューを手伝う者もいた。時枝 みこと(ときえだ・みこと)とパートナーのフレア・ミラア(ふれあ・みらあ)である。二人はツァンダのある夫妻の所で下宿しており、町内の事や地域の会合に参加する地域密着派だ。まだ、若いながらに懸命なみこと達の支援者も多い。つい先ほども……
「みことちゃん、回覧板見てくれた?」
「今度、町内合同討伐会があるけど参加するの?」
 ――などの年配の方々から声がかかり、彼女たちの対応も実に見事だった。実際、みんなさえ楽しんでくれれば、裏方仕事も気にならないのだろう。『陰の功労者』とは、みことの事を指すのかもしれない。

 ちなみに活動しない人もいるので何だが、『かわいそうな人たちの会』に入会した人物の一部を紹介しておこう。
 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)
 黒峰 純(くろみね・じゅん)
 白波 理沙(しらなみ・りさ)
 ルーク・クレイン(るーく・くれいん)
 シリウス・サザーラント(しりうす・さざーらんと)
 時枝 みこと(ときえだ・みこと)
 フレア・ミラア(ふれあ・みらあ)
 初島 伽耶(ういしま・かや)
 アルラミナ・オーガスティア(あるらみな・おーがすてぃあ)
 騎沙良詩穂(きさら・しほ)
 エルミル・フィッツジェラルド(えるみる・ふぃっつじぇらるど)
 鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)
 椿 薫(つばき・かおる) 達だ。

「おめでとう、君達は栄えある『かわいそうな人たちの会』の会員になったよ☆! クスクス、取り消せないけど、ささっ、楽しんで、楽しんで、一年に一度のお祭り、楽しまないと時間がもったいないよ☆!!」
 マシューは皆にお祭りを楽しむように薦めると皆と別れた後で神崎エリーザを見た。案の定、彼女はあたふたとしているようだ。
「クスクス、やっぱり、商売の基本がわかってないねぇ。僕の大事なパートナーさんは……そちらの人の半分くらい見習えばいいのにね☆」
 そして、返す刀で反対方面を見ると、そこにはチョコバナナの屋台が建っていた。

 パートナーのベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)とお揃いのエプロン姿で、手際よくバナナをチョコでコーティングし、氷の台の上に次々と見事なチョコバナナをそびえ立たせているのは支倉 遥(はせくら・はるか)だ。
「どうですか? この大きくて黒光りするものは? これほどのものは余所ではなかなかお目にかかれませんよ、お嬢さん?」
「………………」
 目の前の女の台詞に首を傾げて、『?』を出すのはユニ・ウェスペルタティアだ。だが、その隣に立っていたクルード・フォルスマイヤーは刀の柄に手をかける。
「……それくらいにしておくんだな……お前の言動は俺には合わん……」
 しかし、さすがのクルードもお祭りで殺傷沙汰はいけないと思ったのか、自分を諌める様に深い溜め息をついた。どうやら、心を落ち着けているらしい。すると、そこに高根沢 理子とが通りがかった。
「リコ〜!食べてきなよ。奢るからさ」
「いいの?」
 遥が薦めたのは自慢のイチモ……ではなく、逸品だった。
「ささっ、食べて、食べて! チョコがたっぷりとコーティングされたバナナだよ」
「もし、よければ、キャラメル味もあるよ!」
 遥とベアトリクスはいやらしげにバナナを勧めると、理子は蕩けだしたチョコをねぶった。舌の先に絡みつく黒い液体は官能の魔物か? それとも漆黒の媚薬だろうか? そして、先っぽの突起物を押し広げるようにチロチロと彼女のサーモンピンクの舌が這いずり回っていく。
「ゴクリッ……」
 その悩ましげな様子を神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)と、パートナーのミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は静かに見守っていた。すると、チュパチュパと言う音が聞こえてきたではないか……とその瞬間、パシャッと言う音が鳴り響く。
「いやぁ、いい笑顔だったですね」
「えっ?」
「無防備な一瞬の隙を突くからこそ、ありのままの素の表情が取れるというものなんですよ」
「やだ、写真を撮るなら、もっとちゃんとした写真を撮ってよ」
「撮ってといわれてもそんなものお断りです。私のポリシーに反します。それにこれ以上やると苦情がきそうですしね」
 遥はそう言うと、その写真をその場でプリントアウトして理子に渡した。そこには彼女のフェティシズムな顔が映し出されている。遥はそんな写真を撮るのが好きだった。先ほど嬉しそうにチョコバナナをコーティングしていたベアトリクスも、もちろん、大量のフェティシズム写真を撮られていたのだ――

 ――遥の側で一枚の紙が落ちている。そして、そこにはこう書かれていた。
 ぼくのかんがえたすごいさくせん。
 やった。ぼくにもできた。たくさんのおかねがてにはいったよ。