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リアクション
TRACK 20
「ふむ、ひどく騒がしいな」
“アトラスの傷痕”を観察に来ていた姫神 司(ひめがみ・つかさ)は、ステージの方から伝わる騒音と振動に不安げな声を出した。
かつてこの地方の王都は、ここ“アトラスの傷痕”に存在したと伝えられている。しかし今ではその面影もなく、ドラゴンの住む魔の山だ。司にとっては興味深い場所である。古王国の遺跡を探しているうち、ステージからだいぶ離れた場所まで来てしまったのだ。
「そうですね。ところで、だいぶ山の奥まで来てしまいました。そろそろ引き返したほうがよいでしょう」
司と契約した守護天使、グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)が戻るよううながす。ヘタに山の怪物に出くわすと厄介だ。
そんなとき、ふたりは空に恐ろしいものを見た。
ドラゴンだった。
口と鼻から煙をたなびかせ、矢のように飛んでいく。向かう先はステージのある方角。
「戻ろうぞ、グレッグ! 見届けねば!」
「危険です!」
「ふむ、危険ならば、そなたがわたくしを守ればよい!」
そういって司は駆け出した。信頼されるのはありがたいが、相手がドラゴンではだいぶ荷が重い。
ステージで激突する二体の怪物。
それはあまりにも巨大で、パラミタにおいてさえ非日常的な光景であるため、どれほどの大きさであるとも判断できない。
だごーんが、人には聞き取ることさえできない何かを叫ぶ。
イオマンテが、月に吼える。
この『神々の争い』に、第三の神たる赤きドラゴンが参戦した。
口を開けると硫黄の臭いが垂れ込め、炎が伸びてだごーんとイオマンテを焼く。
「ああっ、だごーん様がピンチです!
しかし僕たちにできることは生贄になるぐらいしかありませんっ!」
『だごーん様秘密教団』のメンバーは真剣に生贄になることを検討しはじめたが、ドラゴンのしっぽになぎ払われてそれどころではなくなった。
「まさか本当にドラゴンが出てくるとは思わなかったぜ!
ホンモノのドラゴンスレイヤーになってやる!」
衣装の下に隠したアサルトカービンを取り出すと、椿はステージに向かって駆け出した。
「やめろ、ホワイト! こいつはヒーローショーじゃないんだぜ!」
レッドこと和希が引き留めるが、それが椿の闘志を煽る結果になってしまった。
「ショーじゃない、本物のヒーローになるのさ!」
そして椿は散っていった。
ステージ袖では真奈美がぶるぶる震えていた。
「ムリすぎるよ! 死んじゃう! ゼッタイしんじゃう!!」
いつもはペースを崩さない珠代でさえ
「困りましたわ」
といって首をかしげている。
そのうち武尊が無責任なことを言い出した。
「オレは教導に所属してた時からマナさんのファンなんだよ。
あの人に憧れて、オレも教導を飛び出したんだ。
きっとマナさんならこの状況をなんとかしてくれるぜ!!」
(きゃーやめてー適当なこと言わないでェーーー!!)
(まぁまぁ)
当事者の思惑と関係なく、観衆のあいだに妙な期待感が生まれていた。
「そういやヨーコさんはドージェさんのこともRAKEしたって聞いたぞ」
「蒼空のカンナさんもヨーコさんにとっちゃ財布扱いだって言うぜ」
「よく考えたら『P−KO』がドラゴンに負けるわけないよな!!」
(歌でドラゴンが倒せるわけないでしょ!!!)
しかし無情にも観客席からは『P−KO』コールが響くのであった。