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アトラス・ロックフェスティバル

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アトラス・ロックフェスティバル

リアクション


TRACK 17

 だいぶ陽も落ちかかった頃、気味の悪い一団がステージを占拠した。
 イルミンスール魔法学校クトゥルフ神話学科の刺客、『だごーん様秘密教団』である。手錠の付いた生贄用逆十字架がステージ上に並んで立てられていくが、すでにいくつかの十字架には誰かが掛けられている。
 目を凝らして見ると、それは桜井 雪華であった。隣に吊られているのは明智珠輝ではないか。さらに隣は鈴倉 虚雲、その隣は御弾 知恵子、そのまた隣の巨人は大利音 魅玖であろう。
 どこかに消えて行った参加者は、こっそりと捕らえられて生贄にされようとしていたのだった。


 準備が整ったらしく、いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)を中心にバンドメンバーがぞろぞろとステージ中央に集まった。

 ぽに夫は電飾のついた法衣という姿。ボーカルである瓜生 コウ(うりゅう・こう)はラメの入った着物姿で、髪は編み上げている。
 ベースの伽耶は黒いビスチェに、フリルたっぷりの黒いスカート。ドラムのアルラミナは伽耶とお揃いの黒いシャツ、黒いネクタイ、黒いミニフリルスカート、黒いストッキング(絶対領域あり)。
 リードギターのマリアンマリーは女司祭のコスプレ。ボーカルの樹理はミニの赤黒チェックスカートに黒いカットソー、黒ジャンパーにリボンタイ。キーボードのマノファは上半身は黒いブラと赤黒チェックネクタイ。下半身は黒いボンデージパンツ。

 とにかく大所帯なうえに、衣装もバラバラだ。何をする気なのかさっぱりわからないのがいっそう不気味である。

「一日千秋、まさに永劫を越えて旧支配者の帰還を待ち望む信者の思いを、イルミンスール魔法学校クトゥルフ神話学科 いんすます ぽに夫、瓜生コウが日本の魂、演歌でソウルフルに歌い上げますクトゥルフ演歌、『何時か来る日へ』!」

 リナス・レンフェア(りなす・れんふぇあ)のナレーションに続いて、まさかの暗黒演歌が始まった。

『何時か来る日へ』

作詞:瓜生 コウ 作曲:リナス・レンフェア



女:旧支配者(あなた)、星辰(ほし)の巡りはどうですか?
男:涙こらえて、編むナクアの、橋が架かるの幾年か

女:ニャルラトテップ世にはばかると云いますが
男:帰る拠点(ところ)ももう焼かれ、ン・ガイ恋しと無き濡れる

男:弓張り月がバルザイの、刃のようにきらめく夜
女:シャンタク鳥の音テケリ・リ テケリ・リ
男:飲んでも酔えぬ黄金(きん)の蜂蜜酒(さけ)
女:セラエノ、カルコサ、ハリ湖へと、フーンでブーンと連れてって

両:虹の球霊降り積もる、あの日もこんな雪だった
両:死霊秘法(ネクロノミコン)一節つぶやいて
両:硝子に映る姿を見てみれば、そう私は、アウトサイダー

女:ニュンペー、サテュロス、矮人の、森の呼び声イア! イア! と
両:旧支配者(あなた)の帰還(かえり)を待ってます

男:悪魔の岩礁(いわば)の深きもの、窓に呼び声イア! イア! と
両:旧支配者(あなた)の帰還(かえり)を待ってます

ふじうるくぉいぐむんずはー(後奏)


 曲の後半になるとどこからともなく地響きがするようになり、噴火の予兆を思わせた。
 このあたりで興奮してきた樹理は自分を見失い、カットソー、ジャンパー、スカートを脱いで客席に投げ込み出した。
 それを見てマリアンマリーも興奮、涙目になって叫ぶ。
「もう嫌……!! 我慢できないの、お願い……お願い! 私を滅茶苦茶にしてぇーーー!」
 樹理はアイアンマリーを十字架に掛けて


 都合によりこのシーンは削除されました

 魅世瑠とモンゴメリーは音楽により絶頂を迎え、もはや意識が飛んだ状態だ。そのまま着衣を引き裂いて、互いの手を固く握り、音楽に合わせて全裸で狂ったように客席の間を踊り回る。
 それどころか、光条兵器を用いて観客の衣類を切り裂こうとし始める始末。


「なんてすげえ演歌だ! 生粋のメタラーであるこの俺でさえ感動が止まらねえ!
 俺も生贄にしてくれ! いあ! いあ!!」
 東條 カガチが奇怪な呪文を唱えながら勝手にステージに上がってきた。
 本人が生贄にしてくれというので、樹理はカガチも十字架に吊した。


(アイアンマリー、こんな大舞台で性癖をカミングアウトしちゃったか〜)
 アイアンマリーのパートナーであるよしの なんちょうくん(よしの・なんちょうくん)はため息をついた。しかしまだ演奏中だ。相談はあとですることにして、なんちょうくんはマリーのぶんもギターをかき鳴らす。


『だごーん様秘密教団のテーマ』
作詞:いんすます ぽに夫、マノファ・タウレトア 作曲・編曲:マノファ・タウレトア


無貌の天使よ 今こそ! 
悪意の為に今こそ来たれ!


観客全員 行殺! 行殺! 生贄儀式で 行殺! 行殺!
ドンマイ ドンマイ 次のキャラを作ればいいの
だって僕たち電子な住民 運命はダイス次第

(イア! イア! クファルヤクーヴルグトゥ!)
(殺せ! 殺せ! 殺せ! 奴等を殺せ!)



(ナレーション:)
「クトゥルフ神話が欠片もないパラミタに絶望した彼らは 自分達の手でクトゥルフ神話を持ち込むしかないと決意した
 ヒーローキャラには敵視され 神話学科は潰れかけ そんな逆境でも暗黒の精神を1つにして歌い続ける
 そう彼らの名は 『だごーん様秘密教団』!!
 いつの日かクトゥルフシナリオができることを目指して今日も歌う!!」


旧支配者 招来! 招来! パラミタいいとこ 招来! 招来!
邪教だ 邪教だ 鏖殺寺院は目じゃないよ
だって僕たち世界の敵 運命はダイス次第

(ラ・トリュー! ラ! ラ! ル・リェー!)
(殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!)


はるけき砂の彼方より 無貌の天使よ 破滅の為に
今こそ! 悪意の為に今こそ来たれ!


 謎の呪文部分ではマノファの怨念籠もったコーラスが響いた。
(殺せ! 詩ね! 大手同人サークルのやつはみんなタヒね!!)
 自称同人作家だが弱小サークルのマノファにとって、大手サークルは何より憎むべき存在であった。宇宙的とはほど遠いが恐るべき怨念である。



 狂乱の巷と化したステージ上に、『P−KO』の熱心なファンである国頭 武尊(くにがみ・たける)が上がり、蛸を生のままで喰った。
「見ろ! お前等の神は死んだ!!」
 そう叫ぶなり謎のスイッチを入れると、ステージ上で爆発が起こった。


 もともとステージ上にはシルエット・ミンコフスキー(しるえっと・みんこふすきー)エルゴ・ペンローズ(えるご・ぺんろーず)によって演出用に爆竹が仕掛けられていた。ライブが盛り上がったところで爆発を起こし、観客を煽る手はずだったのである。
 しかし起こった爆発は想像以上に大きいものだった。破壊工作を体得した武尊が、もっと本格的な爆薬を仕掛けていたのである。
 動揺したシルエットとエルゴだが、よくよく考えればむしろ好都合。爆発は大きければ大きいほどいいではないか。

 爆発音を聞いた伽耶は、ワルノリして絶叫。

「会場にテロリストが居るわ! 殺して! 奴等を殺して!!
 あなたの隣の人が銃を持ってるのよ! 先に殺せ! 殺せ殺せ殺せ!!!」

 会場内は慄然とする。たしかに今の爆発は尋常ではなかった。
 ライブが暴動になろうとするその瞬間、そいつがステージに乱入した。