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リアクション
TRACK 12
さて午後の部のはじまりだ。
後半戦のトップバッターは、今フェス最大の新人大利音 魅玖(おおとね・みく)が、ドラムの犬神 疾風(いぬがみ・はやて)とギターの月守 遥(つくもり・はるか)を仲間にして結成したバンド、『モップ&ブルーム』である。
何をもって『最大の新人』と呼ぶか。
身長である。
魅玖の身の丈、実に3メートル。日本の秋葉原にいたこともあったが、狭苦しい日本には収まらなかったのだ。
なにか楽しいことはないか、変わった経験はできないか、そう思ってこのフェスに参加した疾風にとって、魅玖の存在そのものが衝撃的であった。ついでにいえば疾風と遥はどちらもボーカルではなかったので、そのあたりでも都合がよかった。
ステージ上に3人が上がって観客席を見ると、前半よりも凶悪な顔ぶれになっているのがわかった。魅玖は息を吸い込むと、観客に向かって呼びかける。
「こんにちはっ!! 精一杯歌いますっ!!」
大音声(だいおんじょう)であった。
あまりのことに小柄な遥などは軽く吹き飛ばされたほどだ(身長が倍以上違う)。
これで観客も『コイツはバカにできん』と思ったらしく、声援ともヤジともつかない大声を出しはじめた。
遥が起き上がったのを確認してから、魅玖はショルダーキーボードめいた謎の楽器を構えて(観客の一部は『あの楽器』と呼んでいた)、自作の歌を歌い始める。
『ニコニコDoが消されたよ』
作詞作曲:後ろの人
あたしは歌うために生まれてきたの
だから貴方の為に 歌を歌うのはいいんだけど
その歌詞はいろいろダメなのよ
人物団体 NGワードに 著作権
(ニコニコDoが消されたよ)
歌ったのは あたしだけども
(アップロードが消されたよ)
責任は ぜんぶ貴方にあるからね
だから あたし 悪くない
(師匠、この歌どういう意味なのかな?)
遥が小声で疾風に聞く。
(日本にいたころ、自作の歌をネットにアップしてたらしいぜ。でも著作権の都合で削除になったとか)
(自作だったら著作権に問題ないのでは?)
そんなことをこそこそ話していると、客席でまた不穏な動きがある。
「社団法人パラミタ音楽著作権協会(PASRAC)のほうから来ました」
客のひとりが立ち上がってそう言うやいなや、魅玖は舞台から脱兎の如く逃げ出した。
「しまった! 追え!」
何人かの観客が走り出す。
何があったのかわからないまま、疾風と遥は舞台に残された。仕方なく二人は適当な演奏でお茶を濁して、早々に舞台から降りたのだった。
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