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【2019修学旅行】紅葉狩りのはずが鬼と修行?

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【2019修学旅行】紅葉狩りのはずが鬼と修行?
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 黒鬼は悩んだ様子を暫く続けていたが、ぱっと顔をあげ、にっこりと少女たちにほほえみかけると、とんでもないことを口にし始めた。
「玉藻 前さんはセクシーですが、私のストライクゾーンを少し外していますねえ。リリィさんは、エロいムードがむんむんですが、実は男性には余り興味が無いのでは? 彼氏イナイ歴=年齢といったところでしょう。マナさん、『ベア』というのは先ほど、落とし穴で踏んでいたパートナーの方でしょうか? 私、そのような粗忽な女性は好みませんもので…すみません。うーん、最後のアリアさんは私のストライクゾーンに近いですね!」
「って、アリアに近づかせるかー!!」
 その背後から、ソウガ・エイル(そうが・えいる)が黒鬼をどつきにかかる。シスコン、いや妹思いのソウガはアリアたちに囮になって貰い、黒鬼を捕らえようと作戦を立てていたのだ。
ソウガが黒鬼にタッチしようとするが、間一髪、黒鬼はソウガの脇をすり抜けて、凄まじい勢いで逃げにかかると、ソウガがその後を追う。
「くそ、待て、黒鬼め! ヘンタイめ!」
「ははは、私はただの女好きではありませんぞ! 最近の私の好みは心清らかでピュアな乙女なのです! セクシー系に走った思春期の少年が、結果的に同じクラスの隣の席の女の子に心惹かれるようなモノなのです! 特に和装、割烹着の女子が今の私のマイブーム!! ただエロいだけでは私を落とすことはできません!」
「んだと、このヤロー!」
 黒鬼にさんざんなことを言われた少女たちも、ばけの皮はどこへやら、怒り心頭に黒鬼を追いかけはじめる。
「ははははは〜鬼さんこちらですよ〜」
 黒鬼は追いかけてくる連中を揶揄した調子で、走るスピードを上げていく。
「ただの中年の鬼じゃないのか!? 足が速いぞ!」
「よし、挟み撃ちよ!」
 少女たちとソウガが黒鬼追撃の作戦を走りながら立てた瞬間、バサア!っと音がして、枯れ葉の下に隠してあった網がみんなをすくい上げてしまう。
「くっそお、トラップか!!」
「それは蜘蛛の糸で出来た網です。抜け出すことはできませんよ。他の人に助けて貰うか、鬼ごっこが終わるまではそうしていてください」
 黒鬼はそういうと、さっさと森の中に姿を消してしまった。
「もう、ソウガがカッとなっちゃうからだよお…」
「黒鬼がアリアに色目を使うから、仕方ないだろ! アリアにあんなヘンタイが触れることなんて、絶対に許せない!」
「あ〜あ、もう、シスコンには困っちゃう。せっかくベアの犠牲も無駄になっちゃった。まあ、楽しいかったからいいかな」
「それにしても、我を『ストライクゾーンではない』などとは。失礼な黒鬼め。あとで見ておれよ」
「年齢=彼氏イナイ歴、なんでわかったんだろ…」


 神和 綺人(かんなぎ・あやと)と、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)はゆっくりと奥千本の散策を楽しんでいた。二人はそうやって散策することで、鬼や精霊が近づいてくるのを待つ作戦だったのだ。
「鬼が結界を張ってくれたため、観光客たちからの喧噪を逃れることができましたね、アヤ」
「そうだね、クリス」
「西行庵も素晴らしかったです。私も将来はあのような庵で余生を送ってみたい…」
「ふふ、早いよ、クリス。おや、そこにいるのは…精霊さん…?」
 綺人とクリスのおっとりとした雰囲気に惹かれたのか、真っ黒な瞳をして白い肌をした子供が着物をきて立っている。
「あの瞳の感じと雰囲気…白ヘビ様の精霊と言ったところでしょうか? アヤ。非常にかわいらしいですね」
「そのようだね。綺麗な精霊だ。白ヘビ様は、吉兆のしるしだと言われているよ。ああ、それにあっちはアヤメ、かきつばたの精霊のようだね」
 同じような着物を着た子供たちが、髪にそれぞれ花を差して二人をそっと見つめている。
「こっちへおいで。お菓子をあげよう」
 綺人があめ玉を差し出すと、精霊たちはちょこちょこっと駆け寄ってそれぞれ、あめ玉を手にすると、喜んでそれを口に含む。その様子を見ていた綺人はそっと子供たちに触れた。
「はい、タッチ」
 するとみるみるうちに精霊たちは、氷になってしまう。
「なんだか悪いことをしてる気持ちになっちゃったよ、クリス」
「でも、アヤは精霊たちがあめ玉を口にするまでタッチしなかったですわ。優しいです。それに鬼ごっこが終わると、この子たちも元に戻りますもの」
「それもそうだね。じゃあ、次は。吉野水分神社へ向かおうか。水分神社は『みくまり』がなまって『みこもり』になった経緯があり、子授けの神様でもあるそうだよ」


   ☆   ☆    ☆

「役行者が開いた吉野山修験本総本山金峯山寺。伝説じゃ前鬼後鬼を使役したというし、天狗も元々は修験僧の事を指したらしいし……いやいや、役行者が英霊として復活したとか、まさかねぇ?」
 百合園制服とカチューシャをつけた風森 巽(かぜもり・たつみ)は、独り言を呟きながら、金峯山寺へと足を進めていた。
「可愛いわ、タツミ。くっろおにさ〜ん、あっそびましょ〜♪」
パートナーのティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が巽の長い黒髪を整えながら、黒鬼を誘い出すため、楽しそうな口調でリズムをつけて、唄うように山に呼びかける。
「願はくは花の下にて春死なむ その如月の望月のころ…かあ。西行庵にも行きたいなあ〜黒鬼さーーん! もしよかったら、金峯山寺まで道案内お願いできますかー? 道中、吉野山の歴史とか色々教えて欲しいなー」
 その時、ドロンと音がして、巽とティアの前に山姥が現れた。
「お主ら、金峯山寺へ行きたいのか?」
「え、ええ。そうです。できれば、天才策士との誉れ高い黒鬼さんに道案内をお願いできればと思いまして…ほら、私たち、女の子同士だし、危険でしょう?」
「吉野を散策したいなら、ワシが案内をしてやろう。それと、黒鬼から手紙を預かっておる。読むが良い」
 山姥はそういうと、二人に巻物を手渡す。
「なになに…? 『お美しいお嬢様方へ。カチューシャにかわいらしいメイド服、大変似合っていて悔しゅうございます。私、黒鬼もたまに町に出て、女装バーへ参ることもございますので、女装にはこだわりを持っております。ですからぜひ、私も自慢の女装でお仲間の前に現れようと思いましたが、黒髪の方に比べ、あまりの自分の不細工さに断念いたしました。吉野山の散策には、この山姥を案内役におつけしましょう。古くから、吉野に棲まう婆ゆえ、口うるさいところがあるかもしれませんが、お許し下さい。女装の友、黒鬼より』」
「タツミ、黒鬼に女装ばれてたみたい」
「…しかも、女装仲間と勘違いされてたみたいだね…ちょっと寒い話だな…」
そう、風森 巽はれっきとした男の子。女装で黒鬼をおびき寄せるつもりが、黒鬼のとんだ趣味のせいで、おじゃんになってしまったのだ。
「お主ら、さっさと歩かんか。まだまだ、道のりは遠いぞえ。さて、蔵王堂じゃがな、豊臣家の寄進で今から約400年ほどまえに建立されたのじゃ。それまでに六度も焼失しておっての。そのとき、わしはまだぴっちぴちの山の精霊でな、爺さんと出会ったのもそのころじゃ…爺さんはわしに夢中でのう…っておい、きいておるのか!」
「はいはい」
 口やかましいガイドを連れて、巽とティアは吉野山を散策することにした。

「黒鬼さん、こっちにいらして下さい〜」
 雨宮 夏希(あまみや・なつき)が唄うように、両手を口の側にたてて山に向かって声をかける。
「黒鬼さん、いいことしてて遊ぼうよー」
 マリア・ペドロサ(まりあ・ぺどろさ)も夏希と一緒に黒鬼を誘い出す。
「いいことってなんですか〜? ってあーれー」
 黒鬼が二人の背後に現れたかと思うと、そのまま、ズボボボボボっと落とし穴に落ちて行ってしまった。
「ええ!? うそ、マジでどんくさすぎる!」
 シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)が落とし穴を掘り、それをビニールシートで隠し、その上から土をかけてカモフラージュするだけの落とし穴に、夏希とマリアを背後から驚かそうとした黒鬼が、すっぽりとはまり込んでしまったのだ。
「アホすぎますね…」
「黒鬼とったどー!!」
 シルバがそんなことなどおかまいなし、ガッツポーズをして、某有名伝説の名文句を叫び、穴をのぞき込む。
「黒鬼、残念だったな!」
「いえいえ、残念なのはあなた方の方です。私は影分身ですから」
「うそ、充分に女の人に弱かったじゃないですか」
「確かに、私は女の人には弱いです。しかし、本体の方の女性の好みは『ピュア』な乙女。少々ロリコンの気さえあるような気が、影分身ながらしております。そしてこの私、影分身の私はうっかり夏希様の日本美人風のお美しさ、マリアさんのすらりとした足に惑わされてしまいました。そういう意味では、ただの分身にしかすぎないのです。それではどろん」
 そこまで言い残すと、黒鬼は姿を消してしまった。
「あーあー、残念だったわ!」
 マリアが言うとシルバは
「俺は『黒鬼とったどー!!』ができたからいいかな! それにあんなに簡単な罠にかかるって、策士の分身にしちゃ、アホすぎたし」
そう、笑って見せた。