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リアクション
「俺たちもいいかな? みんなでワイワイやってたほうが黄鬼も来やすいと思うんだがね」
あまり黄鬼を捕まえたい気がそれほどない黒霧 悠(くろぎり・ゆう)と、パートナーの瑞月 メイ(みずき・めい)も大量のお菓子を抱えて、輪の中に入ってきた。
「そうだな、たくさんいた方が、黄鬼も来やすいだろうしな…上手く説得できればいいなあ」
ケイが悠とメイの場所を空けてやる。
「緋桜は、黄鬼を説得するつもりなのか?」
すでにお菓子やジュースをぼりぼり、貪りはじめている悠。その側には同じく、お菓子を口いっぱいにほおばるメイがいる。
「私たちは、まったりモードです。…いっぱい、のんびりするつもり。たくさん食べたら途中で寝ちゃうかも…」
メイはそう呟くが、その隣ではテンションが全く真逆のカナタが山と積まれたカレー八つ橋の箱を次から次へと開けていた。
「カレー味八つ橋じゃ! 黄鬼殿〜寄って参れ〜」
「テンション高いな。緋桜のパートナーか」
「ああ。テンションが高いというか、一所懸命なんだぜ…たぶん…」
「私はカナタさんのそういうところ、素敵だと思います。なんだかおなかいっぱいになってきたよ」
カナタが八つ橋の箱をあけると、その辺一帯にカレーと八つ橋の香りがぷうう〜んと漂う。
「うわ! 思った以上に強烈だぜ、カナタ!」
ケイが鼻を覆うと、筐子たちもその威力にびっくりしてしまう。
「これはす、凄い威力かも!」
「…うわああ〜カレーの匂いがするうう〜しかも、他に美味しそうなモノがいっぱいあるよ〜」
その時、黄鬼が筺子たちの前に姿を現したのだ!
「マジでキター!!」
全員が悲鳴のような歓声をあげると、黄鬼も飛び上がって驚いてしまう。
「こ、こわいよ…段ボールを被ってる人もいるよ〜」
意外に小心者の黄鬼。それに気がついた面々は、顔を見合わせて一斉に花のような笑顔を黄鬼に向けた。
「こわくないよ、黄鬼さん! これは度梨不のかみなり様ペイント! ほーら、黄鬼さんに似ている人もいるでしょ? ね、これ美味しそうなお弁当でしょ? ワタシが、黄鬼さんのために作ったの!」
一生懸命、表情は作れなくても、黄鬼に優しさをアピールする筺子。
「そうですわよ、ほら、見たこともないお菓子でしょ? いかが?」
アイリスが手にいっぱい、お菓子をのせて黄鬼に見せびらかす。
「カレー味の八つ橋もどうじゃ。なに、遠慮は要らんぞ」
みんなの誘い文句に、ふらふらと黄鬼は寄ってこようとするが、もじもじした様子で手前までくると、立ち止まってしまう。
「みんな、僕の『だらすけ丸』を狙ってるんでしょ…」
「う!」
黄鬼の思わぬ指摘に、みんな、自分たちが『氷』になったかのように、固まってしまう。
(こいつ、賢すぎる…影分身か!?)
(いや、しかし、食欲には目がないふうだぞ!)
(もうすこし、鎌をかけてみるべきですわ!)
「で、でも黄鬼さんは、おなかすいてるんでしょう?」
とびっきりの笑顔を見せるアイリス。
「…すいてるぅ」
「カレー味の八つ橋も、どうじゃ」
「大好物〜」
黄鬼と面々との距離が徐々に近づいてくる。
「じゃあ、こっちに来なよ! ジュースもお菓子もたんまりあるぜ」
「そうですわ、まったりしましょうよ」
悠とメイの誘いに、黄鬼がたまらなくなったのか、歩を進めてくる。
(やった!!)
「僕が食べ終わるまで、タッチしない?」
「しない、しなーい♪」
「じゃあ、遠慮なく、いっただきまあーす!」
黄鬼は満面の笑顔で、みんなの輪に入ってくる。
「そうそう。ねえ、黄鬼さん、『だらすけ丸』を渡してくれないかなあ〜」
ケイの言葉に、カナタが続ける。
「八つ橋をたべるがいいぞ。ここはどうじゃ、勝ちをゆずってみんか? ことによっては、他の馳走も用意せぬではないぞ」
「そうじゃそうじゃ」
一瞬 防師も黄鬼に近づき、ささやきかける。
「うーん、それもいいんだけどね…、僕、赤鬼さんに怒られちゃう」
「そういわんと」
「それに、なんだか眠くなってきたかなあ」
筐子の作った睡眠薬入りのお弁当が利いてきたのだ。
(よし! これで『だらすけ丸』ゲット!!)
と心の中で、みんながガッツポーズを決めた瞬間だった。
突然、凄い勢いで黄鬼の体が空に浮かび上がっていく。
「な、なになにがあったの!?」
生徒たちは黄鬼が巻き起こした風に吹かれ、呆然とするだけだった。
「あ、あれ! みて!」
メイが空を指さすと、黄鬼の上には空飛ぶ円盤、すなわちUFOがくるくると回転していたのだ!
「…ちょっと〜!! 黄鬼〜!! なにやってんだ!! それにその円盤はなんだ!」
ケイが叫ぶと、黄鬼はむっしゃむっしゃとお菓子を食べている。
「ああ〜ねむいい〜うんとね、天河には昔からUFOがたくさん見えるんだよ〜。僕ねえ〜だらしない性格だからね、『だらすけ丸』を取られないようにって、いざというときは『助けてね』ってUFOさんに頼んでたの。んとねえ〜もうちょっと寝たら、また戻ってくるねえ〜ばいばい〜」
そういうと、黄鬼を吸い込んだUFOはくるくるっと旋回し、天河の奥の院があるという弥山の方へと向かって飛んで行ってしまった。
「なんつうオチじゃ」
カナタの言葉にも、悠とメイは残ったお菓子を食べながら「まあ、慌てない慌てない」「一休み、一休み」と、まったりと天河の空気を楽しんだ。
アンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)と、フィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)は精霊たちをタッチしながら黄鬼を探していた。
「ふう、天河神社に早くお参りしたいものですね。紅葉がさぞ、美しいでしょう。この時期だと『重陽節祭』も近いはずですしね。楽しみです」
「アンドリューさん、黄鬼さんがいましたわ!」
フィオナが何故か、ゆっくりと歩いている黄鬼を発見した。
「フィオ、見つけてくれてありがとう。さっそくお出ましですね。よし、黄鬼君、お弁当ですよ。どうですか? 美味しいですよ」
黄鬼は二人を見つけると、きっとにらみ返してくる。
「僕はデブじゃない! そんなに卑しくないんだゾ!」
いきなりふくよかなボディを揺らしながら、逃げていく。それを二人は慌てて追いかけた。
「…なんだか、黄鬼さんのテイストと違いますね」
「どうやら、『個性が薄い』影分身のようだね、よっしそーれ、タッチ!」
黄鬼に追いついたアンドリューがタッチをすると、黄鬼はドロンと音を立てて消えてしまう。
「残念でしたね」
「そんなに本気にならなくてもいいですよ。それに影分身は一つ、タッチできたんですから。僕としてはフィオが一緒にいてくれて、なかなか来られない天河様へお参りができるんだからね」
七瀬 瑠菜(ななせ・るな)と、リチェル・フィアレット(りちぇる・ふぃあれっと)は『だらすけ丸』や黄鬼のことはどこへやら。精霊や天狗たちと、宴会状態に突入していた。
料亭の娘、瑠菜は地の食材をふんだんに使い、次々と料理を作り出していく。
「うまそうな匂いがするのう〜」
それに連れられ、精霊たちが次から次へと寄ってくる。
「さつま芋、栗、南瓜、茄子、銀杏、新米…。このあたりはコンニャクも有名なんだそうね? 精霊さんたち」
「おお、わしらもそれを持ってきたのじゃ。嬢ちゃんの手でちょちょい、っと料理してくれんかな」
「ワシはこの土地のキノコを持ってきた。毒キノコなんぞではないぞ。うまいぞ?」
「うわあ、嬉しい! 凄い、採れたてね! 任せておいて!」
一方、パートナーのリチェルは、お酒の調達に忙しい。
「結界が張られてしまっていますので、酒蔵のかたと、交渉することはできませんわね…少しだけ頂戴してまいりました。ああ、もちろん、御代はおいて参りましたことよ。名水『ROGOROGO水』で作ったと言う『やまかづら』。美味の予感がいたしますわ。さて、天狗様、いっぱいいかが?」
「おお、ワシもこの大峰山は天川に二百年以上棲まう天狗じゃが、このように美しい娘さんに酌をしてもらうなど、はじめてかもしれん」
「次はワシに」
美味しい山菜の香りと共に、鬼ごっこなど忘れて盛り上がる精霊と、瑠菜、リチェルであった。
長曽禰 虎徹(ながそね・こてつ)とアトロポス・オナー(あとろぽす・おなー)は、扇動役を担当していた。虎徹はドラゴンアーツで山を駆け回り、アトロポスは炎術を使っている。
「よし、もっと山を走り回りますよ!」
虎徹がドラゴンアーツで、山を駆けようとしたときだった。
「おいおい、おぬしら。天河神社もその近くにある大峰山もユネスコの世界遺産じゃぞ〜もっと丁寧に扱いなさい。山は大切にしなさい。山の中火事になったらどおおおするの!? 補償問題になったら大変じゃぞ?」
と、急に二人の頭はピコポコパンマーで背後から叩かれた。
「な、なにごと!?」
二人が頭を抑えて振り返ると、あごひげを蓄え、右手に錫杖の代わりにピコポコパンマー、そして左手に経巻を持った人物が立っていた。
「あ、あなたは…」
二人は驚いて、そのまま言葉を失ってしまった。
「精霊さんたーっち! よし、これで僕は5霊目だよ」
十倉 朱華(とくら・はねず)と、ウィスタリア・メドウ(うぃすたりあ・めどう)は「精霊さん、どのくらいタッチできるかな!?」にトライしていた。
まずは、ウィスタリアが朱華にパワーブレスをかけ、身体能力を強化し、禁猟区でタッチの対象となる鬼、天狗、精霊達の存在を把握し、次々とタッチして凍らせていく。
「私も守護天使の端くれ、空も飛べますよ〜」
キャアキャアと、イケメンに追いかけられるのを喜んでいる節のある山姥や花の精霊たちを、それは華麗にタッチしていく。
「…精霊さんたちが、タッチされる瞬間、『アッハーン♪』って言うのが気になりますが…」
ウィスタリアの言葉に、朱華も少々困り顔だった。
と言うのも、様々な精霊たちが普段は見ることができないイケメンの近くに近寄って来ては「た、タッチしてください…」「黄鬼はデブですし、赤鬼はバカですし、黒鬼に至ってはヘンタイですから!!」「こんなイケメン、何百年ぶりかしら〜」「あらやだ、あんたオカマじゃない!」「あんたこそ年増じゃないのさ!」と体を寄せてきては、ケンカを繰り返すからであった。
朱華とウィスタリアと全く、同じ目に遭っている者が他にもいた。樹月 刀真(きづき・とうま)その人である。
「よおっし! 鬼ごっこを楽しみますよ〜!!」
と「こおりおに」を楽しもうとするが、秋の光に輝く銀の髪、赤い瞳という、見たことのない出で立ちの刀真に、ふわふわと精霊たちが寄ってくる。
「きれい〜ねえ、みて、銀髪よ!」
「ススキみたいで綺麗やわあ!」
「す、すすきぃ?」
刀真は思わず聞き返してしまう。
「顔もイケメンやん?」
キャアキャアと、花の精霊たちが刀真の周りに漂ってくる。
「ほんま、ええおとこやな! ナマズの坊よ!」
「せやせや! こんなオトコマエ、みたことないで! 蟹三郎」
ナマズと蟹の精霊にまで、感心される刀真はふうっとため息をついたが気持ちを入れ替え
「…やりにくいですね、こりゃあ。まあ、いいや。さあ俺は鬼ですよ! タッチしちゃいますよ!!」
「キャ〜♪」
精霊たちのほうが、鬼ごっこを楽しんでいるようだった。
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