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憂鬱プリンセス

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【5・最終関門と、女の戦い】

 三階と四階の階段途中の踊り場。
 防火シャッターの降りていない唯一の場所を駆け上がってきた、残った王子候補達。
 先頭はシリウス、その次に彰と薫、更に未沙、社、想、そしてクライスとレイディスが続き、その後にまだちょっととりもちが服についた総司が控え、最後尾にはやや服が焦げて身体も傷ついている恭司、紗月、シルヴィオが追いついていた。
 そんな12人は、四階からこちらを見下ろす影がいることに気がついていた。
 それは……全裸にマフラー、薔薇学マントのみを着て仁王立ちする変熊仮面の姿だった。
 彼は魅世瑠からの情報により、罠のないルートを巧みに進むことができ、その結果こうして先回りすることができていたのである。
「ふん、わらわらとにわか王子共が!」
 変熊は踊り場の12人を鼻で笑い、
「プリンセスに会いたければこの俺『ニャ〜』を倒してから行け!」
 一輪の薔薇を投げつける。それをかわす一同は、セリフの途中に、変な声が聞こえた気がした。それを裏付けるかのようにマントの隙間からちらっちらっと何かが見える。
「こ、この季節に全裸で寒く無いのか!?」
「寒『ニャ〜』いだと? むし『ニャ〜』ろ暑いくらいだ……」
 そして変熊は、ひゅうっ、と息を吐いて首もとのマントを緩めた。
 モコッ! モコモコッ!!
 刹那、薔薇学マントがありえない形に盛り上がり、そして!
「行けぃ、お前達! 必殺! にゃんこ地獄!!」
 変熊のマントから放たれる、8匹の猫! それらは防寒及び攻撃を兼ねて手懐けておいたのだった。予想外の攻撃に、一同は色んな意味で驚かされ一瞬怯んでしまった。が……。
 ニャ! ニャ〜 ニャ〜ニャニャニャニャ〜!
 再びマントの中に戻っていく猫達。それもその筈、猫は寒いの嫌なのである。
「ちょっ! お前ら、この日の為に公園で猫缶あげてるんだろーが!!」
「…………行くか」「そうだな」
「あっ! ちょっとタイム! 俺様の活躍はこれからなんだぞっ!」
 こうして変熊は、王子候補達に素通りされていくのであった。

 一方その頃、遊戯室では。
「そろそろ、王子様が到着する頃かなぁ?」
 マリエルが話しかけるも未だに愛美は浮かない様子が続いていた。
 そんな愛美に嘆息しつつ、マリエルは何だか落ち着かない様子のパメラ・サカザキ(ぱめら・さかざき)に気づいて声をかける。
「やっぱり気になるよね、王子様」
「えっ? べ、べつに私は相方が申し込んでたから仕方なく、とりあえず参加するだけなんだから」
 パメラはそんなことを言いながら、
(あー……でももし告白されたらどうしよう? 一緒に修行に付き合ってくれるような人だったらいいなぁ。う、いやいや、そもそもこんな可愛くない女に来るわけなんかねーよ何調子乗ってんだよ身の程を知れ、私! や、でももしかしたら……)
 などとひとりで貧乏ゆすりしながらもやもや考えて待っているのであった。
 そんな様子を相方の神無月弥生(かんなづき・やよい)はニヤニヤしながら眺めつつ、視線の端……部屋の入り口から見えた人影に気づいた。
「あ、ねぇ。誰か来たみたいよ! 見に行かない?」
「えっ? だ、だから私は別に興味ないって言ってるじゃん。ほんとに全然どーでもいいんだからな!」
 と言いつつ、しっかり入り口の方をチラチラ見ているパメラに、弥生は笑いを噛み殺すのが大変だった。
 入り口から見える四階廊下の奥、そこから誰かが走ってくるのが遠目にもわかった。
 誰が最初に姿を見せるのか。それは――

ガシャアアッ!

 予想外にも、破砕音と共に廊下の窓を破って現れたウィングだった。
 姿を見せていなかった彼は、今まで奈落の鉄鎖を使い自分の周囲の重力を弱め、屋根伝いに移動していたのだった。あとは勘とトレジャーセンスを頼りにここまで辿り着いたというわけで。
「よし、あそこが遊戯室ですね」
 ウィングは廊下から迫る他の生徒達の気配を感じ、足を踏み出そうとした。が、
 直後遊戯室の方から突如アルコリア、シーマ、ランゴバルトが飛び出してきた。
「さぁ、過ちを狩る正しき剣になりましょう!」
 アルコリアはそう叫ぶや、ウィングに向かってソニックブレードを放ってきた。背後に気を取られていたウィングだったが、殺気看破のおかげでどうにかその攻撃を回避する。
「な……? どういうつもりですか、一体」
「アル曰く、ただのトラップだ」
 呟き、シーマはふたりより少し前に歩み出て機晶姫用レールガンを構える。
 そうこうしている内に後続の12人も追いついて、現状に何事かと立ち止まる。
「我らは地獄門の守護者! この先が地獄で有ろうとも進む覚悟があるのか!?」
 ランゴバルトの叫びに、一同はすぐさま表情を引き締め、各々武器を構える。
 その意思を感じ取り、まずシーマがレールガンでの範囲攻撃を仕掛けていく。狭い廊下では後ろに跳んでそれを交わすしかないウィング他生徒達。
「則天去私!」「バニッシュ!」
 だが、シーマと共に一気に距離を詰めてきたアルとランゴバルトの光輝属性二重攻撃が、容赦なく生徒達に襲い掛かる。
「「「うあああっ!」」」
 中でも、先頭付近にいたウィング、シリウス、彰はもろにその攻撃を受け、床に倒れ伏してしまう。他の生徒達もこれまでの罠地獄のラストにこの妨害をうけ、疲労や負傷から攻めあぐねていた。
 そのまま膠着状態が続くかに思われた。が、その時。
「ちょっと、何をなすっていますの?」
 遊戯室の方から、騒ぎに気づいたジュリエットがアルコリアに声をかけてきた。
「お気になさらず。ちょっとした試練のつもりですから」
「それにしては、少々やり過ぎのように見えますわ」
「いえ、あちらも本気で告白しに来てるのなら、手抜きは失礼でしょう。そちらに余波がいかないよう気をつけますから、下がっていてください」
「そう、わかりましたわ」
 アルと掛け合いをし、ジュリエットは遊戯室に戻り諦めたかに思われたが。
「妨害者は実力をもって排除しますわ。袋叩きにして、簀巻きにして差し上げます!」
 すぐさま戻って来るや、アルコリアに飛び掛かり羽交い絞めにするジュリエット。
「ごめんなさい、ごめんなさいですわ」
 謝りながらも、至れり尽くせりでちゃんと簀巻き用の簀と縄と猿轡は大量に持っているジュスティーヌと、同じパートナーのアンドレは共に3人にかかっていく。
 そしてジュリエットに感化された魅世瑠やフローレンスもそれに加勢し、そのうえ楽しそうだからとラズも加わり、ヒマしていたアルダトも喜び勇んで参加し始める始末。
「きゃ、ちょっと! やめてください!」「アル殿に危害を加えるなら容赦せんぞ!」「おとなしく簀巻きになりなさい!」「袋叩きにするから覚悟するじゃん!」「正義の名の下にストレス解消させてもらうよ!」「ラズも、やルー」
 そうして遊戯室前はいつの間にか、王子役ほったらかしで惨憺たる状況になっていった。
「お姫様がた、もうそのへんにしてはどうでござるか――」
 見かねた薫が仲裁に入ろうとするが、
「止める奴も同罪で、フクロ簀巻き猿轡だ!」
「っ!? な、なにするでござ、ぎゃ、ぐー!」
 魅世瑠に首根っこを引っつかまれ、あっと言う間に叩きのめされ簀巻きにされていた。
 これではヘタに手出しができないと認識し、すっかり足止め状態になる王子生徒達。
 だが、
「ここでいつまでも躊躇するのは、男じゃないよな!」
 そう言って、特攻を決意したのは紗月だった。目立ちたがりで負けず嫌いな性格と、このレースを最後まで楽しもうとする意気込みが彼を奮い立たせたらしい。
 紗月は再び超感覚状態となり、その作用で狐の耳と尻尾が生やしつつ争いの中へ突っ込んだ。途中、シーマのレールガンの余波を喰らいそうになり、ラズに危うくのしかかられそうになったりもしたが。
 どうにか一気に走り抜け、ついに遊戯室へとヘッドスライディングしたのだった。
「ゴォール! おめでとうございます! アナタが一番のりでゴールです!」
 いつの間にか遊戯室で待機していた、アンパンお面の生徒Aの喝采を皮切りに、室内のプリンセスからも拍手が送られる。
「つ、疲れた……とりあえず何か飲み物……くれないか……」
「お疲れさま」
 紗月はそのまま動けず、知り合いの朔からお茶を手渡されていた。
 それを受け、後方の生徒達も影響された様子で、
「一位とられてもうたな……よっしゃ! でもおかげで気合い入ったわ。俺かて負けへんでぇ〜!」
「僕だって……! 例え顔が女顔でも、心は男ですからっ!」
 続いたのは社と想。
「オレの巨乳への執念、みせてやるぜ!」
 更に総司が特攻し、
「ここまで来たんだ。俺もいくぞ!」
「マナの笑顔の為なら、俺はどんな障害だって乗り越える!」
「あたしだって、負けない! あたしの全ては愛美さんのために!」
「例えどんな障害があるとしても、私は愛美さんの為にそれを乗り越えます!!」
 恭司、シルヴィオ、未沙、ウィングも突入する。
「よしっ、僕らもいくよっ!」
「いよぉしっ、いくぜクライス!」
 バーストダッシュで突き進んでいくクライスとレイディス。
「俺の本気を、今ここで見せてやろう……!」
「俺だって、負けるわけにはいかないぜ!」
 シリウスと彰も、一気に駆けていった。
 そして。
 ある者は弾き飛ばされ、ある者は袋叩きの巻き添えを喰い、そしてある者は簀巻きにされそうになりながらも、一同は喧騒の中をどうにか潜り抜けようと奔走していく。それらは全て、譲れない想いがあるゆえのことであった。
 そして。次に抜けたのは――
「ゴールゴール! 二番目、三番目の王子様ご到着で〜す!」
 ほとんどもつれあいながらほぼ同時に入った、社と想だった。ゴールし終わった後は、自然な流れからふたりでハイタッチを交わしていた。
 さらにその後に誰かが飛び込んでくる。
 それは、身体に残ったとりもちに加え、今度は更に縄を絡めてくっつかせながら、それでも執念で振り切り部屋へと転がりこんだ総司の姿だった。
「ゴール! さぁ、次々と王子が決定していきます! 残りの方々も急いで下さいっ!」
 これで決定した王子は4人。
 残る王子枠は、あと5つ。