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憂鬱プリンセス

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【7・告白されるプリンセス】

「さて……それでは、いよいよ告白タイムに移りましょう」
 生徒Aのその言葉で、9人の王子達とプリンセスの間に緊張が走る。椅子もテーブルもちょっと端に避けられ、互いに部屋の中央で集まる形となっていた。
「ちなみに言い忘れていましたが、告白はゴールした方から順に行ってください。ただし、目当ての告白相手に他の方が先に告白した時には『ちょっと待った』コールで、同じ人へ告白することができます」
 そんな、ね×とんじみた解説の後、生徒Aは最初の王子に声をかける。
「まず、一位通過の椎堂紗月王子、どうぞ!」
「さて、と……じゃ、改めて」
 残っていたお茶をひといきに飲み干すや、紗月は静かに歩みを進め、
「迎えにきたぜ、お姫様?」
 笑みを浮かべて、手を差し出す。その相手は――鬼崎朔だった。
「っ! あ、え……自分、ですか?」
 朔は表情にこそ出さなかったが、心中では喜びや戸惑いが渦巻いていた。パートナーのカリンも顔を赤らめ固唾を呑み、スカサハはクッキーを食べながら見守っている。
「……えっと……その……」
 恋愛に悲観的な朔は、自分の汚い部分とか暴走癖とかを意識してしまい混乱していたが。
「細かいことは、こういう場では気にしなくていいと思うぜ。お互い、素直な直感の赴くままに動けばいいんだ」
 そんな紗月の言葉を受け、ハッと何かを感じ取った様子で、
「……はい」
 ゆっくりと紗月の手をとっていた。
 瞬間、ワアアアアアアア……! と、歓声や拍手が巻き起こる。カリンも笑顔で拍手し、あんまり企画の趣旨を理解していないスカサハも、とりあえず手を叩いていた。クッキーを持ったままだったので、破片がバラバラこぼれていたが。
 がんばれー、と思念を送っていた七瀬歩は、思わず駆け寄って「おめでとー!」と祝福を送っていた。
「おめでとうございます! 一組目からカップル成立とは縁起がよいですね! では流れに乗って、次は日下部社王子、お願いします!」
 そして社が告白する相手は。
「あゆむ〜ん! 日下部社、只今到着したでぇ〜♪」
 現在祝福中の歩であった。
「え、あ、やっしーさん……!?」
 まさかの次の相手が自分とわかり、ビックリするしかない歩。そんな歩に対し、告白を続けようとした社だったが。
「ちょ、ちょっと待った!」
 後方から声がかけられ、走ってくるのは次の告白者である想。
 社と想は、そこで互いが同じ相手が目的だったことを知り、思わず押し黙る。
「おおっと、ここで『ちょっと待った』です! まさかこのようなことになろうとは、誰が予想できたでしょうか! ともあれ、社王子! 告白の続きを行ってくださいっっ! 想王子はその後にお願い致しますっ!」
 そんなテンションが上がり気味の生徒Aに促され、社は告白の続きを行うことに。
「……って、何言えばええんやろか?(笑)……えっと、あゆむん今日も可愛ええね♪ ってちゃうか?(苦笑)ごほん! 俺、皆が笑っとる顔見るのが好きやねん。その中でもあゆむんの笑顔が大好きなんや。俺もっとあゆむんに笑顔の華を咲かせてもええかな?」
 社は歩から友達と思われてるのを知りながら、それでも告白し手を伸ばしていた。
 社が言い終えたのを悟ってから、想もすぅっと深呼吸し、告げる。
「僕は回りくどいのは苦手ですので、単刀直入に言ってしまいます……貴女に一目惚れ、してしまいました……」
 歩はそれを受け、頬を赤らめる。
「……あ、急に一目惚れとか……ましてや、女みたいな僕です……変に思いますよね……嫌って下さってもいいです……事実、僕は今迄嫌われてきました、そして誰も信じまいと思っていました」
 想は自身の過去を語りながら、続ける。
「でも……本当は誰かと信じ合って、幸せになりたいって……勿論、貴女も幸せにしたい……二人で幸せになりたい……今、そう思ってしまいました……」
 歩はこのとき、自身が言った『告白とか複数から受ける人は大変だよねー。そうなったらどうするのかな?』という言葉を思い返していた。まさか自分がそれを体験するとは夢にも思っていなかった。
「良かったら……お名前を教えて下さい」
「あたしは、七瀬 歩。所属は百合園女学院よ」
「僕は、幻時 想です」
 そして、想もまた手を差し出した。
 このふたりからの告白に他の生徒をはじめ、歩の友達であるプレナもまた行方が気になり、どきどきしつつ見守っていた。
 歩はしばらく差し出された手を見つめたままでいたが、やがて笑顔になり、
「ありがとう」
 手をとった。右手で社、左手で想の手を。
「お友達からよろしくお願いします」
 そしてそう返すのだった。
 そんな歩に、
(ああ……やっぱまだ、恋人にはなられへん、か。せやろなぁ)
 社は残念なような、でもどこか安心したような、微妙な表情を見せるのだった。
「ありがとうございます……」
 想は素直にそう答え、ふと歩が自分と同じ百合園生という事実に今更ながら気付いて、
「また会えたら嬉しいです、歩『先輩』」
 そう付け足すのだった。
 歓声こそ今度はないものの起こる拍手の中、歩の告白の様子を遠巻きに眺めている人物が入り口付近にいた。変熊仮面である。あの後、この場に来ていたらしい。
「ふん、念のために用意しておいたまでだ……」
 小さくそう言うと、七瀬歩宛ての告白文を近くにあったゴミ箱に丸め捨てるのだった。
「あ〜、蚤かゆい……」
 そして、くるりと回れ右して去っていく。
(でも、友達……恋人じゃないなら、俺様にもまだ……)
 ただ。密かにそんなことを思う変熊だった。
「さてさて、続いて弥涼総司王子に登場していただきましょう。どうぞっ!」
「よっしゃあ! とうとうオレの番だぜ!」
 総司は改めてぐるりと、プリンセスを見つめる。ちなみにその視線が向かうのは胸ばかり。そんな不躾な視線を感じ取り、何人かのプリンセスは思わず胸元を隠していた。
「っしゃ!」
 そして気合いを入れて向かった先は――
 アルダト・リリエンタールの前。確かに、胸は大きかった。
 さっきの騒動でややお疲れ気味の魅世瑠らだったが、一気にざわざわとし始める。当のアルダトは、自分が告白されない筈はないと自信満々だったため、特に慌てもせず真正面から総司と向き合う形をとった。
「『豊乳は富であり絶対 貧乳は人に非ず 乳こそこの世の理』……その巨乳に惚れたぜ! オレと付き合ってくれ!」
 序盤でも言っていた言葉をこの場でも言い放って手を伸ばしていた。
 その告白は他のプリンセス(主に胸の小さめな方々)から顰蹙を買って。場にも、これはダメだろう、的な雰囲気が流れる。総司自身としても、振られるのは覚悟の上といったところもあったかもしれない。
「わかりましたわ」
 が、大方の予想に反してアルダトはそう返し、そのまま、
「え?」
 逆に呆気にとられた総司をぐっと引き寄せると、衆人環視を気にもせずいきなり唇を重ねていた。
「――――!」
 おぉおおおおおおお! きゃあああああ! わああああ! うわおぉぉお!
 一斉に色んな意味で場が沸いた。ある者は突然始まったディープキスに興奮し、ある者は顔を真っ赤にして目を逸らし、ある者は口笛を吹いて写メを撮っていた。
 そうしてしばらくの興奮状態の後、唇を離したアルダトは、
「うふふ……まずは体の相性を確かめるところから始めましょう」
 そのまま総司と自分の服のボタン類に手を掛け始めようとするが、さすがにもうそれ以上はマズイと判断した数名の生徒がそれを止めていた。ちなみに魅世瑠達は、いつものことなので放置していた。
 そんな騒ぎの後、仕切り直す生徒A。
「ご、ごほん……。えー、まだ告白は続きますので今のような行為は、極力抑え目でお願い致します。それでは、次はシルヴィオ・アンセルミ王子。お願いします」
「よし、それじゃあ行くか」
 シルヴィオはすっくと椅子から立ち上がり、そのままぼんやりと椅子に座っている愛美の前に立った。瞬間、
「ちょっと待って!」「ちょっと待ってください」
 ふたつの別の声がかけられ、場に緊張が走った。
 シルヴィオが愛美に告白することを事前に聞いていた未沙とウィングは、驚くことなく自分達も横に並び立った。
「おおおお! 再び『ちょっと待った』だ! しかも今度は先程よりもひとり多い!」
 生徒Aの声の後、シルヴィオは、
「マナ、今日は君に俺の姫君になって欲しくて来たんだ」
 王子らしく優しく紳士的な振る舞いで、愛美の前に跪くと、
「今日だけでも構わない、一緒に過ごしてくれないか?」
 スッ、と星の飾りをあしらった銀のティアラを差し出した。クリスマスのプレゼントであるらしいと、雰囲気で愛美には伝わっていた。
 続くのは未沙。
「愛美さん好きです。世界中の誰よりも。あなたの事を愛してます」
 未沙は実際かなり興奮しているけれど、出来る限り自分を落ち着かせ、じっくり言い聞かせるように告白の言葉を告げ、そのまま何かを差し出した。
「クリスマスプレゼント……愛美さんの安全を願って禁猟区を込めた『きれいな指輪』です、よければ、貰って下さい」
 プレゼントに指輪という、かなり直接的に思える告白だった。
 そして最後にウィングが告白する。
「私は一人の友人としてあなたの傍であなたの恋愛をずっと見守っていました。しかし私はあなたの恋愛に対する情熱、何度振られても恋に臆病にならない根性、そしてなにより自分の気持ちをはっきり相手に伝えられる純粋さにだんだんと惹かれていきました」
 それはゆっくりとした、心が込められた言葉だった。
「私は友人としての立場を崩したくかったので一度は諦めました。でも自分の気持ちには嘘はつけませんでした」
 そして手を差し出して、
「好きです。私と付き合ってください」
 そう締めくくった。
 マリエルは当然ながら、これまで愛美の話を聞き、説得をしてきた女生徒達は、ごくりと息を呑んで成り行きを見守った。永遠にも近い数秒の時が流れる。
 そして、愛美が出した答えは……
「ごめん、なさい……」
 ゆっくりと頭を下げ、そう言った。
 告白した三者の表情が一瞬固まった後、シルヴィオは顔を俯かせ、未沙は目に涙を浮かばせ、ウィングは唇を噛み締めた。
 周りからは「あぁ……」と残念に思う男性陣からの声が漏れ、マリエルら女性陣からも「やっぱり愛美はもう恋愛しないつもりなの?」という空気が流れかけた。
 が。
 次の瞬間、予想外のことが起こった。
 愛美がすぐ傍のテーブルから水の入ったコップを持つと、ばしゃっ、と自分の頭からかけたのである。その奇行に、全員が目を丸くする中、
「ごめん、本当に。でもやっぱり今の私じゃ、きっと皆の告白に応える資格がないと思う」
 愛美の目から、ひとすじ水が流れ落ちた。それがただの水なのか、そうでないのか。それはわからない。が、確かに愛美の瞳には光が戻っていた。
「皆が好きになってくれた私は、こんな腑抜けた私じゃないんだよね。だから……今は、ごめんなさい。その気持ち、凄く嬉しかった。やっぱり恋愛っていいな。改めて、そう思うわ」
 愛美の言葉に、シルヴィオ、未沙、ウィング、そしてマリエル、他生徒達は、いつしか笑顔になって――

「決めたわ! マナミン、これから山篭りする!」

 喜びかけた一同だったが、続いたその愛美の言葉に、
「は、はぁあああああああ!?」
 なんか色々台無しにされて、呆れの叫びをあげていた。
「マナミン、恋愛や運命の人に対して想いが全然未熟だったことが、今回のことでわかったわ。みんながみんな真剣で、強い想いを持ってる。それに比べてマナミンは、二、三、色々言われたくらいで落ち込んでた。山に篭ってそんな弱い自分とサヨナラするのっ! だからちゃんと恋愛するのはその後っ! それまで待っててね、皆!」
 そして言うだけ言って、そのまま部屋を飛び出していってしまう愛美だった。
「………………」
 残った誰もがコメントできず、沈黙が流れ、
「あの、いいんですか? 追いかけなくて」
「んーと……まあ、大丈夫でしょ。この寒さだし、一日もしないでいつもの調子になって戻ってくるよ、マナは」
 生徒Aに、今回もまた振り回されて苦笑いを浮かべるマリエルはそう答えていた。
 他の生徒達も同様に苦笑いを浮かべつつ、それでもちょっと安心した顔になるのだった。
「え、えーと。では気を取り直して告白の続きに参りましょうか。水鏡彰王子! どうぞ」
 なんとも微妙な空気でやり辛い感が漂う中だが、それでも彰は腰を上げ、意中の相手の元へと向かった。その相手は……
「あ〜、舌先三寸で語れるほど器用じゃないので、乙女心には不服かもしれないが、聞いて欲しい」
「っ! あ、あたしっ!?」
 肩の荷が下りた感じで椅子にもたれていたマリエルであった。ここへ来てまさかの自分への告白に、思わず椅子から落ちそうになっていた。
「ミス・デカトリース、いきなりの事で不躾と思うかもしれないが、迷惑でなければ、俺と付き合って欲しい、勿論、どっか出かけるとかそーいうオチではなく、恋人として……ま、まぁあくまでそちらが良ければ……だが」
 マリエルは目を白黒させて顔も真っ赤にして、あぅあぅあ、とテンパっていた。
 だがそれでもすーはーすーはーと深呼吸した後、
「ごっ、ごめんなさいっ!」
 ぺこっ、と頭を下げていた。
「あ、あたしは元々マナの為にこの企画に参加しただけだったし……あっ、こんな言い方じゃ失礼だよね……。でもやっぱり、今は恋人とか、考えられないって言うか……だから本当に、ごめんなさいっ!」
 そして、またぺこりと、頭を下げるのだった。
 その答えに彰は、そっか、という顔をしながら肩を落とし、そのまま部屋を後にするのだった。
 一方のマリエルは色んなことがありすぎてなんかもうすっかり涙目になり、思わずテーブルにつっぷするのであった。
「さてさて……幸先こそよかったものの、ここへ来て連続のごめんなさい! 果たして、最後の王子はいかなる結果となるのでしょうか! それではクライス・クリンプト王子! お願いします!」
 生徒Aに促され、歩み出るクライス。
 彼は今、王子役になり切り、静かに意中の相手へと進んでいった。
「お迎えに上がりました、姫」
 彼の前にいるのは――如月空であった。
「ふぇ? なに? わたし?」
 空はお菓子をつまみながら、キョトンとした顔で返していた。
(……って何かおかしいような……と言うかこのままいきなり告白しなきゃいけない?)
 と疑問に思ったクライスは、なんだか王子に無理があるかと考え直し、
「美味しそうだね、それ僕にも貰えるかな?」
「あ、いいよ! はい!」
 談笑し、自分もお菓子をつまんで、味などについて評価をしていく。
「このレモンキャンディ美味しいね、あ、でもこっちのグレープ味の方がいけるかな」
「そうっ? わたしもそう思う!」
 空がそれに食いついてきたので、そのまま少しお菓子談議に発展するふたり。
 そのまったりした様子に、次第に観客生徒の興味は薄れ、視線を外されていく。
「実は空京に美味しいお菓子の店を知ってるんだけど」
「ほんとっ? 行ってみたいなーっ!」
 唯一生徒Aがなんだか微妙なこの空気に、どう締めたものかと困っていたが。
「さて、いつまでもこんな所にいるのもなんですし、2人で外にでも行きませんか?」
「あ、そうだよねっ。行こっかー」
 やがて外へと行ってしまう2人に、なんかもういいやと自然解散を宣言するのだった。
 そして……月明かりに照らされた廊下で。
「よければ、これからも僕と付き合ってくれないでしょうか?」
 クライスは、改めて告白を行っていた。
「うんっ! お友達から、よろしくおねがいしまーすっ!」
 嬉しくなって抱きつき、そのままなついてくる空にクライスは、
(お友達、かぁ。いやいや! これから恋人になれればいいんだよね、うん)
 そう思うのであった。