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憂鬱プリンセス

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憂鬱プリンセス

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【6・9人の王子、決定す】

 ほとんどのプリンセスはもう立ち上がって、駆けてくる王子達を応援している中。
 愛美は椅子に腰掛けたままその様子を見守っていた。
 隣にはマリエルも座っている。
「ねぇ、愛美」
 マリエルは、珍しく「マナ」ではなくちゃんと「愛美」と呼んでいた。
「別にもうね、無理に恋愛好きに戻らなくてもいいよ。人が変わっちゃうことは、悪いことじゃないもんね。でも、さ」
 正直マリエルとしても、愛美の一目惚れ騒動で何度となくフォローに奔走して迷惑した時もあった。でも、いざ恋愛を否定する愛美を目の当たりにすると、なにかが違うと感じていた。
 そんな心の中の思いを抱えながらも、しかしマリエルはにこりと笑みを見せ、
「このイベントだけは、ちゃんと最後まで付き合ってよ。ね?」
 そう告げて立ち上がると、他の皆に混じって王子達の応援に参加していった。
 それを、愛美は何も言わずにただ見つめるだけだった。

 遊戯室前。
 まだバカ騒ぎは収まらないままだが、それでも王子達が奮闘し必死に辿り着こうとしていて。ついに次なる通過者達が現れた。
 それは、シルヴィオ、未沙、彰、ウィングだった。4人はほとんどドミノ倒しのように重なりあいながらも、どうにか遊戯室へとなだれこんでいった。
「ゴルゴルゴルゴォール! ここへきてなんと、一気に4名の王子が決定しましたっ! ついに残りはあと1枠! さぁ、ラストに滑り込むのは誰でしょうかっ!?」
 未だ遊戯室の外で苦戦する王子候補もまた4人。
 バーストダッシュの軌道を若干ずらされ、壁に激突してしまったクライスとレイディス。誰かの攻撃をカウンター気味に喰らい、床に倒れこんでいるシリウス。そして縄が足や身体にひっかかっている恭司。
 それでも諦める者はおらず、どうにか先に部屋へと入ろうと傷ついた身体を奮い立たせて立ち上がり、部屋の入り口へと近づこうとする4人。
 しかしアリコリアやジュリエット、魅世瑠らの争いは収まらず……というより、なんだかわざと立ち塞がっている感があり、その攻撃の余波で、また全員が押し返されそうになった。が、
「ぐっ……!」「危ねぇ!」
 飛ばされそうなクライスを、レイディスがスキルの奈落の鉄鎖を使って引き寄せる。この切迫した状況でも、装備している処刑人の剣を床に突き立てて、体重差を補うのも忘れていなかった。
 そのまま引き寄せた力を使い、背を押し出すレイディス。
「行け、クライス!」
「ありがとうございます、後で緑茶奢ります!」
 そう言って、クライスは、遊戯室へと飛び込んだ。
 そして――
「ゴォオオオオオオオオオル! 最後の王子が今到着し……ここに9人の王子が決定致しましたぁ〜っ!」
 生徒Aの叫びに、騒いでいた一同もぴたりと動きを止めていた。
「いよっし……護衛完了、っと。一介の剣士はクールに去るぜ」
 レイディスのその呟きに、恭司とシリウスはがっくりとうな垂れる。
「それじゃ、頑張れよ、王子様♪」
 ひとり踵を返して帰っていくレイディスであった。

 とにも、かくにも。見事王子の座を勝ち取ったのは、
 椎堂紗月
 日下部社
 幻時想
 弥涼総司
 シルヴィオ・アンセルミ
 朝野未沙
 水鏡彰
 ウィング・ヴォルフリート
 クライス・クリンプト
 この9人となった。

「では早速告白……といきたいところですが、王子役の方々は数々の罠でお疲れの様子ですから、これより三十分ほど休憩の時間をとります」
 生徒Aの声で遊戯室の中も外も騒ぎは沈静化し、各々身体を休めるため中へ入っていく。
 そして恭司も入ろうとして、こちらをじっと見ていた愛美と視線がぶつかった。
「どうも」
 王子になれなかったゆえ、告白できない悔しさを心中に抱えつつも、
「俺達をそんな必死な目で見てるってことは……やっぱり気になる、とか?」
 それに愛美は、慌ててぷいっと横を向いてしまう。
「なんにしても。後悔しないように、楽しんでください」
 それでも恭司は励ましの言葉をかけるのだった。
「…………」
 愛美は言葉を返すことはなかった。
 しかし、その瞳には微かにいつもの光が宿っているような感じがあった。