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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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「ふう、なんとか敵を振り切りましたね。他の人たちはどこにいるのでしょうか」
 肩で息しながらも、エメ・シェンノートはやっと一休みできてほっと安心した。
「とりあえず、明かりがほしいのう」
 ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)がつぶやいたとき、広間に明かりがともった。世界樹内部にあるような魔法の明かりが、次々に壁にともっていく。
「玄武甲です!!」
 広間の中央にある祭壇のような物におかれた鎧を見て、千石朱鷺が叫んだ。
「よかった。無事に辿り着いていたのですね」
 玄武甲のすぐそばにココ・カンパーニュの姿を見つけて、崩城亜璃珠がほっとしたように言った。
「では、玄武甲を回収いたしましょう」
「御主人様、お待ちくださいませ。少しおかしくありませんか。ココさん、よろしければ、玄武甲をお取りください。玄武甲は、発見したあなたが取る権利をお持ちです」
 エメ・シェンノートを押しとどめると、片倉蒼は離れた場所からココ・カンパーニュに言った。
「いいえ、玄武甲を見つけることができたのは皆さんのおかげですから、これは、みんなで一緒に祭壇から取りあげましょう。さあ、こちらへ」
 ココ・カンパーニュが手招きをする。
「待て、誘いに乗るな!」
 サルヴァトーレ・リッジョが叫んだ。広間に通じる他の出入り口から、はぐれていた一行が姿を現す。
「おやまあ、よくぞ無事で」
 ココ・カンパーニュが、酷薄な笑みを浮かべた。
「あれ、リーダー、なんか変だよ?」
 時を同じくしてやってきたリン・ダージたちの一行も、広間中央のココ・カンパーニュの姿を見て首をかしげた。
「肝心の者がまだのようですが。ああ、やってきたか」
 鈍い振動とともに、天井からなにやら埃が落ちてくるのを見て、ココ・カンパーニュが言った。
 どういう意味だとその場に居合わせた者たちが天井を見あげたとたん、大音響とともに天井の一部が砕けて抜け落ちた。もうもうと、埃の舞い上がる中で、一つの人影が立ちあがる。
「なあ、この方が手っ取り早かっただろ」
 天井に開いた穴にむかって、ココ・カンパーニュが言った。
「あんた、無茶すぎだよ」
 呆れながら、茅野菫が上から飛び降りてくる。
「まあ、らしいっちゃ、らしいじゃねえか」
 すぐ後に、百々目鬼迅が続いてきた。
「肝心の玄武甲が潰れていなければよいのだが」
 パビェーダ・フィヴラーリが下りるのを手伝ってやりながら、相馬小次郎が心配そうに言った。
「あ、そこに、玄武甲が……って、横にいるの誰」
 玄武甲と、その横にいるもう一人のココ・カンパーニュを指さして、パビェーダ・フィヴラーリが叫んだ。
「それに、隠れ身で潜んでいたローグたちも問題ですね」
 上の階から落ちてきたココ・カンパーニュたちによって、待ち伏せ場所からあわてて逃げ出した海賊たちが、急いでもう一人のココ・カンパーニュの後ろに逃げ隠れた。
「初めまして、ココ・カンパーニュ。会いたかったわ」
 ブラックコートを着ていたココ・カンパーニュが、フードを脱いで頭を顕わにした。その顔は、上から下りてきたココ・カンパーニュと双子のように瓜二つだ。
「まさか、そんなはずは……。なんで、ここにいるんだ……」
 自分の分身のような少女を見て、ココ・カンパーニュが激しく動揺した。
 他の者たちも、わけが分からず、事の推移を黙って見守っている。
「あなたをここへおびき出すために、酷く面倒な芝居を打ったのだけれど。まあ、こうして会えたのだから、すべてよしとするわ。これで、やっと目的が果たせるのだから」
 もう一人のココ・カンパーニュが、ブラックコートを脱ぎ捨てた。
 ココ・カンパーニュ同士、黒一色のゴチックドレスを着てはいるが、玄武甲の横に立つココ・カンパーニュは、パフスリーブのドレスに、シャフトヘムタイプの後ろが長いスカートを穿いている。
「そんな格好をして、何が望みなんだ」
 ココ・カンパーニュが訊ねた。
「もちろん、あなたの命」
 こともなげに言いながら、もう一人のココ・カンパーニュが束ねていた後ろ髪を解いた。流れ落ちるように背中へ零れる髪が、まるで汚れが落ちるように漆黒から白銀へと色を変えていく。同時に、黒かった衣服が、闇が剥がれ落ちるように白く変化していった。
「我が名は、双子座のアルディミアク・ミトゥナ。十二星華が一人。そして、ココ・カンパーニュ、あなたを殺す者……」
 凜とした声で、もう一人のココ・カンパーニュが名乗った。
「来現せよ、星拳ジュエル・ブレーカー」
 アルディミアク・ミトゥナが胸の前に持ってきていた左手をさっと横に振り下ろした。その手に光が集まってナックルガード型の光条兵器を形成する。
「何あれ、ココさんの光条兵器にそっくり!」
 それを見て、ナナ・ノルデンが、思わず叫んだ。
「あれが、星剣とかいう物か。じゃあ、それが二つあるということなのか?」
 しっかりと観察しながら、サルヴァトーレ・リッジョがつぶやいた。
「お前も、早く星拳を出すがいい。私の半身である姉を殺して奪った、双星拳スター・ブレーカーの片割れ、星拳エレメント・ブレーカーを!」
 アルディミアク・ミトゥナの言葉に、全員が驚いてココ・カンパーニュに視線を集中させた。
「で……、でたらめを言うな!」
 声を振り絞るように、ココ・カンパーニュが言い返した。
「認めなくてもいい。私は、お前を殺して、エレメント・ブレーカーを返してもらうだけだ。さあ、呼べ、星拳を!!」
「命令されて、はいそうですかってできるか!」
「だったら、嫌でも、呼んでもらう!」
 アルディミアク・ミトゥナが、右脚の太股に巻いたガーターリングから、そこに留められている宝石の一つをむしり取った。
「セット……」
 指先でつまんだルビーを、アルディミアク・ミトゥナは星拳ジュエル・ブレーカーの結晶体の部分にあてた。まるで水面に沈む小石のように、ルビーが結晶体に呑み込まれていく。
 次の瞬間、アルディミアク・ミトゥナの左の拳が灼熱の炎につつまれた。
「こんな所でそんな物を使ったら……」
 日野晶が叫んだ。
 気のせいか、遺跡全体から、不気味な振動が伝わってくる。いや、気のせいではない、脆い天井の一部がぱらぱらと崩れ始めていた。
「まずい。こい、エレメント・ブレーカー!!」
 迷っている暇はない。ココ・カンパーニュは星拳を召喚した。素早く、結晶体に携帯をセットする。
「チャイ!」
「はい」
 呼ばれて、待ちかまえていたチャイ・セイロンが、間髪入れずに氷術を放った。
「アブソーブ」
 ココ・カンパーニュの星拳が氷塊を吸収する。
「フレイム・ストライク!」
「リリース、アイスウォール!」
 灼熱の炎と氷の壁が真正面からぶつかりあった。
 相殺された炎と氷が、爆発的な水蒸気となって遺跡の天井を吹き飛ばした。
 
    ★    ★    ★
 
「やれやれ、結局また何かやらかしたな」
 遺跡の方で起こった異変に、ジャワ・ディンブラが重い腰をあげた。
「予言が、あたったのじゃ」
 あまり嬉しくなさそうに、羽入綾香が言った。本当に遺跡が吹き飛んでいたらどうしようと思う。
「行くのかな?」
 悠久ノカナタが、ジャワ・ディンブラに訊ねた。
 それには答えもせず、ジャワ・ディンブラは大きく羽ばたいて空中に飛びあがった。
「ここは援護すべきか」(V 弾幕援護)
 それを見送って、悠久ノカナタはつぶやいた。
「私たちも行くのである」
 さっさと橇に乗り込んで、マナ・ウィンスレットがみんなに言った
 
    ★    ★    ★
 
 その頃、遺跡の外の戦いは、思いもかけない事態となっていた。
「皆さん、戦いをやめてください!」
 いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)の声とともに、突然森を分けて現れたのは、巨獣 だごーん(きょじゅう・だごーん)メカ ダゴーン(めか・だごーん)だ。
「あいつ、俺の船を沈めやがった巨大ゆる族か。しかも増えてやがる」
 シニストラ・ラウルスが、激しいうなり声をあげた。
「ヴァイシャリーの悲劇を忘れてはいけません。人も、錦鯉も、すべての者はだごーん様の庇護の下、安寧に暮らすべきなのです。さあ、だごーん様にお祈りください!」
 メカダゴーンの肩の上でいんすますぽに夫は必死に訴えたが、誰一人耳を貸す者はいなかった。
「しかたありません。こうなったら、すべての元凶である遺跡を破壊するのみ。さすれば、誰も争う理由がなくなります。今、だごーん様が、皆さんを救ってくださいます!」
 そう言うと、いんすますぽに夫は光学迷彩で姿を消した。
 だごーん様が人語では解せない雄叫びをあげた。呼応するように、メカダゴーンが重低音の機械音を唸らせる。
「何をするつもりだい!」
 デクステラ・サリクスが唖然とするまもなく、二つの巨体が遺跡に体当たりをした。
「よせ、まだ中に人が……」
 ガイアス・ミスファーンが叫んだが遅かった。
 数度の体当たりであっけなく遺跡が崩壊していく。
「戦いは、何も生み出しません……」
 うるうると涙を流しながら、いんすますぽに夫が言った。
 そのとき、崩れていく途中の遺跡が爆発した。いや、中からの強い力で、地下へ落ちかけていた屋根の部分などが逆に吹き飛んだのだ。
 大小の破片は、だごーん様とメカダゴーンに直撃した。カンカンと金属的な音を響かせてよろめくメカダゴーンの横で、だごーん様がうめいた。
「こ、これは……。戻りましょう、だごーん様。すぐに治療を」
 いんすますぽに夫があわてた。光学迷彩で、だごーん様が姿を消す。
「えっとー、な、なんかえらいことになってますぅ!? 中の人たちは大丈夫なの?」(V)
 ソア・ウェンボリスが心配したが、海賊たちと戦っている以上、うかつに近づけない。
「敵は俺たちに任せて、治療のできる者は遺跡へ!」
「そういうことだ!」
 背中合わせに戦っていたクロセル・ラインツァートとラルク・クローディスが叫んだ。
 その声に応えて、治療のできる者たちが遺跡へ走る。
 そのとき、また爆発のようなものが起こって、瓦礫が吹き飛んだ。その下から、二つの影が飛び出してくる。
 一つはココ・カンパーニュだ、そしてもう一つは、美しい光の翼を広げたヒーターシールドの上に立ったアルディミアク・ミトゥナであった。
「セット。ソニック・スライサー」
 手にしたクリスタルをジュエル・ブレーカーにセットすると、アルディミアク・ミトゥナが、左の拳を振って、真空波を放った。
「やめろ!」
 ココ・カンパーニュが、右手の光条でかまいたちを力業で粉砕する。
「お前は何者だ、まさか本当……」
 ココ・カンパーニュは必死に呼びかけようとしたが、アルディミアク・ミトゥナはまったく聞く耳を持たなかった。空中をウイング・シールドで華麗に舞いながら、一方的に攻撃をしてくる。
「轟雷閃!」
「爆炎波!」
 突然飛んできた攻撃を、空中でアルディミアク・ミトゥナが弾いた。
 崩れて切断された通路から、ペコ・フラワリーとマサラ・アッサムがそれぞれの剣を振ってココ・カンパーニュを援護している。
 そのわずかな隙に、ジャワ・ディンブラがココ・カンパーニュの許に飛んできた。
「乗れ!」
「ありがたい!」
 ジャワ・ディンブラの背に飛び乗って、ココ・カンパーニュがドラゴンライダーの本領を発揮した。