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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)レオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)、これを運んでください」
 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が、皆に配るお茶とお菓子を、パートナーたちに運ばせた。
「どうぞ、お飲みなはれやす」
「ありがとう。またのんびりできるというのも、いいもんだな」
 道明寺玲の淹れたお茶をイルマ・スターリングから受け取りながら、マサラ・アッサムが言った。生け簀では、ずっと彼と一緒にお茶を飲んでさぼっていたことが思い出される。
「まあ、本当なら、メイドなんだから私たちがお茶を出すべきなんだが、たまには出される方もいいな」
 紙コップの中のお茶の香りを楽しみながら、ココ・カンパーニュが言った。もっとも、彼女たちがティーサービスを行っているところを見た者はほとんどいないのだが。
「そうですな。では、こんな物もさしあげましょうか」
 そう言って、道明寺玲はかすかに微笑んだ。
「クイーン・ヴァンガードは、ココ・カンパーニュの持つ武装を十二星華が持つ星剣と同じ物ではないかと疑っておりますよ」
「なんの話だ?」
 道明寺玲のくれた情報という物に、ココ・カンパーニュが本当にきょとんとする。
「ヴァイシャリーで使った、光条兵器のことですよ」
「エレメント・ブレーカーのことかあ。ただの光条兵器のはずなんだけど、こういうの持ってると、クイーン・ヴァンガードに入れないとかあるんだろうか。うーん」
 道明寺玲の言葉に、まじめにココ・カンパーニュが考え込んだ。その姿は、本当に星剣を知らないようにも見えるが、単にとぼけているだけなのかもしれない。
「それはないと思いますけれど、十二星華がみんな強力な光条兵器使いなので、クイーン・ヴァンガードとしては神経質になっているようですよ。ほら、ついこの間も、イルミンスールで剣の花嫁が狙われるという事件があったばっかりじゃないですか」
 そばにいた、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)が口を挟んできた。
「クイーン・ヴァンガードとしては、なるべく多くの十二星華を特定して、敵か味方か判別したいのですな。今のところ、十二星華の特徴は、常軌を逸した強力な光条兵器を持つ剣の花嫁ということらしいですから」
「私は、生粋の地球人なんだけどなあ」
 道明寺玲の言葉に、ココ・カンパーニュがますます困惑する。
「そうなんですか? じゃあ、十二星華の疑いは晴れますよね」
 安芸宮和輝が、少し喜ぶ。これから玄武甲を探索しに行こうという仲間同士でぎすぎすと監視しあっていたのではたまらない。
「それが、そう簡単でもないのだよ。十二星華が剣の花嫁であるというのは、今のところ噂でね。もっとも、蒼空学園の校長などは、正確な情報を持っているのかもしれないが、今のところ教導団の方にもちゃんとした資料は渡されてはいないのだよ。正確な情報を持っているのは、クイーン・ヴァンガードでもごく一部の者だけらしい。だから、十二星華がすべて剣の花嫁というのも、末端の隊員としてはそう言われただけという程度の根拠しかないわけだ。ミルザム・ツァンダを盲信しているならともかく、単純に鵜呑みにはできないであろう。もし、剣の花嫁でなければならないとすれば、理由があるはずであるからな。たとえココ・カンパーニュが十二星華でないとしても、何かのつながりがあるとクイーン・ヴァンガードは考えているのだろう」
「面倒だなあ。能力を疑われるのはちょいとぶっ飛ばせばいいだけだから簡単なんだけど、そういう疑われ方は好きじゃない」
 軽く顔をしかめるココ・カンパーニュだったが、あまりに単純思考だ。
「でしたら、私たちにその星拳を見せてもらえないでしょうか。もしかしたら、何か分かるかもしれませんし」
「それはちょっとなあ」
 クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)のお願いに、ココ・カンパーニュは渋い顔をした。
「無理を言ってはいけないよ」
 安芸宮和輝が、パートナーを軽くたしなめる。
「いいや、できれば見せてほしいな」
 ヴァンガードエンブレムをつけた久途 侘助(くず・わびすけ)が、ココ・カンパーニュたちの前にやってきて言った。少し大声で話しすぎたかと、道明寺玲がいつでもガードラインを発動できるようにと自然と身構える。
「好きじゃないんだ」
 ぽつりと、ココ・カンパーニュが言った。
「思い出すんだよ。まあ、聞かないでくれればありがたいけど。それに、あまり長い間使えない武器だしね。できる限り頼らないようにしている」
 ちょっと遠くを見るような目で、ココ・カンパーニュは言った。
「だったら、出す必要はないな。今の言葉で俺は充分だ」
 意外なことに、あっさりと久途侘助が引き下がった。当然、本当はそれですむわけではない。ココ・カンパーニュが剣の花嫁でないとしたら、パートナーは誰でどこにいるのかという問題が残る。
「俺が受けた命令は、星剣らしき物を持っている者を見守れということだ。他の者は知らないが、俺自身はそう思っている。だから、あんたたちを守ってみせるさ。それが星剣かどうかなんて、俺にとっては些細なことだ」
 そう言うと、久途侘助はあえてその場を離れていった。
「まあ、クイーン・ヴァンガードでも、いろいろ思惑はあるということですな。そういう意味では、若い組織というのは捨てた物ではない」
 久途侘助の背中を見送りながら、道明寺玲は言った。自分自身がクイーン・ヴァンガードに属していることは隠したままに。
「甘い物はいかがですか。疲れがとれますよー」
 ヘルメス・トリスメギストス(へるめす・とりすめぎすとす)が、山盛りのクッキーを携えて現れた。タイミングとしては悪くない。
「あらまぁ〜。こんにちはー」(V)
「えーと……」
 愛想よく挨拶してくる神代 明日香(かみしろ・あすか)に、ココ・カンパーニュが誰だっけという顔になる。
「酷いですぅ。生け簀から逃げてくときに、しっかりお別れに手を振ったのにぃ」
「いや、あの状況じゃ分からないし……。ああ、私たちの戦隊に入りたいとか言ってた女の子の一人かあ」
 ちょっとがっかりする神代明日香に、やっと思い出したココ・カンパーニュがポンと手を打って言った。
「そうですぅ。入隊は急いでないですぅけどぉ、それと同じよぉな服をデザインして着てもいいですかぁ」
「それは、個人の自由だから、構わないんじゃないかなあ」
「わあい。今度、ヴァイシャリーの洋品店でオーダーメイドしますぅ」
 胸の前で小さく両手を打ち合わせながら神代明日香は喜んだ。ココ・カンパーニュの方はといえば、またヴァイシャリーという単語が出てきたのでちょっと苦い顔だ。
「はーい、どうぞー」
 ヘルメス・トリスメギストスが、リン・ダージにもクッキーを勧めた。
「気をつけてくださいね、それすごーく甘いのですわ」
 不用意に頬張ろうとするリン・ダージに、神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)が一言忠告した。
「大丈夫、大丈夫。ターキッシュディライトだって平気だもん」
 そう言って、リン・ダージはおいしそうにヘルメス・トリスメギストスの作ったクッキーに囓りついた。
「子供っぽいなあ」
 それを見た新田 実(にった・みのる)が思わずつぶやく。
「何よ、そっちの方が子供じゃない」
 リン・ダージが、クッキーの欠片を口から飛ばしながら反論した。
「ふん、こう見えても、ミーは二十歳なんだぜ。そっちみたいな子供とは違うんだよ」
「あたしだって二十歳だもん、こどもあちかい……ってて、噛んだ……」
 怒って言い返したリン・ダージが勢い余って舌を噛む。
「ふっ、ミーの勝ちだぜ」
「こら、何をしているんですか」
 それを見て、狭山珠樹があわてて飛んできた。こつんと新田実の頭を小突いて止める。
「ごめんなさい。あら、血が出てる、早く、これ、蜂蜜なめて」
「それより、あいつを蜂の巣に……」
 スカートの前をはだけて細い生足をにょっきりと出すと、リン・ダージがガーターリングに止めてあるホルスターに手を伸ばした。
「はいはいはい、そこまでですよー」
 寸前のところで、チャイ・セイロンがリン・ダージをだきしめて止めた。
「だってえ。あいつ撃っちゃっていい? いい? いいでしょ!」
 ホルスターカバーを外そうともがくリン・ダージに、新田実がさりげなく狭山珠樹の後ろに本能的に隠れた。
「それは、また今度にしましょうねー。とりあえず、蜂蜜を塗り塗り塗り」
 腕の中でだだをこねるリン・ダージを無理矢理なだめると、チャイ・セイロンは、狭山珠樹からもらった蜂蜜をナーシングで丁寧にリン・ダージの舌の傷に塗った。
「うちのみのるんがすみません」
「いえいえ、うちのリンちゃんこそー」
 なぜか、チャイ・セイロンと狭山珠樹が謝りあう。
「そこ、お母さん同士の会話しない!」
 思わず、リン・ダージがチャイ・セイロンの横で叫んだ。
「はーい、喧嘩なんかしないで、ゲームでもしませんかー」
 睨み合うリン・ダージと新田実の間に、荒巻 さけ(あらまき・さけ)が割って入ってきた。手には、大きめのパンを持っている。
「月遅れですけれど、ガレット・デ・ロワです。中にフェーブが入っているので、それをあてた人が王様ですよ」
「やるわ」
 リン・ダージが現状から脱出したくて飛びついたが、他のゴチメイたちはあまり乗り気ではないようだ。
「あたしは、ダイエット中ですからあ、遠慮しておきますわ」
 チャイ・セイロンが、やんわりと断った。
「ミーは、ここにいるから、タマは好きにしろよ。行きたい所があるんだろ?」
 チャイ・セイロンの隣に立って新田実が狭山珠樹に言った。
「そうするわね。でも、みのるんは一人で大丈夫?」
「もちろん」
 少し心配する狭山珠樹に、新田実は自信満々で答えた。
「面白そうだから、ここでちょっと見学してるぜ」
 そう言うと、新田実はパンの上で指を歩かせているリン・ダージの方に目をむけた。
「これを取ればいいのね」
「はい」
 とりあえず、ゴチメイたちの人数分に千切り取れるようにしてあるパンを、荒巻さけが好きにリン・ダージに選ばせた。
「ほなら、わらわも一つ」
 信太の森 葛の葉(しのだのもり・くずのは)が、リン・ダージがむしり取った部分の隣を千切り取った。
 中を確かめるようにして割ってみると、信太の森葛の葉のパンの中から、虎の形をしたゆるゆるフェーブが現れた。
「あれ、いやどすわあ。あたってしもうた」
 悔しがる、リン・ダージの前で、信太の森葛の葉がちょっと困った風を装って言った。
 荒巻さけの予定としては、これをきっかけにしてゴチメイたちとお友達になるつもりだったのだが、少し段取りが違ってしまった。とはいえ、こちらの勝ちであることにはかわりがない。この後を予定通りに運べば、うまくお友達になれるというものだ。
「では、決まりましたね。それでは、王様の望みとして、お友……」
「ほんに、かいらしいなあ。ぎょーさんおつむなでさしておくれやす」
 荒巻さけが申し出るよりも早く、信太の森葛の葉がリン・ダージの頭をすりすりとなでくり回した。ツインテールが乱れて、アリスの角が顕わになりかける。
「ああ、髪の毛が……。もうやだ」
 耐えきれなくなって、リン・ダージが逃げていった。
「あらまあ。いらちなこやねえ」
 思わず、信太の森葛の葉が静かに笑う。
「ちょっと、せっかくの計画が台無しじゃない」
「わらわは、満足しましたえ。でも、御髪をなおしてさしあげんと、このままでは、悪うおますなあ」
 信太の森葛の葉は、大きくふくらんだビクトリアンドレスのスカートを軽く持ちあげて荒巻さけに会釈すると、リン・ダージの後を追っていった。
「まったく。こうなったら玄武甲を手に入れて、それをゴチメイさんたちにさしあげてお友達になってもらうしかありませんわ」
「それは、クイーン・ヴァンガードとしてはどうなのですか?」
 日野 晶(ひの・あきら)が、心情としては同意するが、立場上大丈夫なのかと荒巻さけに訊ねた。
「それは、最終的には、ミルザム様に献上しないといけませんわよ。でも、誰が玄武甲を持ち帰るかは、あまり問題ではないと思いますの。だから、私でも、ゴチメイさんたちでも、どちらが玄武甲を持ち帰ってもいいのですわ。だったら、ここは、ゴチメイさんたちの顔をたてたいと思いますわ」
「それはそれでいいのですが、もし、彼女たちが玄武甲を持ち逃げしたらまずいことになりますよ。私たちが、それを手助けしたことになってしまいます」
「ですから、そうならないように、よくわたくしたちが見ていませんと。そのためにも、お友達になるのが第一歩なのですわ」
「そうですね。目を離さないようにしましょう」
 日野晶は、そう言ってうなずいた。
 
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「というわけで、クイーン・ヴァンガードに入れば、蒼空学園の学食が使い放題になるというわけです」
 土方 伊織(ひじかた・いおり)は、そう熱心にココ・カンパーニュに説いていた。もちろん、学食が使えるというのは文字通りで、別に食事代がただになるというわけではない。
「そうですね。クイーン・ヴァンガードに入るのであれば、蒼空学園に転入手続きをするのも一つの方法でしょう」
 一応土方伊織を支持する形で、サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)は言った。クイーン・ヴァンガードとしては、対象が手の内にいた方が監視はしやすいというものだ。
「頑張って、玄武甲を手に入れましょうね。間違っても、どこかに売りに行こうなんて思っちゃ、めっですからね。僕は信じていますから」
 素直な目でココ・カンパーニュを見つめて言う土方伊織に、サーベディヴィエールはちょっと不安になる。むやみに人を疑うのもどうかとは思うが、頭ごなしに信じすぎるのはうかつすぎる。ここは、自分がしっかりしなければいけないだろう。
「とりあえず、どこかの組織に属するようになれば、おのずと規律正しくなることができましょう。そうすれば、余計な事件を起こすこともなくなるであります。不肖未熟の身ではありますが、自分も全面的にバックアップさせていただくであります」
 比島 真紀(ひしま・まき)は前に進み出ると、胸を張って言った。
「俺もそのつもりだ。まあ、あまり力まずに事に接すれば、なんとかなるもんだぜ。とりあえず、俺たちが先行して様子を見てくるから。それから動くようにしてくれれば、何かを破壊することもないだろうぜ」
 サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)の言葉に、比島真紀がうんうんとうなずく。
「そんなに、毎回毎回何かを壊してるわけじゃあ……。まったく、面倒だなあ」
 ないと言いたいココ・カンパーニュであったが、どうしても言い切れないところが悲しかった。
「さて、いい加減出発しよう。さっさとすませたくなったよ」
 比島真紀たちが先行したのを見送ると、ココ・カンパーニュはその場の者たちを集めて言った。
 
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「出発いたします。ええ、ではそちらで……」
 千石 朱鷺(せんごく・とき)は、携帯でトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)に報告すると、素早く通話を切った。
「どこに連絡していたんですか?」
 それを見とがめたペコ・フラワリーが、千石朱鷺に訊ねた。
「クイーン・ヴァンガードとしては、いろいろ定時連絡をしなければいけないのです。あなたたちも、入隊すれば、いろいろと教えてもらえますわよ」
 千石朱鷺は、そう言ってごまかした。