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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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【十二の星の華】双拳の誓い(第1回/全6回) 邂逅

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 遺跡に四方から進入したゴチメイたちではあるが、北の正面入り口でココ・カンパーニュたちが派手に暴れたため、他の進入路を見つけて中に入った者たちは比較的スムーズに進むことができていた。
 また、先行した者たちや、単独で海賊たちのばらまいた玄武甲の噂を聞きつけてやってきた者たちは、海賊たちが防御線を布く前に内部に進入していた。
 
「たいしたトラップは見あたらないようでありますな」
 南側の隠し扉を見つけて入ってきた比島真紀が、光精の指輪で通路を照らしながら言った。
「そうだね。入り口は誰でも分かるように開いておいたし、うまい具合にゴチメイ隊の人たちが後に続いてきてくれればいいんだけどね」
 小人の鞄から呼び出した小人さんに床を調べさせながら、サイモン・アームストロングがうなずいた。
「うーん、開けっ放しで敵とかライバルが入ってきても困るけど。そのときは、私たちで囮になって引きつければゴチメイ隊さんたちの役には立てるよね」
 遺跡の入り口で一緒になった琳鳳明が、そう比島真紀たちに言った。
「いっそ、俺たちで先に玄武甲を手に入れてしまえば、ゴチメイ隊の手を煩わせないですむというものだね。何でも、ヴァイシャリーでは大変だったという噂だし。ここも破壊されたんじゃたまらないよ」
 そのために、わざわざ先行したのだとサイモン・アームストロングが言う。
「それなんだけれど、本当に玄武甲があるのかな。どうも情報がうさんくさくて。だいたい、今まで全然見つからなかった物が急に見つかる、それも、詳細が公表されていない宝物だっていうのに。何かしらの意図を感じるんだけど」
「それに関しては、それこそ自分たちが調査すればいいのであります」
「まったくだ。さあ、進もう」
 サイモン・アームストロングは比島真紀に同意すると、先へと進んでいった。
 
    ★    ★    ★
 
「どうですか、マッピングは順調です?」
 六本木優希が、しきりに銃型ハンドヘルドコンピュータにデータを入力しているアレクセイ・ヴァングライドに訊ねた。運良く遺跡の裏で開け放たれている隠し扉を見かけたまではよかったが、内部は予想以上に複雑だった。
「うーん、玄武甲を確保したらみんなで最短ルートで脱出できるようにと思ったんだが、すげー無駄に分かれ道が多いな。これって、裏口だからか?」
「そうですね、出口だと考えれば、仮説はたちそうですけれど」
 できあがった分のマップを見ながら首をひねるアレクセイ・ヴァングライドに、六本木優希が言った。
「どういうことだよ」
「出るための道だとしたら、中からは一本道かもしれないとは考えられないでしょうか。だとしたら、逆に、出口からの方からは無数に分岐させて迷路に誘い込んでしまえば、泥棒よけになりそうじゃないですか。だって、隠し扉っぽいのに、あんなに簡単に見つかったんですから」
「ああ。御丁寧に、誰かが開けっ放しにしてくれていたしな。まったく不用心なこった」
 話しながらその隠し扉の所に戻ってくると、ちょうどミラベル・オブライエンが作業を終えたところだった。
「お帰りなさい。設置は終わりました」
 トラップ用の工具を片づけながら、ミラベル・オブライエンが二人を迎えた。
 ここが脱出口だと仮定すると、肝心なときにちゃんと使えなくてはならない。せっかく逃げてきても扉が閉まっていては大変だ。かといって、扉その物を今破壊するのも、外から敵がきた場合には得策ではない。結果、六本木優希たちは、扉に爆薬を仕掛けることにしたのだった。もしも、扉を破壊しなければならなくなった場合は、スイッチ一つでそれができる。
「じゃあ、そろそろ本腰入れて奥へ行きましょう。中で誰かと出会えるかもしれないですし」
「敵じゃなければいいがな。行くぜ、一番本命っぽいのはこっちの道だ」
 アレクセイ・ヴァングライドは、作りかけのマップを頼りに歩き出した。
 
    ★    ★    ★
 
「こっちですわ、こっちから玄武甲の匂いがしますわ」
 トレジャーセンス全開で、マネット・エェル( ・ )が言った。
「違う、違う、こっちよ」
 同じトレジャーセンスを駆使した九鳥・メモワール(ことり・めもわぁる)が、まったく逆の方向を指し示す。
「まったく、同じ力を使っていて、なんで別々の方向なのよ」
 背中に垂らしたフードの中で喧々囂々の言い合いを始める小さなパートナーたちに、九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )は呆れたように言った。玄武甲の話を聞きつけて単独で遺跡に入ったのだが、こんな調子ではとても見つけられそうもない。
「もういいわ、まっすぐ進む」
「ああ、そっちじゃな〜い」
 意見を無視して別の方向へ進む九弓・フゥ・リュィソーに、マネット・エェルと九鳥・メモワールが声をそろえて抗議した。
「それにしても、トレジャーセンスに引っかからないって、ものすごい遠くに玄武甲があるのかな、それとも……」
 もともとそんな物は存在しないかだ。
「だいたい、本当に女王になるべき人がいるのであれば、女王器の力なんて必要ないはずよ」
「違いますわ、女王は神ですもの。人じゃありませんわ」
 マネット・エェルが、九弓・フゥ・リュィソーの言葉尻を取って訂正する。
「じゃあ、なんで女王候補なんて物が現れるのよ。クイーン・ヴァンガードの人たちは、ティセラっていう女王候補の偽物が現れたって言ってるけど、確か十二星華だったっけ、あれも神だっていうの?」
 クイーン・ヴァンガードの隊員が増えると同時に、情報統制というものも緩くなってきている。とはいえ、外部で知り得るものは、曖昧な固有名詞だけだ。それが何を意味するかまでは、本当のところまではよく分からない。
「それは違いますわ。もし神でしたら、女王器を集めなくても女王に推されるでしょう」
「じゃあ、神もどき? 星剣とかいう光条兵器を持っているっていうから、あんたたちと同じだと思うんだけど、あなたたちには女王の気品みたいな物はないですもんねえ」
 九鳥・メモワールの言葉に、九弓・フゥ・リュィソーは首をかしげた。五〇〇〇歳近い九鳥・メモワールたちならば何か知っていそうものだが、王家の秘密みたいなものは、そうそう知られているはずもなかった。
「酷いですわ。わたくしにだって、素敵な殿方が、君が僕の女王様だと、いつかきっと……きゃっ。ああん♪」
 まったく違うベクトルの妄想で、マネット・エェルが照れ隠しに九弓・フゥ・リュィソーの後頭部をばんばんと叩く。
「十二星華って、本来は星座の乙女のことよねえ。だから、持ってる光条兵器が星剣なんて、星にまつわる名前がついているのかしら。それとも、星に、何か意味があるのかなあ」
「星に意味はありますよ。ただ、ありすぎて、特定できないでしょう」
 話題としては面白いが、しょせんはとりとめがないと九鳥・メモワールが苦笑する。
「お星様、一番星、お空に輝く至高のお星、お空を守る星座のお星、魔法をもたらすお星様の雫、地上に輝くお星様の光、乙女は心にお星様、るんるんるん♪」
「だからとりとめがないと……」
 楽しそうに歌うマネット・エェルに、やれやれとばかりに九鳥・メモワールが眉間に指をあてて肩をすくめた。
「とにかく、玄武甲を見つけ出そうよ。もしかしたら、何かが分かるかもしれない。何も分からないかもしれない。あたしは、あたしが何を知りたいのか……それが知りたい」
 遺跡の奥へと進みながら、九弓・フゥ・リュィソーはそう言った。
 
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「そちらの罠は解除できまして?」
「もちろんだもん。これで、どうかな?」(V)
 藍玉美海に訊ねられて、久世沙幸は自信満々に答えた。
「ああ、上手なものですね。本当に助かりました」
 安芸宮和輝が、二人に礼を言った。
「本当ですわ。先に行って罠は全部破壊すると意気込んでおりましたのに、破壊する前から次々に引っかかってしまって。あなた方と出会えなければ、今頃どうなっていたかと」
 心底助かったと、クレア・シルフィアミッドが言った。本来なら、安芸宮和輝が光条兵器で罠だけを破壊して、ココ・カンパーニュたちの役にたつつもりだったのだが、破壊するより先に引っかかってしまったのではどうしようもない。このままクレア・シルフィアミッドがヒールを使い果たしてしまっていたら、万事休すのところだった。
「そんなこと、気にしないでよね」
「そうですわ、お礼なら後でたっぷりとしていただければ」
 すっと視線を二人の女の子に投げかけながら、藍玉美海が言った。
「ですけれど、これだけ罠が多いと、厄介ですわね。まあ、わたくしたちが道を間違えて変な所に入り込んでしまったとも考えられますけれど。それに、まだ最大の罠が残っているのかもしれませんし……」
 ちょっと昔のことを思い出して、藍玉美海は口ごもった。同じツァンダの南、遠からぬ所に以前は丘だったクレーターがあるはずだ。罠とは、ここまでにあったような落とし穴や毒針のような物だけとは限らない。
 
    ★    ★    ★
 
「結局、クイーン・ヴァンガードといっても、ぺーぺーはなんも知らないじゃん。せっかく、玄武甲をあたしが見つけ出して使ってみようと思ったのに」
 遺跡の中で迷子になりながら、メイコ・雷動(めいこ・らいどう)はつまらなそうに床を蹴った。
「そんな、使えるかも分からないものを。もし使い方を間違えて壊してしまったらどうするのだ?」
 ちょっと諫めるように、マコト・闇音(まこと・やみね)が言った。
「それでもいいと思ってるよ。だって、争いの素なんて始めからない方がいいし、鏖殺寺院に賛同する身としては、女王候補のためのアイテムなんか、壊しちゃった方がいいじゃん」
「それはそうではあるが、女王器を探している別組織である十二星華とやらが、どういう組織か分からないうちは、うかつな行動には出られぬだろう」
「そうかもしれないけど、もしかしたら、鏖殺寺院とお友達かもしれないじゃん」
「その十二星華とやらの組織かどうかは知らないけれど、海賊みたいな連中が玄武甲を探す手下を集めていたではないか。最初からそちらの方へ行った方が、よかったのではないのか?」
「うーん、クイーン・ヴァンガードに潜り込んで、情報を手に入れてからそっちに行ってみようかと思ったんだけどさあ。なんで玄武甲を手に入れたがっているのかよく分かんないし、もしかしてそこのリーダーが自分も女王候補になろうとしてるんなら、どうつきあっていいかまだよく分かんないんだよね」
「しかたないのう。とりあえず、ここで玄武甲を探していれば、出会うかも知れぬな。そのときに考えるとしよう」
 とにかく今は玄武甲を探すのが先だと、二人は先へと進んでいった。