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聖ワレンティヌスを捕まえろ!

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聖ワレンティヌスを捕まえろ!

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■□■3■□■「君らは恋人同士なんだし、囮に適任だ。頑張っていつも通りイチャついてくれ」

 そのころ、イルミンスールの森の別の場所。
 和原 樹(なぎはら・いつき)は、3日間かけて作った力作のチョコを、トレジャーセンスで探していた。
 「いや、別にバレンタインだからって訳じゃなくてさ。
  チョコでお菓子の家を作るキットが売ってて、面白そうだなーと。
  作ってるうちになんか夢中になっちゃって、
  ドライフルーツとかウエハースとかどんどん追加したら家っていうか塔みたいになってたけど。
  まぁ元はバレンタイン商品だし、
  1人で食べるようなものでもないから2人にあげるつもりではあったんだよ」
 パートナーの吸血鬼フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)と、
 同じくパートナーでアリスのショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)に、樹が言う。
 「……なるほど。まぁお前らしい話だな。
  無事取り戻せたら軽く茶会でもするとしよう。
  しかし、塔にまで成長したチョコレートを3人で食べきれるだろうか……」
 そう答えるフォルクスの側では、ショコラッテが気合を入れていた。
 「絶対、見つけるから」
 子どものチョコレートは奪わないという、ワレンティヌスのポリシーにより、
 自分のチョコは無事だったが、貰えるはずのチョコが取られたと知ったためであった。
 ショコラッテはモップを構えて敵に備える。
 「あ、あったよ!! よかったー。
  そういや、大量のチョコ持ってるとじゃたさんに襲われるって噂もあるよなー。
  ……ただの噂だよな?」
 樹が「チョコレートの塔」を発見すると、白髪ショートの10歳くらいの少女と目が合った。
 「がるるるるる、チョコレートじゃた……」
 「って、じゃたさん、前と雰囲気変わってないか!? ショコラちゃん、こっちに!」
 「逃げるぞ、樹……って、ショコラッテ、塔を持ってると襲われるぞ!?」
 「いや。フォル兄と樹兄さんと、あとで一緒に食べるんだもの」
 ショコラッテが塔を抱え、そのショコラッテを樹が抱き上げ、さらに樹をフォルクスが抱き上げて走り出す。
 それを、チョコレートによって暴走したじゃたが追いかける。

 一方そのころ、秋月 葵(あきづき・あおい)
 パートナーのシャンバラ人エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は、
 少女向けの恋愛小説の台詞集を手に、「イチャラブ」してるようにみせかけていた。
 「ワレンティヌスにもちょこっと同情するけどね……。
  でもチョコを奪ってバレンタインにかける乙女の恋心の邪魔はやりすきなの!
  これも人助けだし、頑張ろうね」
 邪念のない天使の笑顔で言う葵に、エレンディラは、困ったように言う。
 「こんな恥かしいことを言わないと……いけないのでしょうか?
  周瑜お姉さま?」
 同じく葵のパートナーの英霊、周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)が、こともなげに言う。
 「君らは恋人同士なんだし、囮に適任だ。頑張っていつも通りイチャついてくれ」
 「何時もイチャついてなんていませんから」
 エレンディラは内心うれしいのだが、控えめに抗議する。
 しかし、やる気モードの葵を見て、決意を固め、台詞を読み始めた。
 「葵さん、一目見たその瞬間、私は貴女の虜になったのです。
  ああ、貴女がいなければ、世界は闇に閉ざされてしまいます!」
 「きゃー、エレンディラおねえさまっ!」
 葵がエレンディラに抱きつく。
 同じく葵のパートナーの白虎の獣人イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)は、
 エレンディラがお菓子を作ってくれるのを条件に協力していた。
 「ねぇ師匠〜。イングリット退屈〜」
 お菓子袋のチョコと妖精スイーツをもぎゅもぎゅ食べながら、イングリットが言うと、
 周瑜がなだめる。
 「まあ、待ってなさい」
 「にゃー」
 ワレンティヌスが現れたところを、イングリットが取り押さえ、周瑜がネットで取り押さえる作戦なのだ。
 「せっかくだから、合同にしたほうが恥ずかしくないですよね?」
 クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)
 パートナーのシャンバラ人サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)も、
 告白もどきでワレンティヌスをおびき寄せる作戦であった。
 「……えっと、こんな所まで来てくれてありがとうございます。
  あの、その……これ受けとって下さい!
  義理なんかじゃ……ないですから」
 サフィが、目をふせて、勇気を出して告白する少女を演じる。
 「おまえらもイチャラブしてやがるのかー!
  しかも、百合園女学院の百合カップルに、
  薔薇学男子と、薔薇学女子制服とか着てるやつのカップルだとお、許せん!
  俺の目の黒いうちは、耽美な展開にはさせねーぜっ!!」
 現れたワレンティヌスは、サフィの手にしていたチョコを奪おうとする。

 ぱっちん。

 「ぎゃー!? なんじゃこりゃあ!?」
 「ひっかかったわね!」
 サフィのチョコは、イタズラ用パッチンガムのチョコ版だったのだ。
 「おとなしくしてもらおう!」
 クライスのパートナーのパラミタの蛮族の英霊ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)が、
 パッチンチョコに引っかかったワレンティヌスの襟元ひっつかみ押し倒す。
 「お菓子のためにゃー!」
 「計画通りだな」
 ワレンティヌスが逃げようと暴れたところを、さらにイングリッドが取り押さえ、
 周瑜がネットをかぶせる。
 「わー! なにしやがるんだよー!」
 「自身の功績を汚されて腹がたったのだな。
  俺も英霊だ、その気持ちはわからなくもない。
  所詮は物だ、別に愛が消えるわけじゃないから奪っても構わんだろう。
  ……だが、菓子を粗末にする事は許さん!
  聖ワレンティヌス、これも神から与えられた供物だ、聖人ならばちゃんと責任持って全部食え!
  何、飽きるかどうかは心配いらん。
  ここ最近はチョコ菓子の研究に余念が無かったからな。いくらでもアレンジしてやろう……。
  どれだけ盗んだかはしらないが……3キロくらい太るのは覚悟するんだな」
  ジィーンが、チョコを大量に用意して、ワレンティヌスに食べ飽きるまで食べさせようと迫る。
 「いや、俺、別にチョコが食いたいとか食いたくねえとかそういう気持ちでは……もぐもぐ」
 ワレンティヌスがそう言いつつ、ジィーンの作ったチョコを食べる。
 「ああ、サフィさんもジィーンさんもチョコ代にお金使いすぎ……」
 「そんなこと言ったって。友達にー、薔薇学の皆にー、全く義理だけでも配るの多くて大変だわ♪」
 ワレンティヌスが盗んだチョコをパクって家計を助けようというのが、クライスの真の目的であったが、
 ジィーンもサフィもまったく気にしてないのであった。
 「危ないぞ、そこをどいてくれ!」
 「え、あれって、ワレンティヌスさん!?」
 「チョコのお菓子がいっぱい。あの子が犯人なの?」
 フォルクスが樹を、樹がショコラッテをお姫様抱っこした状態で、じゃたに追われて走ってくる。
 「がるるるる、チョコレートがたくさんあるじゃた!!」
 「ぎゃああああああ!? やめろ、俺はチョコじゃねえええええ!!」
 「きゃー!? ええっと、エレンディラおねえさま、たすけてー!」
 「この子がワレンティヌスさん? でも、ワレンティヌスさんはもうここにいますし……」
 「そんなこといってる場合か、うわ、なぜ私まで!?」
 「にゃー、イングリットのお菓子が取られちゃうよー」
 葵とエレンディラと周瑜とイングリットは、混乱の中、ワレンティヌスと一緒にじゃたの生贄になった。
 「ちょ、下ろしてよフォルクス! みんなに見られるだろ!」
 「しかし、このままではじゃた殿に襲われてしまうぞ。
 ショコラッテも危険にさらすことになるが、お前はそれでいいのか?」
 「……いや、それは困るけど」
 「樹兄さんとフォル兄、仲良しね」
 「べ、別にそういうわけじゃっ!」
 お姫様抱っこを皆に見られて恥ずかしがる樹だが、フォルクスのいうことももっともなので逆らえない。
 さらに、思ったことをストレートに言うショコラッテの言葉に、樹が赤面する。
 「なんだかわけわからなくなってるけど、今のうちにいっしょに逃げよう。
 また、巨獣を仕留めるバイトが始まるのかな……」
 クライスがぼやく。
 「素敵なチョコレートの塔ね。あたしもああいうのみんなにあげようかしら」
 「ふむ。材料は市販品のようだが、なかなか見事だな。
 俺も塔型のチョコレート制作に挑戦するとしよう」
 しかし、パートナーの気持ちなど知らず、サフィとジィーンが、ショコラッテが抱えている、
 樹の「チョコの塔」を見て言う。
 「や、やめてー! ただでさえお金なくなってるんだからー!!」
 クライスの絶叫が、イルミンスールの森にこだました。