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リアクション
■□■4■□■「一緒にバレンタインを楽しめば、多少なりとも機嫌を直してくれるかね」
そのころ、罠を仕掛ける者がいた。
「はわわ、チョコレート……奪われちゃったのですよ。
ワレンティヌスさん……そんなにチョコレートが食べたかったのです?
えっと……そんなにいっぱい独り占めはだめだと思うですし、
校長せんせーのご命令もあるですから、アーデルハイトさんのお手伝いしなくちゃです。
取り戻すですよー。
えっと、どこに逃げちゃったか分からない、
ワレンティヌスさんを闇雲に探すより、罠を張って待ち構えるのが良いと思うのですよ。
なので、まだ残ってるチョコレートを囮にして誘き寄せるのです」
土方 伊織(ひじかた・いおり)は、チョコレートを上に乗せた落とし穴や、
鉄格子の中にチョコレートを設置するなどの罠を作っていた。
「でも、こんな単純な罠じゃ捕まらないですよね……。
まぁ、物は試しですし……いちおーやってみるですよ。
ち、違う人が引っ掛っちゃったら……ご、ごめんなのですよー」
一方、伊織のパートナーの英霊のサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)は、
ワレンティヌスに対して憤っていた。
「チョコレートを強奪するとは……なんとも不遜な事をしたものですね。
これでは、お嬢様が愛しのあの方にチョコレートを渡すという
楽しいイベントが起きないじゃないですかー」
「ベディさん、僕……男の子ですから、そんなイベント起きないですよー」
涙目になって「お嬢様」と呼ばれた伊織が言うが、ベディヴィエールは聞いてない。
「さて、お嬢様のお手伝いをいたしましょう。
落とし穴の中には小麦粉を入れておいて……。
鉄格子の中のチョコレートには七味唐辛子でも塗しておきましょう。
こーんな、皆さんに迷惑かける人達は、相当の裁きを受けなくちゃだめですからね」
「これで、誰かがアーデルハイトさんにチョコを渡そうとしたら出てくるかもです。
僕は……男の子なので、貰う方にしてほしいのですぅ」
「あら? 大丈夫です、お嬢様。その容姿ですし、お渡ししてもおかしくないですよ」
「あうぅ……」
伊織がベディヴィエールが楽しそうなのにたじたじしていると、
薔薇の学舎の制服を着た少年が走ってきた。
皆川 陽(みなかわ・よう)であった。
「『どいつもこいつもイチャラブしやがってムキィィィィ!』なフラストレーションの一部は
確実に自分のものです!
この前は同じクラスのイケメン貴族に渡してくれと、
校門前で女の子達にチョコを山ほど渡されましたよちきしょおおおお!
もちろん自分宛などひとつもないですよちきしょおおおお!
この恨みつらみ僻みフラストレーションを昇華してワレンティヌスさんを
ちょっとでも鎮めるためには、チョコのやり取りの初体験が必要です。必要ですったら必要です。
というわけで、ちょうどいいところにボクと同じ年くらいの女の子が!
これ、受け取ってください!」
陽は、号泣しつつ、目の前にいた伊織に、チョコを差し出した。
なお、わくわく初体験のために中身もラッピングも手作りであったが、陽の家庭は3である。
「え、ちょ、待ってください、僕は男の子ですぅ……!」
「ボクは薔薇学生なので、関係ないです!
女子希望だったけど、男も可! なぜならそれが薔薇学のオキテ!!
初めてだったんだから……責任取ってよね!」
伊織が慌てるが、陽が血の涙を流しながら迫る。
「あら、よかったですね、もらえる方になりましたよ。お嬢様」
「ちょ、ベディさーん!?」
ベディヴィエールがニヤニヤして動揺する伊織を見守る。
そこに、新たな一団が現れた。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と、
パートナーの吸血鬼童子 華花(どうじ・はな)、
同じくパートナーの野牛の獣人ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)、
同じくパートナーのドラゴニュートキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)であった。
「この森のなかに友達になってくれるかも知れない人がたくさんいるんだな?
オラ頑張ってビスケットたくさん贈るぞ。みんな友達になれると嬉しいな!」
華花が無邪気な笑顔で言う。
「華花の友達100人出来るかな計画、「VDにビスケットを贈ろう作戦」!!
することはただひとつ、出会った相手にビスケットを渡すこと。
こういうのは気持ちが大事、
数を用意するのに市販の動物型ビスケットになったのは気にしない!」
リカインが元気いっぱいに言う。
「先輩と同じく「ばれんたいんちょこ」とやらを受け取った身、
華花さんのためとあらばどうとでも使ってやってください。
華花さんだけじゃとてもビスケットを持ち歩けませんから自分も一緒に行かせていただきます」
ヴィゼントは、作戦の縁の下の力持ちとして、荷物持ちと、華花の肩車担当であった。
「どうにもこういうことはよくわからないし苦手なのだが……。
すでに華花からチョコを貰っている手前断るわけにもいくまい。
しかし本当に我でいいのか? それで喜ぶ相手がいるとは思えぬが」
とまどいながらも、キューのことが大好きな華花のために、キューも一緒にビスケットを配る。
「はーい、ハッピーバレンタイン!」
「兄ちゃんと姉ちゃん、チョコ交換してるのか?
オラも仲間に入れてくれるとうれしいな!」
リカインと華花が、陽と伊織、ベディヴィエールにビスケットを渡す。
「……自分、不躾ですので」
「受け取ってもらえるとうれしい」
ヴィゼントとキューも、ビスケットを差し出す。
無骨な外見の2人にはどうにも似合わない行動だったが、華花はうれしそうににこにこしている。
「あ、あ、ああああああ、ありがとううううううう!!」
陽が、4人から受け取ったビスケットを手に、がくがく震える。
「まさか、こんな大勢の人からもらえるなんてっ!!
しかも、こんなかわいい女の子からっ!!
生きててよかったあああああああああああああ!!」
陽が感涙にむせぶ。
「ちょ、ちょっと、オーバーなんじゃない?」
「こんなによろこんでくれるなんて、オラもうれしいぞ!」
リカインが苦笑するが、華花がヴィゼントに肩車された状態で、陽の頭をナデナデする。
「僕も、女の子からお菓子もらえてよかったですー。ありがとうですぅ」
「よかったですわね、お嬢様。私も、かわいい光景が見れてうれしいです」
伊織とベディヴィエールも笑顔を浮かべる。
「よーし、じゃあ、せっかくだからピクニックにしよー!
通りかかった人はどんどん仲間にしちゃおうよ!」
「はい、敷物も用意しやした、お嬢」
リカインが提案し、ヴィゼントが答える。
「よーし、じゃあ、あっちのお花畑にいこう!」
「なんだか、重要なことを忘れている気がするのだが……。まあ、いいか」
キューは華花に手を引かれて、一同は一緒にピクニックすることになったのであった。
一方、そのころ。
日比谷 皐月(ひびや・さつき)は、パートナーの守護天使雨宮 七日(あめみや・なのか)と、
同じくパートナーの剣の花嫁如月 夜空(きさらぎ・よぞら)と相談した作戦を実行しようとしていた。
(知り合いに渡すつもりで蒼学からチョコ持ってきたけど、どうにもそんな雰囲気じゃねーな。
誰にも相手にされないからって嫉妬に狂った英霊、ね……。
このチョコ渡して一緒にバレンタインを楽しめば、多少なりとも機嫌を直してくれるかね。
知り合いに世話になった礼は、また今度にすれば良いし。
迷惑かけた相手には、一緒に謝ってやるとしようか。
オレ達に地の利はない、でもって目的の物を見つける為の技能もない。
だとしたら一番確実なのは、集団に随行する事だ。
集団の持つ力をそのままそっくり利用させて貰う。
それだけじゃ不安だし、夜空には単独行動させて……捕まえたら携帯で連絡させるか)
かくして、皐月はイルミンのエリザベートやアーデルハイト達に随行していた。
「むー、あなた蒼学生なのに、なんでわたしたちについてくるんですかぁ?」
いぶかしむエリザベートに、皐月が言う。
「オレ、あのデコ嫌いなんだよ」
「環菜が嫌いってことですかぁ?」
「そうそう。何かにつけて偉そうだし、金にがめついし、何よりデコだし。
協力する価値なんてこれっぽっちもねーよ」
(このくらい言っておけば信用されるんじゃねーの……おや、殺気が)
「ふーん、よっぽど冬の寒さがお気に入りみたいね」
皐月がふりむくと、すごくいい笑顔の環菜が立っていた。
「皐月が言うとおり、環菜がデコなのは、本当のことですぅ……もがっ!?」
「ば、馬鹿者! ケンカするのはやめろとあれほど言っておいたじゃろうが!
本気の『御神楽大恐慌』を喰らったら、ヨーロッパで凍死者が続出じゃ!!」
アーデルハイトがエリザベートの口を押さえる。
幸いなことに、エリザベートの言葉は環菜は聞いておらず、
「本気のクロスファイア」で皐月を攻撃しまくっていた。
「まったく、先ほど近くに来たと携帯で連絡したのに……。
本当に愚図ですね」
環菜サイドに随行していた七日が、皐月に毒を吐く。
と言いつつも、
「本当、お人好しですね、皐月は」などど言いつつ、七日も作戦につきあっているわけなのだが。
「あっ、カンナさん! チョコがありましたよ!」
アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、環菜に従い、ワレンティヌスを捕まえようとしていたが、
地面においてあるチョコを発見して叫ぶ。
「えっ!? ちょ、ちょっと……きゃああああああ!?」
しかし、それは、伊織が仕掛けた落とし穴のトラップであった。
底には、ベディヴィエールが仕掛けた小麦粉があり、アリアは粉まみれになる。
「ゲホゲホ……。なんなのよ、いったい……。
あ、ここにもチョコが……って、きゃあああああああああ!?」
アリアはさらに、鉄格子の罠にも引っかかる。
「まったく、志方ない、もとい、しかたないですね。こんな初歩的な罠に……。
このチョコは囮でしょうから、私が食べてしまいましょう……か、辛っ!?」
偏食で甘いもの大好きな七日が、七味唐辛子入りのチョコを食べてしまい、火を噴く。
「あなたがこんなもの発見するから、私までひどい目にあったじゃないですか!」
「え、それは八つ当たりじゃないの……わー、やめてー!」
七日がウォーハンマーを振り回して、アリアを追い回す。
「や、やっと逃げられたわ……。って、ま、またなの!? ひゃああああああ!?」
「なんだ、ワレンティヌスじゃないじゃん」
蔦を利用した吊り下げと落とし穴を、夜空が設置しており、それにアリアが引っかかったのだった。
「バレンタインといえば、司祭銃殺! ってわけにもいかないから、
少年の頼みだからと思って、気合い入れて罠作ったのにー。
ムカつくから銃殺!!」
「ええええええ!? うきゃあああああああああああああああああああああ!?」
夜空はアリアを銃で撃ちまくる。
「ちょ、カンナ様、誤解だって! あれは作戦っつーか……あ、夜空!!」
「あ、少年。ん、なんでデコ校長に追われてんの? って、ぎゃー!?」
「ふふふ、いい度胸ね」
皐月が環菜に追われて走ってきて、夜空とアリアも巻き添えになった。
「わ、私、関係ないのにいいいいいいいいいいいいいいい!!」
ボロボロになったアリアは、なんとか逃げ出した。
「筑摩 彩(ちくま・いろどり)さんが罠を張ってワレンティヌスを捕まえるそうなので、
罠にかかった標的を拘束して逃がさないよう便乗……もとい協力します。
環菜会長のために、ワレンティヌスを捕まえたいですが、
できれば、穏便に解決したいですね」
そう言いつつ、影野 陽太(かげの・ようた)が罠を仕掛けていた。
陽太は、成功時には、
「ワレンティヌスを金儲けに利用せずにバレンタインデー中止の危機を、
イルミンスールに先んじて蒼空学園が解決した、と吹聴するほうが、
学園の株が上がって実質勝利者かもしれません」と私見をつけくわえるつもりであったのだが。
「わきゃあああああああああああ!?」
かくして、アリアはまた落とし穴に落ちたのであった。
「……ど、どうしていつも……ぐすん」
アリアが嘆き悲しむ。
哀しき不幸体質であった。
「えーと、しまったあぁ!?
俺もああいう風に罠にかかった方が美味しかったかもしれない!!
貴重な出番がぁ!?
……じゃなかった、大丈夫ですかー!!」
真面目な陽太は、ボケつつも、アリアを助けるのであった。
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