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聖ワレンティヌスを捕まえろ!

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聖ワレンティヌスを捕まえろ!

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 第2章 「あんたは恋人の守護聖人だろ。だったら僕達の守護聖人だねぇ。護んなきゃ」

■□■1■□■「甘くて少しだけ苦いチョコは、女の子のハートの味なの」

 「じゃたファング」によって、ボロボロになったワレンティヌスが、ざんすかと口論しながら歩く。
 「なんであんな危険な奴連れてきたんだ!
  敵も味方も関係なく襲ってたぞ!!」
 「そんなの知るかざんす! そういうことはじゃたに言うざんす!!」
 「俺に味方するとか言ってきたくせに無責任な奴だな!」
 
 そこに、小型飛空艇に乗った椎堂 紗月(しどう・さつき)と、
 パートナーの守護天使有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)がやってきた。
 派手な音をたてて、紗月の操縦する飛空挺がざんすかを轢いて着地する。
 「……あ。
  ……やっと見つけたぜ! ワレンティヌス!
  チョコ盗んで回った悪い子にはお説教しなきゃな!」
 「いくら腹が立ったからって、人の物盗んだら駄目だよ?
  それに、バレンタインのチョコにはそれぞれ大切な想いが詰まってるんだから。
  それを台無しにしちゃうなんて、生前の貴女のやったことが無駄になっちゃうよ」
 「な、俺は別に……」
 紗月と凪沙に身構えるワレンティヌスであったが、
 攻撃ではなくお説教されたので、とまどった表情になる。
 「と、まぁ説教はしたけど……お前が生前にしたこと考えたら、
  たしかにもっと感謝されていいもんな。
  だからほれ、本命とかじゃなくて悪いけどチョコやるよ。
  お前へのせめてもの感謝の印に、な」
 紗月が、ワレンティヌスの手にぽん、とチョコを渡す。
 「え? これ、くれるのか?」
 ワレンティヌスがさらにとまどう中、ざんすかが復活する。
 「ミーを轢いておいて、いい話っぽくまとめようとするなざんす!!」
 「うぎゃあああああああああああああ!?」
 ざんすかラリアットにより、紗月はお星様になった。
 「えーっと。き、気をとりなおしてっ。
  私からも、はい。
  本命ではないけど……貴女のおかげで素敵な記念日ができたから、お礼にね。
  ありがとう」
 凪沙は、ぶっ飛ばされた紗月を見送り、ワレンティヌスにチョコを渡す。
 「なんなんだよ、おまえら……」
 ワレンティヌスは、2つのチョコと凪沙を見つめ、さらにとまどった様子を見せる。

 しかし。

 「な……紗月をぶっ飛ばしただと!?
 自分の試行錯誤を重ねてやっと出来たチョコを奪うのみならず、
 そのような振る舞い……。
 あはは……。ワレンティヌス許さん! ……ツブしてやる!!」
 恋する暴走乙女、鬼崎 朔(きざき・さく)が、ちょうどその瞬間を目撃してしまった。
 朔のパートナーの剣の花嫁ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)も、
 友チョコを奪われて、怒り心頭であった。
 「うう……ボクも有栖川凪沙ちゃんや椎堂アヤメくんに渡す友チョコを奪われたよう。
  ……朔ッチも紗月くんに渡すチョコを奪われたみたいだし
  ……これはイタ〜イお仕置きが必要かな? かな?
 とりあえず、吊るして燃やして、関節全部反対方向に折り曲げてあげないとねっ」
 カリンは普段はいい子だが、愛しの朔を怒らせ、友人へのチョコも奪われてキレたために、
 パラ実生がリスペクトしたくなるような、
 エグい言動をする状態になっている。
 同じく朔のパートナーの英霊尼崎 里也(あまがさき・りや)が、煽る。
 「ふふふ、ワレンティヌスという者……かわいくてたまらん感じですな!
  さあ、朔、カリン、思う存分罰を与えてやるのです!」
 「ワレンティヌス!!! 貴様、チョコを返さないと……命はないものと思え!」
 「生きてることを後悔させてあげるよー!!」
 「ぎゃああああああやめろおおおおおおおおおお!?」
 里也が、ワレンティヌスを抱きしめてなでなでし、朔とカリンが武器を振り回す。
 「おお、嫌がる顔を思いっきり激写です!
  かわいいですな……ふふふふふ」
 同じく朔のパートナーの機晶姫スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)が、
 事態収拾のため必死になる。
 「朔様もカリンお姉さまも落ち着いてほしいのであります!
  ……しかし、これほどの怒りでは本当にワレンティヌス様と
  ザンスカールの森の精様たちをナラカ送りにしそうなのでありますよ……
  ……そうだ! ワレンティヌス様はご自身に敬いを持たない方々に憤怒して、蛮行をなされたはず!
  ならば、スカサハがワレンティヌス様やザンスカールの森の精様たちにチョコを渡し、
  感謝と敬いの心を見せれば、お怒りを鎮めてもらって奪ったチョコを返してくれるはず!
  ならば、スカサハが作ったこの義理チョコを渡してあげなければ!」
 「ぎゃー、やめろー! あと、今、紗月って奴をぶっ飛ばしたのはざんすかだろーがー!!」
 この状況でワレンティヌスに渡すのは難しそうなので、
 とりあえず、スカサハはざんすかにチョコを渡した。
 「ん? 手作りチョコざんすか? 気がきくざんす! ……ゴフッ!?」
 スカサハの手作りチョコはテロルチョコ化しており、ざんすかを一撃で沈めた。
 「な、なぜ、このようなことになったのでありますか!?」
 なお、スカサハに悪気は皆無であった。
 「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおお!!
  やっぱりこの時代の人間どもは信じらんねえ!!」
 倒れるざんすかを見て、ワレンティヌスが離脱し、涙目になって逃げる。
 「待て! 絶対、チョコのありかを吐かせてやる!!」
 「凪沙ちゃんにあげるチョコを返せー!」
 「もっと写真を撮らせるのです!!」
 朔とカリンと里也が、ワレンティヌスを追う。
 取り残されたスカサハと凪沙が顔を見合わせる。
 「とりあえず、凪沙様も、スカサハのチョコを……」
 「えーっと、早く事件を解決しなきゃだめだよねっ!
  私達も追いかけよっ!!」

 一方、筑摩 彩(ちくま・いろどり)が、森の道で、人を待つようなそぶりをしていた。
 「遅いなあ、渡したいものがあるって言ったんだけどなあ」
 彩は、ワレンティヌスをおびき寄せるため、
 人のいないところで、男子に告白する女子を装っているのであった。
 「おまえもイチャラブしようとしてる輩かー!!
  チョコ奪ってやるぜ!!」
 ちょうど走ってきたワレンティヌスが、彩の手にしたチョコの箱を奪い取ろうとする。
 「えいっ」
 その瞬間、彩は、チョコの箱に仕掛けていたピンを抜いた。
 目潰しの煙が立ち上る。
 「ゲホッゲホッ、てめー、何しやがる!?」
 ワレンティヌスを捕まえると、彩は乙女のお説教を開始した。
 「バレンタインはね、一年に一度だけ、女の子が勇気を出せる特別な日なんだよ。
  甘くて少しだけ苦いチョコは、女の子のハートの味なの。
  そんな大切な気持ちの結晶を持って行っちゃうなんて、絶対にダメ!
  こんなことしたら、みんなワレンティヌスさんのこと、嫌いになっちゃうよ!」
 「なんだとー!
  ……そんなこと言って、おまえ、チョコレート会社の回し者だなっ!」
 「違うよ、ワレンティヌスさん!
  あたしの目を見て!」
 「ううっ……」
 彩に両肩を押さえられ、真剣な視線を送られて、ワレンティヌスは目をそらす。
 「俺には関係ねーよっ!」
 ワレンティヌスは、彩の手を振り払うと、森の奥に向かって走り去った。