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【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音

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【海を支配する水竜王】その女…卑劣な声音
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第1章 オメガを狙う闇

 情報攪乱によりゴースト兵を騙した七枷 陣(ななかせ・じん)たちは、地下3階内で身を潜めて彼らの様子を窺う。
「偽者の死体をエルさんだと思い込んで、報告したようだな」
「騙された兵たちが施設の外へ行ったみたいだよ」
 リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は空っぽの空き室から、地上へ向かう兵の姿を見る。
「あいつら、エルさんが死んだとオメガさんに情報を流して、追い詰めようとしてるみたいスッよ」
 兵たちの会話を聞いた陣がエル・ウィンド(える・うぃんど)とアウラネルクに伝える。
「何が目的でそんなことをするのかわからないけど、どうせろくでもない理由なんだろうな・・・」
 姚天君の行動に陣は、ふぅっとため息をつく。
「んまぁ、このままほうっておいておくのもな。オメガさん当てに一筆書いて送らん?」
 オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)宛に手紙を書いて使い魔に送らせようかと、仲間たちの方へ顔を向ける。
「そうだな。ボクが死んでしまったと思い込んで、オメガちゃんが気に病んでしまうなんて」
 一筆書こうとエルはメモ帳の紙を手で4枚切り離す。
「それぞれこれに、オメガちゃんに伝えたいことを書こう」
 切り離した3枚の紙を仲間たちに手渡した。
「もしもオメガちゃんを泣かせてしまっているのだとしたらまずいな。なんとか安心させないと」
 屋敷内で悲しんでいる魔女のために、自分が生きていること、そして彼女自身が姚天君たちに監視されているかもしれないから騙されているふりを続けてほしいことを伝えようと手紙を書く。
「レヴィアさんを助けるために、今アウラネルクさんと一緒にいることも伝えとこう」
 ボールペンで手紙に書き加える。
「オメガちゃんのために、アウラネルクさんも手紙を書いてくれないか?」
「わらわも書くのか」
「アウラネルクさんの文字があれば、手紙が彼女も信じてくれるからさ」
「ふむ・・・やつらにそなたの死体だと思い込ませるための、ただの偽装だと書いてこう」
 手紙が本物だと信じてもらえるようにとエルに言われ、アウラネルクも書く。
「うーん、これくらいかな」
「書けたよ!」
 陣とリーズもオメガ宛に手紙を書き終えた。
「よし・・・。そんじゃ、カラスの足に手紙をつけてっと」
 それぞれ書いた手紙を陣は使い魔の足に手紙をつける。
「問題はそれをどうやって届けるかだな」
「―・・・おっ、閃いた!まぁ、任せとけっ」
 どうやって届けたらいいか考え込むエルに、陣が自信満々にニカッと笑いかける。



 姚天君の言う通りにオメガに情報を流したことについて、地下2階へ登る階段付近で兵たちが会話をしている。
「金ぴか小僧が死んだと聞いた魔女が、どんな表情になったか聞いたんだが・・・・・・・・・あぁぁっ・・・!」
 会話をしている1人の兵が突然言葉を止め、恐怖に慄いた表情で話し相手の肩をつっつく。
「よ・・・・・・姚天君様!なぜこんなところに!?」
 姚天君の存在に気づいた兵たちは驚愕の声を上げる。
「お前たちこそ、そんなところで無駄口を叩いているだけじゃない。さぼっていると、挽肉にするわよ?」
「すっ、すみません。それだけはどうか簡便を!!」
 八つ裂きにされてはたまらないと必死な形相で謝る。
「(オレを姚天君だと思って、幻覚を見ているようやね)」
 彼らが恐れている彼女の姿は、その身を蝕む妄執で姚天君だと思い込ませている陣だ。
「あの・・・それは?」
「これはね、オメガをさらに追い込むためよ。あの魔女を悲しませるために手紙を書いたの」
 姚天君に扮している陣は地下2階からカラスを飛ばす。
「ぼけーっと見ていないで、さっさと持ち場に戻りなさいよ」
「はっ、はい!」
「私はちょっと用事があるから、後でここへ様子を見に来るわ。じゃあね♪」
 カラスを飛ばした陣は兵に向かって可愛らしくウィンクをして離れ、リーズたちが待つ場所に戻る。
「(うぇえっ・・・何か不気味すぎる)」
 その仕草を見たリーズは顔を顰めた。
「何か陣くんちょっと気持ち悪かった・・・」
「しゃーねーやろ、関西弁で喋るわけにゃ行かなかったんだからよ!」
「それ以上に、くねくねぶりっこしているし・・・うぅっ・・・」
 姚天君のふりをする彼があまりにも吐き気がすると、壁に寄りかかってリーズは顔を俯かせた。
「手紙を送るためだから、仕方ないさ」
「そうじゃな・・・」
 エルとアウラネルクは陣と目を合わせないように言う。
「ひっ酷い、皆・・・あんまりだぁああっ!」
 目を逸らされた陣は地団駄を踏んだ。



「僕たちを施設の方へ引き付けている間に、何をしようとしているのかな?」
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)はオメガに良くないことが起こるかもしれないと思い、魔女の屋敷の前へやってきた。
「もしそうだとしたら姚天君たちは、オメガさんに何かしかけようとしているのかも・・・」
「えぇ・・・オメガさんを狙ったものでしたら、彼女にも何か危険が迫っているかも知れませんから」
 魔女に危険が迫っているのではと、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)も彼女の様子を見に来たのだ。
「オメガさんいますか?」
 屋敷のドアをノックする。
「あれ、開けてくれませんね・・・どうしたんでしょう」
「眠っているのかな?あっ、開いたよ」
 しばらく待っていると、ゆっくりと扉が開かれた。
「こんにちわ、オメガさん。ちょっと屋敷の中に入れてもらっていいかな?」
「はい・・・どうぞ」
 彼女は元気のない声で言い、綺人とクリスを屋敷内に入れる。
「元気ないね」
「えぇちょっと・・・。少し良くない夢を見てしまって・・・」
「(やっぱり相当、気鬱みたいだね)」
 小声で言うオメガを見て綺人は、姚天君たちの利になるのだろうと考え込む。
「(オメガさんを追い込むことで、得して喜ぶようなことって・・・。ここから出られない理由と何か関係があるのかな?)」
 魔女の心を傷つけていったい何をしようとしているのか、やつらの利になりそうなことを思い浮かべてみる。
「ノックの音?誰でしょう」
 コンコンッと扉を叩く音が聞こえ、クリスは玄関の方へ振り返る。
「誰ですか・・・?」
 警戒しながらそっと扉を開けると、そこには1羽のカラスがいる。
 そのカラスは陣が屋敷へ飛ばした使い魔だ。
「これは・・・手紙でしょうか」
 クリスは使い魔の足に結んである手紙を見つけた。
「オメガさんに手紙が来ていますよ」
 陣たちがオメガ宛に書いた手紙だと確認し、彼女に手渡してやる。
「―・・・・・・」
 読み始めた彼女はそれが本物かどうか訝しげに見る。
「よかった・・・無事なんですわね」
 アウラネルクの文字を見て、エルが死んだという情報が嘘だと分かり、オメガはほっと息をつく。
 現在は施設内でアウラネルクたちと一緒に行動しているということ、そして姚天君たちに監視されているかもしれないから、まだ騙されているふりをしていて欲しいということが書かれている。
 リーズの手紙には、絶対水竜さん助けるからねっ!・・・元気、出してね。
 最後に陣の手紙を手に取り読む。
 自分を責める余裕があるなら全部怒りに変えて心の中に秘めてください、と書かれていた。
 彼の手紙を読んだ彼女は顔を俯かせる。
「怒りの感情なんて・・・とっくに忘れたと思っていたのに・・・」
「―・・・オメガさん?」
 クリスが心配そうに彼女の顔を覗き込む。
「やっぱり今日はあまり気分がよくないようですわ」
「それじゃあ、良くなるまで傍にいますね」
 ソファーに座っているオメガに毛布をかけてやる。
 しばらくすると彼女はすやすやと眠った。
「アヤ、そもそもオメガさんてどんな存在なんでしょう」
「どんなって?」
「親とか・・・兄弟とか・・・・・・血のつながりがある人がいないんでしょうか」
「たしかに、レヴィアさんと友達みたいだけど。僕たちは彼女について何も知らないんだよね・・・」
「私たちよりも前にオメガさんと出合った生徒たちなら、何か知っているかもしれませんね」
 クリスとクリスは眠っている魔女がいったいどんな存在なのか考え込んだ。



「たしかこの辺りに、オメガさんの屋敷があったような・・・。あっ、ここです!」
 救出作戦が始まってからかなり時間が過ぎ、オメガが水竜を助けに施設へ向かった皆を心配していないかと、桐生 ひな(きりゅう・ひな)は彼女の様子を見にやってきた。
「オメガさん、こんにちわですっ」
「どなたですか?」
 扉をノックすると屋敷の中から女子生徒の声が聞こえた。
「―・・・・・・ここへ何のご用でしょうか」
 玄関の向こう側にいる相手は、怪しい者かどうか警戒している声音で返事をする。
「ひなですっ。オメガさんがどうしてるか心配で来たんですよー」
「すみません・・・十天君の手の者がやって来たのかと思って、警戒していたんです」
 警戒していた声の主はクリスだ。
 ゆっくりと扉が開き、ひなはようやく屋敷の中へ入った。
 リビングに行くとオメガがソファーの上で眠っている。
 向かい側のソファーには、ひなと同じく魔女を心配してやってきた綺人が座っている。
「そうだったんですかー。それらしいやつは来たんです?」
「いいえ、まだ来ていませんが。いつやってくるか分かりませんから、油断出来ませんね」
「どなたいらっしゃったんですの?」
 クリスたちの会話が聞こえ、オメガが目を覚ます。
「起こしちゃいましたね。私です、ひなですよ」
 ひなはソファーから起き上がったオメガに声をかける。
「どこか具合でも悪いんです?」
「大丈夫ですわ。皆さんが無事に戻ってくるまで、体調なんて崩していられませんし」
「そう・・・ですか。(やっぱり皆のことが心配なのですね〜)」
 無理して笑顔を作る魔女を見てひなは、施設にいる皆がやっぱり心配なのだと思った。
「心配しなくても皆、笑顔で戻ってくるですよー」
 オメガの心から不安を取り除こうと、ひなは笑顔で話しかける。
「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、・・・・・・いいです?」
「はい、何でしょう」
「オメガさんって契約しないと出られないのですよね〜」
「えぇ・・・そうですわ」
「もしかして・・・誰かに呪いを掛けられてたりするのですかー?」
 ひなの言葉に彼女は首を左右に振り、知らないという仕草をする。
「私が契約して出してあげられればいいんですけど。・・・試してみます?」
「きゃぁあっ!」
 契約しようとしたとたん、ひなとオメガの間に強烈な衝撃波が発生し、彼女たちは床へ叩きつけられてしまう。 
「うぅ、いたいです・・・。あっ・・・・・・オメガさん、大丈夫ですかー!?」
 床から立ち上がるとひなはすぐさま倒れているオメガを助け起こす。
「大丈夫ですわ・・・」
「(やっぱり誰かの呪いなんしょうかー・・・)」
 ひなはオメガが契約が出来ないのは、予想していた通り何者かの呪いによるものなのかと思い、屋敷に閉じ込められているのかと考える。
「うーん・・・ひょっとして十天君のことが関係しているのかな」
「え・・・・・・?」
 綺人の言葉に、ひなは眉を潜めて首を傾げる。
「1人ぼっちにしてここに閉じ込めてたり、オメガさんの友達を傷つける利点は何なのかな・・・と。もしも彼女が特殊な能力を持っているとしたら、それを使うためなのかな?僕にはまだそれが何か分からないんだけどね」
「(オメガさんが持っている特殊な能力?たしかハロウィンパーティーの時に、人に夢を見せる能力があったのは覚えてますけどねー。それが関係あるんです?)」
「どうしたんですか?何か分かりましたか」
 クリスが考え込むひなに話しかける。
「えーっと。まだちょっと分からないです」
「それじゃあ、何か分かったら教えてください」
「―・・・えぇ」
「そういえば姚天君が廃病棟で生物兵器を作っていたところって、まるで悪夢みたいなところだったよね。ドッペルゲンガーの森なんて、それそのものだよ。誰かが怯えて彷徨っているような、冷たく暗いところだったよね」
「(誰かが怯えて彷徨う・・・?夢・・・悪夢・・・・・・それとオメガさんを1人ぼっちにして利用しようということと、何か関係あるのです?)」
 ひなは疑問を重ねて考え込む。



 地下3階でブラックコートで気配を隠し、御堂 緋音(みどう・あかね)は携帯電話の届く場所へ行こうと上の階を目指す。
「やっぱり地下だとつながりませんね」
「待て・・・ゴーストがいるわ。しかも兵じゃないやつ」
 シルヴァーナ・イレイン(しるう゛ぁーな・いれいん)は緋音の手を掴んで足を止める。
「気づかずに行ったみたいね」
 ゴーストが戻ってこないうちにと、彼女の手を引き階段を駆け上がって行く。
「ここの辺りは・・・兵たちがいますね」
「弾幕ファンデーションじゃ、ちょっと無理そうね」
 目隠しをしてやろうとしたが、複数いるため効果がないと諦める。
 諦めた理由は1人分を隠す領域しかなく、目隠し用に使っても同様に1人分だからだ。
「左側にしよう」
 彼女たちは遠回りして階段へたどりつく。
「上は・・・誰もいないみたいよ」
 シルヴァーナが先に上がり、ゴーストがいないか確認する。
「この部屋なら隠れられそうね」
 廃材の散らかっている部屋を見つけて中に入った。
「電話・・・・・・つながるでしょうか。あっ、つながりました!もしもしひな?」
「聞こえてるよ緋音ちゃん。今、オメガさんの家に来てるですよー」
「そっち変わったことありませんか?ひな・・・どうしたんですか?」
「誰かが・・・誰かがオメガさんの能力を使おうと企んでいるんです」
 その言葉を聞いた緋音の表情は一変した。
「えっどういうことですか」
「オメガさんの友達の力を利用するだけじゃなくって、彼女の力も何かに使おうとしているんです」
「どんな使い方をしようとしているか分かります?」
「まだ具体的には・・・」
「そう・・・ですか・・・・・・。また何かあったら連絡くださいね」
「はいです、ではではまた」
 それだけ言うと彼女たちは電話を切った。