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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)
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卒業式が近づいて来て、リハーサルにも余念がない。
 クィーン・ヴァンガードではないが、いざという時にミルザムの盾になるつもりの道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、紅白まんじゅうのスマートな配り方を送り出す側の下級生に指導していた。

☆    ☆    ☆


 葛葉 翔(くずのは・しょう)から藤野姉妹のことで連絡を受けた崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は早速、蒼空学園に赴いた。
「こんにちは、藤野赫夜さんですわよね。私、百合園女学院の崩城 亜璃珠といいますの」
「…こんにちは。あなたが私に何の用だろうか」
「ダーリンこと、葛葉 翔からあなたたちのことをうかがったの。百合園の乙女として興味を抱かざるをえませんわ。ですからあなたにわざわざ会いに来たのですわ。ずばり、お聞きしますけれど、赫夜さん、あなた、真珠さんが好きなんでしょ」
 出会って直ぐのあまりに唐突なセリフに赫夜は唖然とするが、それでも何かを思いきったのか、ぐっと顔を上げて、亜璃珠をみつめ、口を開いた。
「守りたい、愛している」
 そう断言した。
「ふふっさすがですわ。赫夜さん。女にしておくのがもったいない、いいえ、あなたこそ女の中の女、ですわね。では私はダーリンに会いに行きますわ。何かあったら、ご相談してくださいませね」
 風のようにいなくなる亜璃珠に赫夜は気が抜ける。
「な、なんだったんだ…」
「あの…」
 そこに話を聞いていたのか、天華が現れた。
「…話をきいていたのか、天華さん」
「ええ、きいていました。ですが、私も赫夜さんに打ち明けたいことがあります。聞いてくれますか」
「…なんだろう? 私で良ければ」
「私、諸葛 天華は百合学園の生徒です…私にも想う人がいるのです。ですから、赫夜さんの気持ち、いたいほど判ります」
「そうか。打ち明けてくれてありがとう」
「赫夜さん、あなたは真珠さんを…」
「話は聞いただろう。私は真珠を愛している…たとえ、真珠が他の男のものになってもいい、それで幸せになってくれるなら、私は自分の血肉が、魂がどうなろうと構わない」
 天華はその迫力と、赫夜の真珠への想いに強く心を打たれたのだった。

 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が一人でいる赫夜を慰めようと話しかけてきた。
「手芸を教えてもらったときに、真珠が『アクセサリを着けてもらえない』って嘆いてたよ。それで今は拗ねちゃってるだけじゃないかな? もしかすると、アクセサリを着けてあげたら機嫌を直すかもしれないよ。例えば、銀細工の指輪とかブレスレットとかをね」
「そうなのかな…」
 赫夜はうわの空といったところだった。そこで藍玉 美海(あいだま・みうみ)
「『真珠さんは赫夜さん無しではいられなくて、赫夜も真珠なしではいられない』と言うような感じの事をおっしゃってたんですよ。まさか、お互いが生きるために真珠さんがアッサシーナ・ネラに扮して戦わなければならない、なんてことはありませんわよね? そういえば、赫夜さんは剣の花嫁なのですわよね? 光条兵器を扱ってたそうですし、これまでわたくしたちは剣の花嫁が操られる姿を見てきました。もしかすると、赫夜さんが操られるのを阻止する目的で真珠さんがアッサシーナ・ネラを演じているなんて……、操られているとしたら首謀者は蛇使い座でしょうか? ま、考えすぎですわよね」
 と、さりげなく赫夜に耳打ちすると、はっと赫夜は美海の顔を見たが
「そんな訳はないだろう」
 ぴしゃりと言い放ち、二人のもとを去ってしまった。
「美海ねーさま、赫夜を怒らせちゃったんじゃない?」
「いいのよ。わたくしには沙幸さんさえいれば。それにわたくしの推理はあながち外れてはいないと思いますけれど」

 そんな中、百合モード全開でやってきたのがどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)であった。
「赫夜ちゃ〜ん」
「え、誰、あなた?」
 突然声をかけられた赫夜はびっくりする。
「あなたの恋人☆どりーむ・ほしのでっす。赫夜ちゃんが怪我をしているときに、またネラと戦うことになったら大変ですっ。未熟でもそばにいて守ってあげたいと思ってやってきました!」
「え、嬉しいが、その必要は」
「遠慮はダメダメ! あたし、一生懸命がんばるもん! それに赫夜ちゃんのことをいっぱい知りたいです!」
 と、どりーむ・ほしのは離れないように、怪我をしてないほうの腕にしがみついてくる。
(ううっ、赫夜ちゃん胸がおおきいのでやわらかい感触が…真珠ちゃんに相手にされなくて赫夜ちゃんが寂しいときは、あたしが真珠ちゃんの代わりに赫夜ちゃんを気持ちよくしてあげちゃいます☆)
 どりーむ・ほしのにしがみつかれている形になって、よたよたと歩く赫夜は側から見るとちょっと笑える姿だった。


 その時だった。
 何者かにスプレーショットで襲撃される赫夜。どりーむ・ほしのが慌てて
「赫夜ちゃん! 危ない!」
 と引き倒す。
「大丈夫か!」
 実は人知れず、赫夜を警護していた斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)が赫夜とどりーむ・ほしのをかばった。
「ああ、大丈夫だ、どりーむ・ほしのさんは…」
「大丈夫だもん!」
「そいつぁ良かった」
 ネルがスプレーショットの発射されたほうへ探りに行くが、そこには既に誰もいない。
「つっ…」
 赫夜の古傷が開いたのか、血がぽたぽた落ちる。
「たいへん! 保健室にいきましょう!」
 どりーむ・ほしのが保健室へ赫夜を支えて立ち去る。
「よろしく頼むぜ」
 邦彦は声をかけながら、ネルと目を見合わせる。
「以前も、こんなことがあったよな」
「ええ、前回はワタシたちが標的でしたね…」
「偶然、というのには変な符牒だ」