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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第2回/全3回)
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リアクション

 今回の一件を受けて、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)李 ナタ(り・なた)の3人が赫夜の警護を申し出てきた。
「…グレンだ…よろしく。唐突で悪いが俺達はしばらくお前の身辺警護させてもらう」
「あの…藤野赫夜さん…ですか? 初めましてソニア・アディールと言います。前にリフルさんが疑われていた時に一部の人が手荒な事をしていたので…もしかしたら赫夜さんにも…と思いまして…それに…その…妙な噂、真珠さんの呟きの件もありましたから…」
「俺は李ナタ…ナタクって呼ばれてる。俺達はお前ら姉妹の事は何にも知らねぇけど…お前らがテロリストだなんて疑ってねぇから安心しな。まあ、根拠はねぇ…ただの勘だけど」
 一通りの挨拶が終わると、グレンが保健室で手当を受けている赫夜に質問してくる。
 と、同時に
「アブネエったらありゃしねえな」
 と、がっしりした体格のラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が保健室に入ってくる。
「すまん。藤野赫夜…でいいんだよな? 俺はラルク・クローディス。バックパッカー好きの風来坊、とでも覚えていてくれ」
 とりあえず、警戒されないように自己紹介をするラルク。
「…正直…お前や妹の真珠の関係等を詳しく訊きたいが…無理に訊く気は無い…ただ…一つだけ訊きたい…アッサシーナ・ネラの正体に心当たりはないか?」
 続けて、グレンが聞くとラルクも同様に
「俺は真珠を疑ってる訳じゃねぇ。俺はこの事件で誰を敵対するべきか。それを見極めててぇんだ。ネラと赫夜が関係してるんじゃないかってことも考えた。すまん…不躾で悪いとは思ってる。だが、ここではっきりすれば今後動きやすくなるんだ」
「…関係、ない。私たちがアッサシーナ・ネラに狙われる由縁も、真珠が疑われる理由もない。ただ…」
「ただ?」
 ソニアが繰り返す。
「私には幼少時の記憶がない。その時のことが恐らく絡んでいる」
 その時、四人には判らなかったが、それは赫夜から四人への『あるヒント』となっていたのだ。

☆    ☆    ☆


 そのころ、蒼空学園には密かな噂が立っていた。
「卒業式のリハーサルに、ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)が会場の下見にくるんですって」
「ええ? 大丈夫なの?」
「でも御神楽 環菜(みかぐら・かんな)校長がミルザムに要請されたって話よ…」



☆    ☆    ☆


「こんにちは、三池…さんっていうか、三池先輩って呼んだ方が良いですか」
 薔薇の手入れをしている三池 惟人緋山 政敏(ひやま・まさとし)は声をかけた。
「ああ、こんにちは。呼び名はどんなものでもいいよ、君は…えっと」
「緋山 政敏っていいます、こっちはパートナーのリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)
「こんにちは。ずっと私たちの学園の用務員をされていたのに、ちゃんとお礼も言っていなくて」
「あはは。そんなことを君たちが気にすることはないんだよ。これが仕事だからね」
「ところで、三池さんは『新日章会』には参加されているんですか? 蒼空OBですよね?」政敏が『新日章会』との関連について質問する。
「いや、僕は残念ながら、参加していないんだ…なんでそんなことを僕に聞くんだい?」と言う惟人。
「いえ、パートナーを危険な目に合わせたくないじゃないですか。日本としても御輿が必要なのも分かるんですけどね。ったく、女王候補なんて、ねえ?」
 とカマをかける政敏。
 それに対してリーンが
「政敏、それは言いすぎよ。建国が進めば、政敏の国だって潤うんでしょ。だからほら、もうちょっと頑張りましょう」
 とフォローしてみせる。二人は演技をしているのだった。
 その上で、惟人に
「三池さん、そういった話って他の人からも相談受けてませんか。校長やミルザム様にはこういった話中々出来なくて…ええ、何せ学園の危機ですから」
 という感じで話に切り替え、暗に『手伝って貰えないか』という演出をする。
 少し考え込んだ惟人だったが、
「愛美さんが時々、世間話をしてくるけど、どちらかというと、僕は恋愛や友達関係の相談が多いんだ。でも、僕ができることなら、何でも手伝うよ。ただ、僕はただの用務員で、君たちの力になれるかどうか…でも、いつでも相談してきてくれ。ただ、環菜校長と僕じゃあ、地位が違いすぎるからね、進言とかは無理だよ」
 笑顔が良すぎる惟人に二人は違和感を感じた。
「そうですかぁ…じゃあ、恋愛相談とか、三池さん、『ミケさん』にお願いしちゃおうかな」
 リーンはきゃあっと顔を覆い、可愛い乙女のふりをしてみる。
「それくらいで良ければ、何でも話は聞くよ」
「じゃあ、俺らはこれで」

 政敏とリーンはその場を立ち去ったフリをするが、戻ってきて校舎の影から惟人を観察していた。
「三池さんに関しては、卒業アルバムとかは一応載ってはいるから、卒業生なのは確実なんだけどな。なんか、こう、腑に落ちないんだ」
「そうね…」
「というか、三池さんのことを、誰も詳しく知らないんだ。舎監として用務員室に住み込んではいるけど、家族構成とか、どこ出身とかも一切不明だし」
「卒業アルバムから逆算すると25、6才ってところかしら。それくらいしか、判らないものね」
 ただ、薔薇を丹念に手入れする姿は、正直で働き者という印象を強く受ける。
「割と色男だしなあ。用務員で終わるようなタイプじゃねえよなあ」
「そうね…って、ちょっとまって」
 惟人は一輪の薔薇をそっと丹念に手入れしている。咲きかけでありつつも、少し弱々しい感じのする薔薇を見つめながら、惟人はつぶやいた。
「ルクレツィア様…」