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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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第一章 遺跡を探せ!

「うーん、やはり有力な情報は載っていないな。あのリフルが散々調べてもおおよその位置しか分からなかったんだ、当然か。キミの方はどうだい?」
「こちらもです。出てくるのはアトラスの傷跡シャンバラ大荒野付近にあるものばかり。パラミタ内海に存在する遺跡に関しては、記述を発見できません」
 シルヴィオ・アンセルミ(しるう゛ぃお・あんせるみ)の問いに、御凪 真人(みなぎ・まこと)が答える。彼らは蒼空学園の図書室で今回の遺跡について調べていた。
「アイシス、何か覚えていないか? パラミタ内海のほとりに昔有名な建築物があったとか」
 シルヴィオがパートナーのアイシス・ゴーヴィンダ(あいしす・ごーう゛ぃんだ)に尋ねる。
「有名な建築物、ね……これといって思い当たらないわ。でも、もしそんなものがあったとすれば、私が覚えていなくても伝わっているはずよ」
 アイシスは古代シャンバラ女王に忠誠を誓う守護天使だったが、死亡時にその力の大半と記憶の一部を失っていた。
「いずれにせよ現地に行くしかないか」
 シルヴィオが開いていた本を閉じる。
「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。鬼より手強い蛇に立ち向かうリフルの決意、なんとか後押ししてやりたいものだな」
 三人はパラミタ内海へと出発した。

  ☆  ☆  ☆

「リフル……蛇遣い座や遺跡について何か覚えていることはない?」
 現地、パラミタ内海では、リネン・エルフト(りねん・えるふと)がリフルに話を聞いている。
「蛇遣い座に関しては、洗脳されていたときの記憶がおぼろげに残っているだけ。今出回っている情報以上のことは分からない。遺跡については――」
 リフルが言いかけたとき、アリス・ミゼル(ありす・みぜる)の携帯電話が鳴った。
「あ、ごめんなさい。ボクのパートナーから着信があったみたいで。お話しの途中すみませんが、少し代わってもらえますか?」
 リフルはアリスに差し出された携帯を受け取る。
『もしもし、リフルさんかな。初めまして、俺は四条 輪廻(しじょう・りんね)。こちらは今イルミンスールの大図書館でパラミタ内海周辺について調査しているのだが、遺跡についての情報が欲しくてね。何か知っていたら教えてほしいのだよ』
 ちょうどいい。リフルはリネンにも聞こえるように言った。
「遺跡について私が知っていることは、既に依頼の段階で全て公にしてある」
『そうか、了解した。俺は調査を続ける。何か分かったらアリスを通じて連絡する。それではな』
 輪廻がそう言って電話を切る。
「ありがとうございました。あ、あと、焼きそばパン持ってきたんですけど、疲れたらみんなで食べませんか?」
 アリスはリフルから携帯を返してもらうと、手土産にもってきた大量の焼きそばパンを周りの人間に配り始める。さっそくパンを頬張り始めたリフルに、今度は荒巻 さけ(あらまき・さけ)が声をかけた。
「今回の遺跡については詳しいことが判明していないようですが、何か古代遺跡の入り口に共通する特徴的な点などありませんの? これまでのわたくしの経験だと、魔法的な仕掛けがあることくらいしか見いだせませんでした」
 リフルは口の中のものを飲み込んで答える。
「さけの言うとおり、魔法的な仕掛けが施されているのが一般的。他にも色々あるけれど、何らかの手順を踏むと入り口が出現したり、入り口自体が既に罠であったりするケースは多い」
「なるほど。テレポート機能のある遺跡なども各地に見受けられますわよね。……それにしてもリフルさん、もう食べてしまったのですか。わたくしの分も差し上げますわ」
 さけがリフルに焼きそばパンを渡す。遺跡の入り口捜索メンバーは、思い思いの方向へと散っていった。

 地元のことを一番よく知っているのは、当然ジモッティーさん。白砂 司(しらすな・つかさ)は、通りがかった数人の漁師を捕まえて聞き込みを行っていた。
「この辺りに魚がよく獲れるポイントはないか」
「んだおめぇ。見かけねぇ顔だな。漁師か?」
「いや、俺はただの学生だ。ザンスカールからやって来た」
「はーあ……そりゃ穴場ならいくつも知ってっけどよ。そう簡単に教えるわけにはいがね」
 彼らは漁で生計を立てているのだ。当然の反応だろう。
「ではその中で漁師たちに避けられているエリアはないか。例えば網が引っかかってしまうとかで」
 司がそう言うと、漁師たちは顔を見合わせてひそひそと話し始める。何か心当たりがあるのだろうか。
「知っているのだったら教えてほしい。元々俺にあんたらのテリトリーを荒らす気はないが、例え俺のことを信用できなくとも、漁が困難な場所なら教えることに問題はあるまい」
「そったらこと聞いてどうすんだ」
「ちょっとした調査とでも言っておこうか。こちらにも事情があってね」
「調査ねえ……」
 やがて根負けしたのか、一人の漁師が話し始める。
「一カ所だけそういうとごがある。ここらじゃそんなことは滅多にねぇんだけどよ、なーぜか網がボロボロになっちまうんだあ。岩に引っかかってるわけじゃねぇ。古い瓦礫みでーなのがくっついてくんだ」
「その場所は」
「焦るんでね。今教えてやっがらよ。まずあすこのでっけえ岩を右に曲がるだろ。そったら――」
 漁師たちから話を聞いた司は、礼を述べて彼らと別れる。そして三毛猫の獣人、パートナーのサクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)を振り返った。
「さあサクラコ、出番だ」

「そもそも、猫って泳ぐ泳がない以前に水に濡れるのも嫌とかそういうレベルじゃないですか……」
 漁師に聞いてやってきた目的地。サクラコは静かに揺れる水面を見つめてぶつぶつ呟いている。そんなサクラコに、司が言った。
「水中での活動は俺よりお前の方が向いている」
「そりゃ私は無敵なんで泳げますけど……分かりました、行ってきますよ」
 サクラコは渋々司の指示に従うと、水に飛び込んで素潜りを行う。しばらく後、興奮したサクラコの顔が水上に浮かんだ。
「な、何か下にありますよ! 岩じゃなくてこうもっと大きくて角張った、建物みたいなのが!」
「本当か。よし、すぐ他のメンバーに知らせよう。ところで……それはなんだ」
「あはは。その、ちょっとお腹がすいちゃいまして」
 サクラコの手の中では、活きのいい魚がぴちぴちと跳ねていた。

「本当にこんなところに入り口なんてあるのかよ」
 葛葉 翔(くずのは・しょう)は、小型飛空艇に乗って上空を飛ぶパートナーのイーディ・エタニティ(いーでぃ・えたにてぃ)の指示に従い、上からでは見えない岩場の陰を調べている。
「ここには何もないみたいだぜ」
『じゃあ、次はあっちの方調べてみようじゃん』
 携帯の向こうからイーディの元気な声が返ってくる。
「やれやれ」
 翔は移動の準備をする。リフルの頼みということもあるが、今回イーディはトレジャーハンターとして遺跡探索に燃えている。パートナー思いの翔は、なんとか彼女の力になってやりたかった。
「ん?」
 岩陰を出た翔の携帯に着信がある。それは事前に番号を交換していた司からのものだった。
「どうした。なに? 分かった、すぐ行く」
 司から連絡を受けた翔は、イーディと一緒に急いで彼の元に向かった。

  ☆  ☆  ☆

「遺跡の入り口はこの近くにある可能性が高い、というわけですね」
 周囲を見回して御凪 真人が言う。数日前にツァンダを出た彼とシルヴィオ、アイシスの三人は、今し方現地で捜索を行う仲間と合流したところだ。これで入り口捜索メンバーは全員、司とサクラコが怪しいと踏んだポイントに集まったことになる。
「うーん、少なくとも金品財宝の類はないみたいじゃん?」
 イーディがトレジャーセンスをはたらかせるが、反応はない。リフルはあちこちを興味深そうに調べて回っている。そんなリフルを見て、司は彼女に好感をもった。
(蒼学にもストイックな研究者はいるものだな。結構かわいいのに渋い)
 翔もリフルのことを見ているのだが――
「ちょ、リフル、その格好はまずいって。しゃがむな。いいかしゃがむなよ。あああ、だからしゃがむなって! それ以上は……っ!」
 いささか様子がおかしい。
 そう、リフルは美羽によって仕立てられた『蒼空学園制服超ミニスカバージョン(美羽とお揃い)』を身につけているのだ。男子生徒の視線が釘付けになるのも当然のことである。しかし、翔をリスペクトするイーディとしては面白くない。
「ダーリン……どこ見てるじゃん」
 冷ややかにそう言うと、ハンドガンで威嚇射撃を行った。
「うわ、危ね!」  
 勿論イーディは翔のことを狙ったりはしなかったが、翔は体をびくつかせる。弾丸は彼の後ろの岩に当たった。
「イーディ、いきなりそりゃないだろう」
 翔がイーディに抗議しようとする。だが、真人がそれを遮った。
「すみません。今の音、岩を撃ったにしては少しおかしくありませんでしたか?」 
 真人は岩に近づき、こつこつと指で叩く。そして入念に調べながら岩の裏側へ回ると、何かを発見した。
「これは……! 随分とさび付いてしまっていますが、鍵でしょうか? まだ機能していればいいのですが……」
 真人がピッキングのスキルを使用する。しばらく格闘した後にカチャリと音がし、岩が横にスライドした。その奥には空洞が続いている。一同から歓声があがった。
「ビンゴ! お手柄ですね」
 真人がイーディの方を見て微笑む。
「当然じゃん。私は探索が特技の(自称)トレジャーハンターじゃん!」
「いや、どう考えてもまぐれだっただろう……」
 翔は頭を左右に振りながら、意気揚々と進むイーディについて穴の中へと入っていった。

『なに、そんな仕掛けが隠されていたのか。それは何かありそうだな』
 アリスから携帯で状況報告を受けた輪廻が漏らす。 
 穴の中には、外から見たのでは分からない広い空間があった。そしてその中央部には何かの残骸が堆く積もっている。
「いかにも、といった感じね。でも……この瓦礫をどうにかしないことには、調査のしようがないわ……」
 リネンがお手上げといった様子で言う。と、リネンのパートナーヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が前に出た。
「言っとくけど、これは人々を傷つける蛇遣い座を見つけるためにやるんであって、学園やヴァンガードに味方する気はないんだからね」
「何をするつもり?」
「みんな、頼んだよ!」
 ビーストマスターであるヘイリーは、野生の蹂躙で魔獣の群れを呼び出す。魔獣たちは勢いよく走り抜け、瓦礫の山を吹き飛ばした。
「こんな使い方もあるんだ……」
 パートナーの大胆な行動にリネンはきょとんとするが、ともかく、これでじっくりとここを調べることができるようになったわけだ。皆は手分けをして、何か遺跡に関する手掛かりがないか探し始める。
 しばらくすると、シルヴィオは、アイシスが拾い上げた何かをじっと見つめていることに気がついた。
「アイシス、どうした」
「これって」
「それは……武器か? 昔ここで戦いでもあったのかね」
 皆がアイシスの周りに集まってくる。
『いよいよ怪しいな』
 今、輪廻の発言とこちらの状況は、アリスが要点だけかいつまんで互いに伝えている。輪廻は武器が出てきたという事実に興味を示した。
『少し待ってくれ。直接遺跡に関する資料はなくとも、パラミタ内海付近に目立つものや有名な戦いがなかったか調べてみよう』
 電話の向こうでは輪廻が文献を漁る物音がする。が、やがて残念そうな声が聞こえてきた。
『ふーむ、駄目だな。昔しょぼくれた灯台があったことくらいしか記録に残っていない。図書館に頼っていてはらちがあかん。俺も現地に出向いた方がいいか……』
 ところが、アリスの口から輪廻の発言内容を聞いたアイシスは、顔色を変えた。
「灯台……私、この場所を知っているかもしれません」
 アイシスは身をかがめ、注意深く床を観察する。彼女を見て、シルヴィオは反対に空を仰いだ。
「アイシス……。確かに、瓦礫をどけたことでここには天井がないことが分かった。この瓦礫が灯台の残骸だとすれば辻褄は合うが……」
 それならば、なぜ入り口にあのような仕掛けがあったのだろうか。シルヴィオが考えを巡らせていると、アイシスが声をあげた。
「みなさん、ちょっと来て下さい」
 再びアイシスの周りに生徒たちが集まる。見ると、アイシスの触れた床の一部が輝きを放っていた。
「これは……女王、ですかね?」
 真人が言う。アイシスが触れていたのは一枚のタイル。損傷が激しいが、辛うじて古代シャンバラ女王を描いているものだと判別できる。
「大発見かもしれませんわ。少しよろしいですの?」
 さけがアイシスに代わってタイルに触れる。すると、タイルの輝きは失われた。
「あら、光が消えてしまいましたわ」
「……」
 真人はその様子を見てしばらく思案する。そして、こう提案した。
「みなさん、ここにいる全員で、一人ずつタイルに触れてみましょう」

 皆が交代で触った結果、タイルが光ったのはアイシスとアリスが触れたときだけだった。
「お二人に共通するのは……守護天使だという点。となると、俺の予想では……」
 真人が辺りを歩き回る。そして間もなく、数歩離れたところで足を止めた。
「やはり」
 真人の足下には、アイシスが見つけたのと同じタイルがもう一枚あった。
「アイシスさんはそちらのタイルに、アリスさんはこちらのタイルに、同時に触れてみてください」
 二人は真人の指示に従う。すると、二つのタイルの間に直径2メートルほどの魔方陣が現れた。
 一同が覗き込むと、魔方陣の浮かんだ部分が透け、床の下に道のようなものが見える。道の出発点には床に現れたのと同様の魔方陣が浮かんでおり、その道の続く先は――パラミタ内海だ。
 皆が顔を見合わせて頷き合う。間違いなかった。

  ☆  ☆  ☆

 青い空! 白い波!
 あぁ、海よ!
 私はやって来た!
 流行りの水着を身につけて、日焼けしたイケメンと砂浜で追いかけっこ……
 ふふふ、つかまえてごらんなさあい
 ははは、まてぇ、こいつう〜
 って、いきなり寒波が!?
 寒い寒い寒い!!

「えっと、月実。お楽しみのところ悪いけど、この季節の海はまだまだ寒いよ」
「はっ! リズのツッコミがなかったら、危うく死にかけるところだったわ!」
 パートナーのリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)に突っ込まれ、一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)は妄想から我に返る。
「で、海に行けるっていうからバカンスを満喫しようと思って来たのに、なんで私は甲冑に身を包んでいるの。そしてここはどこなのよ。とりあえずケロリーメイトでも食べなきゃやってられないわ。もぐもぐもぐ……」
 お気に入りの栄養調整食品を食べ始めた月実に、リズリットは不平を漏らす。
「っていうかもう、なんで月実がバカンスだっていうと必ず仕事なのよ! 一体いつになったらまともな旅行に行けるの!!」
 そのとき、リズリットの携帯に連絡が入った。
「……はあ、月実がくだらない妄想してるうちに、遺跡の入り口が見つかったって。遺跡じゃちゃんと仕事してよね」
「もぐもぐもぐ……」
「ああ、もう! カスをこぼすなっ!」

 遺跡の入り口発見の知らせはすぐに生徒たちへと伝わり、遺跡内部へと進むメンバーが入り口前に揃った。シルヴィオは、外に残って遺跡に関する新たな発見がないか調査することに決める。もう一人外に残る予定のメイコ・雷動(めいこ・らいどう)は、
「蛇遣い座の奴、今度こそは絶対に名乗らせてやる!」
 と息巻いていた。
 学生は待ち合わせにネットを使ったりする。もしかしたら、蛇遣い座もそれを見てここにやって来るかもしれない。そう考えたメイコは、遺跡の前で見張っていることにしたのだ。
「この前はティセラが来ると思ってて完全に虚を突かれたけど、難しく考えると逆に行動できないことが分かった。全身で感じ、頭で考え、心で判断だ!」
 前回蛇遣い座と相対した際に身動きのできなかったメイコは、蛇遣い座へのリベンジに燃えている。
 蛇遣い座の星剣は蛇腹剣。相手の筋肉の動きに集中して殺気看破で攻撃タイミングを読み、蛇腹剣が鞭状になって伸び切った瞬間、懐に飛び込む。そして雷術を纏った拳で勝負するしかない。これがメイコの立てた作戦だった。
「リフルさん、どうなさいましたの?」
 いよいよ出発という段になって、さけはリフルの顔色がすぐれないことに気がつく。
「みなさんを危険な目に遭わせるかもしれないこと、まだ気にしていらっしゃるのですね」
 さけはリフルの手を取り、正面から彼女の瞳を見つめる。
「大丈夫、早くこの件を解決して、また一緒に穏やかな日々を過ごしましょう。例え星剣がなくても、リフルさんを慕う方は大勢いますの。その絆はどんな星剣よりも強いものですわ」
「私からも」
 アイシスは桔梗の透かし彫りがされている銀の栞に禁猟区を施し、リフルに手渡す。
「迷った時は、側にいる方々のことを思い出して下さい。誠実さを忘れなければ、桔梗の花はきっと応えてくれます」
 リフルは二人の言葉に小さく、しかし、しっかりと頷いた。そして、仲間を振り返って言う。
「行こう」