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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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  ☆  ☆  ☆

 【義剣連盟】のメンバーである九条 風天(くじょう・ふうてん)リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)月島 玲也(つきしま・れいや)、そして玲也のパートナーヒナ・アネラ(ひな・あねら)暁 出雲(あかつき・いずも)は、リフルの護衛を任務に行動している。
(玲也がこうして他の方々と一緒に行動する日が来るなんて、初めて会った時には考えられないことでしたわ)
 玲也の前を歩くドラゴニュートのヒナは、仲間を一人一人見まわしながらしみじみとそう思っていた。
(リフルさんや九条様と出会ったことで、本当に成長したんですのね。これからも、皆様と一緒に色んな経験を出来たら良いですわね……玲也)
 感慨に耽るヒナの横で、出雲は風天の姿に見とれている。
「うぅむ、見れば見るほど美しい」
 出雲は風天のことを女性だと勘違いしているのだ。そんな出雲の鳩尾に、ヒナは肘鉄を食らわせる。
「うげっ」
「出雲、真剣にやってほしいものですわね」
「分かったよ。それにしてもヒナ、いきなり肘鉄はないだろう……」
 ヒナに叱られ、出雲は真面目に超感覚で警戒を始める。彼は狐の獣人だ。
 玲也は最後尾で巨大甲虫に乗り、ゆっくりと低空飛行している。背後からの不意打ちに備え、超感覚で敵の気配を探っているのだ。自分の肩には、いつも通りペットのフェネック、シンを乗っけている。
「む」
 出雲が尖った耳をぴくつかせる。
「何か音が聞こえるぞ……」
 そのまましばらく進むと、遺跡が揺れているのがはっきりと分かる。
「この震動、一体何でしょう」
 確認しようとするリースを、風天が制した。
「ボクが見てきます。危険ですから、リースさんたちはここで待っていてください」
「……はい」
 風天の言葉に、リースはどこか不満そうな表情を浮かべる。
「これは」
 震動の正体を目撃した風天は、目を丸くする。
「なんとも分かりやすい。間違いなく蟹座の試練ですね」
 風天の視線の先では、巨大なカニが優雅に(横にしか移動できないが)歩き回っていた。カニは風天たちに気がつくと、ハサミを振り上げて近づいてくる。
「ボクが前に出ます! みなさん、援護をお願いします!」
 風天がカニを迎え撃つ。
「出雲、シンをお願い」
 玲也は出雲にシンを手渡した。
「任せろ」
 出雲はシンを抱きかかえると、隠れ身で姿を隠す。本来ならここからトリモチなどを使い、トラッパーのスキルで罠を仕掛ける予定だったのだが、この巨大なカニに効果があるとは思えない。出雲はとりあえず様子をみることにした。            
 ヒナも出雲と同様の行動に出る。彼女は敵の足下を凍らせて動きを鈍らせようと考えていたのだが、このカニの足下といったら辺り一帯になってしまう。
 玲也は風天の後に続き、リースは、やはり不満そうな顔をしたまま彼らにパワーブレスをかけた。
「はあっ」
 花散里では弾かれると考えた風天は、高周波ブレードでカニに斬りかかる。しかし、カニの甲殻には高周波ブレードでも歯が立たなかった。
「相当硬いみたいですね。しかし、大きくてもカニはカニ。水辺の生き物ですから、やはり雷電属性に弱いと思うのですが……月夜はどう思います?」
 風天たちの戦いを見ていた樹月 刀真が言う。
「私もそう思う。とりあえずやってみよう。早く加勢しないとあの人たちも危ない」
 漆髪 月夜はそう刀真に答えた。
 刀真と月夜もカニに近づこうとする。しかしこのカニ、全身が凶器である。風天との戦闘で動きが激しくなっており、なかなか近寄れない。もたもたしているうちに、刀真がカニの体と壁との間に挟まれそうになる。
「刀真、危ない!」
 月夜の叫び声に、玲也が気がついた。玲也は巨大甲虫で刀真のところまで移動すると、刀真の手を掴んで間一髪その場から脱出する。
「危ないところをありがとうございます。しかし、まだ月夜が」
「うん」
 玲也は刀真を地面に下ろすと、リカーブボウでカニを攻撃する。カニにダメージはないが、月夜に危険が及ばないよう誘導するのが目的なので問題ない。
「ふう……」
 玲也は、一仕事終えて息をつく。そこに、思い詰めた様子のリースがやってきた。
「もう、我慢できません……」
「どうしたの」
「玲也さん、私をあのカニの頭上まで連れていって下さい」
 予想外の言葉に、玲也は動揺する。
「そんなことして、どうするつもり?」
「あのカニを攻撃します」
「な、何言ってるの! 勝手にそんなこと」
「お願いです。無理を言っていることは分かっています。でも、どうしても風天さんに伝えたいことがあるんです」
 リースの真剣な眼差しが玲也を捉えて離さない。玲也は他人事とは思えなかった。自分にもこんな目をしたことがある。
「……分かったよ」

「ここでいいの?」
「はい、ありがとうございます」
 玲也はリースを連れ、カニの真上にやってくる。
「それじゃあ、いくよ」
「やってください!」
 玲也とリースの手が離れた。
「えええええい!」
 リースはカニに向かって降下しながら、フェイスフルメイスを振りかぶる。それに気がついた風天は、柄にもなく取り乱した。
「な、あれはリースさん!? これは一体どういうことですか……」
 リースの振り下ろしたメイスはカニの頭部に直撃する。強固な甲殻にひびが入り、カニは動きを鈍らせた。
「なるほど、鈍器がよく効くのですね。これはチャンスです!」
 刀真がカニの傷口に向かって轟雷閃を撃ち込む。カニは泡を吹いてその動きを止めた。
「リースさん、無事ですか!」
 風天が大慌てでリースに駆け寄る。リースに怪我がないことを確認して胸をなで下ろすと、風天は彼女を諭し始めた。
「まったく、なんて危ないことをするんですか。たまたまうまくいったからよかったものを――」
 が、リースはそれを遮り、ため込んでいた思いをぶちまける。
「戦闘になっても、私に求めるのは毎回援護や支援。風天さんにとって私は本当に必要なの? それとも、支援してくれれば誰でもいいの? 風天さんと一緒に戦いたいから、努力して強くなったのに……私にはあなたの隣は務まらないの? これじゃただのお荷物だよ。私の代わりなんていくらでも居るじゃない!!」
「リースさん……」
「私なんか……居なくてもいいよね」
「そんなことありません!」
 風天はリースを、かけがえのない恋人を強く抱きしめる。
「すみません……大切に思うあまり、リースさんの気持ちに気がついていませんでした」
「守られる一方だなんて嫌だよ。私はあなたの足かせじゃなくて、一緒に戦える仲間でありたいの」
「そうですね。一緒に強くなりましょう。お互いを守り合えるように」
 熱い抱擁を交わす二人を、刀真と月夜が見守る。
「いやあ、見せつけてくれますね」
「よかった、雨降って地固まったみたいで。それにしても、あのリースって子すごい。私も見習わないと」
「……月夜はそのままでいいと思いますよ」

  ☆  ☆  ☆

「部屋、か。この遺跡も随分奥までやって来たな」
 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が四方に視線を巡らせて言う。探索メンバーたちは小さな部屋の中に立っていた。
「さて、出口は扉で塞がれているわけだが……まああの魔方陣が怪しいわな」
 部屋の中心には禍々しい雰囲気を放つ魔方陣が描かれている。レンは迷わず魔方陣へと歩み寄り、その中に入ろうとした。
「不用意に近づいては危険であります」
 比島 真紀(ひしま・まき)がレンを止めようとする。しかし、レンは魔方陣の中に足を踏み入れた。
「何かやってみないことには先に進めないだろ?」
 すると、出口の扉が開く。
「お」
 レンが足を引っ込めると、今度は扉が閉まった。
「ここに立ってりゃ扉が開くのか。随分単純な仕掛けだな。よし、みんな行け」
「おまえはどうするんだい? そこに立ってたら、扉が閉まるまでに外に出られないだろう」
 真紀のパートナー、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が尋ねる。
「そのとき考える。さ、早く行け」
「んな無茶な……」
 レンに急かされ、生徒たちは部屋から出て行く。後に残ったのはレンと真紀、サイモンだけとなった。
「さあ、あとはお前たちだけだぜ。……ん?」
 真紀とサイモンがどうしたものか戸惑っていると、魔方陣の中からアンデッドが姿を現した。アンデッドはレンの足を掴み、魔方陣の中に引きずり込もうとする。
「ちっ、厄介なのが出てきやがったな!」
 レンは両手のハンドガンでアンデッドを撃ちまくる。真紀たちもレンに加勢した。
「なにもたもたしてるんだ!」
「貴殿だけ見捨てるなんてできないであります!」
「いいか、本来の目的を忘れちゃいけない。征くんだ。ずっと目指してきた最奥部は、きっともうすぐだ」
「く……っ! 申し訳ないであります!」
 レンの言葉に、真紀たちは涙を飲んで走り出す。出口までやって来て振り返ると、レンはもう下半身を魔方陣に吸い込まれていた。
「やはり、我慢できないであります!」
「俺もだよ、真紀」
 真紀とサイモンが引き返そうとする。
「スピードなら私に任せて」
 そう言ったのは、「音速の美脚」の異名をとる小鳥遊 美羽だった。
「少しの間だけ扉をお願い!」
 美羽はバーストダッシュで飛び出すと、レンの体を魔方陣から引きずり出す。同時に、重厚な石の扉が落ちてきた。
「なんとしても食い止めるであります!」
「今度は俺たちが体を張る番だね!」
 真紀とレンはドラゴンアーツを使って必死に扉を支える。だが、扉は止まらない。完全に閉まってしまうのも時間の問題だ。
「間に合えええ!」
 急いで引き返した美羽が、扉に向かってスライディングする。わずかな隙間をすり抜けて、間一髪美羽とレンは部屋から脱出した。直後に扉が閉まる。
「ありがとうございます!」
 真紀は美羽に礼を言うと、傷ついたレンにヒールをかける。
「よかった……本当によかったであります……」

「今まで乗り越えてきた試練は恐らく11。ということは、ここが最後の障害ということになるのでありますか?」
 脱出した部屋の向こうに待っていたのは、不思議な空間だった。上も下も右も左も前も後ろも分からない。何色とも呼べない景色がどこまでも広がっている。これまでとは全く異なる雰囲気に、真紀は戸惑いの色を隠せなかった。

  ☆  ☆  ☆

『よくここまできましたね』
 先頭に立つリフルに、どこからかそんな声が聞こえてくる。
『あなたが進もうとしている道には、多くの困難が待ち受けているでしょう。無事で済むという保証はありません。それでも行きますか?』
 突如、リフルの脳裏に様々な映像がよぎった。それは、これから遭遇しうるいくつもの悲惨な光景。それでもリフルはもう迷わない。恐らく仲間たちも同じものを見せられているのだろう。でも――
「今度は私が信じる番」
 リフルは振り返らずに足を踏み出す。やがて、最後の扉が見えた。