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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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第三章 待ち受ける試練 後編

「ねえ隆、どうするのー?」
「静かにしろリニカ、今考えてる」
 遺跡内の道と道の間にできた大きな溝。その底で武ヶ原 隆リニカ・リューズは途方に暮れていた。
 リフルたち探索メンバーと一緒に遺跡に忍び込んだ二人は、探索メンバーが準備をしているうちに先行して遺跡を進んでいたのだ。隆とリニカも経験豊富なクイーン・ヴァンガード。ここまで二人だけで何とかやってきた。
 そしてこの溝を前にした隆は、『俺に任せろ』とクールに決め、リニカを抱えてジャンプした。そこまではよかったのだが……どこぞの橘 カナさん同様、途中で落下するという悲しい結果が待っていたのだ。リニカの女王の加護がなかったら、二人は大怪我をしていたことだろう。
「だから意地張らずにみんなと一緒に行こうって言ったのに……」
「うるさい」
 隆には、洗脳されたリフルに大切な人を傷つけられたという過去があった。被害者の命に別状はなく、リフルも直接謝罪をしてくれたのだが、隆はまだリフルと打ち解ける気にはなれない。それだけその人物に対する思いが強いということなのだろう。それ故リニカの気持ちにも気づいていないのだが。
「よじ登るのは無理だな……」
 高くそびえる壁を見て、隆が呟く。そのとき、上から人の声が聞こえてきた。

  ☆  ☆  ☆

「道が途切れていますね。これが次の試練というわけですか。空飛ぶ箒を使えば溝に落ちることはありませんが、それでは簡単すぎます……」
 隆たちが落っこちた溝の近く。支倉 遥が足を止めて訝しがる。
「私がちょっくら見てくるぜ」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)はそう言うと、空飛ぶ箒にまたがって姿を消す。間もなく帰ってきたミューレリアは、分かったことを遥に伝えた。
「道の先には鉄の壁があって行き止まりだったぜ。溝の底には、ここからも見えるとおりでっかいブロックみたいなのがある」
「壁はまだ分かりますが、あのブロックは不自然ですね」
「私も怪しいと思ったけど、ありゃあ持ち上げるのも壊すのも無理そうだぜ?」
「確かに」
 再び考え込む遥。その隣でパートナーの屋代 かげゆが言った。
「面倒臭そうですにゃ。この遺跡探索、報酬に伝説の『目黒のさんま』でもゲットできないことには割に合わないですみゃ」
「さっきオニギリを食べたばかりではありませんか。かげゆは食いしん坊ですね」
「それとこれとは話が違いますみゃ! まったく、水中遺跡なんだから魚の一匹くらい見つかってもいいのに。サハギンなんかお呼びじゃないみゃ」
 かげゆが不満そうに言う。その言葉に、遥がぴくりと反応した。
「水中……水……そうか。かげゆ、お手柄かもしれませんよ」
「みゃ?」

「あいつら、何を始めるつもりだ?」
 溝の底で身を潜めていた隆が、遥たちの方を見上げる。そこには生徒たちが一列に並んでいた。
「うまくいくかは分かりませんが、やってみる価値はあるでしょう。それではみなさん、お願いします」
 遥の指示で、生徒たちは溝に向けて氷の術を放つ。
「わぶっ!」
「隆が凍ったあ!?」
 やがて、溝には氷がぎっしりと敷き詰められる。
「こんなもんでいいでしょう。それでは次、お願いします」
 今度は炎の術を放つ生徒たち。
「あぢ! あぢぢ!!」
「隆が燃えたあ!?」
 熱で氷が溶け、溝の中が水で満たされていく。
「さあ、どうなりますか」
 遥が緊張の面持ちでブロックの行方を見守る。すると浮力でブロックが浮かび上がり、その陰から小さな扉が姿を現した。
「おお、やるじゃないか。テレビゲームみたいだな。よし、ここからは私の仕事だぜ」
 ミューレリアは水に飛び込むと、平泳ぎとバーストダッシュを組み合わせた必殺泳法『バーストダッシュ・スイム』で扉のところまでやってくる。則天去私を叩き込むと、扉は簡単に壊れた。
(よーし、これで先に進めるぜ。む? なんか動いて……ぶっ)
 ミューレリアは急いでUターンすると、即座に水から上がる。
「サメがいたぜ! 食らえ!」
 そして、水中に向かって雷術を放った。
「あばばばば」
「隆が痺れたあ!?」(自分はちゃっかり防御)
「リニカ、お前……解説してないで助け……ろ……」
 真っ黒になった隆とサメが水面に浮かぶ。しかし、道の上ではミューレリアもひっくり返っていた。
「体が濡れたまま雷術なんて使うから」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)がミューレリアにヒールをかける。
「うう……助かった。ドジ踏んじまったぜ」
「ここは泳ぐ必要があるみたいね。水着をもってきたけど、リフルも着る?」
 月夜がリフルに尋ねると、リフルは頷いた。

 本日二度目のお着替えで、リフルは月夜とお揃いの黒ビキニを身にまとった。黒い水着に白い肌がよく映える。ただし、頭にはヘルメット。
 出るところが出ている月夜に比べて、リフルは体の凹凸が少ない。細長い手足に、無駄な肉の一切ついていない引き締まったウエスト。彼女の体はまだ、女というよりも少女のものだった。
 二人のビキニ姿に見とれる男たちをよそに、月夜のパートナー樹月 刀真(きづき・とうま)がリフルに話かける。彼も水着に着替え終わっていた。
「そういえばリフル、君の光条兵器は何ですか? 星剣だけではないですよね?」
「十二星華の光条兵器は星剣。他にはない」
「そうなんですか……リフル、君のことは必ず護ります」
 刀真が拳を強く握りしめる。彼は、蛇遣い座に自分の手から女神像の欠片を奪われたことを思い出し、悔しさを噛みしめていた。あれは絶対に取り戻す、そう心に誓う。
「では行きましょう。何が出てくるか分からないので、俺が先頭を泳ぎます。着いてきてください」
 刀真が水中に潜り、リフルや他の生徒たちも後に続く。
「休憩時にリネン殿が話していた内容が正しいとすれば、残りの星座から考えてこれは水瓶座の試練であろうな。さて、我も行くとするか。よもや人前に肌を晒す時が来るとは思ってもみなかった」
 マコト・闇音は自分も水に飛び込もうとする。が、神代 明日香とノルニルが後退っているのを見て動きを止めた。
「どうしたのだ」
「地球人って浮くように出来てないんですよ、私が悪いわけじゃないんです」
「魔道書って浮くように出来てないんですよ、私が悪いわけじゃないんです」
「ツッコミどころは色々とあるが、確かに泳げない者もいるであろうな」
 そのとき、奥の方からミューレリアの元気な声が聞こえてくる。水中を進んだ彼女は、道の先にある鉄壁の裏側に出ていた。
「おーい、こっちにあるボタンを押したら壁が動いた! もう泳いでくる必要ないぜ!」

  ☆  ☆  ☆

「それがしは葦原明倫館のアナスタシア・ヤマダエフ(あなすたしあ・やまだえふ)。新参者ゆえ色々と迷惑をかけることもござろうが、宜しくお頼み申す」
 シャンバラ地方にやってきたばかりのアナスタシアが、気合い十分で挨拶する。彼女は打倒蛇遣い座の力になるため、今回はモンスターの相手をしようと考えていた。
「おう、俺はラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だ。よろしくな!」
 アナスタシアの隣を歩くラルクが答える。
「むむ、あれは!」
 突然声を上げ、アナスタシアが走り出した。
「おお、これは見事な像でござるな」
 彼女が見つけたのは金属でできた獅子の像だった。アナスタシアは感心したようにぺたぺたと像を触る。
「なんだ、作り物かよ。いきなり大声出すからびっくりしたじゃねえか。しかし、確かによくできてるな。まるで本物みてえだ」
「今にも動き出しそうでござる」
「おいおい、変なフラグ立てるなよ」
 ラルクが笑う。
 ピクリ。
「! 危ねえ!」
 ラルクがアナスタシアを抱えて跳び退る。獅子像は、先ほどまでアナスタシアがいたところに爪を振り下ろしていた。
「野郎、本当に動きやがった」
「かたじけない、ラルク殿。……今度は油断しないでござる!」
 ラルクの腕の中から飛び出すと、アナスタシアは獅子像に向かってゆく。
「おい、無茶すんな!」
「それがしもヤマダエフ氏族の端くれ。甘く見られては困るでござるよ!」
 アナスタシアは獅子像に面打ちを見舞う。しかし、彼女の綾刀はいとも簡単に弾かれた。
「なっ!」
 すかさずラルクが軽身功で壁を走り、アナスタシアを連れて安全な場所まで避難する。
「あの像、かなり硬そうだな。俺の拳が通じればいいんだが」
「くう、一度ならず二度までも……やはりまだまだ修行が足りぬでござるか。ラルク殿、このご恩はきっといつか返すでござるよ」
 獅子像を見つめるラルクに、久途 侘助(くず・わびすけ)が声をかけた。
「俺にちょっと考えがある。ここは一つ任せてくれよ」
「いいだろう、お手並み拝見といこうか」
「へへ、やっぱ遺跡といえばモンスターだよな! ここまで出番がなくて退屈してたとこだ。いっちょ派手にやってやるか!」
 不敵な笑みを浮かべる侘助に、パートナーの香住 火藍(かすみ・からん)が不安そうな顔をして言う。
「あんた一向に分かってないみたいなんで何度も言いますけど、くれぐれも無理はしないでくださいよ。ヒールで全てが治ると思ったら大間違いですからね。重傷を負うことだってあるんです」
「ったく、火藍は心配性だなあ。大丈夫、分かってるって。んじゃさっき話したとおりの作戦でいくぜ。火藍は援護に集中してくれよな」
「やれやれ……」
 侘助の性格ゆえ小言も多くなるが、火藍はそれが自分の特権だと思うと嬉しくもあった。本人には言わないものの、戦闘では勇敢になるところや人に優しいところ、侘助の全てに火藍は惚れ込んでいるのだ。
 火藍はディフェンスシフトを使用すると、薙刀で獅子像の注意を自分に引きつける。
「まずはこいつだ」
 侘助は獅子像に火術を浴びせた。しばらくすると獅子像の色が赤くなってくる。
「よし、そろそろだな」
 それを確認すると、侘助は攻撃を火術から氷術へと切り替える。彼の行動を見て、ザカコ・グーメルが言った。
「火術によって金属を熱し、その後氷術で急激に冷却。温度差によって敵の耐久力を下げるという作戦ですね」
「よく分かったじゃないか」
 侘助がザカコをちらりと見る。
「自分もこういう敵に出会ったら、同じ戦法を用いようと考えていたのですよ。手伝わせてもらってもいいですかね」
「ああ、頼む。一緒にやってくれるやつがいた方が効率いいからな」
「では」
「息を合わせていくぜ」
 侘助が火術と氷術で、ザカコが爆炎波とアルティマ・トゥーレで獅子像を攻撃する。それを何度か繰り返すうちに、獅子像が明らかに変色してきた。二人は顔を見合わせて頷く。
「頃合いだ、もう耐久力はガタ落ちしてるはずだぜ!」
 侘助がラルクの方を向いて叫ぶ。
「おっしゃあ! お膳立て感謝するぜ。ここからは俺の仕事だな。ぶっ壊してやる!」
 ラルクは待ってましたとばかりに獅子像の前へ躍り出る。そして真っ正面から突撃すると、ドラゴンアーツを乗せた拳を思い切り獅子像に叩き込んだ。
「うりゃああああっ!!」
 快音とともに、獅子像が粉々に砕け散る。
「一丁上がり!」

  ☆  ☆  ☆

 一乗谷 燕は、曲がり角では不意打ちに備えて、いつでも抜刀できるよう柄に手を添えるようにしていた。
「段々と遺跡攻略の難易度が上がってきてる気がしますぇ。ウチは感知系スキルを持っとぉへんので、頼りは自分の目ぇや耳だけどす。やけど、リフルさんや仲間のみなさんには指一本触れさせへんつもりで、精一杯護衛さしてもらいます」
「……その……見えているのか? ……随分と特徴的な目をしているようだが……」
 驚くほど細い燕の目を見て、クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が不思議そうに言う。
「心配ありまへん。ちゃぁんと見えてますぇ」
「……ならいいが……」
 リフルを守ると約束したクルードは、その約束を果たすべく彼女の側についている。だが、彼はモンスターだけではなく生徒たちにも注意を払っていた。
(……考えたくはないが……味方の裏切りや奇襲がある可能性もゼロではない……以前ティセラは、星剣を失っているエメネアでさえも攫った……ティセラに荷担する者がリフルを狙わないとも限らん……)
 二人の後ろでは、七枷 陣(ななかせ・じん)とそのパートナーリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)がリフルと話している。
「や、初めましてリフルちゃん。まぁアレだよ、襲撃事件については君の意志でやったことじゃないんだし、そこまで思い詰めんでもええと思うよ。今回はオレも協力させて貰うから、ヨロ〜」
 洗脳されてやったこととはいえ、それに責任を感じてけじめをつけようとするリフルの姿勢に、陣は好感をもっていた。
「ねぇねぇリフルちゃん、この遺跡探索がおわったら、一緒にラーメンとか甘いものとかの食べ歩きしようよ!」
 リーズが無邪気に言う。
「今度神竜軒でオススメのラーメン教えてね! ボク、まだ食べに行ったこと無いんだぁ。そうそう、ちょっと遠いけど、空京にあるクレープ屋さんで苺バナナチョコカスタードアイスっていうトッピングがオススメだよ。全部一辺に味わえてボリュームも文句なしだからね、にはは♪」
「いちごばななちょこかすたーどあいす……」
 その魅惑的な単語に、リフルは思わず涎を垂らした。
 やがて、先頭の燕が曲がり角にさしかかったところで、殺気看破と超感覚を発動させていたクルードが言う。
「……気をつけろ……近くに何かいるぞ……」
「どぉれウチが」
 燕が角からそっと顔を出す。と同時に何かが飛んでくるのに気がつき、慌ててスウェーでこれをかわした。燕の背後の壁に突き刺さったのは一本の矢だった。
「びっくりしたわぁ。せっかちな敵さんやなぁ」
 燕たちは、いち、にの、さんで曲がり角の向こうへと飛び出す。そこにいたのはケンタウロスだった。
「まぁま、とりあえず……覚悟しぃやぁ……?」
 燕はケンタウロスの頭部めがけて轟雷閃を放つ。しかし、敵は軽やかな身のこなしでこれを避けた。
「ほう、でっかい図体してる割になかなかすばしっこいやないか。でもま、広範囲を焼き尽くしてしまえば関係あらへんやろ。リーズ、オレは禁じられた言葉を使う。行動が遅うなるからサポート頼むで」
 陣が呪文の詠唱を始める。
「了解、陣くん」
 リーズは陣が邪魔をされないよう、ケンタウロスを足止めしようとする。しかし、彼女に遠距離攻撃の手段はない。近づく前に矢が飛んできた。
「やば!」
 固まるリーズ。だが、クルードが野分で矢を叩き落とした。
「……俺が遠距離から援護を行う……リーズだったか……安心して行け……だが、近距離戦はおまえに任せるぞ……いいな……」
「ありがと!」
「……さあ、ケンタウロスよ……まずは俺が相手だ……」
 ドラゴンアーツによるクルードの援護を受けたリーズは、バーストダッシュでケンタウロスの接近し、チェインスマイトを放つ。陣はリーズたちを信じて詠唱を続けた。
「もう少し、もう少しだけ我慢してくれな…………よし、準備完了や!」
 ついに陣の攻撃態勢が整う。
「バーベキューになりたくなかったら避けぇよー!」
 陣の声に、クルードとリーズが彼の攻撃範囲から離脱する。
「燃え散れやあっ!」
 陣渾身のファイアストームが、ケンタウロスを包み込んだ。

「よう焼けたなあ。でも、さすがのリフルちゃんもこいつじゃ食欲わかへんやろ?」
 動かなくなったケンタウロスを見て、陣が言う。しかし、リフルから返事はなかった。陣が振り返ると、リフルは少々辛そうに呼吸している。
「ん、リフルちゃん疲れとる?」
 今日リフル自身はほぼ戦っていないが、心身ともにまだ疲労が抜けていないのだろう。
「ほいっと」
 陣はリフルのおでこに指を当てて、SPリチャージをかける。
「……ありがとう」
「遠慮せんで言えばええよ〜」
 陣は優しく笑った。