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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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第二章 待ち受ける試練 前編

 遺跡に入った直後、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)がみんなに聞こえるよう大きな声で言った。
「みなさん、聞いてください。これから探索を進めていく上で、手分けをする場面が出てくるかもしれません。それを想定して簡単な準備をしてきましたので、役割が偏らないよう注意して簡単にチームを作ってもらえないでしょうか」
 探索メンバーは小次郎の言うとおり、いくつかのグループに分かれる。
「ありがとうございます。それでは、いくつかお配りするものがありますので、受け取ってください。リース、お願いします」
「分かりましたわ」
 小次郎のパートナーリース・バーロット(りーす・ばーろっと)が、各グループの代表者に道具を配っていく。
「まずは懐中電灯ですわね。それからこれがトランシーバー、連絡手段が必要なときにお使いください。あとはちょっとした小物なのですけれども……」
 イルマ・レスト(いるま・れすと)は、自前のライトつき安全ヘルメットをもってきていた。
「ビジュアル的にはちょっと微妙ですけれど……贅沢は言えませんわね。あ、ちゃんとリフルさんの分も用意しておきましたわよ」
「ありがとう」
 リフルはイルマの差し出したヘルメットを受け取ると、ごく自然にそれを被る。
(半分冗談でしたのに……)
 こうして、超ミニスカ制服にライトつき安全ヘルメットを合わせるという、最先端の萌えファッションが誕生した。
 リースが仕事を終えて自分の元に戻ってくると、小次郎はあらかじめ作っておいた探索メンバーの名簿を確認する。これがあれば誰かがいなくなってもすぐに分かるという寸法だ。また、各人の希望を聞いた上で調整を行った役割の分担も記されている。
「マッピングをしてくださる方は他にいらっしゃるようですわね。それでは、私はリフルさんの話し相手になったり護衛をしたりすることにしますわ」
 名簿を覗き込んで、リースが言う。
「ええ、よろしく頼みます。俺は常に状況把握や問題の解決策を模索することに務めるつもりなので、リフル殿の護衛はできませんからね。尤も、最悪の場合は自分が盾になって彼女を逃がすくらいの覚悟はありますが」
「私がいる限り、そんな事態は起こさせませんわ」

 遺跡の中はしばらく一本道になっていた。ゆっくりと歩きながら、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)がリフルに話しかける。
「……星剣を失ってどこか身体に異常はないか? ……特に、その……両腕とか……」
「今のところは特に問題ない」
「そうか……ならいい」
(グレンのやつ、リフルの両腕を凍らせたこと、まだ気にしてんのか。まあ、気にするなって方が無理な話かもな)
 グレンのパートナー李 ナタは、心の中でそう思う。グレンは先日、洗脳されていたリフルの動きを止めるために彼女の両腕に氷術をかけたのだ。
 続いて、ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が口を開く。
「リフルさん、あの時はチョーカーを奪い取るようなことをしてごめんなさい。大事なもの……なんですよね?」
 リフルは、今も身につけているチョーカーに触れながら答える。
「気にしなくていい。私のほうこそ――」
「ストォーップ!!」
 その言葉を遮ったのは、ラス・サング(らす・さんぐ)だった。
「お嬢ちゃん、謝罪とは己に非がある時に行うものだ。操られていたお主に非など一つもありはしない!」
「でも」
「それと、助けてもらった時は謝罪ではなく感謝! その方が言われた相手は嬉しい、と我輩は思うがな」
「……そうね、ありがとう」
 心なしかリフルの表情が和らいだ気がする。グレンは、気になっていることをリフルに尋ねた。
「……十二星華というのは、前アムリアナ女王に十二の星剣を託された十二人の剣の花嫁のこと……なんだよな?」
「そう」
「……俺はこう考えている……前アムリアナ女王時代より以前にも、今の十二星華とは違う……別の十二星華が存在していた……蛇遣い座はその別の十二星華なのではないかと……この考えに対して、シルヴェリアの意見が聞きたい……」
「私の知る限りでは、そのような事実はない。ただ、洗脳が解けたとはいえ、私の古代に関する記憶は不完全。忘れていることがあるかもしれない」
 ナタも尋ねる。
「なあ、星剣が無くなっちまったってことは、リフルは今光条兵器が無い状態なのか?」
 肯定するリフル。
「光条兵器、つーか星剣は壊れたら修復できねぇのか?」
「基本的に不可能」
 自分が暗くなってはいけない。ソニアはそう思いながらも、リフルの気持ちを考えるとどうしても心が痛むのだった。

「水中に続いてるって、大丈夫なのか? 崩れたりしないだろうな」
 チームを先導する天城 一輝(あまぎ・いっき)が、ライトでうっすらと照らされた遺跡内を見回して言う。
「慎重に進む必要がありますわね」
 一輝のパートナーローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)は、ライトはライトでもライトブレードを明かりにしていた。いつ何があってもいいよう、一輝の隣で臨戦態勢を整えている。
 そしてもう一人、身を縮ませながら二人の後をちょこちょことついていくのがコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)である。
「うー、親分、おねーさま、コワイよお。早く帰ってお茶にしよう」
 コレットが一輝の服を引っ張る。と、不意に一輝が足を止めた。
「しっ……何かいる。コレット、光術を頼む」
 緊張が走る。
「ふえ? う、うん、分かった」
 コレットが一輝の合図で光術を放つ、眩い光に照らし出されたのは――
「サハギンか!」
 サハギン。直立二足歩行をする半魚人型のモンスターである。群れをなしたサハギンは、銛やトライデント(三つ叉銛)を手に一輝たちの方へと襲いかかってきた。
「モンスターだ!」
 一輝は敵の出現を戦闘組に知らせると、彼らが合流するまでサハギンの足止めを試みる。アーミーショットガンを構える彼に、同じく先導組である渋井 誠治(しぶい・せいじ) のパートナーヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が注意を促した。
「気をつけて。壁や天井が壊れたら浸水する恐れがあるわ」
「ああ、分かってる」
 一輝はシャープシューターで狙いを定める。ローザは遺跡に入る前にかけておいたディフェンスシフトをもう一度先導組にかけなおし、接近戦に備えた。
「頑張って!」
 コレットはいつでも治療に回れるよう、SPを温存だ。
「く、きりがないな」
 一輝はシャープシューターを用いて確実にサハギンを足止めしているが、敵の数が多すぎる。
「数でもリーチでも不利ですが……私がぶっ倒して差し上げますわ」
 ローザは一輝の抑えきれなかったサハギンたちに斬りかかろうとした。しかし、ここで隊列の入れ替えが完了する。一輝が移動スペースを確保するよう指示していたため、先導組及び罠解除組の後退、そして戦闘組の前進がスムーズに行われたのだ。
「キミたち、お疲れさま。後はオレに任せてくれ!」
 戦闘組の中で真っ先に飛び出したのは橘 カオル(たちばな・かおる)だ。
「オレの太刀を受けてみるか? おっと、銛をこっちに向けるのはやめろよ。オレは尖端恐怖症なんだ」
 木刀を手にしたカオルは、剣道をベースに蹴りや投げも加えた独特の格闘術でサハギンたちを相手にしていく。この状況にあっても臆することはないようだ。
「こちらも負けてはおれんな。我が輩は、この体を活かしてリフルお嬢ちゃんの盾となろう」
 ラスがガードラインを使用する。ラスは巨大なクマの着ぐるみを着たゆる族で、その身長は3メートルに達する。従って、遺跡の中では四つん這いになって進んでいた。
「俺が出るまでもない。魚の相手はこいつらで十分だ。リフルには指一本触れさせねえぜ!」
 ナタは野生の蹂躙で敵を寄せ付けない。
「とどめは私が!」
 最早サハギンの群れは全滅寸前である。リフルの力になってあげたい。その思いがソニアの闘争心に火をつけた。彼女は六連ミサイルポッドから発射されるミサイルで牽制し、機晶姫用レールガンで電力に変換されたエネルギー弾体を発射した。
「え?」
「ちょっ」
「ま」
 サハギンの近くにいた者たちは慌てて身を伏せる。直後、轟音とともに遺跡が揺れ、天井から砂埃が降ってきた。
「あああああ! だからそういうことしちゃ駄目だってえええええ!」
 無口な一輝も思わず悲鳴をあげる。
「長い間水圧に耐えてきたんだから多分大丈夫……と思いたいわね」
 もくもくと立ち上る煙を見つめ、ヒルデガルトは祈るように言った。
 その煙の中から、埃にまみれたカオルが姿を現す。
「ゲホッ、ゴホッ……あーびっくりした。でもまあ、サハギンは倒せたみたいだしよかったか……」
 服の汚れを払うカオルに、誠治がニヤニヤしながら近寄って話しかけた。
「よーう。大活躍だったじゃねえか」
「なんだよ、変な顔して」
「いやあ、かわいかったぜ、ぴんぴんお耳にぴょこぴょこ尻尾」
「なっ……!」
 それを聞いて、カオルは顔を真っ赤にする。実は、カオルはこっそりと超感覚のスキルを使っていたのだ。スキルの使用に伴って生えるオオカミの耳と尻尾は帽子と服で隠していたのだが……戦闘中に見られてしまったらしい。
「ううう……」
 カオルは恥ずかしさで言葉も出ない。そんな彼に、今度はグレンが近づいてくる。
「ま、まさかキミも見て!?」
 焦るカオル。だが、グレンはハンドガンを構えた。
「おい、なんのつもりだ」
 カオルの表情が一変する。次の瞬間グレンが引き金を引き、カオルの背後でうめき声があがった。カオルが振り返ると、そこには一匹のサハギンが仰向けになって倒れていた。
「まだ残ってたのか……。借りを作っちまったな」
「油断は禁物……だ」
 グレンはカオルに一言そう言い残すと、踵を返した。
「やれやれ……どうやら最悪の事態は避けられたみたいだな」
 やがて揺れも収まり遺跡が無事なのを確認すると、一輝は安堵の声を漏らす。そして、ソニアに言った。
「おまえ、気をつけてくれよ」
「すみません。ちょっと張り切り過ぎちゃいました……」
 ソニアは、照れ隠しに「てへっ」と笑って見せた。
 月詠 司(つくよみ・つかさ)は、今回の探索で珍しいモンスターが倒されたらその一部を回収するつもりだ。
「ふむふむ、サハギンですか。海辺にでも来ない限り見かけないモンスターですし、一応珍しい部類だと言えるでしょう。とりあえずサンプルを取っておきますか。試験管はっと……」
 彼は地面に転がったサハギンの脇にしゃがみ込み、その皮膚や血を採取して試験管の中へと入れる。司の近くではパートナーのタァウ・マオ・アバター(たぁう・まおあばたー)が空飛ぶ箒に乗り、遺跡の手の届かない部分を調べていた。
「……ナルホド……ココガ……コウナッテ……イルノカ……」
 やがて前方から「置いていくぞー」と声が聞こえる。
「……契約者ヨ……ソロソロ……イッタホウガ……イイヨウダ……」
「もう少し観察していたいところですが、仕方ありませんね。この先もっと珍しいモンスターが出てくることを期待しましょう」
 司たちはその場を後にした。

  ☆  ☆  ☆

「さーて、迷わないように気をつけないとな」
 仲間に配ったラーメンスナックを自分もかじりながら、誠治は銃型HCのオートマッピング機能を利用してこれまで歩いてきた道を記録していく。
「助かる」
 そう述べたリフルに、誠治は明るく言った。
「困ったときはお互い様さ。だって友達だろ? リフルが問題を一人で抱え込まないでみんなを頼ってくれたこと、俺は嬉しく思ってるぜ」
 そしてこう付け足す。
「その代わり、オレたちが困ってるときはリフルに助けてほしいな。ほら、例えばテスト前にノートを写させてもらうとか、へへへ」
 誠治は、この前蛇遣い座の襲撃からミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)を守りきれなかったことを酷く気にしていた。
 それでも和やかな雰囲気を作りだそうとする彼を、ヒルデガルトは本当の姉のような気持ちで見つめる。彼女はまた、仲間と交流することで成長しようとしているリフルのことも、少し離れた位置から見守るつもりだった。
「っと、そんなこと話してるうちにとうとう来たな」
 誠治が立ち止まる。目の前では、道が二手に分かれていた。誠治はまずトレジャーセンスを使ってみる。
「……うーん、トレジャーセンスには反応なしか。んじゃ次、禁猟区」
 やはり反応はない。
「これも駄目、と。さて、どうするかねえ」
 誠治が腕組みをして考え込む。と、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が言った。
「俺様にいい考えがあるぜ」
 ベアは、誠治と同じくマッピング(こちらは筆記用具を用いてのアナログ方式だが)を行っているソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)のパートナーだ。
「ご主人、どっちの道にいけばいいと思う?」
 ベアがソアに尋ねる。
「ええっ。急にそんなこと言われても分かりませんよ」
「直感でいいからよ。考えるんじゃねえ、感じるんだ!」
「感じるって……うーん、こっち? でしょうか」
 ソアは左の道を指さす。
「左か」
 それを見ると、ベアは仲間たちを振り返って言った。
「よしみんな、きっと右が正解だ!」
 ずっこけるソア。
「どうしてそうなるんですかっ!」
「ん? だって、ご主人は地図があっても迷子になるほどの方向音痴じゃねえか」
「さ、さすがにそれはないですよ……たぶん。方向音痴なのは認めますけど」
「おいおい、なんだってそんなやつがマッパーやってるんだ?」
 ソアとベアのやりとりに、緋山 政敏(ひやま・まさとし)が呆れた顔を見せる。
「それはですね……私自身が方向音痴なので、迷わないように工夫が必要だと思いまして。えへへ」
「はあ……先が思いやられるぜ。カチェア、お前はどう思う?」
 政敏はパートナーのカチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)に意見を求める。
「今までの経路はハンドヘルドコンピューターに記録してあります。でも、ここからどう行けばいいかのかは、私には分かりません」
「だよなあ」
 政敏は参ったという風に頭を掻く。
「あの……」
 そんな彼に声をかけたのはリネン・エルフトだった。
「私もパートナーも方向感覚には優れている……と自負しているんだけど、私たち二人もやっぱり右だと思うわ……」
「その根拠は?」
「……女の直感」
「直感ねえ」
「一応、遠くから見るとほんの少しだけ右の道が下に傾斜してるよ。海中に続いてるってことかもね。ま、十分な判断材料にはならないけど」
 ヘイリー・ウェイクが付け加える。
「分かったわ」
 そこでカチェアが言った。
「こうしていても仕方ありません。この段階で戦力の分散は避けたいですし、ここはみんなで右に進みましょう」
 カチェアは右の通路を歩き出す。
「おう、ご主人の逆方向感覚に期待だぜ」
「私、間違ってても……あれ、合ってても? と、とにかく迷っても責任はとれませんよーっ」
 動き出した仲間たちに、ソアは仕方なくついていった。

 探索メンバーが去ってからしばらく。分かれ道にやって来る二人がいた。
「はあっはあっ、遅くなっちゃった……。みんなもう行っちゃったよね」
「マスターが寝坊するのがいけない」
「道が分かれてるな。どっちに行こう……うーん、決めた。左!」
「なぜ?」
「勘!」
「ちょっと、マスター!」
 二人の運命やいかに。