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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World(第1回/全3回)

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  ☆  ☆  ☆

 政敏は歩きながら、どこを破壊されたら水没を招きかねないかに注意して遺跡の構造を観察していた。
(蛇遣い座も内通者経由で情報を得ているかもしれない。一応警戒しておかないとな。万が一ここでやつが出てきたら厄介だ)
 政敏の前方では、緋桜 ケイ(ひおう・けい)がちょうどその蛇遣い座についてソアと話している。
「この遺跡が何なのかはリフルにも分からないようだが、仮に蛇遣い座の十二星華に関連するものだとすれば、ヤツを知るためのヒントが隠されているということも考えられるな」
「リフルさんが気になっていたというくらいの遺跡ですから、古王国や十二星華にまつわる壁画や遺物なんかが見つかるっていう可能性はありますよね」
 それにしても、とソアはケイの顔を見る。
「ケイさんは随分と蛇遣い座さんに興味があるようですね。私は見たことがないので、どんな人なのか教えてもらえませんか?」
「確かにヤツはみんなを傷つけ、苦しめた黒幕だ。人だって躊躇わずに殺せるのかもしれない。だが、ただの悪人では片付けられないような何かを感じたんだ。俺の思い過ごしかもしれないがな」
「うーん、よく分からないですけど、やっぱりケイさんは優しいですっ!」
「そ、そんなんじゃない。ただ、判断するには情報が少なすぎるというだけだ」
 ソアの言葉を、ケイは顔を背けて否定する。
「イルミンスールで発見されたイコンによれば、十二星華は古王国の女王を守護する存在として、元々は一つであったと推測できる」
 ケイのパートナー悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が言う。
「十三人目とはいえ、あやつもまた十二星華に連なる者であるなら、本来は争う理由などないのかもしれぬな。あやつが何者で、どのような目的をもって行動しておるのか……。再び会えたなら、その疑問をぶつけてみたいものよ」
「ああ。流れのままにヤツを倒すだけでは――」
 言いかけて、ケイは目を疑った。
「「どうした」」
「カナタさんが二人!?」
 ソアが叫び声をあげる。そう、そこには紛れもなく二人のカナタがいたのだ。
「……落ち着け、ソア。これも遺跡の試練ということだろう。いいかカナタ、俺は今からお前たちに質問をする。それはどちらが偽物かを判断するためのものだ。その上で答えろ」
 ケイは一呼吸置く。そして、二人のカナタに問いかけた。

「『攻め』の反対は?」

「『守り』に決まっておろう」
「『受け』と言わせたいのか」
 
「偽物はお前だ!」
 ケイは『守り』と答えた方のカナタにハーフムーンロッドを振るう。偽物のカナタはかき消え、小動物のようなものが足下を駆けていった。
「ふう、油断も隙もないな。カナタが日本のオタク文化に詳しくて助かったぜ」
 ケイが満足げな表情を浮かべる。が、カナタの方は単純に喜んではいないようだった。
「ケイよ、おぬしなら見破れるとわらわは信じておったぞ。しかし、少しばかり話がある。ほれ、こっちに来ぬか」
「……」
 ある意味、ケイはまんまと敵の罠にかかってしまったのかもしれない。

  ☆  ☆  ☆

「俺も映画のヒーローみたいに、カッコよく遺跡探検さ!」
「おいアル、嬉しいのは分かるが気をつけろよ? 今回は真面目な探索なんだから。調子に乗って罠にでも引っかかったら、洒落にならないぞ」
 アーサー・カーディフ(あーさー・かーでぃふ)は、久々のダンジョンに目を輝かせるアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)を慎重に見張っていた。
「いくら俺でも罠には気をつけてるんだぞ! アーサーこそうっかり引っかかったりしないでくれよ? ハイテクなところだと、センサーに触れただけで壁から矢が飛び出したりしてくるらしいからさ!」
「俺はそんなドジ踏まねーから大丈夫だ!」
 アルフレッドの態度に、アーサーは思わず声を荒げる。
「……とにかく、今回はミレーヌと俺からあまり離れて行かない様にしろよ? おかしなものがあったら、ミレーヌに見てもらえ」
二人のパートナーミレーヌ・ハーバート(みれーぬ・はーばーと)は、遺跡に入ってか
らずっと罠を警戒している。
「こう見えてもあたし一応ローグだからさ。何か怪しい凹凸とかレバーとかを
見つけたらすぐに教えてよね」
「こういうやつかい?」
「そうそう、正にそんな感じの……って、何それ!」
 アルフレッドが指さした先を見て、ミレーヌが驚く。そこには、壁から不自然に飛び出したレバーがあった。
「ちょっとアル兄、触らないでよ!」
 ミレーヌは慌ててレバーに駆け寄る。
「怪しい、怪しすぎる。ん? 脇に何か書いてある。なんだろう……古代文字かな。読めないや。リフル、これ読める?」
 ミレーヌに手招きされ、リフルが隣にやって来る。
「……『レバーを下ろしてください』と書いてある」
「まじで?」
 アーサーが信じられないといった顔で言うが、リフルははっきり頷いた。
「まじ」
「怪しい、怪しすぎる……」
 じっとレバーを見つめるミレーヌ。周囲の視線が彼女に集まる。
「こんなことを言われて、はいそうですかとレバーを下ろす人は普通いない。でも、そんなことは相手も分かっているはず。ということは裏をかいて……」
 ミレーヌがレバーに手をかける。まさか――仲間たちが慌ててミレーヌを止めようとする。
「このレバーを下ろさずして先には進めないということよ!」
 しかし、誰が動くよりも早く、彼女は思いきりレバーを下ろした。
「さすがミレーヌ、素直というか大胆というか、やることがひと味違うね!」
 瞬間、周囲に重い音が響き渡る。何が起こっているのか最初に気がついたのは久世 沙幸(くぜ・さゆき)だった。
「みんな、あれ!」
 沙幸に言われて、探索メンバーたちが頭上を見上げる。すると、辺りの天井が迫ってきていることが分かった。ご丁寧に、天井には所々尖った突起物までついている。
「この速度で天井が落ちてきたんじゃ、走り抜ける前にお陀仏になっちゃうんだぞ! 俺とアーサーで食い止めるから、そのうちになんとかして!」
「ち、なんでこんなことに!」
 ヴァルキリーのアルフレッドと守護天使のアーサーが翼で舞い上がり、天井を支える。
「これは役立ちそうにないわね……」
 罠を解除するために持ち込んだ日曜大工セットを見つめて、沙幸が呟いた。彼女は罠の設置場所や設置方法にも注意を払っていたのだが、まさかここまでストレートなものが用意されているとは予想外だった。
「とりあえずはレバーを」
 沙幸がレバーを元にもどす。しかし、天井は止まらない。アルフレッドたちの抵抗も焼け石に水だ。その代わり、レバーの横に文字の刻まれた石版が出てきた。
「また何か出てきた! リフルー!」
「『伝説の防具をまといし三人の乙女、我に触れよ。さすれば道は開かれるだろう』……そう書いてある」
「伝説の防具って何? あー、分かんない!」
 沙幸が頭を抱える。
「こんなときこそ落ち着かなくてはなりませんわ」
 そんな彼女の肩を、パートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)がそっと抱いた。
「美海ねーさま」
「とりあえず、わたくしたちでやってみましょう」
 美海に言われ、沙幸、美海、リフルの三人が石版に手を触れる。結果は――
「わぷっ!?」
 石版から発射された水が沙幸の顔面を直撃。
「沙幸さん! わたくしの沙幸さんになんてことを……」
「もう、何やってるのよー!」
 三人が手こずっているのを見て、小鳥遊 美羽がたまらず飛び出した。
「嫌だー! このままじゃ私の美脚に傷がー!」
 美羽は石版を叩いてわめく。
「わわ、壊しちゃったら大変だよ!」
 沙幸は美羽を石版から引き離そうとする。が、その直前であることに気がついた。ついさっきまで響き渡っていた轟音が止んでいるのだ。
「あれ」
 見上げると、天井の降下は収まっていた。
「どういうこと」
 状況が飲み込めない沙幸。しかし、美海はピンときてしまった。天井が止まったとき石版に触れていたのは沙幸、美羽、リフルの三人。彼女たちに共通するのは……
「もしかして、伝説の防具というのはミニスカートのことなのでは?」
 美羽とリフルが超ミニスカートを履いているのは前述の通り。そして何を隠そう、沙幸も普段からマイクロミニのスカートを着用しているのだ。
「そんなまさか。でも、確かに他に思い当たることはないし……美海ねーさまの推測が正しいとしたら、この仕掛けを作ったのは古代の変態ね」
「変態はどこにでもいる」
「そ、そうなんだ……ってリフルその格好!」
 苦笑いをしながら振り返った沙幸は、リフルを見てぎょっとする。先ほど石版から発射された水を浴び、リフルの服は濡れ濡れの透け透けになっていたのだ。
「わーっ!」
 沙幸が大慌てで皆の視線からリフルを守る。そこに、支倉 遥(はせくら・はるか)が一着の服を差し出した。
「水中遺跡の探索ということでしたので、こんなこともあろうかと一応着替えをもってきてあります。よかったら使ってください」
「あ、ありがとう。ってなんでメイド服なのよ。まあ、この際文句は言ってられないか。さあリフル、これに着替え……」
 リフルはその場で制服の上着に手をかけ、まくり上げ始める。
「何してるのー!」
「脱がないと着られない」
「そうじゃなくて! 美海ねーさまもなにうっとりしてるの!」
 沙幸はあっちを向いたりこっちを向いたり大忙しである。
「……はっ! そんな、わたくしは沙幸さん一筋ですわ」
「だからそうじゃなーい! リフルを隠すの手伝って!」

「なかなかよく似合っていますね。『ご奉仕いたします☆』という感じではありませんが、『ご主人様、いつまで寝ているんですか。まったくだらしのない』とでも言いそうです」
「頭がちょっと気になるけど、これはいいツンツン眼鏡メイドだみゃ」
 遥とそのパートナー、茶トラ猫の獣人屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)が、着替え終わったリフルの姿を見て言う。
「……特徴的な服」
 リフル本人は、初めて着たメイド服を興味深そうに観察していた。カチャーシュの上からは、ライトつき安全ヘルメットの着用を忘れていない。
「多少動きにくくても、遥に目をつけられたのが運の尽きだと思って諦めるみゃ〜」
 遺跡探索にメイド服は間違いなく不適切だ。しかし、リフルは大して気にする様子もなく、再び歩き始めた。

  ☆  ☆  ☆

「さっきはもう駄目かと思ったぜ」
 思いもよらぬ形でなんとか危機を切り抜け、今度は罠の対応に長けている藤原 和人(ふじわら・かずと)が先頭に立つ。
「今後は罠の誤作動なんてことがないよう、俺がしっかりしないとな……む、みんなストップだ」
 細心の注意を払っていた和人が、一行を止める。彼は早速行く先に異変を発見したのだ。
「あそこからしばらく先まで、地面が不自然に平らになっている。あの部分を踏むと何かある、そう考えるのが妥当だろうな。ここを通り抜けるには……」
「よぉーし、じゃあここはあたしたちに任せて!」
『ちゃちゃットカタヅケチャウワヨ』
「お、おい!」
 慎重にかかろうとしていた和人の脇を、橘 カナ(たちばな・かな)が全速力で走り抜ける。
「きっと向こう側に解除装置があるわ。そこまで跳び越えていっちゃえばいいのよ」
『カール・ルイスも真っ青ネ』
 カナは最高速に達したところで華麗な踏切を決めた。
 びたーん!
「あいたたた……」
『チョ、チョットかな! 全然だめジャナイノ!! 半分モ跳ンデナイワヨ!』
 思いっきり着地に失敗して鼻を押さえるカナに、「福ちゃん」がツッコミを入れる。
 説明しよう。カナは常に操り人形の「福ちゃん」を持ち歩き、腹話術で一人二役をこなしているのだ。
「うぅ〜、なんか前もこんな目に遭った気がするよ」
 カナが立ち上がろうとする。その背後から、和人の声が聞こえた。
「伏せろ!」
「へ?」
 直後、針のような何かがカナの頭を掠める。それはカナの髪を数本奪い、壁を這っていたカエルに突き刺さった。カエルは泡を吹いて地面に落ちる。
「きゃっ!」
『ナ、ナニヨアレ!』
「恐らく尖端に毒でも塗ってあるんだろう。そこを動くんじゃないぞ」
 和人はロープを取り出して矢の端に括り付ける。そしてそれを小弓につがえ、少し先の天井に向かって射った。
「よし」
 矢が天井に突き刺さると、和人はそこに氷術を放ってロープを固定する。ロープを強く引っ張って強度を確認した後、彼は一行に言った。
「このロープを伝って向こうまで渡ってくれ。ただ、一応遠目にロープを張ってはあるが、着地の際は気をつけてもらいたい。罠を避けたときにこそ油断が生じるからな」
「あたしたちのことも忘れないでねー」
 仲間に指示を出す和人に、カナが後ろから福ちゃんを振ってアピールする。
「分かってる。だがどうするかな。ロープに掴まりながら手を伸ばせばギリギリ届くか……」
 和人が計算する。と、福ちゃんが和人の持つある道具を指さして言った。
『ソレヲ使ッテ運ンデクレレバ助カルンダケド』
「それ?」
 和人が福ちゃんに指された方を見る。そこにあったのは空飛ぶ箒。
「早く言えよ……最初からこれでいいじゃねえか」

  ☆  ☆  ☆

 リフルの警護役を務める朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は、刀に手をかけながら呟いた。
「遺跡内には危険なモンスターがいるという噂だったけど、出てきたのは最初のサハギンくらいのもの。その後は小細工ばっかりね」
「できれば、モンスターはんにはこのまま出てこんでほしいものどすなあ。平和が一番やおまへんか」
 近くを歩くイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)が、お菓子を食べながらのんびりとした口調で千歳に答える。しかし、スターリングのパートナー道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が言った。
「それがしも同感ですが、どうやらそうそう都合よくはいかないようですな」
 玲の発動していた禁猟区に反応があったのだ。玲たちが襲撃に備えて進んでいくと、やがて敵の姿が露わになった。
「なんですか、あのぴょんぴょんと飛び跳ねているのは。羊のように見えますな。危険なモンスターとは思えませんが、禁猟区に反応があったということは……ふあ……あ、れ?」
 急に玲がぱたりと倒れる。
「どうしたの」
 千歳が驚いて玲に駆け寄る。玲はすやすやと寝息を立てていた。
「寝てる」
 不思議に思った千歳が辺りを見回すと、一人、また一人と生徒たちが眠りに落ちているところだった。
「な、もしかしてあのモンスターのせい?」
 この羊のようなモンスターは、魅惑のダンスで眠気を誘うようだ。千歳は不寝番のスキルを用いて眠気に対抗する。
「どうしよう、みんなを起こさないと。そうだ、確かミンストレルの人がいたわね」
 千歳は神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)を見つけ出し、その頬を叩く。
「ごめんなさい、でも緊急事態なの。起きて!」
「……むにゃ……むにゃにゃ。むぅ……いたたっ!? はへ?」
 目を覚ました有栖は、わけが分からないといった顔で千歳を見つめる。
「説明はあとよ。あなたミンストレルでしょう。なんでもいいから思いっきり歌ってちょうだい」
 千歳の有無を言わせぬ態度に、有栖はマイクを取った。
「わ、分かりました。歌わせていただきます」
 不快な目覚めを迎えたことに対するせめてもの抗議だろうか。有栖が怒りの歌を歌い出す。マイクで強化された有栖の歌声は、生徒たちを夢の世界から現実へと連れ戻し始めた。
「なるほど、私たちはモンスターに眠らされていたのですね」
 頭がはっきりしてくるにつれて有栖も状況を把握してくる。目を覚ましたリフルが武器を取ると、有栖は彼女を制して言った。
「リフルさん、ここは私達が戦いますっ! 私だって立派に戦えるんですっ!!」
 有栖は今回、パートナーのミルフィには内緒で単身遺跡探索に参加している。自分も立派に戦え、何かを護れるようになりたいという思いがあったのだ。
「ええいっ!」
 有栖は小型キャノン状の光条兵器でモンスターを狙い撃つ。しかし、打ち出された弾は体毛を貫いただけで、敵はぴんぴんしている。
「あのもこもこの毛を攻撃しても、ダメージは与えられないというわけですな。そして戦いが長引けば眠らされる。見た目によらず手強い相手です」
 玲がどうしたものかと考える。その横でスターリングが言った。
「やっぱり弱点はあれでっしゃろなあ」
「なんです?」
「いやあ、あの毛。よう燃えはりそうでおまへんか」
「そうか、火ですな。それがしは火の術が使えませぬ。ここは頼みますな」
 玲に言われ、スターリングは攻撃態勢に入る。
「動物は好きやから気乗りしまへんけど、仕方ありまへんなあ」
「私も一緒にやるわ。イルマ、あなたは援護をお願い」
 千歳がパートナーのイルマ・レストに言う。
「おや、貴公も名前『イルマ』っていいはりますん? 麿もなんどす。これも何かの縁、よろしく頼んます」
「嬉しいですわ。こちらこそよろしくお願いいたします」
(なれなれしい人ですわね)
 レストは内心そう思いつつも、笑顔でスターリングに答える。千歳の手前口にはしていないが、彼女は最早十二星華ではなくなったリフルにも興味をもっていなかった。
 玲とレストがチェインスマイで羊型モンスターの動きを止める。そこに千歳が爆炎波、スターリングがファイアストームを見舞った。
「恨まないでね」
「見た目はかわいらしゅうても、悪しき魂は成敗!! どすなぁ〜」
 スターリングの予想通り、敵をあっという間に炎が包み込む。ほどなくしてモンスターたちは黒こげになった。
(ふう……モンスター退治も大切だけど、リフルさんが無理をしすぎないように注意しなくちゃね。彼女にもしものことがあったら、多くの人々の思いが無駄になってしまうわ)
 口下手な千歳はそんなことを考えながら、「……ジンギスカン」と呟いてモンスターをつつくリフルを見ていた。

  ☆  ☆  ☆

「リフルはせっかく知識があるんだから、考古学的な調査だけじゃなくて遺跡を探検する面白さも味わわないともったいないよ!」
 リフルに冒険の楽しさを教えようと張り切っているのは、高村 朗(たかむら・あきら)である。彼はリフルと遺跡についての意見交換をしながら意気揚々と前進していく。
 しかし、朗は自分がリフルの星剣ディッグルビーを破壊したことに責任も感じていた。リフルの傍にいるのは、いざというときに彼女を守れるようにするためだ。
「僕も遺跡はそこそこ回ったけど、水中遺跡っていうのは……あれ」
 角を曲がったところで、突然朗の表情が変わる。彼の視線の先には、うずくまる一人の女性の姿があった。
「大丈夫!?」
 困っている人を放っておけない質の朗は、真っ先に女性の元に駆け寄る。
「どうしたの」
「ああ、よかった……人が来てくれるなんて……。足を怪我してしまって動けないんです」
「安心して。今ヒールが使える人を呼ぶから。それにしても、こんなところになぜ一人で」
「それは――」
 ニヤリ。
「お前みたいな馬鹿を取って食うためだよ!」
 女が朗に向かって刃物を振り下ろす。間一髪朗を救ったのは神代 明日香(かみしろ・あすか)の則天去私だった。
「ノルンちゃんがディテクトエビルを使ってくれていて助かりましたぁ。それにしても、人の気持ちを踏みにじるなんて許せないです」
「ち、余計なことを。あと少しだったのに」
 明日香と女が対峙する。女の服の裾から、タコの足のようなものが見えた。
「わ、タコ人間さんです。悪いことするとタコ焼きにしちゃいますよ」
 明日香のパートナー、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が言い、女を攻撃しようとする。
「誰がタコ人間だい! いいかい、一歩でも動いてごらん。この坊やを綺麗に捌いてやるからね」
 女が朗の喉元に刃物を突きつける。
「う〜、人質をとるなんて卑怯者のすることです」
「卑怯で結構。こんな古典的な手にひっかかる間抜けが悪いのさ!」
 女は笑いながら、守りの薄い明日香の足を狙って氷の刃を発射する。動けば朗の命がない。明日香はこれを避けなかった。
「うっ」
 明日香の右足首から血がにじむ。
「大変です!」
「動くなって言ったろう」
 明日香に駆け寄ろうとしたノルニルを、女が制する。朗の首にも血が伝った。
「さあて次は左足だ。その次は両腕。最後に心臓を貫いてやるよ」
「くそ……」
 自分のせいで仲間が傷ついている。その光景を見て、朗は決心した。
「二人とも、俺に構わずこいつを攻撃してくれ!」
「何言ってるんだい。自分の命が惜しくないのか、お前?」
「そうですよぅ、今攻撃したらあなたまで巻きこんでしまいます」
 朗の発言に、女も明日香も驚く。
「俺は自分にエンデュアをかける。これ以上足手まといになるのは我慢できないんだ」
 明日香がじっと朗を見つめる。そして言った。
「……分かりました」
「そんな!」
「ノルンちゃん、私だって本当はこんなことしたくありません。でも、お気持ちに応えないのは失礼だと思うのです」
「明日香さん……そう……ですね。私たちも覚悟を決めましょう」
 ノルニルも女を見据えて拳を握る。
「お前たち、正気かい!」
「ノルンちゃん、雷電属性の攻撃でいきましょう」
「はい、タコさんは電気に弱い気がします」
 二人のやりとりに、女の顔色がみるみる変わっていく。
「必ず助けますから……失礼します!」
「です!」
 明日香が轟雷閃、ノルニルがサンダーブラストを放つ。二人の術は朗と女に直撃した。
「ぐああっ! ……く、くくく……この程度か。心配して損したわ」
 女は体勢を立て直して高笑いする。だが、明日香に焦る様子は全くなかった。
「当然です。人質を離させるために手加減して撃ったんですから」
「何?」
 言われて、女はノルニルが既に空飛ぶ箒で朗を回収していることに気がつく。手加減したのはノルニルも同じ。言葉に出さずとも、彼女には明日香の作戦が伝わっていた。
「さあノルンちゃん、もう遠慮はいりませんよ〜」
「了解です」
 ノルニルが禁じられた言葉を唱え始める。百戦錬磨の明日香の威圧感とレベル4に達する禁忌の書をもつノルニルの魔力を、女は肌で感じる。
「ま、待て!」
 女の声がむなしく遺跡に木霊した。
「残念ですがぁ」
「待てません」

「すみません! 平気でしたか?」
 敵を倒した明日香は、メイドインヘブンで自分と朗の傷を癒す。
「うん、こっちこそごめんね。俺の不注意でこんなことになってしまって」
 朗は先ほどまで女がいた場所を見つめた。今はもう水たまりがあるだけだ。
「いいえ。確かに注意は必要なのかもしれませんけど、私はあなたみたいな優しさをもった人、素敵だと思いますよ〜」
 明日香はそう言って、柔らかな笑顔を浮かべた。